取材・写真・文/大草芳江
2010年09月24日公開
生きる力と精神性の高さ、両方を育む
高橋 延一 Nobukazu Takahashi
(聖ドミニコ学院中学校高等学校 校長)
【校長インタビュー:学校づくりのプロセスから見える学校の今】
学校も「人」によってつくられるプロセスがあり、常に変化している。
学校づくりのプロセスに携わる「人」から見える学校の今を紹介する。
「生徒一人ひとりに与えられた神様からの賜物を発見し伸ばすこと」が
カトリック系ミッションスクールの使命と語る、聖ドミニコ学院中学校高等学校の高橋延一校長は、
「現実世界を生き抜く力と精神性の高さ。その両方を生徒たちに与えなければならない」と話す。
それと同時に、「弱さを強さに転換する術(すべ)が、学校生活のすべての要素に組み込まれている」と、
目には見えない「ドミニコのDNAのような」存在も感じていると話す高橋さん。
そんな高橋さんという「人」から見える、学校づくりの今を聞いた。
<目次>
・一人ひとりの潜在能力を発掘し伸ばす
・生きる力と精神性の高さ
・子どもをコミュニティーの中で育てる
・与えることが、自分の幸せにつながる
・目には見えない伝統
・自分の肌に合っているかどうか
・弱さは強さ
・中身を確認した上で学校選択を
聖ドミニコ学院中学校高等学校 校長の高橋延一さんに聞く
一人ひとりの潜在能力を発掘し伸ばす
神様は、トータルではみな平等に能力を与えてくれていますが、個別に見れば、数学が得意な人・手先が器用な人・走るのが早い人・歌うのが上手な人というように、同じように与えられているのではなく、人それぞれに違いがあります。これをカトリックのシスターたちは、「目の人・口の人・手の人・足の人」という表現をします。
ですから、自分自身が与えられたものとは何なのかを知らねばなりません。一般的な言葉で言えば、自己理解ですね。それを学校の先生の立場で言えば、ドミニコに入ってくれた子どもたちが、どのような賜物を神様からいただいているのか発見してあげること。それを理解して、伸ばしていく。それがやはり、ひとつの仕事になると思います。
子ども達や親御さんが、既に賜物を発見している場合は、それをお手伝いします。けれども、なかには「自分には特に優れたところがない」と自己理解をしている子どももいるかもしれません。しかしながら、どんな人でも神様から与えられた賜物があります。その優れたところを見つけて伸ばしてあげる。それがカトリック・ミッションスクールとしての使命だと思います。
生きる力と精神性の高さ
それと同時に、聖ドミニコ学院のブランド価値の最大化を考えれば、当然のことながら、社会的な評価や現実世界的な利益は必要になってきます。数学が苦手な人は数学を得意にする。英語が苦手な人は英語を伸ばしてあげる。そうやって、いわゆる難関大学に入れる学校にしていかなければ、「女子高NO1を目標に頑張ります」という学校としては、やはり片手落ちになってしまうのだろうと思うのです。
ですから、繰り返して言えば、一人ひとりが持っている潜在能力を発掘し、それを伸ばしてあげること。そして、現実世界を生き抜いていくために、いわゆる「生きる力」を身に付けるためのテクニックも全部教えてあげる必要があるだろうと思っています。
ただ実は、それは本質的にはあまり価値が高いことではありません。本当に大事なことは、精神性の高さです。自分が何のために生まれてきて、どのように生きていくのか、どのように社会に貢献するのか。そのようなことを考えて、その目標に向かって生きていける。そのような人を育てていく。そちらの方が大事だと思うのです。
ですから校長の役割としては、現実世界を生き抜くためのいわゆる生きる力と、自分は何のために生まれてきた、社会のために生きるんだ、と考えられるような精神性の高さ。その両方を生徒たちに与えていかなければならない。そのように考えています。
子どもをコミュニティーの中で育てる
これは、そのようなことを成し遂げた後の話になると思うのですが、できればその先にあるものとして、子どもたちを、お父さん・お母さんの子どもだけではなく、ドミニコ学院に集ういろいろな方たちの総合力で、皆で助け合いながら育てていく「ドミニコファミリー」のような組織をつくりたいと思っています。
生徒や保護者、関係するいろいろ方たちで助け合い、子どもをコミュニティーの中で、一人前の大人として皆で育てていく。そして、生徒自身も一人立ちした後は、支える側となって、小さな子どもたちを大人にするためのお手伝いをしていく。そんな善循環ができるようになれば良いなと思うのです。
与えることが、自分の幸せにつながる
そもそも幸せというものは、もらったり手に入れることでは、実は成し遂げられません。与えることで成し遂げられるものだと、私は思うのですね。キリスト教の教えにも、奉仕や自分犠牲というものがあります。それは、自分を捨てることで、自分が生かされるということなのです。
これは一見すると、パラドックス(矛盾)にも思えますね。けれども「自分が、自分が」と自己中心的になって奪うのではなくて、与えること、あるいは自分を捨てることが、自分の幸せにつながる、という教えのような気がします。実は、それはビジネスの世界でも、そのような人が成功しているんじゃないかなという気がしますね。
何とかして儲けようと頑張っている人も、そこそこ儲けているかもしれません。けれども、社会的な地位も手に入れながら、経済的な成功も手に入れている人は、社会のために何かできないかなと考えて活動しているうちに、気づいたらお金も集まってきた、という感じです。つまり、お金が先じゃなくて、人のためになるということが先なんじゃないかなと思いますね。
目には見えない伝統
この学院の中にいる人、少なくとも修道会のシスターたちは、そのような教えに従って生きているので、奪うことよりも与えることを自分の喜びとしてくれています。そのような人たちが学院内にふわふわ浮遊しているので、すごくあたたかいのだと思います。
それに先生方も影響されていますね。「柔らかな感性」とでも言いましょうか。伝統的に染みついている感じがします。では、それを論理的にわかりやすく話してくださいと言うと誰も話せないのですが、本当に代々受け継がれている気がしますね。そのような素養のある先生が採用されて、そのような色にさらに染まっていくのかもしれません。
そして実は、生徒たちも、そのような優しい子どもたちが集まっている気がします。高校3年間でドミニコの色に染まっていくところも確かにあるのでしょうが、ドミニコを選ぶ段階で、ドミニコ的なものを持っている子が集まっているような気もするのです。
自分の肌に合っているかどうか
今は昔と違って、オープンスクールやいろいろなイベントあります。3年生になれば、3、4回ドミニコに来て見て、先輩方と話をしたり、いろいろなことを体験しながら選ぶことができます。
ですから理屈では、例えば「自分の偏差値」とか「コースのメリット」とか「国立大学に入るのに公立高校では学習塾の費用がかかるけれども、ドミニコなら学校で全部やってくれるからお金がかからない」とか。
いろいろなことを考えているかもしれないけれども、でも一番は、自分に合っているかどうか。それは雰囲気とか、肌に合うとか、そういうものが大きいんじゃないかなという気がしますね。
生徒達といろいろと話していると、入学してきた時から、優しくて、とんがっていない子が多い気がします。ただ自分に自信がない子はたくさんいますね。そういう子たちに自信を持たせていく工夫というのは、いろいろなところに仕掛けられている気がします。
弱さは強さ
例えば、中学校訪問した際、中学校の先生に生徒たちの近況を報告すると、「え?!あの子がちゃんと学校に通っているんですか?」と驚かれたりします。人に対する思いやりや、自分の心が強くないことを知っている子が多いのかもしれません。自分の心の弱さを知っているからこそ、心の弱いクラスメイトに対して、すごく優しくなれるんじゃないかな、という気がします。
けれども、心の弱い子ばかりの学校で、皆、心の弱い卒業生集団になってしまうのかと言えば、そうではないのですね。実は、心の弱さは強さにつながるのじゃないかな、という感じが最近しています。弱さを知っているから、強くなれる。反対に心が強い人は、案外、もろいんじゃないかなとも思うのです。
聖書にも書いてありました。弱さは強さである。そのような意味でも、もし公立の高校に進んで、攻撃性の強い生徒達が多いような学校に行った場合には、ひょっとしたら、つぶされてしまうような子どもも、ドミニコの空気の中なら、のびのびと生きて、その弱さを強さに転換する術(すべ)も学んでいけるのじゃないかな。
では、それがどのように仕込んであるのですか?と聞かれると、決してそれは授業の中で教えているわけではありませんが、学校生活のすべてにそのような要素が組み込まれているような気がするのです。それこそドミニコのDNAのような、知らず知らずの間に、組み込まれていくものではないのでしょうか。
中身を確認した上で学校選択を
―最後に、中学生へメッセージをお願いします。
いろいろなデータや実績など、学校選びの際には、調べなければならないことはたくさんあると思います。しかしながら、最終的には、自分に合った学校を選んで欲しいと思います。
パンフレットを見ただけでは、恐らくわからない部分もあるでしょう。ですから実際に学校に来てみて、本当の雰囲気を感じてください。今なら、オープンスクールなどのイベントは、私立学校は全部やっているし、公立学校でも体験入学のようなものをやってくれています。そこでは、先生方や先輩方と触れ合う機会をつくってくれますし、あるいは部活動の体験入部もしてくれています。
そのような機会を活用すれば、よそ行きのお化粧した姿ではない学校の部分が見えると思います。なぜなら、(学校側の)ぼろが出ちゃうからです。昔の生徒募集は、「学校選択福袋論」と揶揄されるほど、本当の学校の雰囲気は、入ってくるまでわからないものでした。単に優秀な先生たち数人のみが出てきて、他の先生と接触できない、生徒の姿も見えない学校説明会だったためです。
けれども今は、中身を確認した上で買うことができます。中学生の皆さんには、是非そのような機会をフルに活用してほしいですね。
―高橋さん、本日はありがとうございました。
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