取材・写真・文/大草芳江
2009年1月28日公開
二間瀬研究室(東北大学大学院理学研究科天文学専攻)を一言で表すと...?「自由な環境で、個性の強い人たちが集まる研究室」
二間瀬 敏史 Toshifumi FUTAMASE
(宇宙物理学者、東北大教授)
1953年、札幌市生まれ。京都大学理学部卒業。ウェールズ大学カーディフ校博士課程修了。現在、東北大学大学院理学研究科天文学専攻、教授。一般相対性理論、及び宇宙論の専門家として多くの先駆的な業績をあげている。1998年度フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞。最近は理論ばかりでなく、すばる望遠鏡で「重力レンズ」の観測的研究も行っている。著書に、『宇宙論 (図解雑学) 』『宇宙137億年の謎 (図解雑学) 』『よくわかる相対性理論 (図解雑学) 』(ナツメ社)、『ここまでわかった宇宙の謎』『なっとくする宇宙論』(講談社)など多数。
二間瀬研究室(東北大学天文学教室)の学生に聞く
松本明子さん(博士課程3年):
松本明子さん(博士課程3年)
―今やっていることについて、教えてください。
私は、「重力レンズ効果」を研究しています。
例えば観測者がいて、何かものがあって、その後ろに星があるとき、
それらが一直線上にあると、その後ろの星は妨げられて見えませんね。
けれども真ん中にあるものが凄く重くて、
例えば太陽の重さの1000億倍くらいあったとき、
後ろの星の見えないはずの光が、ぐにゅっと曲がって見えてきます。
すると後ろの星はひとつだけども、2個に分かれて見えたりします。
そのような現象が「重力レンズ効果」です。
この現象は、途中にある星の質量がどれくらい重いかや、
星からの距離がどれくらい遠いかで見え方が変わってきます。
そこで私が研究しているのは、その現象がどれくらいあるのかを数えたり、
どういう形で見つかっているか、どのように分裂しているか、
観測されたものがどれくらいの距離にあるのかを、統計的考えて、
それに一番合致する宇宙の構造を決めるモデルとは何かを調べているんです。
そうやって、宇宙はどんな重さでどういう構造をしているのかを調べています。
―天文学を選んだきっかけは?
研究する松本さんのようす
自分が住んでいる世界がどんな風になっているかを知りたい、
という純粋な疑問からはじまりました。
もちろん宇宙は直接実験はできないけれども、
遠い世界じゃないと思っています。
きっかけは、高校の時に英語の教材でホーキング博士の伝記を読んだときです。
小さい頃って、宇宙ってどこまで広がっているのかなぁ、と漠然と思っているじゃないですか。
伝記を読んだことで、そういうことが学問としてあることを知り、
少しでも宇宙について何か知見が深められたらいいなぁ、ということではじめました。
新田大輔さん(博士課程2年):
新田大輔さん(博士課程2年)
―今やっていることについて、教えてください。
「宇宙の背景放射」を研究しています。
宇宙はビックバンからはじまったわけですが、
そのときは、光すら通り抜けられないくらい、
物質がごちゃごちゃになっています。
けれども宇宙がある程度膨張すると、それがすかすかになって、
まるで雲が晴れ上がったかのように、光がまっすぐに通れるようになります。
研究する新田さんのようす
このときの光が、「宇宙背景放射」といって、
宇宙ができて大体30万年後くらいにできます。
その光が今、我々に届いているので、つまりそれを観察すれば、
宇宙が生まれて30万年後のものが見えるということです。
かなり宇宙の初期の様子が見えるので、それを使って、
「インフレーション理論」という、ビックバンの前に、
宇宙が加速度的に急膨張するという現象があるのですけど、
専門書が立ち並ぶ本棚
その「インフレーション理論」の名残が、「宇宙背景放射」に
まるで化石のように残されているはずなので、
それを三点相関関数という方法を使って研究しています。
宇宙背景放射を厳密に計算することで、そこからどれくらい
インフレーション起源のものがわかるかを研究しています。
―どのようなところに魅了され研究をしているのですか?
考古学もそうですが、自分の生きている時代ではないものが、
今の情報からどれだけわかるかに、おもしろみを感じています。
大倉悠貴さん(博士課程3年):
大倉悠貴さん(博士課程3年)
―今やっていることについて、教えてください。
私も「重力レンズ」を研究していますが、
松本さんとは解析方法が異なります。
重力レンズは、レンズ天体の質量分布や
宇宙論パラメータを測定することはできます。
ただ解析方法はまだ完璧ではなくて、色々な問題点があるので、
その解析方法の改善をしているのが現状です。
―どのようなところに魅了され研究をしているのですか?
天文学全体に面白みを感じています。宇宙がわかるということは、面白いです。

研究する大倉さんのようす
―卒業後の進路先について、考えていることを教えてください。
松本さん:
私は、天文学とは全然違う分野の研究者になります。
天文学で食べていけるだけの実績を残していない、と思ったのもありますが、
もうちょっと、社会と関わった仕事につきたい、というところがあります。
これまでは、自分が知りたいから追求していくという部分が大きかったのですが、
その成果は、何百年後かに教科書に載って、社会に還元されるかもしれないけど、
わたしが生きている間は、ないかなぁと思って。
そこで仕事にするなら、もうちょっと社会に関わっていく仕事につきたいと思いました。
就職活動をする中で、金融工学に出会いました。
今、サブプライム問題で、叩かれている分野ですけれども。
その会社はマスターやドクターも募集していて、
統計や数学をとても使うところなので、むしろ他分野の方が良いようです。
そこで、これまで学んできた考え方や手法を活かして、実際の経済に適用したりと、
これまで天文学でやってきたことを、研究をしつつ、
社会に還元しつつができるかな、と考えています。
あとは単に、新しい分野をやってみたいという気持ちが半分くらいありますね。
新田さん:
このまま、研究者になるつもりです。
大体研究のテーマや道筋が見えてきているので、
それに向かってやっていこうという感じです。
論文を埋め尽くすほどに書き込まれた計算や文字
大倉さん:
研究者になろうと考えています。
全体のこれからの研究方法をどうすればいいのかという、
戦略的な視点はまだないので、
目の間にある山のような仕事をやっていくうちに、
いろいろ何か見えるのではないかと思って、今はやっています。
―二間瀬先生は、どのような先生ですか?
松本さん:
すごく面倒見が良くて、生徒のことを気にかけてくれる先生です。
あと、すごく頭がいいなぁ、っていうのを感じます(笑)。
自分の研究で煮詰まったとき、先生に相談すると、
自分とは全然違う視点から、全然思いつかないようなアイデアが、いっぱい出てくるんです。
先生は私の分野が専門ではないのですが、
それでもたくさんのアイデアが出てくるので、そういうところで「頭いいなぁ」と感じます。
基本は放任っぽい感じがするのですが(笑)、
いざというときは、見てくれていて、声をかけてくれています。
それが分け隔てなく、いろんな人に対してやっているので、頼れる存在です。
束縛はしないけれども、ちゃんと見てくれているという感じです。
他の研究室では、週一回は集まって、これやりましょうというのがあるのですが、
ここではそういうのはなくて、自由な感じでやれます。
黒板に残されたディスカッションの跡
新田さん:
面白いなぁ、っていう印象です。
変わっているというか、個性溢れる、そんな感じです。
大倉さん:
やりたいことをやらせてくれるのが、先生の一番の特徴ではないですかね。
あと面白そうな話を持っていくと、先生は食いついてきて、ずっと議論したりします。
先生という立場ではなく、一緒に議論する同じ研究者として、いい感じです。
―二間瀬先生のご趣味は陶芸と伺いました。皆さんに、作品披露などはあるのですか?
松本さんが二間瀬先生からもらった招き猫
招き猫は松本さんの机上に飾ってあった
新田さん:
作品披露はないですけど、必ず机の上にあったりします。
松本さん:
この間、「掃除して出てきたから~」って、作品をくれました(笑)。
松本さん:
最近は陶芸よりもキーボードやってるよねぇ(笑)。
娘さんが最近ピアノを習っているから、
先生も練習するっ、て言ってました。
新田さん:
たまに聞こえてくるよね。
松本さん:
先生って、何でも興味持ってやるよね。
すごいと思います。
―では最後に、二間瀬研究室を、一言で表すと?
松本さん:
う~ん...。「自由」という言葉は入ると思うんですけど...。
あと個性豊かな人がいるから、そういうところも混ぜたいな。
「自由な環境で、個性の強い人たちが、集まる研究室です(笑)」。
新田さん:
「分野を問わずに、好きな研究ができるところであります」。
普通は、先生の専門と近い研究をやることになると思うのですが、
それ以外の自分のやりたい研究ができるところですね。
大倉さん:
「自由奔放である」。
個人的な感想としては、ここでよかったな、というのがとても強いですね。

悩みながらも丁寧に答えてくださった二間瀬研の皆さん。
実はD3のお二人は、博士論文の提出締切日を数日後に控えているにも関わらず、快く取材にご協力いただきました。
―皆さん、どうもありがとうございました。
※東北大学理学部物理系同窓会「泉萩会」とのタイアップ記事です。
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