新しい時代の流れの中、創立105年の宮城二女高の歴史を踏まえつつ、時代の要請に応える新しい学校づくりを進める上で求められるのが、現場でのリーダーシップだ。仙台二華の学校づくりを推し進めるのは、宮城二女高校長の久力誠さん(59)。前任の県佐沼高では教師の意識改革を図り、わずか3年で国公立大への現役合格率を倍増させた実績を持つ。学校づくりのプロセスの中で、乗り越えるべきハードルを如何に越えていくのか。そのプロセスに、仙台二華の未来が浮かび上がる。
宮城二女高の精神的な柱は、「真摯な学び」と「優しさの絆」
宮城二女高の場合、もともと置かれている状況が、仙台一高や宮城一女(宮城一高)とは違います。第一ではなく、第二。そして女子校。だからうちの学校の気質は、仙台一高生とも宮城一女生とも違っていて、「着実・堅実」ですね。
昔からそれは、「良妻賢母」という言葉で表されていました。言葉の枠の中に押し込めてしまうことは、在校生にも同窓生にとっても、失礼な話なのかもしれません。しかしながら掛け値なしに良い意味で、「良妻賢母」という言葉が僕は合っているのかなと思っています。
宮城二女高の精神的な柱として、僕はいつもふたつを挙げています。ひとつ目は、「真摯な学び」。学ぶことに一生懸命であるということです。二女高生は一生懸命な人を馬鹿にしたりせず、最初から素直に真面目に、一生懸命向かって学んでいます。
ふたつ目に、「優しさの絆」が挙げられます。二女高生は、皆非常に思いやりがあり、相手のことを考え、助け合っていると本当に感じます。他校にも、もちろんそれは当てはまるのですが、二女高生は特に、優しさの絆が深いと感じています。
宮城二女高に脈々と受け継がれる伝統
現役生だけでなく、同窓生を見ていていても、その気風を感じますね。
仙台一高生や宮城一女生とは置かれている状況の違いはあるものの、各地で地域の人々と手を取り合い、頑張っている人が非常に多いですね。本当にそういう人たちが多くって、皆あったかい。もちろん飛び抜けて優れている人もいますが、全体的には、あたたかい思いやりがある集団だと思います。
そういう意味では、激しさがないと言えるかもしれないし、一見戦いに弱いようにも見えるかもしれません。けれども、諦めずにコツコツと積み重ね、自分なりの足場をつくっていく粘り強さのようなものが宮城二女高生にはありますね。あえて泥臭くもしないし、かといって格好良くできるわけでもないのだけど、コツコツと積み重ねていって到達していく力を、宮城二女高生は持っていると思います。
そのような意味で、仙台一高や宮城一女の気風とは違います。ただ奥様方に聞くと、仙台一高生と宮城二女高生の結婚率は高い傾向にあるようで(笑)。まぁ、近くにいたせいもあるし(※1)、「青葉繁れる」(※2)じゃないけれども、若尾文子への憧れも伝統的にあるかもしれないね。
(※1)二女の校舎は、若林区連坊(仙台一高近く)に所在。
現在は連坊校舎建替に伴い、2008年度からの2年間は宮城県第二総合運動場(仙台市太白区根岸町)の仮校舎で過ごしている。
(※2)仙台を舞台にした井上ひさしの自伝的作品『青葉繁れる』 のヒロインの実在モデルが若尾文子。
井上ひさしが仙台一高に在学の時、宮城二女高の女学生だった若尾文子に憧れていた頃のことを小説にしたもの。
宮城二女高が男女共学化を受け入れた背景
そんな宮城二女高が、男女共学・中高一貫校の「仙台二華中・高」へと変わっていきます。男女共学化に対しては、他の男女別学校では、同窓会・在校生含めて、強力な反対運動が起きています。
もちろん宮城二女高においても、男女共学化に対して反対がありました。けれども男女共学化に向かって、残念だし悲しいけれども、受け入れて一歩未来へ進めましょうよ。そういう校風が歴史的にあるように思います。
宮城二女高は、明治37年の私立の東華女学校にはじまり、大正10年に官立の第二高等女学校と合併をしました。私立と官立の合併も珍しいのですが、合併の仕方も異様だったそうです。官立に私立が入ってくる形が一般的ですが、その全く逆で、私立の東華女学校校舎に、官立の第二高等女学校の人たちが入ってきた形になりました。
当時は「官尊民卑(※3)」の気風がありましたから、「私は官立の二女高よ」「何言っているの、私たちは、東北有数の東華よ」という戦いもあったのではないかと思います。そのような歴史を乗り超えてきた背景が、宮城二女高にはあります。
(※3)かんそんみんぴ:政府や官吏に関連する事業などを尊いとし、一般の民間人や民間の事業などを卑しむこと。
どの学校にも厳しい歴史はありますが、宮城二女高の場合、「良妻賢母」の校風で様々なことを受け入れていきながら、次に向かっていく強さがあると感じています。そのような校風が、男女共学化の動きにも出てきているのではないでしょうか。
そして、中高一貫という、新しい宮城の教育を担う誇りもあったでしょうし、たとえ男子生徒が入ってきても、決して今より悪くなることはないだろうという見通しがありました。
宮城三女高や仙台三高も校舎は新しくなりますが、仙台二華の新校舎は、公立学校では東北地方初となる7階建て高層校舎。最上階には300人収容の大ホールもできますし、吹き抜けのアトリウムもあります。これらもひとつの誇りへと繋がっていきます。
もともとの気風と、条件の違い。宮城二女高が、生徒も含め、男女共学化をわりとしなやかに受け入れたのには、そのような背景があったのではないでしょうか。
(小泉教頭) もちろん根っこでは、女子校であって欲しいという気持ちが同窓生には強くあると思います。男子校は校名を変更せずとも共学化できますが、女子校は「女子」の名が入るため、必ず校名変更を迫られます。同窓生にとってみれば、「わたし達の学校がなくなってしまう」という気持ちがあるのではないでしょうか。今はきっと、我慢してくださっている、諦めて受け入れてくださっているのではないかと思っています。
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