「産学官連携」テーマにフェア開催 東北大など/半導体関連のパネル討論も
2010年10月25日公開
仙台国際センター(仙台市青葉区)で18日に開かれた「産学官連携」などがテーマの催しのようす
東北にある学術研究機関などの研究成果や産学官連携の取組みなどを広く紹介し、新事業創出に向けた、新たな出会いの場をつくるための催しが18日、仙台国際センター(仙台市青葉区)で開かれ、企業や大学の関係者、学生らが数多く訪れた。
「東北大学イノベーションフェア」(東北大学主催)と「産学官連携フェア」(みやぎ産業振興機構主催)の併催。51の学術研究機関などが175テーマ141ブースを設け、様々な分野の研究成果などをポスターや口頭で発表した。
半導体製造装置分野での「産学官連携」をテーマに行われたパネル討論のようす
催しではパネル討論も行われ、東北大未来科学技術共同研究センターの大見忠弘教授(半導体電子工学)、東京エレクトロン(東京)の竹中博司社長、みやぎ工業会の川田正興会長が、半導体製造装置分野での「産学官連携」をテーマに意見を交わした。
宮城県大和町で新工場建設を進める半導体製造装置大手の東京エレクトロンは、1998年から大見教授と連携。次世代半導体加工技術「RLSA」を導入した半導体製造装置を共同開発し、2001年に商品化。2003年に産学官連携功労者表彰で第1回内閣総理大臣賞を受賞している。
【パネル討論】
「産学官連携」成功の鍵とは 信念と覚悟で道開け
◆学問に基づいた産業技術を
大見忠弘教授(東北大未来科学技術共同研究センター)
大見教授は、経験と勘に基づく産業技術の行き詰まりを示し、「経験と勘ではなく、学問に基づいた全く新しい半導体製造装置が必要」として、現状を打破する次世代半導体加工技術「RLSA」を紹介。
世界で勝てる装置をつくるためには、膨大な要素技術の新規開発とそのシステム化、ならびに企業連合をつくる必要があることを述べ、「そのためにはターゲットを明確にした研究開発が重要」と指摘した。
また、企業連合のコーディネーターとして、各企業の役割を明確化すると同時に、技術内容をオープンにし協力し合えるよう、開発着手前に大学と企業で特許出願を行う必要性があることを述べた。その際に「企業に責任転嫁せず、大学教授が全責任を負うことが絶対に大切」と強調した。
同時に「技術開発に終わりはない。一度はじめたらずっとついてくることが非常に大事。それを(企業は)よくわかることが必要だ」と企業側にも覚悟を求めた。
最後に「国立大学は、国民の税金で支援を受け仕事をしている。(研究を通じて)しっかりとした事業、産業を興し、大きなビジネスにして、金儲けをしない限り、国民への恩返しにはならない」などとの見方を示した。
◆石の上にも10年
竹中博司社長(東京エレクトロン)
竹中社長は、「産業技術が極限を迎えた今、成長を支えるのは本物技術。真の技術は他事業にも使えるはずだ」と信念を述べ、「学に求めるのは科学理論に基づく差別化技術の創出。我々(産)の役目はそれを調理し産業に適応させること」と話した。
そのうえで竹中社長は「開発型で生き残るしかないと信じ、石の上にも10年の覚悟で、必ずやるんだとトップが信念を持つことが一番大事。それにより現場のエンジニアもぶれずに安心してやれる」と経営者の姿勢の重要性を繰り返し強調した。
部品調達の期待に県内企業は応えられるかとの問いには、「今日採用されていないものが、明日採用されないわけではない。今日採用されているものが、明日採用されるわけではない。安さだけに解を求めているわけではない。良い技術提案があれば未完成でもいい。遠慮せずいつでも扉を叩いて欲しい」との姿勢を示し、既に県内企業数社と取引を始めたことを明らかにした。
そして「県内企業と大学と県と手をつなぎ、世界で勝負する宮城発の工場をつくりたい。我々の会社が盛り上がることはもちろん、(利益を)雇用や税金で国や大学にお返しして、大学が新たな技術を提案し、また我々が提案する良い流れをつくりたい」と意気込みを述べた。
最後に「日本の産業が非常に弱くなっていると指摘されているが、日本には優秀な技術がたくさんある。改めて日本の根源に戻るべきではないか。産学官それぞれやることは違っても、国を栄えさせるという目的は同じ。皆で強固なスクラムを組み、世界で戦い、成功する時が改めて来た」などと語った。
◆自ら道を切り開く姿勢が大切
川田正興会長(みやぎ工業会、元日本セラテック代表取締役会長)
件の大見教授の企業連合約30社のうち、県内企業は日本セラテックのみ。1993年、当時存続を危ぶまれた日本セラテックに、2代目社長として着任した川田さんは、大見教授と連携。2006年、東北6県の製造業では43年ぶりの東証一部上場を果たした。
川田会長は「産学官それぞれ目的や目標が違い、時間軸も価値観も違う。そのため目的や目標を共有化して役割を明確にし、一体的な合意をつくらなければ、いくら皆で集まっても良い成果は出ない。当時は、昼も夜も夢の中でも大見先生の顔を拝みながら、全く一体的になってやってきた」と当時を振り返った。
その上で「ただし先生におねだりしたことは一度もない。(自分たちの技術を一流にするための)価値ある助言や評価などをいただき自ら開発していく。与えられるものではなく、自ら道を切り開いていく姿勢がまず大事」と強調。
「発想を変えよう、我々にはチャンスがある。評価をしていただける大学もグローバル企業も近くにたくさんある。地元のあらゆる経営資源を図々しく使って、志を同じくする者で集まり、成果を出そうではないか。足りないのは、やろうという志」と語った。
そして「地元中小企業においても、一体的な合意を連携者がつくりあげなければ、何回集まっても成果は出せない。しかし宮城県には今、東京エレクトロンのようなグローバル企業も進出し、『富県宮城』という共通の目的・目標が掲げられ、全県民的な合意がある。過去にないチャンスだ。日本の閉塞感を打破し、道を切り開くために、宮城発の団体戦で行こう」などと呼びかけた。
【インタビュー】
パネリスト・フェア主催者に聞く
◆日本には資源も何もない、あるのは人間の才能だけ
大見忠弘さん(東北大未来科学技術共同研究センター教授)
大見忠弘さん
(東北大未来科学技術共同研究センター教授)
―そもそも「産学官連携」をどのようにとらえていますか?
今、世界中が完全な自由競争の時代に入っている。日本は、世界中の強い企業や国と競争して勝たなければ、日本国民1億2千万人を食わせる金が稼げない。
日本はエネルギーの100%、食料の60%を輸入に頼っており、エネルギーと食糧で毎年20兆円の買い物をしなければ、今の日本人の生活レベルを維持することはできない。そのため、他の産業分野で外貨を稼ぐ必要がある。
しかし、競争力のある本当に強い企業を日本から世界へ育てようとするなら、企業まかせでは駄目だ。大学が産業技術の基礎を固め、たくさんの強い特許を取得しておき、産業に実用化、事業化させる役割を担う必要がある。
その時、たくさんのお金が必要になる。お金は国が支援しなければ、本当の競争力にはならない。つまり、1億2千万人の日本国民が生きていくためには、産業力を持たなければ駄目で、そのために産学官連携は絶対に必要だ。
―今のお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
自分と同学年の人たちが、世界中に約1億人いることの意味をまずは理解してもらい。自分と同学年の人たちが、世界で一番良くできる人間になろうと、自分の才能を磨き、必死に努力している。
そのような人たちと競争し、勝てる人間に自分の才能を磨きあげなければ、世界と競争して勝てる国に日本はなれない。日本には資源も何もない。あるのは人間の才能だけだ。自分の才能を磨きまくって欲しい。
◆「なぜ?」と興味を持つことが大切
竹中博司さん(東京エレクトロン社長)
竹中博司さん
(東京エレクトロン社長)
―パネル討論でのお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
身のまわりに溢れている携帯電話やパソコンの中には、半導体が入っている。その半導体を支えてきたのは日本。ぜひ中高生には、希望を持って理科系に進んでもらい、社会インフラのベースとなっている半導体産業に関わるようになってもらいたい。
例えば、自分の持っている携帯電話やパソコンの性能をもっと良くしようとか、人々の生活をもっと豊かにしようとか。そのような夢を皆さんに与えられるよう、我々が宮城に来て元気なところをお見せしたいと思っている。
―では中高生にとって最も大切だと思うことは何ですか?
まず大切なことは、いろいろなことに興味を持つこと。「なぜ?」と思うことがスタートだ。「なぜ?」を3回くらい繰り返すと、「こういうことをやっていこう」という気になるのではないかと思っている。
子どもたちに理科系に行こうと少しでも思ってもらえるよう、2年前から年1回、東京エレクトロンホール(仙台市青葉区)で小中学生対象の理科実験教室も主催している。
―「なぜ?」を大切にする姿勢は、経営のスタンスにも通じるものですか?
通じる。失敗は全然問題ない。七転び八起きだ。パネル討論では、自分自身にも言い聞かせているところがあった。石の上にも10年、これが合言葉かな。自分の発言を噛み締め、そのような経営をしていかなければならないとの思いを新たにした。
◆やれば展望が開けること鮮明に
川田正興さん(みやぎ工業会会長、元日本セラテック代表取締役会長)
川田正興さん
(みやぎ工業会会長)
―パネル討論を通じて、率直にどのようなことを感じましたか?
宮城県には中小企業が多いが、中小企業の主たる業態は、大企業の下請け的なものが多い。そのため「安く大量に」という形で空洞化が加速しており、県内中小企業の皆さんは相当不安に思っている。
そのような中、国産で高い技術力を持ち、付加価値のある会社が宮城県に進出することによって、宮城県の皆さんが、従来の業態から新たに付加価値のある製品・商品の開発をし、食べていける展望が開けたのではなかろうか。
もちろん決して楽なことではない。(地元企業の技術提案は)簡単には採用されないだろう。しかし、東北大などの知見を生かし、地元での団体戦で、東京エレクトロンにいろいろなものを持ち込み、評価していただき、そして東京エレクトロンが地元で調達する。そのような地元での裾の尾産業ができる可能性が示されたと思う。
どこへ行っても海外に行かないと駄目だという雰囲気の中、宮城県には東京エレクトロンのような会社が進出している。これは知事を中心とした企業誘致の成果だと思う。それに大見先生も地元におられる。東北で世界の仕事をしている人だ。
展望がこれだけ鮮明になり、宮城県で仕事をやってきた者として、実にうれしい。会員の皆さん、いろいろ苦労はあるだろうけど、やれば展望が開けるという意味で、努力し甲斐のある楽しみができた。
―今のお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
悪い時には皆が集まって知恵が出るもの。だから悪いからと言って、将来を絶望することはない。悪い時を経験しながら、より強くなっていくもの。小さな悪いことはウェルカムで、立ち向かうべし。
◆日本の産業の芽となるシーズ(種)肌身で感じて
数井寛さん(東北大学産学連携担当理事)
数井寛さん
(東北大学産学連携担当理事)
―パネル討論を通じて、率直にどのようなことを感じましたか?
パネル討論では、非常に重要なことを皆さんにはっきり仰っていただき良かった。大見教授からは「従来の勘と経験に基づく産業技術ではなく、学問の世界から産業技術をしっかりとしなければいけない」こと、竹中社長からは「トップの確固たる決断で長期的視野に立ち、技術に取り組まなければいけない」こと、川田会長からは「地元中小企業を含めて産学官連携を進めるためには、それぞれの目的や目標などを共通化してスクラムを組んで進める必要がある」ことをはっきり仰っていただいた。
これらのことは、産と学と官が連携し、新しい技術を産業化してビジネスにしていく上で、非常に重要な示唆であると考えている。企業(産)、大学あるいは研究所・高専(学)、これを支援する国あるいは県(官)が一体化し、うまくつないでいくことが大切になる。
―今後、東北大産学連携担当理事としての「産学官連携」についての考え方は?今回のフェアとの関連でお話しください。
産学官連携は、東北大学だけではできない。ほかの支援機関や研究機関など、いろいろな人たちの力を使い、産学官連携を進めていきたい。今回のフェアにおける支援機関間の連携や、大学と産業界との新しい出会いもひとつのきっかけとしたい。
「東北大学イノベーションフェア」と「産学官連携フェア」同時開催のため、その相乗効果は大きい。事前申込者は過去最高人数で、各支援機関ならびに産業界、大学生も数多く来場したと聞いている。これからの日本の産業の芽として、どのようなシーズ(種)があるかを肌身で感じる機会となったのではないか。
また大学生にとっても、実際の産業界や他大学の現場に近い雰囲気をよく見てもらうことは、自分の研究テーマとの関連や、これから研究テーマを決める上で、大変意義のあることだと思っている。
―今のお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
日本の大学には、まだ数多くの夢があると思う。その夢のネタが今日はいろいろ示されている。将来に向けての夢がこれだけ多くあることを知ってもらい、中高生の方々にも夢を持って頑張ってもらいたい。
◆大学の研究成果を地域の進歩に役立てる
中塚勝人さん(みやぎ産業振興機構理事長)
中塚勝人さん
(みやぎ産業振興機構理事長)
―そもそも「産学官連携」を、どのようにとらえていますか?
(大学の)研究は、時間がかかり、真実探求の意味が強い。しかしそこで得られるものは、条件をきちんと設定し、その考え方に立って物事を実行すれば、誰がやっても必ず同じ成果が得られる、という性格を持っている。それを産業化する時に充分使いこなすことが非常に大事になってくる。
産業化する時は、そのほか、コストや生産プロセスの合理性、できたものがどれだけ社会に役立つかなどの条件が揃う必要があるが、それは研究する時にはあまり意識しないこと。しかし、やはりそれらの条件を満たさなければ、社会に役立つことにはならないため、学が研究し、産が社会での応用によって商品化し社会に役立てる、という役割分担がある。
そして、研究段階から産業段階までものを移すためには、どうしても産と学がお互いに身を乗り出し手渡しする段階が必要になる。それが大学などの研究成果を、地域の振興、そして地域や社会の進歩に役立てるためのキーポイントだ。そのため当機構では、実際に産と学がお互いに身を乗り出せるよう支援を続けている。
―その点から見て、今回のパネル討論はどのように感じられましたか?
今回は、東京エレクトロンという強力な企業を核にして産業基盤を移す、というものに合わせて行ったプロジェクト。そのため、非常にわかりやすく、参加者も非常に説得力をもって聞けたのではないかと思う。
特に大見先生は、大学は、好奇心や真実の探求というスタンスから研究をするわけだが、いずれはその成果を、社会に返して、社会に貢献する、ということを仰っていた。うまくつながって、大成功になるか、非常に楽しみだ。
―今のお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
中高生には将来がある。将来自分が何をしたいのか、あるいは、どういう生き方をしたいのか、そういうことをいつもいつも考えて、できれば自分が育ったふるさとに役立つような仕事を志して欲しい。
もちろん、ふるさとに役立つだけでなく、外国に行って頑張ること、国のために頑張ることもある。しかしやはり、何割かの人は、ふるさとを強くすることを考えて、そのような道を選んでいただけるとありがたい。
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