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2016年 12月 11日 (日)

仙台市教育委員会の新しい教育の取組みについて聞く「たくましく生きる力」育成プログラム検討会議 取材・写真・文/大草芳江

2011年02月18日公開

 変化の激しい社会をたくましく生き抜く力を、子どもたちに身に付けてもらおうと、仙台市教育委員会は「たくましく生きる力」を養う学習プログラムの開発を2009年度から進めている。11年度にモデル校で試行し、12年度に市立小中学校で導入する方針。同プログラム開発の意図や目指すものなどについて、本プロジェクト責任者の菅野茂さん(仙台市教育局 学校教育部長)と、担当者の菅原弘一さん(仙台市教育局 学校教育部 確かな学力育成室 指導主事)に聞いた。

「たくましく生きる力」育成プログラム 責任者の菅野茂さん(仙台市教育局 学校教育部長)に聞く

変化の激しい社会を生き抜く力を育成したい

―そもそも「たくましく生きる力」育成プログラムが生まれたきっかけとは何ですか?

 そもそもの発端は、平成21年につくった「確かな学力育成プラン」でした。これまでのテストで示すような学力ではなく、将来子どもたちが社会に出た時、非常に変化の激しい環境の中で生き抜いていけるような力、社会で自立できるような力に結びつく学力を義務教育の中で育みたい。そのようなことで規定した仙台市の学力の考え方に基づくものです。

―具体的に「確かな学力」とは何を指していますか?

 具体的に「確かな学力」とは、「基礎的な知識」「応用力」「学習意欲」の3つからなります。このうち特に「応用力」について、何とかしたい、というのがきっかけだったわけです。

―ここで言う「応用力」とは何を意味していますか?

 ここで言う「応用力」とは、単に学校のテストで難しい問題を解くといった意味ではなく、実際の社会の中で問題が目の前にあらわれた時、どのように解決していけば良いかを自分で見つけ、困難を乗り越えていくような力を指しています。

 それは決して教科書や参考書等でパターンとして覚えられるものではなく、自分が一定の状況の下で情報を取捨選択し、適切な解決策を予測して判断するといったようなもの。つまり一つの力というより、複合したいろいろな力を総称して、「応用力」と考えています。

 さらに、検討していくなかで、そういう学力的なものだけではなく、そういう力を実践に結びつけるような意欲・態度や人間的な強さといったものも併せて「たくましく生きる力」ととらえていくべきだという結論に至りました。そうやって気がついてみると、これは、「仙台自分づくり教育」で身に付けることをめざすものと一致していることに気がつきました。


「たくましく生きる力」に結びつく日常的な社会的体験が減っている

―ここで言う「たくましく生きる力」とは教科書等で身につけられないものなのですか?

 これまでも学校の中では先生方が、様々な問題の解決方法をただ暗記するのではなく、考えて答えを導き出すプロセスを大事にして指導してきたと思います。しかしながらその一方で、社会が変化し、受け手の側の子どもたちの日常的な社会体験が減っていることが、ここで言う「たくましく生きる力」がなかなか育たないことに結びついている可能性が高いと考えています。

 例えば、私が小さな頃は、地域の中にガキ大将がいて、世代の異なる子ども集団がありました。その中で小さな子どもは「ままこ」と呼ばれ、お兄ちゃんたちの遊びになかなか混ぜてもらえませんでした。

 ですから昔は、「お兄ちゃんたちのようになりたい」あるいは「仲間外れにされたくない」一心で、自分なりに工夫して頑張らざるを得ない環境が当たり前のようにありました。しかしながら今の子どもたちは、少子化の影響や、地域内で人間関係が希薄化する中、そのような経験をする機会が減っています。

 また、昔は身近に自然があり、自然の中で遊ぶ道具を自分でつくらなければ、遊ぶものがありませんでした。不自由な中で自分が考え工夫をしなければ、何かができない環境にあったのです。

 すると当然、失敗もするわけですね。例えば、近所の竹林で竹を切り出すのに手を怪我してしまった。では怪我をしないためにはどうすれば良いだろう。このように子どもなりに自分の工夫をしなければ、昔は毎日が楽しく過ごせなかったわけです。

 ところが、そのような必然性のあった時代と比べると、今の子どもたちにはあまりにも周りに用意されたものがあって、苦労しようにも苦労できない。やはり体験の機会が少なくなっているわけですね。

 すると必然的に、異世代間のコミュニケーション、あるいは自分が何もないところからつくりだしていくプロセスを経験する機会が減ってしまいます。その結果、そもそも失敗もあまりしない。

 このような日常的な社会体験が減っていることが、一方では、能力的な部分が育たないことに結びついている可能性が高いと考えています。


大人たちから子どもたちへ伝えるべき知恵とは何だろう

―それはつまり、減少した社会体験の機会を増やすという意味ですか?

 体験の量を埋めることは、とても難しいことだと思います。そもそも日常の過ごし方が何十年前とは違います。いろいろな体験ができる場を設けることは必要だと思いますが、同じような種類の体験をするとなれば、現実にはとても学校の時間内では足りません。

 むしろ今回のプログラムの意味は、既に社会に出た我々大人たちが、「大人になって社会に出た時、必要となる力を、ぜひ子どもたちにも知ってもらいたい」という考え方からさかのぼり、そのようなことの基礎となる「知恵や態度」を育成する点にあります。

 もちろん一回の授業で即それが身につくことは当然無理です。しかし、そのような授業をきっかけに、子どもたちに「あぁ、こういうことって大事なんだな」と感じてもらい、日常的にそのような知恵・態度を試してもらうことで、だんだん身に付いていくようなイメージですね。

―「大人になって社会に出た時、必要となる力」とは、どのような立場の大人から見た力ですか?

 このプログラムをつくるに当たっては、様々な分野の大人へのインタビュー調査から、社会で何が役に立っているかを聞いた結果を題材にしています。

 そして、そもそもこの「たくましく生きる力」育成プログラム検討委員会そのものが、学校の先生だけでなく、企業の方や、スクールカウンセラーなどをサポートしていただいている心理学の先生方など、様々な分野の方で構成されています。

 検討会では「子どもたちに伝えるべき知恵とは何だろう?」から議論していただき、それに基づいて、そのようなものを伝えていけるように、ということで作業を進めています。

 つまり、今の子どもたちが実際の社会に出た時、やはり身に付けておくべき力だと我々が心から思うものを、子供達に贈ることができればという思いでやっております。


とにかく自分のことを大切に感じて欲しい

―このプログラムを学校教育の中でやる必要があると考えた理由は何ですか?

 「仙台市教育振興基本計画」をつくる前段階として、教育長が各学校に伺い、子どもたちの現状や、子どもたちについて心配なことなど、いろいろお聞きしました。校長先生や教頭先生だけでなく、都合のつく先生方や技師さん、学校に関わる方々に、子どもたちの現状を聞いたのです。

 すると、「自分の意見を言えない」「配慮のない言葉で相手を傷つけてしまう」「失敗すると過度に落ち込んでしまう」といった心配な子どもたちの姿が、一つの学校だけでなく、ごく一般的に聞かれました。

 あるいは、例えば不登校やいじめ等の問題もあります。もちろん各学校も頑張ってくれてはいますが、やはり全くないわけではないのです。では、そのようなことが起こる原因は一体何かを考えていくと、自己肯定感の低さが大きな課題です。

 そして、やはりこのままではいけないだろう、となったのです。我々大人としては子どもたちに対して、二度とない貴重な小中学校の時代が、わくわくして輝かしい時期であって欲しい。時にはつらいことがあっても、立ち上がり笑顔で前進するような「たくましさ」を育てたいというのが何よりの願いなのです。

 そのためには、子どもたちも毎日が楽しいことばかりではないと思いますが、子どもの頃から、自分が生まれたことの喜びや友達や新しい世界との出会いの楽しさのほうを見て、自己肯定感を高めて欲しいと願います。

 このプログラムは「社会に出てから役立つ力を」というのが大きな目的ではあるのですが、今の小中学生という場面においては、とにかく自分のことを大切に感じて欲しい、ということが一番最初です。やはり、一度しかない人生を楽しんで意欲的に生きて欲しいのです。

 そして、実は自分を大切にすることは、人を大切することとつながっていくことなのです。それによって前向きな力も生まれます。それがこのプログラムの中で、根底となる実は大変大きなテーマなのです。

 もちろん、それをどうやって子どもたちに気づいてもらえるかは、なかなか難しいことだと思います。けれども我々としては、ぜひそこにもチャレンジしたいと考えています。


一つ一つの事柄・人間関係を大切にして欲しい

―最後に、今までのお話を踏まえて、中学生へメッセージをお願いします。

 一つ一つの事柄や人との出会いを大切にして欲しい。自分の発する言葉も一度自分で大切に考えてから発して欲しいと願います。

 よく子どもたちはテレビ番組のお笑いのように、何かを言われればすぐに返す、といったテンポで話をしている人が多いように思えます。しかし、言葉は人に対して大きな影響を与えることを意識して欲しい。自分が発する言葉で傷つく人もいるし、逆に、勇気付けられる言葉もあります。

 何気なく投げかけた言葉で相手を傷つけるといった話はよくあり、それを言い訳にすることもありますが、実は「何気なく」というのが問題ではないかと思うのです。やはり一つ一つの事柄、目の前の相手を大切にし、「このようなことをやったらどうなるかな」とか「どんな良いことがつくれるかな」といったことを、自分の中で一度考えてから行動することが大切だと思います。

 実際に大人の社会でも、「このようなことをやったら、どうなるかな」と工夫をして、他人とは違う自分なりのアイディアをいろいろな人が持ち寄ることで、素晴らしいものが生み出されていくことが必要です。それを大人になった時、あるいは就職してから身に付けようと思っても、それは大変難しいことです。

 ですから日頃から、そして子どもの頃から、一つ一つの事柄、人間関係を大事にして欲しい。同様に言葉も、人に思いやりのある優しい言葉で話していくことによって、自分の友達や家族の反応も違ってくることを知って欲しいのです。


社会に出れば自分一人

 大人になると、どういった場面でどのような行動を自分が選択するか、その一つ一つが、自分の将来に影響します。つまり、自分で自分の道を選択していくことが、社会人としては基本的で大事なことなのです。

 その選択をするためには当然選択が引き起こす将来を考えなければいけないし、そのためには当然広い視野でものを見なければいけない。そのようなことを身に付けてもらいたい、ということです。

 また、人間関係では、人を大切にしていくから人が味方になっていく。逆に言えば、人を大切にしていくことを積み重ねることができなければ、社会の中で自分がやりたいことをは実現することが難しいのが実社会です。

 子どものうちは、先生や友達も既にセットされた学校という場面の中にいますが、社会に出れば自分一人なのです。皆さん一人ひとりは宝石の原石のような存在ですが、磨かなければただの石で終わってしまいます。自分一人、光り輝く前の原石は、言ってみれば道端の石のようなもの、そんな存在を、他の人や社会が取り上げてくれるかどうかは、まさに人間性やコミュニケーションの質を皆さん自身が磨くかどうかに関わってくるのです。


黙って与えられる社会が将来あるわけではない

 私は人の親ですし、子どもたちに将来とにかく幸せを勝ち取って欲しいと願います。「勝ち取る」という言葉の中には、黙って与えられる社会が将来あるわけではない、という意味が含まれています。

 そのためには自分の中で育てなければ手に入らないものもある、ということも、逆にわかってほしいのです。中学生ならまだ遅くはありません。特にこれは中学生に言いたいことですね。

 「自分はどうしたい」と自分で決めるためには、「これをやったらどうなるかな」「どうやったらうまくいくかな」と考えるのが必然ですが、そのプロセスを省略しているとすれば、それは非常に将来が心配です。なぜならば将来の社会は、与えられる社会ではないからです。

 逆に言えば、自分で何かをつくり出していかなければ、収入を得ることも、職業を得ることも、夢を勝ち取ることも、できないかもしれません。将来はそのような厳しい社会だと考えたほうが良いでしょう。

 ですから、単に「勉強をする」というだけではなく、生き方も中学校の頃から学んで欲しいのです。実は「勉強をする」ことも、生き方を学ぶことの一つなのです。


「なぜそうするのか」の根本を伝えなければならない

 よって、今回のプログラムに対する私のこだわりは、子どもたちが「自ら選ぶ」ことを重視したい。よくあるようなスキルトレーニングも有効とは思いますが、この「たくましく生きる力」育成プログラムのこだわりとしては、理由も言わず、頭ごなしに「このような時は、こうしなければ駄目だよ」といった教え方はしたくないですね。

 むしろ「なぜ駄目なのか?」「なぜこの時はこうする方が良いのか?」。その根本のところを子どもたちに伝えなければなりません。そして「なぜそうするのか」を子どもたちが考え理解した上で、そうするのもそうしないのも、最終的には子どもが自分の意思で選択し、責任も自分で取ることを大切にしたいと考えています。

 逆に、今の子どもたちは「こうしたら良いよ」と言われれば素直に言うことを聞き、そして実際にできてしまうのです。けれども、そのようなことを繰り返し、自分で決めることをしなければ、将来誰かから何かを言ってもらわなければ何もできない、という癖を自分につけてしまう恐れがあります。

 すなわち、一つ一つを大切にするということは、自分の気持ちをきちんと確かめて、自分はこうするんだと決めて行動する、という「間(ま)」を、自分の中で持って欲しいという意味なのです。

 この「たくましく生きる力」育成プログラムでは、そのようなあり方を大事にしたいと考えています。

―菅野さん、本日はありがとうございました。


「たくましく生きる力」育成プログラム 担当者の菅原弘一さん(仙台市教育局 学校教育部 確かな学力育成室 指導主事)に聞く

今の子どもたちにとって本当に必要な力とは一体何だろう?

―そもそもこの「たくましく生きる力」育成プログラムが生まれた理由は何ですか?

 そもそも最初は、「たくましく生きる力」ではなく、「応用力」育成プログラムという名前でした。ここで言う「応用力」とは、単に知識を獲得するだけでなく、獲得した知識をいろいろな場面で活用したり実践したりする、非常に幅広い意味を指しています。

 この「応用力」育成を考える過程で、僕らが大事にしたことがあります。それは、「教科はこうあらねばならない」「学校教育はこうあらねばならない」といった既成の枠を一度取り払って考えるということです。

 そして、今の子どもたちの実際の姿を見て、そもそも今の子どもたちにとって本当に必要な力とは何だろう?子どもたちが大人になった姿を想像しながら、大人になった時に本当に必要となる力とは何だろう?ということを考えるところから始めよう、ということでした。

 その力とは、当然その段階では漠然としていたのですが、「単に貯めておくだけの知識ではなくて、社会に出てからもきちんと使える力が必要だろう」となりました。

 けれども、結局そのような力って、学校の先生や市役所の人といった狭い範囲で考えても、実際の社会でどうなのかはよくわからないのではないのか?ということになりました。

 そこで、いろいろな分野の人たちに集まってもらい、検討会を立ち上げ、そもそもどんな力が必要か?を話し合うところから始めました。


今の子どもたちの様子を見ていて感じる問題意識

―なぜ規制の枠を払って考える必要があったのですか?

 僕自身も学校現場から市役所に来て4年目になるので、実感という意味では少し遠のいているところもあるのですが、やはり今の子どもたちの様子を見ていたり、あるいはいろいろな先生方から話を聞いてみたりすると、心配な子どもたちの姿があるのです。

 もちろん今ある教科の中でも、応用的な力を育むために、自分が考えたり判断したり表現したりすることは授業の中でも行われていますし、教科書等もそのような学びができるような構成になっています。けれども、やはり子どもたちの様子を見ていると、ある問題を感じることがあるのです。

 これは一例でしかないと思うのですが、例えば社会科で「日本の武士が元の兵士と戦った時、どうして日本の武士は苦戦したのだろう」という課題があったとします。本来であれば、その課題に対していろいろな資料を探りながら考える過程がとても大事です。

 けれども、考える過程を抜きにして,その先にある「集団戦術と火薬兵器に苦しめられた」という答えを覚えておけばテストでは点数が取れるし、成績も良くなるのでその方が良いことだといったような傾向が、どうしてもあるのかなと感じています。受験を控えていたりするとなおさらです。

 つまり、答えを知識として記憶し貯め込んでいくことが大事なのではなく、課題があればそれにアプローチする過程で、いろいろなことを考えたり自分で判断したりすることが大事ですし、その道筋はたくさんあるはずです。しかし、今の子どもたちを見ていると、一つの答えにできるだけ短く辿り着くことを求めているような,そんな傾向を感じるのです。

 でも、そのような勉強の仕方をしていても、実際に大人になって社会に出た時、本当にそれは使えるものなのだろうか?という問題意識がありました。

 あるいは、コミュニケーションの問題もそうですね。どうも子どもたちの様子を見ていると、何となく息苦しいと言うか、「皆と同じでなければ駄目なんだ」といった印象を受けるんです。

 なかなか自分の意見や個性を素直に出さずに、互いにけん制し合って周りの様子を見て、結局何もしないで我慢して,何となくその日が過ぎ去れば良いといったところがあったりしないかなぁと感じます。

 けれども大人になれば、もちろん協調することも大事ですが、仮に皆同じで個性が発揮されなければ、あまり世の中では重宝がられません。

 特にこれからの世の中は、言われたことをやっていれば生きていける時代ではなく、その人なりの良さや個性を発揮していかなければ、なかなか社会の中でも生き難い時代ではないかと思うのです。

 それなのに子どもたちは皆,何となくお互いにけん制しあって、個性を出せずに、学校生活を送っているような印象を受けるのです。

 ただ、そのようなことは薄々感じていたことで、確信していたわけではないんですね。ですから、本当のところはどうなのだろう?と知りたいという気持ちもありました。

 そのため「たくましく生きる力」育成プログラム検討会議では、いろいろな人に集まってもらい、子どもたちの現状や、社会に出た時に本当に必要となる力は何だろう?というところを話し合うところから進めていった、というわけなのです。


「見方・考え方」「人間関係形成力」「心と態度」が備わっていることが大事

―具体的に、子ども達に必要な力をどのように捉えたのですか?

 必要とされる力は、それはもちろんお互いに関連し合うのですが、大きく三つの塊に分けられています。「応用力」からスタートしたこともあり、一番最初に核として考えたのは、「ものの見方・考え方」をきちんと持てること。これをすごく大事に考えました。

 けれども、このような「ものの見方・考え方」を、それこそスキルとして身につけたとしても、実際にそれを自ら前向きに活用してこうという、「心や態度」といった人間としての土台となる部分を育まなければ、それらは発揮されないだろう、と考えました。そこで、そのような自分自身と向き合う「心や態度」のようなものも、土台となる部分として大事にしようと考えました。

 さらに、人は一人で生きていくわけではありません。また自分と向き合う時も、自分の頭の中だけではなく他人を鏡にしながら、人との関係の中で自分自身を見つめ直し、あるいはものの見方・考え方も、人とコミュニケーションを図ることで見方が広がったり考え方が深まったりします。ですから三つ目の塊としては、「人間関係」がしっかりとつくれるということが挙げられます。

 つまり、当たり前と言えば当たり前の話なのですが、「見方・考え方」「心と態度」「人間関係」、この3つがきちんと備わっていることが大事だと考えています。


「見方・考え方」「人間関係」「心や態度」をストレートに教える

―それらの力は、既存の学習指導要領とどのような点が異なるのでしょうか?

 現在の学習指導要領の中には、この3つの塊が、いろいろなところに散りばめられていると思います。つまり、今話したようなことが、現在の指導の中で取り組んでいないわけではなく、いろいろな場面で行われています。

 例えば、学校行事や特別活動等を通して「人間関係」をうまくつくれるように育てています。「見方・考え方」も、教科の指導の中で,当然育てることになっています。また「心や態度」も、心の成長については道徳の時間,保健を始め,いろいろなところで勉強するようになっていますし,日常生活の様々な場面と関連付けて指導しています。教科の勉強を例にすると、「見方・考え方」そのものももちろん勉強するし、一つの題材を勉強する過程で身に付けるようにもなってます。

 けれども、教科の学習には,「こういうことを知識として身に付ける」とか「こういうことを考えられるようにする」といった教科としての目標があり、どちらかと言うと、例えば社会科なら社会科の内容にどうしても引きずられるところがあるのです。また先生によっても、扱い方が少しずつ違ってきます。

 つまり、ストレートに「たくましく生きる力」で言う力が、教科においても目標になっていれば問題はないのですが、どちらかと言うと、教科としての目標に向かって進み、その裏側に「見方・考え方」がある、といった位置関係なのです。

 あるいは「人間関係形成力」の場合、特別活動では割とストレートに取り扱うのですが、行事の中で「人間関係形成力」を育てるとなると、行事としての成功がメインの柱としてあって、その裏側に行事を通して「人間関係形成力」を育てていこうといった位置関係になっているのです。

 要するに、教科の目標や内容と絡めながら指導していったものから、なかなかそれだけを取り出して教えることはなかったのですよね。ですから「たくましく生きる力」の場合は、何かをとおして「見方・考え方」「人間関係」「心や態度」を育むといったやり方ではなく、それをゴールにしてストレートに教えるという風に考えているのです。

 逆に言うと、これも何か調査をして確証を得てるわけではないのですが、今の子どもたちの姿を見ていると、そういうところを正面切って教えてあげなければ、それをわからないまま育っているのではないかということが感じられるのです。そして、いろいろな会議に集まってくださる方々の話を聞くと、「やっぱりそうなのかな」と裏付けられるところがあります。


子どもたちが社会に出て自立して生きていけることを重視

―その変化の背景には、どのようなことが考えられますか?

 昔で言えば、大家族だったり、地域の中の異年齢集団等と遊んだりする中で、おじいちゃんやおばあちゃん、地域の年長者、先輩後輩から、学校以外の部分でも自然に学んだことがあったのかしれません。

 しかしながら、だんだんと家族や地域の構成が変化していることもあり、従来は地域や家庭の中で自然に教えられていたことを、学校の中で取り立てて教えてあげなければ、やはり身に付けられないこともあるのかなと考えています。つまり、そういったものを学校の中でもフォローしていった方が良いのではないか、というのが今回のプログラムの内容なのです。

 あるいは、そもそも今ある教科の中では扱わないもの、教科書には正面切って書かれていないものでも、「これは子ども達に教えたほうが良いだろう」「子ども達に必要な知恵だろう」というものは、この中にどんどん取り入れたいと思っています。

 とにかく仙台市が一番大事にしていることは、子どもたちが社会に出て、しっかりと自立して生きていける、ということです。そこで、仙台版「生き方教育」とも言える「自分づくり教育」を進めているわけですが、やはり同じ点を一番大事にしています。

 ですから、社会で自立して生きていくために、小中学生の段階から、きちんと身につけておいた方が良いものは、たとえ教科書に載っていないものでも身につけさせてあげたい。あるいは教科書に載っているものかもしれないけど、少し薄まっているもので大事なものは、取り立てて教えてあげたい。そういうことです。


「たくましく生きる力」育成プロジェクトは「自分づくり教育」につながっていく

―本プログラムが現場で浸透していくことが第一ですが、そのために必要なことは何だと考えますか?

 現場で浸透していくために重要なことは、現場にとって必要なもの・有用だと感じられるものになっているかどうかだと思います。先ほど「自分づくり教育」の話をしましたが、「自分づくり教育」とは「生き方教育」ですので、小学校の段階から人として社会できちんと自立できるための素地を身に付けていくことを目指しています。つまり、この「たくましく生きる力」とは、まさしく「自分づくり教育」が目指すものなのです。

 このような理念を教育委員会としては持っているのですが、「自分づくり教育」を振り返った時の課題としては、どうしても中学2年生における職場体験の部分がとにかく目立っているため、何となく「職場体験」=「自分づくり教育」のようになっていることが挙げられます。特に小学校の現場では職場体験が一般的でなく、「それは中学校でやるものだ」と思われがちです。そのため、特に職場体験以外の「自分づくり教育」として実際に何をすれば良いのかが、実は、学校の現場の先生にもあまり見えていない状況にあります。

 そもそも「自分づくり教育」には、特に小学校の段階であれば、人の生き方のようなものをもっと幅広く勉強してもらいたいという願いがあります。そのような意味で、この「たくましく生きる力」育成のプログラムの中にあるような学習プログラムを実施してもらうことが、「自分づくり教育」にもつながっていくことは、現場の先生方に伝えていきたいことです。

 例えば小学校の段階で「たくましく生きる力」育成プログラムをやることで、それが中学校でやるものにもつながるし、総合的な学習の時間や教科の学習、学校の行事などでも、その活動内容がすごく豊かになるものですよ、ということを伝えていきたいですね。

 そしてもちろん、そうなるようなプログラムに仕上げていきたいと考えています。実際に、市内の学校でも似たようなプログラムを既に実施している学校はあり、実施していた時期とそうでない時期では、子どもたちの様子は全然違うといった報告も聞いています。


考え方の部分から現場の先生に理解してもらうことが一番大事

 つまり、単にプログラムとして押し付けられた感じになるのではなく、「このプログラムをやると、自分が受け持っている子どもたちのこれからにとって、確かに意味のあるものになるよな」と現場の先生に思ってもらえるよう、やり方の部分だけでなく、考え方の部分から現場の先生に理解してもらうことが、一番大事になると思います。

 逆に言えば、やり方はいろいろあると思いますし、こちらからプログラムとして示さなくとも、既に取り掛かっている先生方もいるでしょう。けれども、あえてプログラムとして学校に示すことで、より多くの先生にそのようなことに気づいて欲しい、という願いも我々にはあるのです。

 なぜならば同じ仙台市内であっても、子どもたちの様子は学校によって全然違うでしょうし、その学校の実態や先生の「こうしたい」という願いに合った形でやらなければ、意味あるものにはならないと考えるためです。

 そもそもこのプログラムは、「1番から10番のプログラムを定期的にやれば、すべての人たちが幸せになりますよ」といったものではありません。こちらとしては「このような考え方でつくってあるので、こういった流れでやっていくと良いのではないでしょうか」と基本的な示し方はできますが、「必ずこの通りにやってください」という示し方はしません。

 逆に言えば、自分の学校やクラスの子どもたちの実態を先生たちがきちんと見てアレンジすることが重要になります。つまり、やり方も重要ですが、やり方だけでなく考え方の部分をきちんと現場の先生に理解してもらうことが大事と考えています。

 もしかすると結果的には「今までやっていたことと、あまり変わらないんじゃないの?」となることもあるかもしれません。けれども、今まで何となく「必要かな」と思ってやっていたものが、「これは大事なプログラムなんだ」と、その大切さを改めて自覚できることが大切だと考えているのです。

 結果的には、今までやっていない新たなことをどんどん追加して始めましょうというよりも、今までやってきたものを「子どもたちの社会的な自立に必要なもの」という視点で見直し、そのような意識を持ってやりましょう、というものの方が多いかもしれません。

 要するに、「大事なことはここなんだ」ということを、ちゃんと現場の先生が意識してやっていく。しかも、ごく一部の先生がそうするのではなく、学校の先生皆でそのような意識を共通に持ってやっていくことが、これからはとても大事だと思うのです。

 そのきっかけとして、このプログラムを示すことができれば良いなと思います。反対にこれが押し付けのものと思われたら、そもそもの意味がなくなってしまうでしょう。


はい、必要であればやって良いのですよ、子ども達のために

―本プログラムのこれからの抱負は何ですか?

 とは言え、やっぱり授業って、そう簡単なものではないんですよ。先ほど「やり方よりも考え方」と話しましたが、実際に授業をするとなると、その進め方がわからなければ、やり様がないですよね。

 また,現場で浸透していくためには、「大事だ」と現場の先生方に思ってもらうと同時に、「おもしろそうだな、やってみたい」と思えるような勉強じゃなければ、やろうと思わないと思うのです。これは子どもの勉強もそうだと思います。

 そのような意味で、現場の先生方が「こういう授業ならやってみたいな」と思えるような魅力的な授業プログラムをつくりたいと思っているのです。「これって社会だか理科だかよくわからないけれども、でもこういう勉強だったらやってみたいな」と思える、タイトルや内容のプログラムをどんどんつくっていきたいですね。

 むしろ先生方が見た時に「え?!これって何の授業でやればよいの?」と思えるくらいのほうが、実は「たくましく生きる力」の授業としてはおもしろいのかもしれません。そうじゃなかったら、それは「この教科の授業で既にやっていました」という話になりますからね。

 つまり、「これって大切だけど、でも国語でも社会でもないし、どうしたら良いのかわからない。でもおもしろそうだな」と先生方が思うものを、「はい、必要であればやって良いのですよ、子ども達のために」というようなプログラムをつくりたいのです。

 そして、先生方がそれをきっかけに、自分でもどんどんそういう授業をつくれたら良いですね。すると、子どもたちはどんどん楽しくなっていくのではないかな、と思います。


失敗や人と違っていることを恐れずに、どんどんチャレンジして欲しい

―最後に、今までのお話を踏まえて、中学生へメッセージをお願いします。

 そもそも人は皆、多様な考え方を持っているものです。ですから、もちろん協調性は大事ですが,皆と違っていることをあまり心配をしないで、自分自身に自信を持って欲しいと願っています。そして失敗を恐れずに、どんどんチャレンジして欲しいです。

 自分を信じてやってみたいと思ったことはやってみたほうが良いのです。答えはいつも一つではありません。いろいろな答えを探り当てながら,自分の進む道を切り開いていってください。私も,そんな思いを胸に,この学習プログラムの開発に当たっているのです。

―菅原さん、本日はありがとうございました。


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取材先: 仙台市教育委員会      (タグ: ,

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