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2024年 11月 21日 (木)

元東北大学留学生のニェインさん(ミャンマー・マンダレー大学准教授)に聞く/ミャンマーと日本の大学教育の違い 取材・写真・文/大草芳江

2019年02月23日公開

自分の頭で考える教育をミャンマーでも実践したい

Nyein Wink Lwin
(ミャンマー・マンダレー大学 准教授)

1973年、ミャンマー マンダレー生まれ。1996年マグウェイ大学修了後、1997年マグウェイ大学講師。2002年より文部科学省国費外国人留学生制度により東北大学大学院理学研究科物理学専攻修士課程入学、2007年東北大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了、博士(理学)。2007年マグウェイ大学講師、2008年マンダレー大学講師、2014年パングロン大学講師、2015年マンダレー大学講師、2016年パングロン大学准教授、2017年マンダレー教育大学准教授を経て現在に至る。

 ミャンマーのマンダレー大学准教授のニェイン・ウィント・ルウィンさんは、文部科学省の国費外国人留学生制度で2002年4月に東北大学大学院理学研究科物理学専攻の原子核理論研究室に修士学生として入学し、2007年3月に東北大学で博士号(理学)を取得した元留学生です。日本学生支援機構の「帰国外国人留学生短期研究制度」を利用して2018年10月からの3ヶ月間、同研究室において短期研究を行っているニェインさんが日本語でのインタビューに応じてくれました。ミャンマーと日本、二国の大学で教育を受けたニェインさんに、留学当時のことや日本とミャンマーの大学教育の違いなどについて聞きました。

周囲に恵まれ日本での留学生活をスタート

― ニェインさんが東北大学に留学しようと思った理由は何ですか?

 私は、物理のティーチングアシスタント(パーマネント職)として約3年間、ミャンマーの大学で勤務した後、日本の文部科学省の国費外国人留学生の試験を受けて合格しました。その年にミャンマーからは約20人が受験して2人が合格し、私は東北大学へ、もう一人は大阪大学へ留学しました。実は当時、合格して志望大学を聞かれた時に日本の大学のことがよくわかりませんでした。当時はインターネットもなかったので、大学の図書館で調べたり、日本に留学した2人の先輩たちから話を聞いたりして調べました。そして、東北大学大学院理学研究科物理学専攻原子核理論研究室の(萩野浩一先生の前任の)滝川昇先生が受け入れてくださり、東北大学への進学が決まりました。

― これまで縁のなかった日本に来て、はじめのうちはご苦労も多かったのでは?


村田城跡(宮城県)にて研究室のお花見を行った時の写真(2006年)

 ミャンマーにいた間に外国語学校で日常会話程度の日本語を約3ヶ月勉強してから2001年10月に来日しました。それから半年間、日本語を勉強して、2002年4月に東北大学に入学し、マスター(修士課程)の学生として研究を始めました。最初のうちは授業もあまりよくわかりませんでしたが、東北大学が留学生のためにチューターをつけて学習や生活等をサポートしてくれる制度があり、古田さんという一学年上の先輩がいろいろなことを教えてくれました。研究室の先輩たちからもいろいろ教えてもらいながら勉強しました。周囲の人はとても大切です。周囲の人に恵まれて、私は幸運でした。


相対論的平均場理論を使って原子核の変形について研究

― 東北大学では、どのような研究をしましたか?

 マスター(修士課程)からドクター(博士課程)まで、原子核を構成する陽子と中性子が原子核の中でお互いどのように分布しているかを、相対論的平均場理論を使って調べる研究をしました。原子核は変形することがあり、変形した原子核は多く発見されています。普通の原子核は、変形した時に陽子と中性子が同じように変形することが知られていますが、中性子が過剰にある原子核(中性子過剰核)では、陽子と中性子は同じように変形するのか、それとも、中性子がたくさんあるので独立に変形するかを調べたいと思って研究しました。

― 研究では、どのような成果を挙げましたか?


 上の図で、βは原子核の変形の具合を表しており、下付きのn(neutron)は中性子で、下付きのp(proton)は陽子を表しています。陽子の変形の仕方と中性子の変形の仕方が、右側のグラフの対角線上に並んでいれば、同じように変形していることを意味しています。研究の結果、対角線上から割とずれていない結果が得られました。つまり、陽子と中性子は少しだけ違うように変形しますが、想定していたより陽子と中性子のずれは大きくなかったことがわかりました。


日本とミャンマーの大学教育の違い

― 日本とミャンマーで違いを感じた場面はありましたか?

 日本の大学では、講義も自分で選び、研究テーマも自分で決めることができます。現在は仕組みが変わっていますが、当時のミャンマーの大学院は、2年間決められた講義を受けて、研究ではなく試験によってマスターを取得する仕組みでした。私は1998年にミャンマーの大学院に進学し、2000年にマスターを取得しましたが、決められた講義に出席して暗記と試験を頑張る感じでした。当時のミャンマーでは、自分では選べなかった、ということです。ですから当時の私は、「自分は何が好きか」ということは一切考えておらず、試験をうまくパスすることしか考えていませんでした。しかし、講義を頑張って受けて暗記し試験をパスしても、あまり頭に残りませんでした。また、どの科目も少しずつしか学ばないので専門的に深めることもできませんでした。2016年からミャンマーも新システムに変わり、自分のやりたい研究をやれるようになりました。ミャンマーは現在、それらの問題を直そうとしているところなのです。

 さらにその昔は、ミャンマーでも自分のやりたいことを研究していた時代がありました。ですから皆が皆そうとは言えませんが、ミャンマーの大学教員の多くは、講義中心、暗記・試験重視の教育システムを経て教員になったため、能動的な学びの場を学生に提供することが難しいのではないかと思います。また、昔はヤンゴン大学とマンダレー大学しかありませんでしたが、現在は約130まで大学が増え、学士課程までの単科カレッジ(Degree Colledge)が修士課程以上を持つ大学(University)へアップグレードしました。ですから大学院生を指導できる大学教員の数も足りないのです。

 さらに現在、マンダレー大学とヤンゴン大学には博士課程までできましたが、大学の教員は2,3年ごとに国内の他大学へ異動しなければならないことも問題です。マスターやドクターの学生と教員はいつもバラバラになってしまい、学生たちは先生がいなくて困っています。先生が遠い地方の大学へ行ってしまうと、学生は本当に大変です。つい最近になって、(政府が教員人事を管理するのではなく)大学独自に教員採用が可能になり始めたような動きが見られます。ミャンマーでも、先生と学生が一緒にいられる仕組みになってほしいです。

― 大学入試の仕組みも、ミャンマーと日本では異なりますか?

 日本では、東北大学に入りたい時は東北大学の試験を受け、東京大学に入りたい時は東京大学の試験を受ける仕組みです。一方でミャンマーでは、高校最終学年に全員同じ卒業試験を1回だけ受け、各試験科目の得点によって応募できる大学は決まっており、得点の高い順に難易度の高い大学に振り分けられる仕組みです。ですから日本のように、自分の行きたい大学を選ぶことはできません。

― ミャンマーで大学へ進学する割合はどれくらいですか?

 とても少ないです。高校卒業試験を兼ねた全国一斉の大学入試試験の合格率は毎年3割程度(残り7割程度は高校を卒業できない)ということは、データからもわかっています。ミャンマーには全体で135もの民族がいますが、生活のために学校へ行けない人も多いと思います。


主体的な学びをミャンマーでも実践したい

― 今後の抱負について教えていただけますか?

 私は大学教員ですから、自分が今やっている仕事を、昔も頑張っていましたけど(笑)、もっと頑張りたいです。ミャンマーの講義では、教員は細かなことを一方向に教えて、学生は自分の頭で考える必要はなく、細かなことを暗記して試験に臨みます。一方で日本では、毎週セミナーなどで、学生自ら勉強したことを説明したり、自分の頭で頑張って考えます。ミャンマーでも、学生も自分で頑張って考えてほしいですね。おそらく最初のうちは学生にとっても難しいことですが、「自分で頑張って考えて」と言えば、学生は頑張りますよ。特にヤンゴン大学やマンダレー大学は試験で高得点を取った学生しか入れないようになっており、高得点の人は医学部や工学部も選べるのに、「物理を学びたい」と自ら選んで来る人もいますので、教える教員はもっと頑張らなければいけません。


― ニェインさん、ありがとうございました。

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