産学官連携でイノベーションを 最先端研究紹介フェア/「第5回みやぎ優れMONO」3件認定
2013年1月24日公開
仙台国際センター(仙台市青葉区)で17日に開催された同フェアのようす
東北の学術研究機関等のシーズと社会のニーズが出会う場をつくろうと、「東北大学イノベーションフェア」(主催:東北大学)と「産学官連携フェア」(主催:みやぎ産業振興機構)が17日、仙台国際センター(仙台市青葉区)で同時開催され、企業関係者らに最先端研究が披露された。ナノテクノロジーや情報通信など分野ごとに、それぞれ約70の展示ブースが設けられた。震災復興プロジェクトの展示もあった。
宇宙から原発事故まで、極限環境で活躍するロボット
吉田和哉教授による極限ロボティクスの実演・解説のようす
このうち、小惑星探査機「はやぶさ」や原発事故対応ロボット「クインス」の開発に携わった吉田和哉教授によるデモコーナーでは、「クインス」や将来の月惑星探査のためのロボットなどが、実演を交えながら解説された。
特別講演では、吉田教授が「極限ロボティクス:『はやぶさ』から災害対応ロボットへの展開」と題して講演。「人の行けない環境で人に代わって探査する」宇宙探査ロボットの研究過程や、その技術を応用した原発事故対応ロボットの開発過程を紹介した。
吉田教授は「現場のニーズを聞くことなしに、本当に役立つイノベーションは生まれない。また、失敗を恐ればイノベーションは生まれない。失敗から学ぶ経験を積重ねる先に、夢への挑戦がある。チャレンジこそ大切だ」とイノベーションのあり方に対して言及した。
「第5回みやぎ優れMONO」、今年度は3社認定
「第5回みやぎ優れMONO」認定式のようす
このほか会場では、県内企業の優れた工業製品を応援する「みやぎ優れMONO」の認定式も行われた。本事業は、本県から数多くのものづくりヒット商品を生み出そうと、県内の自治体や経済団体等15団体が産学官一丸となり、優れた工業製品を発掘・育成・販売促進するもの。5回目となる今年度は11件の応募があり、選考の結果、3件が認定された。
このうち、亀山鉄工所(仙台市青葉区)が開発した温度成層式の蓄熱・貯湯タンク「亀山貯蔵(かめやまためぞう)」は、ボイラーで温めた水を混ぜることなくタンクに貯蔵し、上層に熱いお湯、下層に冷水と分けたまま取り出せるシステムで、高効率にボイラーを運転できる。この独自の省エネ技術で、被災地の農家や行政等と産学官連携で復興に取組む点も評価された。
このほか、プラスチック成形メーカーのアスカカンパニー東北工場(加美町)の「射出成形における超薄肉成形技術」は、従来難しかった薄さ0.3mmのプラスチック容器成形に量産レベルで成功。省資源化・コスト削減を実現した。
また、プラスチック成形メーカーのプラモール精工(富谷町)が開発した「エアトース」は、プラスチック樹脂を金型に流しこむ際に必要となる空気抜きを容易にした。もともと自社で困っていた問題改善のために製造した装置を販売する開発姿勢も評価された。
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特別講演者インタビュー
◆宇宙開発は夢と挑戦の繰り返し
/吉田和哉さん(東北大学教授)
―なぜ宇宙探査ロボットを研究しようと思ったのですか?
東北大学教授 吉田和哉さん
◇宇宙とロボット工学の出会い
アポロ宇宙船が月に着陸した1969年、8歳だった私は、世界中の人々と同じように宇宙に憧れた。宇宙の研究者になりたいと思い、実は大学も、第一希望は理学部だったが、諸事情で第二希望の工学部に入学した。
けれども大学院生の頃、宇宙とロボットがつながった。人にとって非常に過酷で危険な宇宙環境で、人に代わって仕事をするのがロボットだ。例えば、宇宙飛行士が宇宙船外で作業をする時も、ロボットアームが使われる。将来、人類が月へ火星へ未知の惑星へと活動領域を広げる時も、ロボット探査は不可欠。博士論文研究以来ずっと私が一番やりたいことは、宇宙開発を助けるロボットの研究開発だ。
「人の行けない環境で、人の代わりに作業をする」ロボット技術は、よく考えてみれば、宇宙開発だけでなく、例えば放射線量の強い原発事故現場にも応用できる。最近は、宇宙開発を柱にしつつ、応用にもチャレンジしている。
小惑星探査機「はやぶさ」開発にも関わることができた。「はやぶさ」はロボット的な能力を持ち、人に代わって小惑星に行き、岩石のサンプルを採集して地球に持ち帰る世界初のミッションを、数々の困難を乗り越えて達成した。「はやぶさ」が持ち帰った岩石サンプルで、科学者は太陽系誕生と進化の謎を紐解くことができる。
もともと宇宙の科学者になりたかったが、今はエンジニアとして、科学者の研究や発見を手助けする道具を提供している。そのような形で人類の知識に貢献できれば、もともとの夢を実現できていると思う。
―イノベーションで最も大切なことは何でしょうか?
◇失敗を恐れては、イノベーションは生まれない
最近の日本は閉塞感が漂っていると言われる。「限られた国の税金を無駄遣いできない。失敗は許されない」雰囲気が、宇宙開発に限らず国の事業全般にある。しかし失敗を恐れては、日本のイノベーションは終わってしまう。それが構造的な問題だ。
失敗を恐れずチャレンジすることが大切だ。失敗から学び、失敗の経験値を積重ねることで、リスクを見通す力、失敗に負けない力がつく。誰もしたことがないことに挑戦するのだから、失敗するのは当前。その先に夢への挑戦がある。
「はやぶさ」はその典型例で、NASAも難しくてできなかった無謀とも言えるチャレンジを、日本が先に成功させた。一生懸命な挑戦が、国民の皆さんの支持を得たと私は思っている。一方で「次からは、あんな無謀なチャレンジはすべきでない」という意見もある。国民の税金で「説明責任・結果責任」が問われると、安全志向に傾きがちだ。しかし、「確実なことを手堅く」と言えば聞こえは良いが、チャレンジして失敗を乗り越えない限り、イノベーションは生まれない。
◇現場のニーズを聞くことなしに、役立つイノベーションは生まれない
今回の原発事故直後、最初に現場に投入されたロボットは、米国製だった。「なぜ日本製ロボットは出てこない」と国民のフラストレーションは高まった。日本には、大学・研究機関の研究レベルでは、世界に負けない成果が多数ある。東北大学でも、レスキューロボットの研究開発はかなりのレベルまで進んでおり、消防・レスキューの方々との共同作業も進めているところだった。
原発事故対応ロボット「クインス」は、このような技術基盤をもとにして、東電からのさまざまなリクエストを反映してカスタマイズしていったものである。しかしながら、本当にいつでも社会に役立つロボットを実現するためには、災害や事故が起こる前から、ロボットを使った現場対応の訓練をしっかりしておかなければならないことを痛感した。
大学の研究者として反省しなければならない点は、「研究室の中で動いて、展示会場でデモし、報告書に書いて終わり」という研究開発が多いことだ。本当はその次のステップがより重要で、研究成果が社会で活用されるかどうか、この部分を強化するように、研究開発を支援するシステムを見直す必要がある。そのためには、現場でのニーズを出発点とした問題解決型の研究開発を進め、その成果を現場にフィードバックして効果を評価するというサイクルを回して行くことが重要である。
宇宙開発は、一見、ニーズを出発点とする考え方から遠い分野のように思われがちだ。しかしながら、通信や測位のような宇宙利用にしろ、科学的な探査にしろ、個々のプロジェクトでは、科学的に未解明の現象を観測するということも含めて、ニーズとしてのミッション目的が明確に定義されて、その目的を達成するために必要な技術開発が行われている。
これからのイノベーションのあり方として、現場の「もっとこんなものがほしい」、あるいは世の中を「こう変えたい」というニーズに応える技術開発こそ大学の使命であり、そこから本当の意味で、役立つイノベーションは生まれると思う。
―中高生の読者も含めた次世代へのメッセージをお願いします。
◇夢と興味を持ち続けて
宇宙開発は、一つ新しい発見をすれば、また新たな疑問が生まれる世界。常に夢と挑戦が繰り返される、夢のある分野だ。「こんなことをしたい」「こんなことできたらいいな」は、まさしく夢。夢がすべての原動力、挑戦へのモチベーションになる。今の若い人たちが大人になる頃、宇宙開発はまた新たな展開を迎える。次世代をつくる若い人たちに、ぜひ夢と興味を持ち続けてもらいたい。
【主催者インタビュー】
Q.イノベーションで最も大切なことは?
◆素直な気持ちを皆で形にできる場が大切
/東北大学理事(産学連携担当) 数井寛さん
東北大学理事(産学連携担当) 数井寛さん
イノベーションとは、新しい技術・製品・サービス。それに何が必要かと言えば、「こういうものがほしい・あれがあるといいな」という気持ちを、うまく皆で形にすることが重要。そのためには、皆が素直な気持ちで言い合える場が、とても大切だと思う。それを皆で協力し何とか実現していく。その場は、それを欲しい人だけでなく、作る人、作る人が足りない技術を持っている人、両者をつなぐ人、必要ならお金を出せる人が一緒になることで、新しいイノベーションが起こりやすくなる。
そのような意味で産学官連携とは、ものをつくる産業界と、知恵を出す学(学術界)と、お金や制度をつくれる官(行政)の人が、一緒になって取組むことで、新しいイノベーションを生むきっかけの場をつくること。人間の素直な欲求や気持ちを、どのようにして科学技術が実現するか、うまくブレイクスルーすることが重要だ。
だから、若い人たちは夢を持つことが大切。子どもの頃から「自分が大人になったら、こんな社会で、あんなものがあるといいな」と、いろいろな夢を持つ。映画を見たり本を読んだり、友だちと話をすることは、将来のイノベーションの重要なきっかけをつくると僕は思う。
◆イノベーションのベースに興味と想像力
/みやぎ工業会会長(みやぎ優れMONO発信事業実行委員長) 竹渕裕樹さん
みやぎ工業会会長(みやぎ優れMONO発信事業実行委員会委員長) 竹渕裕樹さん
イノベーションには、イマジネーション(想像力)が大切だと思う。宇宙開発でも何でも「この先に何があるのだろう?」「月はどうなっているのだろう?」と興味を持って想像すれば、「だったら、それを見てみたい。行ってみたい」という興味を実現しようと、一生懸命いろいろなことを変化させたり、開発したりする。そんなスパイラルでどんどんイマジネーションを実現する積重ねこそ、イノベーションの本質。だから常に高みを求めるし、満足してはならない。
イノベーションとは常に新しいものを生み出そうとする活動だが、そのベースにあるのは人間の興味と想像力。もしそれがなければ、今のままでもいいじゃない。でも、それじゃあ面白くないから、違う形を想像して、それに向かって実現していく。すると、今のままじゃ足りないから努力する。それがイノベーションのプロセス。
子どもたちは、とにかく想像力を高めることが大切。それは本を読むことだと、僕は思う。子どもが知的好奇心として童話や本を読み、いろいろなことを想像する。それがだんだん夢になって、それに興味を持って成長していく。
だから本当は、教えなくてもいい、本を読める能力さえ持てば。想像力がつけば、質問できる能力がつくから。「どうして?」が、本当のイノベーションの発端だから。想像力のない人はいないが、磨かなければ、全て与えられるのでは、止まってしまう。だから、自分で想像する努力をする。それが若い人たちには大切な気がしている。
◆直近の成果を求めてはならない
/みやぎ産業振興機構理事長 井口泰孝さん
みやぎ産業振興機構理事長 井口泰孝さん
地域イノベーションも組織も、直近の成果を求めてはならない。直近の成果も必要だが、もっと広い世界を見てやらなければ、本当の地域イノベーションにはならない。そして大切なのは、人づくり。失敗しても、そこから学べ。失敗することで、次のステップに行ける。そして、小さくまとまるな。成果をすぐに求めるな。これは大学の先生にも言うことだが、子どもたちにも話すし、老人クラブでもそう話す。歳を取っても、まだまだこれから希望がある。私なんぞ来週で古希(70歳)だが、まだまだ育ちたい。夢や希望をどうするかは、吉田先生のお話に尽きる。
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