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記者・大草芳江が活動をつづります

2011年10月26日

【つくば出張】高エネルギー加速器研究機構長の鈴木厚人先生を取材しました(研究施設の見学も)

カテゴリ:取材日記

 「宮城の新聞」では、「科学って、そもそもなんだろう?」をテーマに、様々な科学者がそれぞれリアルに感じる科学とは何かを伺うインタビュー特集を行なっています。(東北大物理関係ですと、東北大学理学部物理系同窓会「泉萩会」HPとのタイアップ企画となります)

 先週は、ずっと楽しみにしていた、高エネルギー加速器研究機構(KEK)長の鈴木厚人先生の取材のため、茨城県のつくば市に行ってきました。鈴木先生は、素粒子物理学・ニュートリノ物理学が専門の科学者です。これまで個人的にはあまり馴染みのない「素粒子」の世界ですが、なぜ楽しみにしていたのかと言うと、理由は3つほどあります。

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 一番の理由は、鈴木先生は、いろいろな方から「ノーベル賞候補の研究者として、ぜひ取材をしてほしい」とリクエストのあった科学者の一人なので、いつの間にか私の心の中の「ぜひ取材に伺ってみたい科学者」になっており、その念願が叶って嬉しいという気持ち。

 もう一つは、武田暁先生(素粒子理論)田村裕和先生(原子核物理)など、素粒子関係の研究者へのインタビュー取材を通して、素粒子というものに私も最近少しリンクがかかってきた(興味が湧いてきた)こと。それに、以前から話には聞いていた「加速器」というものを、ぜひ見てみたいと思っていました。そこで今回、つくば市にある高エネルギー加速器研究機構まで取材に伺わせていただいた次第です。

 鈴木厚人先生には、大変お忙しい中、長時間のインタビュー取材に快くご協力いただきました。鈴木先生のインタビュー取材結果については、後ほど、東北大学理学部物理系同窓会「泉萩会」ならびに「宮城の新聞」にてWEB公開いたしますので、もう少々お待ちいただければと思います。

 また、インタビュー取材後は、広報室や秘書室の皆さま、ならびに各施設の研究者の皆さまにご協力いただき、施設見学もさせていただきました。本ブログでは、その見学記を少し掲載できればと思います。

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写真は、電子・陽電子衝突型加速器の一部

 まず驚いたのが、KEKの敷地面積の大きさです。なかでも、大きな円形の加速器(電子・陽電子衝突型加速器)ですと、一周が約3km、直径が約1kmもあるそうです。

 そもそも素粒子とは、「もうこれ以上分けられない粒子(物質の最小単位)」という意味とのことですが、古代ギリシャでは物質は「原子(atom:ギリシャ語で「もうこれ以上分けられない粒子」)が最小単位だと考えられていました。けれども原子は、電子と原子核に分けられ、さらに原子核は陽子と中性子からなることを私たちは学校で習います。

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クォークの世界をインタラクティブに体験できる展示「ワンダークォーク」

 さらに陽子や中性子は「クォーク」という素粒子に分けられるそうで、それが6種類あると予言したのが、2008年ノーベル物理学賞受賞の小林・益川理論です。クォークは6種類あると考えると、「CP対称性の破れ」という、素粒子の世界の大きな謎の一つを、うまく説明できるそうです。展示ホールには、宇宙に同数生まれたはずの粒子と反粒子から反粒子が消えていく様子を表した(CP対称性の破れ)展示などもありました。

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ノーベル物理学賞の賞状(複製)。二羽の鳥は、対称性の破れの結果、誕生した宇宙の自然の一コマを描いているらしいです。受賞テーマごとに挿絵が違うなんて、粋ですね。

 KEKの加速器を用いた実験(Belle実験)が小林・益川理論を実験的に検証した関連で、研究施設や展示室には、小林・益川理論の論文やサイン、ノーベル物理学賞の賞状やメダルのレプリカ(ノーベル賞のメダルは、本物1個+レプリカ3個をもらえるらしいです)なども展示されていました。

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小林・益川理論の論文とサイン

 ちなみに、小林・益川理論の論文はわずか全6ページ。しかも論文の大半は「クォークは4種類でなぜダメなのか」を説明するもので、最終ページのたった数行だけが「だからクォークは6種類でなければならない」と書いてあるそうです。

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こちらは、研究室隣の展示室で見学した加速器の一部

 それでは、こちらの電子・陽電子衝突型加速器で何をやっているのかというと、電子と陽電子(※)を衝突させて、ミニ・ビッグバンを人工的に創り、そこから生まれる大量のB中間子と反B中間子という粒子を詳しく調べているそうです。B中間子と反B中間子のペアを工場のように大量に創り出しているので、「Bファクトリー(B中間子の工場)」と呼んでいるとのことです。

※お馴染みの「電子」も素粒子の一つです。電子はマイナスの電荷を帯びていますが、電子のちょうど反対の性質を持った「陽電子」というものがあり、こちらはプラスの電荷を帯びているそうです。

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Belle測定器。高さ8m。とても大きいです

 この加速器では、電子と陽電子が2つのリングの中でそれぞれ光速に近いスピードで逆方向にまわり、それが3kmごとに1箇所(その的の大きさは4μm)で衝突されるよう設計されているとのことで、その衝突性能は世界一なのだそう。今回、衝突点近くに設置された測定器(Belle測定器)を見学させていただきました。この測定器ではできた素粒子を立体写真のように撮影することができるそうです。

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Belle測定器でチェレンコフ光検出器として使用されている「エアロゲル」

 Belle測定器は、いろいろな種類の検出器を組み合わせてつくられているそうですが、このような「エアロゲル」という素材も使われていました。触ると発泡スチロールのような感じですが、不思議なくらい超軽くてベトベトします。断熱性が高く、分子構造はスカスカだけど、発泡スチロールみたいに空気は入っていないそうです。Belle実験では、この中を荷電粒子が通過するとチェレンコフ光が発生することを利用して、荷電粒子の識別に使われているとのことです。

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フォトンファクトリーの一部。ちなみに屋根の色は研究者の好みで決まったらしいです

 このほか、放射光科学研究施設(こちらは「光の工場」とのことで愛称「フォトンファクトリー」)も見学させていただきました。放射光といえば以前、石井武比古先生(放射光がご専門)のインタビュー取材でも登場してきましたが、加速器から発生する明るく波長の短い光「放射光」を利用することで、原子スケールで物質や生命を観察できるそうです。全国各地から毎年三千人以上の共同利用者がここで実験をするため、科学者同士のコミュニケーションの場にもなっているとのこと。

 さて、今回実際に取材に伺った感想を一言で申し上げますと、表現が月並みで恐縮ですが、まさに「科学・技術って、すごいなぁ」の一言でした。逆に言えば、これだけ科学・技術に囲まれた生活の中で、今回それほど単純な感想が出てきたこと自体が、自分でも驚きでした。では、そもそもなぜそんな感想が出てきたのだろう?と改めて考えてみると、おそらく、それは自分の中にあったイメージと実際とのギャップから来たものなのだろうと、思いあたりました。

 というのも、まず自分の中にあったイメージとして、「そもそも物質とは何か?」「我々の宇宙はどのように生まれたのか?」といった問いかけからして、何だか崇高で神秘的な感じがする「遠い世界」の話。さらに、目には見えない小さなものの正体を探ろうと、あんなに大きな装置を使って、それでいて素粒子のスケールを制御できていること自体、私には奇跡のように感じられてしまう、これもまた「「遠い世界」の話。だから、きっと研究する人も、自分が想像する世界からとても「遠い世界」で考え行動しているのだろう、というイメージがおそらく私の中にあったのではないか、と思うのです。つまり、「遠い世界」と「遠い世界」の組合わせなら、「遠い世界の何だかすごい話」のままなので(ある意味で想定内)、逆にそれほど驚きは出てこなかったはず。

 けれども実際の研究は、もちろん奇跡でも神秘でもなく、すごく具体的な問題(一見すると、直接関係なさそうな対象も含めて)を常日頃どのように解決していくかという、まさに経験の積み重ねなのだなということを(研究者側から見ると当たり前のことなのかもしれませんが)、今回の鈴木先生のインタビュー取材から強く感じました。

 逆に言えば、自分からも想像できるくらいの具体的な問題解決のずっと上に、想像できないくらいの階層性をもって問題解決が積み重なっていて、その結果として現在の技術のかたちがあるんだなぁ・・・ということが感じられたので、「まさに科学・技術だなぁ、すごいなぁ」という驚きがまず感想として出たような気がします。つまり、「遠い世界」と「遠い世界」の差なら、あまり驚きは感じないものかもしれないけど、「近い世界」と「遠い世界」の差なら、その差が大きいほど情報として感じられるものなのかもしれません。このあたりは、今後の取材のスタンスに活かしていきたいと思います。

 なお、今回のインタビュー記事は制作後、東北大学理学部物理系同窓会「泉萩会」ならびに「宮城の新聞」に公開予定ですので、もう少々お待ち下さい。

【追記】
鈴木厚人先生のインタビュー記事を、下記の通り、公開いたしました(2012年4月25日)。
鈴木先生には、大変お忙しい中、多大なるご協力を賜りましたこと、改めて御礼申し上げます。

鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構長)に聞く:科学って、そもそもなんだろう?
「プレハブも、ニュートリノも、単に対象が違うだけで、思考方法は同じ」

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