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2017年 06月 27日 (火)

地域の産業界&教育界で人づくり 「クラフトマン21」成果発表会

2010年1月4日公開

先月24日、仙台市青葉区のアエルで開かれた「クラフトマン21」事業の成果報告会のようす

 地域の産業界と工業高校が連携し、将来の地域産業を担うものづくり人材を育てる国の「クラフトマン21」事業の成果報告会が先月24日、仙台市青葉区のアエルで開かれ、高校生や企業関係者ら約270人が参加した。

 同事業は、工業高校への企業技術者の講師派遣や生徒らの企業実習など、実践的なものづくり人材育成の取組みを国が支援するもので、2007年から3ヵ年の計画で実施。費用は県教委と仙台市教委が文部科学省から、地元企業でつくる「みやぎ工業会」が経済産業省からの委託金でまかなっている。

 同事業の最終年度となる今回の報告会では、モデル校の指定を受けた宮城工、仙台工、石巻工、気仙沼向洋の4高校が、各校でこれまで実施したプログラムについて説明。生徒らが実践報告を行い「働くことの楽しさと厳しさを知った」「プロの技術を見て感動した。自分もあんな技術者になりたい」といった感想を述べていた。

「クラフトマン21」事業の実践報告を行う生徒らのようす

 このうち宮城工電子機械科の生徒は、生産設備開発・製造の引地精工(岩沼市)で10日間就業体験した経験を振り返り「働くために必要なことは、当然のことを当然にできること、ひとつ人より優れた技術を身に付けること、そしてやる気が大切と感じた」と報告。「そのためには勉強や資格取得など、今自分にできる全てを力の限り頑張りたい」と決意を新たにしていた。

 石巻工建築科の生徒は、市立保育所を基本設計した取組みなどを報告。市からの依頼を引き受けて2年目の今年は、保育所で就業体験を行い「これまでとは異なる視点で保育所を見た」成果を設計に生かすなどした。発表を行った生徒らは「今回の貴重な経験を今後に生かしたい」と感謝の言葉を述べていた。

協力企業を代表して講評を行った宮富士工業代表取締役社長の後藤春雄さん

 続いて協力企業を代表して、盛総合設計代表取締役の栗原憲昭さん、日立東日本ソリューションズ本部長の菊池一彦さん、宮富士工業代表取締役社長の後藤春雄さんが講評を述べた。

 このうち後藤さんは「ものを教えることは、自分の財産を分け与えること。手取り足取りの教え方が、これから先ずっと続くとは思わないで」と強調した上で、「やる気があれば結果はついてくる。ものづくりでわくわくした気持ちと達成感を忘れないでほしい。そして『教えるは覚えるの道半ばなり』、いずれは皆に教える立場になってほしい」と激励した。

 今年度までの3年間で、同事業に協力した企業は367社。技能検定などの国家資格を取得した生徒数も大幅に増加した。事業開始前は年間50人前後だった技能検定合格者数は07年で100人を超え、08年は約180人、今年度は前期だけで既に200人を上回る。

同事業の総括を行ったものづくり人材育成連携推進会議委員長の牧野正三さん(東北大学教授)

 同事業の総括を行ったものづくり人材育成連携推進会議委員長の牧野正三さん(東北大学教授)は、3年間の成果として、生徒の技能・技術や意欲が向上したことに加え、「協力団体のキーマン同士でネットワークが形成された」ことを挙げ、これを今後の自立化に向けた重要な資源と位置づけた。さらに支援体制の広がりを充実させるため、ほかの関連事業と連携する方向性も示した。

 牧野さんは「クラフトマン21のような、実体験を基礎にした教育が必要」と結論付け、取組みの常態化に向けて「技術人材の育成と確保にかける関係者の熱意」を前提に「行政からの財政的、人的支援が必要」と述べた。 さらに「生徒や教職員が参加しやすい制度と環境」「協力者に対する正当な評価など、協力企業などが支援しやすい仕組み」「資格を取得した生徒の力を活かせる幅広い産業基盤の確立」が必要と指摘した。

 主催者を代表して挨拶したみやぎ工業会会長の川田正興さんは「付加価値や雇用力が高い製造業だが、その比率が宮城県は全国的にも低いため、この不況期に苦戦を強いられている。もっと製造業を強くしなければならない」と述べ、「大企業が宮城県に進出する大きなチャンスを逃さぬよう、皆さんも一緒に頑張りましょう」と呼びかけた。

 来賓として挨拶した県知事の村井嘉浩さんは「宮城県の成長のためには、ものづくり産業をもっと元気にしなければならない。富県宮城を支える人材育成のため、工業高校は非常に大切。今後さらに応援することを約束する」と期待を語った。

 仙台市教育長の荒井崇さんは「各校での取組みの成果を生かしながら、産業界との連携により人材育成のシステムを自立させたい。そして、実践的な技能と課題解決能力を併せ持った、ものづくりに対する意識の高い人材を育てていきたい」と述べた。

 県教育長の小林伸一さんは報告会の冒頭、「産業界・教育界が一層の連携を図りながら、次代を担う人づくりに取り組んでいきたい」と述べ、参加した関係者に一層の理解と協力を求めた。


インタビュー:
産業界・教育界・行政から「クラフトマン21」の意義と中高生へのメッセージを聞く


◆ものづくりに関心持って
/行政(県)から:宮城県知事の村井嘉浩さん

宮城県知事の村井嘉浩さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか

 教室の中で決められたカリキュラムを勉強するのと、実際のものづくりの現場で勉強するのでは、違うと思うのです。厳しさも違いますし、民間では柔軟性を持って機敏に対応することが非常に求められます。そのようなことは学ぼうと思っても学べませんから、社会に出る前にそれらを学べることは非常に重要な機会だと思います。今回は3年間、国からのお金で実施してきましたが、これからも県のお金を使って継続していきたいと考えています。

―中高生へメッセージをお願いします

 ものづくりは非常に大切です。この不景気でも工業高校の就職率はほぼ100%、ものづくりに携わる人材は求められています。普通科の勉強も極めて大切ですが、ものづくりにも是非関心を持っていただきたいです。

【関連記事】宮城県知事の村井嘉浩さんに聞く:宮城県って、そもそもなんですか?


◆日本の産業支えるクラフトマンシップ感じ取って
/行政(国)から:東北経済産業局長の数井寛さん

東北経済産業局長の数井寛さん

―当時、経済産業省中小企業庁で本事業づくりに直接携わったと聞きました。この事業をどのような思いでつくったのですか

 生徒や学校に、将来の選択肢のひとつとして、地元の産業界、特にものづくり界に目を向けてもらいたい。そこから考えをスタートさせた事業ですが、実は私自身、大学生の頃に社会で活躍する方の話を聞いた授業が深く印象に残っていた体験が根底にあります。

 単に学校で教科書を教わるだけでなく、実際に社会で働く人たちの本当の現場や気持ちを見てもらうことが、学生にとっては新鮮で楽しく有意義なものになるのではないか。この事業をうまくつくれば、教育の現場で教育に厚みが増すような、それがひいては産業界側の思いに応えられるような、そんな連携のやり方ができるのではないかと考えたわけです。

 特にものづくりは、日本人の几帳面さや、少しでも良いものをつくりお客様に喜んでもらおうとする思いなど、日本人の気質に最もフィットした産業です。歴史を紐解けば、人類が長い農耕生活や家内工業から近代社会へと発展したきっかけは、ご存知の通り産業革命。ものづくりで如何に生産性を高め、良いものを大量につくるかで、人類の富は飛躍的に伸びてきたわけです。

 人間が日々使うものを、少しでもより良いものへと変えていく。ものをつくる人たちの喜び、魂、クラフトマンシップを若い人に伝える、ひとつの引き金となるきっかけを国でもつくりたい。そんな思いでつくった事業が、実際にうまくいったことを、とても嬉しく思っています。

―中高生へメッセージをお願いします

 中高生の皆さんは、身近に多い商業・サービス業や金融業と比べると、どうしても日頃、ものづくりに接する機会が少ないと思います。けれどもそこには、とても大切な魂、気持ちがあることを、これをきっかけによく見てもらると嬉しく思います。


◆自分自身を磨け、チャンスは至るところにある
/産業界から:みやぎ工業会会長の川田正興さん

みやぎ工業会会長の川田正興さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか。併せて中高生へメッセージをお願いします

 日本のものづくりを軽く見ちゃいかん。コストの安い大量生産は主に東南アジア等々へ行くでしょうが、それでいいじゃないか。日本には日本人の持つ良さがある。日本人ならではの特性をもって、数は少なくても大きな付加価値、大きな雇用を生み出す、価値あるものをつくっていく。

 今後は、これまで先輩達が辿ってきた道とは違う、その延長線上にはない時代がやって来る。「産業の空洞化」なんて言われているけど、皆さんにはクラフトマン等々の経験から自信を持ってもらい、自分で起業するくらいのつもりで頑張ってもらいたい。就職も思い通りのところへ行けない時代だけど、自分さえしっかりと蓄積をしていれば、チャンスは至るところにある。

 つまり私が申し上げたいのはね、ポジティブに、クラフトマン等々の機会を通じて、自分自身を磨き上げなさい。そして、一人じゃ大したことはできないから、多くの人と力を出し合って、小さくとも世界で絶対に負けない高付加価値のものづくり、多くの雇用を生み出すものづくりを、方向性として持たんといかんだろう、ということ。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。賢者になりきっていないから、教科書に学ぶし、あるいは学生をやりながらクラフトマン等々を利用して社会からも学ぶ。そして社会で自分の視野を広くして、自分の人生を実現する場を探す。過去とは違って、これらを同時並行的にやる。人に頼らず、どこにチャンスがあるかと自ら見て、ポジティブな気持ちをもって立ち向かってもらいたい。

 どうもクラフトマン事業をやってきて、それができると確信したというのが、僕の言い分。


◆やる気を持ち続ければ、必ず道は開ける
/産業界から:引地精工代表取締役の引地政明さん

引地精工代表取締役の引地政明さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか

 やっぱり、やる気ですよ。目の輝きを失って欲しくないですね。大変革の時代ですから、ニーズに対して柔軟に適応できる人格を自らつくる、そんな生徒になってもらいたいと常々思っています。ですからやる気ですよ、やる気。そこを徹底して主張していきたいですね。

 「為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり」。私もそういう思いで事業をやってきましたから。それが一番大事です。やる気を持ち続けていったら、必ず道は開ける。それを教えていきたいですね。

―高校生を受入れている間もずっと、そのようなメッセージを伝え続けていたのですか

 しましたよ。「どんな障害にぶつかったって、避けて通るな。必ずクリアしてから通れよ。避けてばかりいたら、一生負け犬みたいになっちまう。だから頑張れ!」そんなことばっかり、言っていましたけどね。

―実際に高校生を受入れて、何を感じましたか

 うち、ちょっと変わった仕事をやっていましてね。構想設計から施工まで、全部の部門をやっているんです。設計から始まって、お客さんにまでやるもんだから。それで各部門を2日間ずつ、生徒にやらしたんです。

 まずは設計に2日、製造に2日、制御に2日、組立に2日、画像に2日というように、ずっとまわしたんです。つまり全部のプロセスを見せたわけです。するとやっぱり、生徒の目の輝きが違いましたね。だから間違っていなかったなぁと思いました。今の若い子達に、ものづくりってこんなに面白いんだって、やっぱり教えないといけないね。


◆変化についていくのではなく、変化の先端に立つ
/産業界から:日立東日本ソリューションズ本部長の菊池一彦さん

日立東日本ソリューションズ 公共ソリューション本部本部長の菊池一彦さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか
 (一部講評より)

 私たちは日立グループの会社ですので商売敵となりますが、ものづくり企業で一番大切なことについて、IBM社の会長が社員への講話でこのように話しています。

 講話ではダーウィン「種の起源」の一節を引用して「ものづくりの企業は、『種の起源』と同じことをしなければならない。頭がよい生物・力の強い生物が生き延びるのか。いや、そうではない。結局は、変化に適応して自分を変えることのできる生物が、最後まで生き延びるのだ」と。 IBMは、コンピュータの世界では長い歴史を持つ「巨人」と称される企業ですが、技術を生業とするこの企業は、変化を受け入れ、それに適応することによって、長い歴史をつくってきました。

 技術者の卵をつくる「クラフトマン21」、大学に進学する方も企業に就職する方もいると思いますが、今回の成果発表会を見ていると、変化に適応して、新しい技術をどんどん知ることの楽しさ、それを使った後の達成感のような気持ちを十分に感じたのではないでしょうか。つまり、変化に適応できる技術者の心を教えることができたことが、このプロジェクトの本質的な成果ではないかと感じました。

 このプロジェクトは3年間ということで、今年度で一区切りと聞いています。しかしながら、村井知事が「富県宮城」と仰るように、産業がもう少し上向きになり、技術者がどんどん活躍して、一人ひとりが豊かになり税収もアップして、またさらに技術者の雇用の場が生まれ、どんどん大きな産業となっていく、そんなサイクルをまわすためにも、産業界と教育界と行政がうまく連携していかなければなりません。今回はその連携の基盤ができた、良いプロジェクトだと考えています。

―受入れ側の社員にも意義があったということですが

 ビジネスを広げることだけに目が行ってしまうと、結果としてビジネスは広がりません。そこだけに着目するのではなく、地元をもっと元気にしようと、社会のシステムの中で自分の位置づけを確認することが大切だと思います。自分が社会の役に立っていることを実感することは、ビジネスをやる上での原動力になります。

―中高生へメッセージをお願いします

 変化についていくのではなく、変化の先端に立つ気持ちでやってほしいですね。変化を起こす側に立つことを期待しています。若い時はバックアップもあって、失敗も大きくありません。チャンスがあれば、手を挙げる。自主性、積極性、チャレンジ精神を心がけて。すると仕事が楽しくなります。


◆日々の地道な教育活動を集約する場に
/教育界(学校)から:石巻工業高校校長の渡辺幸雄さん

石巻工業高校校長の渡辺幸雄さん(写真中央)はじめ、石巻工業高校の皆さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか

 日々の目立たない教育活動が大事ですが、それを集約してスポットライトを当てていただける機会が必要なのですね。船を動かすためにはエンジンが必要、ということと同じです。そのような場として、クラフトマン事業はとても意義がありました。

 さらに本校について言えば、石巻という土地柄が、非常に良いサイズだったと思います。市立保育所の基本設計や駅前のイルミネーションを手伝ってほしい、と声をかけていただきました。仙台くらいになると、ちょっとサイズが大きすぎるかもしれませんね。

―中高生へメッセージをお願いします

 皆さんはとても期待されています。ですから、これだけの投資もされるわけですね。ぜひ1日1日を頑張ってもらいたいです。


◆地域産業を支える担い手としての活躍を期待
/教育界(行政)から:宮城県教育委員会の山内明樹さん

宮城県教育委員会の山内明樹さん

―「クラフトマン21」の意義をどのように捉えていますか。併せて中高生へメッセージをお願いします

 近年、県内のものづくり産業では、技術者の高齢化や少子化による後継者不足により、私たちの暮らしと地域産業を支えていく技術・技能の伝承が難しくなってきています。そこで、学校と地域の企業が連携し、まさに「地域を挙げて宮城のものづくりの担い手を育てていこう」というプロジェクト「みやぎクラフトマン21」がスタートしました。

 このプロジェクトでは、県内4つの工業高校生が、インターンシップ等の現場実習を実施し、最先端の技術に触れたり、熟練技能者や企業の第一線で活躍している技術者の方々に、学校で実践授業を行ってもらい、高度な技能検定や各種の大会・コンテスト等に挑戦するなど、将来の地域産業の担い手として活躍できる実践力を磨いています。

 また、今回のプロジェクトに参加した高校生の皆さんは、あらためて、ものづくりの難しさやおもしろさ、そして魅力や喜びと言ったものを感じていることと思います。皆さんには、これからも、更にいろいろなことに挑戦し、専門的職業人として必要なしっかりとした技術と豊かな感性にますます磨きをかけ、将来、本県の地域産業を支える担い手として活躍していくことを期待しています。

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