高等学校と地域の連携について調べごと
記事制作のため、高校と地域との連携について調べていたところ、
学習指導要領の分析からそれを研究した論文を見つけました。
論文のよいところは、何を根拠(reference)に
そう述べているのかが、ある程度明示的なため、
どこが客観的な情報で、どこからが筆者の主観なのか、
調べようと思えば、追跡できる点にあると思います。
せっかくなので、調べたことを要約し、メモがてらご紹介します。
※写真と本文は関係ありません
(ちなみに写真は、8月19日撮影:オフィスから見た夕焼け)
【引用URL】
鹿児島大学リポジトリ
高等学校における地域との連携に関する研究
―学習指導要領の分析から―
生活者が自分の住む地域と関わりを持つことは、
人と人との新たなつながりをもたらし(※1)、
日常生活の充実感や関心を高め(※2)、
地域の価値、自然、文化への愛着や誇りを生み出す(※3)
ことにつながっている。
しかし、地域への意識及び関心が低下しているのが現状である。
著者は、考えられる要因として以下の2点をあげている。
①生活上の問題や冠婚葬祭などの行事が行政や商業サービスによる専門機関に
代替されたため、近隣関係への依存の必要性が低下したこと
②日本人の住環境、地域に対する意識が低いこと
それらの意識を高めるための場として、
学校・地域・家庭の三者があげられる。
しかし、地域社会における子どもの成長過程から見ると、
小学校の高学年が最も強く地域と関わりを持っているのに対し、
中・高校生になるにしたがい関わりは希薄になり、
地域活動への関心も低くなっている(※4)。
よって、地域社会の中で地域との関わりがあまりもたれていない状況である
高校生は、学校教育の中で関わりを持つ必要性が大きい。
1.教育政策から見た学校と地域の連携
教育政策においては、地域学習の重視、
地域の人材や施設などの教育資源の活用が求められている(※5)が、
連携方法や内容、積極性は、各学校によって様々であり、違いが見られる。
2.学習指導要領の記述内容について
~高校の学習指導要領:総則における「地域」に関する記述について~
現行の学習指導要領は、従来の学習指導要領(平成元年)に比べ、
小・中・高ともに、「地域」を使用する数が増えている。
これは、現行から創設された総合的な学習の時間のねらいや配慮する事項の
記述の中に使用されているからである。
高校学習指導要領解説 総則編での「地域」の説明(※6)は、
「学校は地域社会を離れては存在し得ないものであり、
生徒は家庭や地域社会で様々な経験を重ねて成長している。
学校の置かれている地域には、(中略)生活条件や環境の違いがあり、
産業、経済、文化等にそれぞれの特色を持っている。
このような学校を取り巻く地域社会の実態を十分考慮して
教育課程を再編することが大切である」
(中略)
「地域の人的・物的環境を生かし、教育活動を計画することが必要である」
(中略)
「すなわち、学校の教育方針や特色ある教育活動の取組み、生徒の状況などを
家庭や地域社会に説明し、理解を求め協力を得ること、
学校が家庭や地域社会からの要望にこたえることが大切であり、
このような観点から、
家庭や地域社会との積極的な連携を図り、相互の意志の疎通を図って、
それを教育課程の編成、実施に生かしていくことが大切である」
昭和22年当時の学習指導案:「新制高校の教科課程に関する件」の
「序論:1.なぜこの書はつくられたか」には、
「これまでの教育では、その内容を中央できめると、それをどんなところでも、
どんな児童にも一様にあてはめて行うこととした。だからどうしても画一的に
なって、教育の実際の場での創意や工夫がなされる余地がなかった。このよう
なことは、教育の実際にいろいろな不合理をもたらし、教育の生気をそぐよう
なことになった。」
とある。
以上のような背景を踏まえ、学習指導要領では、
「地域の社会の特性を見る」ことや、「教育をその現場の地域の社会に即す」ことが
明記されており、その意識の流れが現在の学習指導要領にも受け継がれている。
3.諸外国の事例について
学校と地域の連携の問題は、学校教育の直面する諸問題を克服する手段として
認識されており、世界的な規模で重要な課題となっている(※7)。
国際的にも学校と地域の連携の必要性が認識された背景には、
社会の変化の中で必要とされる学力が変容し、学力の形成の場としての
学校と周囲の社会との関係が変化したことがあげられる。
すなわち、
①学校で習得する内容と、現実の社会で必要とされる能力がかみ合うように
するためには、学校と学校以外の地域社会諸関連の連絡が必要
②社会の変化の中で、学校教育が失敗する例が多く見られるようになり、
そのような失敗の解決が学校の取組みだけでは不可能という意識が強くなったため、
学校内外の問題を総合的に捉え、学校と学校以外の地域社会との諸機関とが協力すべき
と考えられるようになったためである。
しかしながら、各国の置かれている状況は、学校および地域社会とともに大きく異なる。
また、日本への導入に向けても、教育カリキュラムなどが異なるため、
直接導入されているには至っていないが、近年、参考にされたものも見られる。
(例)
・ドイツの「事実教授」:地域社会における子どもの体験に基づいた学習
→ 日本の生活科導入の参考に
・スウェーデンの教育建築プログラム(PEB)
:教育・文化・福祉・社会の諸機関を"一つ屋根の下に"統合した教育建設プログラム
→ 日本の学校建築プランの参考に
(中略)
4.まとめと考察
近年では、地域社会が多様化し、
防犯や防災に向けた対策、高齢者への介護及び福祉、
少年の健全な育成、身のまわりの環境保全など、
地域の人が中心になって取り組むべき課題は多く見られる。
それらの課題に向けて、住む人が主体となって解決しながら
理解を深めていく必要があり、住む人の地域への意識や関心を
高めていくことが必要である。
そのためのきっかけをつくる場として、学校教育は大変有効である。
しかし、学校と地域の連携を構築していくためには、課題もみられる。
「地域」という言葉が学習指導要領に記載されるようになって、60年。
昔と現代とを比べると、学校教育を取り巻く状況や社会的な背景は大きく変化した。
従来、学校は、地域のコミュニティ形成に重要な役割を果たし、
子ども達の遊びや教育の場にもなっていた。
しかし近年では、学校教育現場での凶悪な事件等により、
学校に部外者の立ち入りを禁止する傾向が強まった。
安全性の視点からは、地域に「開かれた学校」から、
安全対策重視の「閉ざされた学校」に方針転換されたように見える。
しかし、文部科学省は、地域に「開かれた学校づくり」という考え方と
相反するものではないという見解を示している(※8)。
筆者は、各学校の実態や地域の特性をいかした連携を進めることは
重要であるが、その前提として、現在の学校教育で連携する、または、
扱う「地域」とは何かと言うことを具体的に示すべきだ、と指摘している。
※全文をご覧になりたい方は、
引用元:鹿児島大学リポジトリをご覧下さい。
【reference】
(※1)内閣府:国民生活白書、2005
(※2)内閣府:ソーシャル・キャピタル、2002
(※3)国土交通省:都市住民意識調査、2003
(※4)子どもの体験活動研究会:地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査、2002
(※5)文部科学省:高等学校学習指導要領、1999
(※6)文部科学省:高校学習指導要領解説 総則編(p70-71)
(※7)OECD教育改革センター:学校と企業:新しい連携、1992
(※8)文部科学省:学校安全のための方策の再点検等について、2005
【引用元】
鹿児島大学リポジトリ
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