日本品質保証機構(JQA)特別参与の吉田さんを取材しました
前・独立行政法人産業技術総合研究所東北センター所長で、
財団法人日本品質保証機構(JQA)特別参与の吉田さん来仙のご連絡をいただき、
2日、現在のJQAのお仕事について、吉田さんに事前取材をさせていただきました。
吉田さんは現在、地球環境に関する審査・検証を行っており、
「京都議定書」に深い関係があるお仕事なのだそう。
「そもそも、地球環境って何だろう?」と改めて考えてみると、
経産省の根井さんから伺った「エネルギー」のお話と同じように、
実はなかなかリアルな実感が湧かない対象のひとつかもしれません。
そこで『宮城の新聞』では、「地球環境」や「エネルギー」等についても、
実際その分野に携わっている様々な立場の「人」の認識を通して、
それらを実感できるよう、取材活動を進めていきたいと考えています。
ここからは、吉田さんから伺った話をまとめていきます。
まず京都議定書では、日本やEUなど先進国全体(アメリカは離脱)で、
2008年~2012年までの5年間の温室効果ガス(※)の平均排出量を
1990年に比べ、少なくとも5%削減することを目標としており、
日本は、-6%の削減目標が求められています。
※ちなみに京都議定書で定義されている温室効果ガスは、
二酸化炭素のほかに、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン、
パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄の計6種類。
ところが現在の傾向では、日本での温室効果ガスの排出は逆に増加しつつあり、
2005年の段階では、目標達成のために14%の削減が必要となっています。
※さらに最近では、国連で鳩山首相が2020年までに温室効果ガス
「25%削減目標」を表明しました。
しかし、既に温室効果ガス対策を実施している先進国の中には、
国内努力だけでは目標達成が困難な国もあります。
そのため、京都議定書では、温室効果ガス排出削減目標達成の柔軟策として、
市場メカニズムを活用した「京都メカニズム」が定められました。
京都メカニズムには、「クリーン開発メカニズム(CDM)」、
「共同実施(JI)」、「排出量取引(ET)」の3つがあります。
■クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)
温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が、
目標が設定されていない発展途上国内において、
後術支援などの排出削減等のプロジェクトを実施し、
その結果生じた削減量に基づき排出権を受領する制度。
■共同実施(JI:Joint Implementation)
温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が、
目標が設定されている他の先進国内において、
排出削減等のプロジェクトを実施し、
その結果生じた削減量に基づき排出権を移転する制度。
■排出量取引(ET:Emissions Trading)
温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国同士で、
割り当てられた排出枠の取引を行う制度。
【ポイント】
◎既に先進国で実用化されている技術を発展途上国に導入すれば、
先進国でさらに排出量を削減するよりも、削減にかかる費用は少なくて済む。
◎このように市場メカニズムを活用した京都メカニズムを導入すると、
地球全体として、少ない削減費用で温室効果ガスの排出量を
削減することができると期待されている。
理念や精神論ではなく、ビジネスの力を使って、温室効果ガス削減を目指したところに、
この京都メカニズムの重要な点があると、吉田さんは言います。
吉田さんは、このCDMの技術支援をする企画書について、
それが正しいかどうか妥当かどうかの審査・検証を行っているそう。
(この審査・検証には、少なくとも1~2年かかるそうです)
企画書が妥当と認められると、企画書は国連に申請され、
次は国連から、その審査・検証が妥当かどうかをチェックされます。
そこでOKが出て初めて合格、という流れになるとこのこと。
なぜそこまで厳密にやるのかと言えば、
まずひとつはお金に関係しているから。
もうひとつは、グローバルなプロジェクトなので、
皆が納得できるような公平性・公開性のあるルールが求められるから。
CDMは現在のところ、世界で約1,700件認められており、
そのうち7割が中国、続いてインド、ブラジル、韓国が上位4カ国。
ただし、これらは「今後増えていく温室効果ガスをどう抑制するか」という話であり、
「温室効果ガスを減らす」こととは、また別の話、と吉田さんは強調していました。
「今の延長線上でものを考えると、経済成長を維持しながら、温室効果ガス削減は無理。
今の経済システムそのものを変えなければ、ましてや25%削減は達成できないだろう」
と吉田さんは話していました。
なかなか実感が湧きづらい「地球環境」や「エネルギー」ですが、
実際に携わる「人」からのお話を聞くと、その「人」を通して、
それらを臨場感をもって、感じることができるように思います。
これからは、「地球環境問題」や「エネルギー問題」によって、
経済システムも変わっていくのだな、と漠然ながら感じました。
すると、ちょうど吉田さんからお話を伺った10月2日、
日経新聞1面に、何ともタイムリーなニュースが。
◇日本経済新聞(10月2日)
CO2削減、新日鉄が中国に先進技術 排出枠取得めざす
新日鉄が、CDM(クリーン開発メカニズム)による排出枠の取得を目指すというもの。
中国鉄鋼大手に供与するのは、製鉄工程で使う新日鉄独自の技術。
鳩山政権が温室効果ガス25%削減目標を打ち出しましたが、
ここ最近、鉄鋼業界(※)の株価は下落しているようです。
※ 鉄鋼業界が排出する二酸化炭素は、
国内製造業の約3~4割に相当し、業種別では最も多い。
けれども、これから経済システムが変わるであろうことを見越せば、
新日鉄株は逆に「買い」なのでは、と初めて株価に臨場感を覚えました。
経済とのつながりから環境を見る切り口も、面白いかもしれません。
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