赤パンと死海 (仙台一高・生徒指導部長を取材しました!)
仙台一高の生徒指導部長、
藤田英幸さんにインタビューしてきました。
生徒指導部長と言うと、強面の方が多いですが、
藤田さんも例に漏れず、ちょっと見た目は怖いです。
でもお話ししてみると、このあたたかさ。
実はもともと、若林区の要請を受けて仙台一高が協力する
3月のあるイベントについてお話を伺っていたのですが、
「いいんじゃないですか、一高ですから。世の中のための一高だ」と
大らかに話す藤田さんのお話は、
仙台一高のスタンスをよく描写してて大変興味深かったので、
藤田さんのお話を、ここでは、ほぼそのままご紹介しようと思います。
■生徒指導部ではなく、生徒「支援」部。
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「上から押さえつけるよりも、見守って、後方支援をしていく。
つまり生徒をバックアップしていくのが、一高スタイルです」。
と藤田さん。
名刺には「生徒指導部長」の肩書きがありますが、
内部では、生徒指導部ではなく、生徒"支援"部と呼ぶそう。
「指示待ち人間をつくりたくないんでね。
校訓は『自重献身』、標語は『自発能動』。
生徒たちも意識しているのではないでしょうか。
これが、一高が一高たる由縁なんでしょうね」。
「自発能動」の精神は「発起人制度」という制度を生み、
行事は、各学年の有志で企画・運営されています。
ここでも、どんなに時間がかかろうと、教員は見守る姿勢を貫くそう。
例えば、「運動祭」。
朝の8時からはじまって、なんと20時に終わったこともあるとか。
「生徒からクレームが出てると、そこで審判との協議がはじまって、
試合が一時間止まることだってあるんです。
生徒が自分が納得するまで、とことん協議するんですね。
それをじーっと見守る生徒たちも立派です。
それをまたじーっと見守る先生方も立派です。
納得するまで、とことんさせます。
気がつくと、お月様が上っている。
けれども保護者からのクレームも、来ませんでしたね。
もちろん子どもたちだから、気づかないこともあるので、
ヒントは与えます。けれども答えは教えません。
自分自身で答えを見つけていくんです」。
―先生方は自制心を以って、
「自重献身」と「自発能動」が成立する条件をつくっているんですね。
「時間もかかるし、失敗もあるのですが、
教員は"こういうやり方もあるぞ"程度に留めておくんです。
そこからチョイスするのは、生徒自身。
どう考え、どう判断して、どう動いていくか、それを決めるのは自分自身なのです」。
■赤パンと死海
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「卒業生は皆おもしろい生き方をします。
留学をしたり、旅に出たりしているやつも多いようだ。
それも普通の人なら行かないところ、観光地じゃないところに行っていますね。
おもしろいエピソードがあるのだけど、一高には"赤パン"というものがあるんです」。
と取り出したのは、真っ赤な海パン。
※リース用なので、「体」と書いてあります。
仙台一高のプールの時間では、この赤パンをはいて授業をするそう。
「全員で授業をやると、壮観ですよ」と藤田さん。
「ある卒業生が中東を旅していたとき、こう思ったそうです。
"せっかくここまで来たんだから、死海を赤パンで泳いでみよう"
一高生は好きですから、赤パン(笑)」。
―皆さん、これを卒業後もはかれるですか...?
「どう見たって、今どきじゃないデザインなんですよ。
でも我々はこれにこだわります。
一高生の命ですから、やっぱり(笑)」
―高校ジャージをパジャマに再利用する例は多いでしょうが...
「例えば、一高体操と言うものがあるのですが、
結婚式で赤パンをはいて、一高体操を踊ったりしますから」。
―卒業後も、まだまだ使い道があるようです。
「それでね、その卒業生が、宿で赤パンを干していたそうなんです。
そしたら、見知らぬ人が訪ねてきて、こう言ったそうです。
"君は、一高生かい?"」
―世界広しといえども、治安も安定しない中東でですか?
しかも、赤パン、ですか。
「死海でばったりと会ったそうなんですよ。
赤パンが目印になるなんてねぇ」。
一見、ただの笑い話。
けれども、一高のスタンスを端的に表すエピソードです。
「卒業生や保護者の顧客満足度が非常に高いんです。
一緒に酒を飲むと、"やっぱり先生、一高でよかった"って皆口にしますね。
酒飲んで、毎回校歌を歌いますよ。校舎向いて。
大絶叫ですよ。それくらい卒業生は、一高が好きなんです」
―確かに一高OBの母校愛は、印象深いものがあります。
「いた人じゃわからないところだけど、
勉強以外にも得られるものが、ここにはあります」。
■他の学校と違うというのは、赴任して3分でわかった。
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藤田さんは、もともと北学区出身。
実はあまり仙台一高の事を知らないまま、
約10年前に仙台一高へ赴任してきたそうです。
その時の印象について、藤田さんはこう話します。
「"たかが一高、されど一高"
生徒らは自己主張するは、納得いかなければとことん食いついてくるは。
でも聞くところはちゃんと聞くし、今どきこんな生徒たちがいるのかと驚いたよ」。
仙台一高の就任式では、「熱烈歓迎会」という伝統行事があるそう。
「就任の挨拶で、拍手がはじまりますよね。
ずっ~と拍手が鳴っているんですよ、挨拶が終わるまで」。
こちらが声を大きくすると、負けずと拍手も大きくなる。
これは、高校生と真剣勝負だと思い、藤田さんも必死になったそう。
「私もマイクを外して、肉声でしゃべりました。
そしたら一高生も、"こいつは只者じゃないようだ"と思ったみたい」。
―生徒さんと向き合えるかどうかが、この熱烈歓迎会で判断されそうですね。
非常にユニークな伝統です。
「一高生は遊び心あるし、単に偏差値だけでは比べられない魅力があるのではと思う。
合う合わないは、もちろんあるとは思います。
個性的な学校で、いろんな人間が、いろんなことをできる場所です」。
■いじめがない理由
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「個性があると、普通はいじめられますね。
けれどもいろいろな人間がいるから、いじめがない場所です。
"そういう人間がいてもいいんじゃないか"と認め合うんだよね。
俗に言う"変わっている子"も、のびのびと生活しています」。
―俗に言う"変わっている子"というのは、つまり、
ひとつのものさしでは計れない、ということですよね。
上意下達の仕組みで管理してしまえば、
ひとつのものさしに合わない性質や人間が排除されてしまうけど、
ここではその間逆の仕組みがあるからこそ、
生徒本来の多様性が、きっと保持されているのでしょう。
まさに、「自重献身」と「自発能動」が生み出す場ですね。
「そうですね、世の中、ものさし1本になりつつある。お金とか、成績とか。
でも多様な価値観を認められる余裕が欲しいところに、この学校はいいと思います」。
―まるで、小さな社会ですね。ウィキペディアのような。
「生徒たちは、誰かがつまらないことを言ったと判断すれば、"ぴしーっ"と言うし、
逆に"ここは皆話を聞くところだぞ"と判断すれば、自重の"しーっ"を言うんですね」。
校則らしい校則はない、と言う藤田さん。
「ここにあるのは、世のため人のため、"自重献身"という行動の規範。
そして、自ら考え行動する、どう生きるべきかという"自発能動"の精神。
それ以上のものは、いらないんですよね」。
■伝統は動いている
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「絶滅危惧種みたいなものなんじゃないですかね、一高は。
仙台一高だから、こういったものが、残っているのでは」。
―それって、"伝統"というやつなんですかね?
「伝統の力って、すごいと思いますよ。
伝統というものは、只者じゃないですね。
伝統の重みと言うものを、ここにいると感じます。
中途半端なものじゃない、ずしっとしていて、
守らなきゃいけないものを、感じますね」。
―「自重献身」と「自発能動」の軸が、伝統なんですね。
時代に合わせて変化しているように見えても、
軸だけが変わらないということでしょうか?
「何も動かないのが伝統ではなくて、
マイナーチェンジやフルモデルチェンジを繰り返しながら、
時の生徒が、自分の学校がどうあるべきかを判断して考え、
戦ってきたものがあると思います」。
例えば仙台一高では、運動祭の種目も生徒が決めるそう。
「変わった種目も多いんですよ。
毎年、新種目を準備しないといけないという伝統があるのですが、
アンケートをとって過去の種目よりも優れていると判定されれば、
"伝統科目"として加わります」。
―クリエイティブな仕組みですね。
「運動祭の開催日も、以前は4月29日の祝日開催でしたが、
生徒の発案で、今は平日開催になっています。
ある日、たまたま台風が来て、平日開催になったことで、
部活の試合でこれまで参加できなかった生徒も参加でき、
非常に盛り上がったことがありました。
そこで、"運動祭は、外向きの行事なのか、内向きの行事なのか?
女子学生に来てもらうための行事じゃなく、内向けの行事ではなかろうか?"
と発起人が皆の前で演説したんです。
結果、賛成多数で可決され、翌年からは平日開催になりました」。
―民主主義ですね。
「もちろん衰退する時はありますよ。
でもそのときに、"これでいいのか?"と核になる生徒が出てきて、
崩れそうになると、それをこらえようとするマンパワーがあるんですよね。」
「自分もこの中に入って、はじめてわかることが多い」と藤田さん。
「自重献身」と「自発能動」を軸に、学校という枠の中で、
小さな社会があるような印象を受けました。
藤田先生のお話も含めた、
「仙台一高らしさ」にせまる仙台一高特集は、
もう少しでオープン予定です!
もう少々、お待ちください。
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