取材・写真・文/大草芳江
2009年8月31日
頭でっかちな人間ではなく、
心も体もたくましい骨太な人間を育てる
庄司 恒一 SHOJI Koichi (宮城県仙台第二高等学校 校長)
「教育って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【教育】に関する様々な人々をインタビュー
それぞれの学校には、目には見えぬが肌で感じられる、教育の「しくみ」がある。
人はそれを校風や伝統と呼ぶが、その構造をうまく可視化できないだろうか。
校長という立場から見える、目には見えない教育の「しくみ」を聞いた。
宮城県仙台第二高等学校・校長の庄司恒一さんに聞く
―二高とは、そもそも何でしょうか?
これまでの取材から、目には見えない教育の「しくみ」が緻密に組まれていることを感じました。
それを校風や伝統と呼ぶのかもしれませんが、そのあたりを庄司さんは校長という立場から、
どのようにとらえていますか?
二高をひとつの言葉で表すのは、なかなか難しいところがありますね。
明確な意識が常にぎらぎらとあって、というよりも自然に、
日々の積み重ねの中で、学校がこのように動いていて、
かつ子ども達が育っている、という部分は確かにあります。
まず、二高には自由な校風があります。
そして、伝統として「自主自律」、
三船久蔵十段が唱えた「文武一道」という教えがあります。
そのあたりが、二高のひとつの特色でもあるし、
その雰囲気の中で子ども達を育てていこう、ということだと思うのです。
理想として、我が校の教育目標も当然あります。
勉学だけではなくて、「雄大剛健の風を養う」。
要するに、心身共に骨太な人間を目指していこう。
ここに尽きると思いますね。
ここに来る子ども達は、さらに上級の学校を目指して、将来に向け、
幅広い教養・知識を身につけようと、強い意欲を持って入ってきます。
それに合わせて、学校としては、
知識や教養を身につけさせることをベースにしつつ、
頭でっかちな人間ではなくて、ほんとうに骨太な、心も体もたくましい、
そういう人間をつくりたい、というところが基本にあると思います。
そのような、きちんとバランスの取れた人間を育てていこう。
それが、二高がこれまでずっと目指してきた教育だと思います。
あとはやはり、非常に志の高い子ども達が集っているわけです。
そのような中で、相手を尊重し、お互いに高めあう。
日々の切磋琢磨があるのですね。
それは勉強であれ部活や行事であれ、非常に密度が濃いものです。
そのような日々の営みが、我が校の力の源ではないかと思います。
「文武一道」とは
―目指す教育は、どのような形で具現化されているのですか?
講堂に掲げられた「文武一道」の書
「文武一道」の「文」は、いわゆる勉学の部分。
幅広く知識を身につけ、教養を高める。
「武」とは、教科以外の部分。
主に部活動を想定して我々は考えているところがあり、
部活動に限らず、生徒会活動や様々な委員会活動など、
教科以外の活動としてとらえて良いと思います。
勉強だけではない教育をしているわけですから、
「文」と「武」をしっかりと両立させたい。
そのように両立させる生活の中で、
理想とする生徒像を目指し教育していこう、ということです。
―よく耳にする「文武両道」との違いは?
日常の子ども達の取組みは、一般的には、
「文武両道」ととらえられると思うのですね。
ただ、ここは難しいところなので、あくまで私なりの解釈ですが、
三船先輩は、「文武両道」を突き詰めていった最終的な境地のようなところを指して、
「文武一道」と仰っているのではないか、と私は理解しているのです。
見かけ上は二つの道に見えるが、目指すところはひとつなのだ、と。
つまり、勉強にしても部活動にしても、二つの厳しい道ではあるのだけど、
取組む時の姿勢であるとか、あるいは真理を求める厳しさであるとか、
それらを突き詰めていけば、そういう意味においては、ひとつである、と。
先輩は、柔道という道を通して、そのような境地に到達されたのではないでしょうか。
伝統は、子ども達から子ども達へ
―昨年文化祭を取材した際、生徒さんから「文武一道」の意味について説明を受けました。
(※取材記事は、こちら)
「文武一道」を、単なる言葉だけでなく、その意味を自分で位置づけていることが印象的でした。
やはり伝統というものは、
子ども達から子ども達へと伝わっているんですね。
我々も伝統という言葉を使うし、伝統をしっかり継承していこうとは言うのですが、
実際のところは、生徒から生徒へ、先輩から後輩へ、伝わっていくものだと思うのです。
ですから、我々が言う・言わないにかかわらず、
日々の学校生活の中、あるいは部活における先輩・後輩との交流の中から、
自然に伝わっているのですね。
それは、大きいと思います。
さらに上を目指す
―では、学校側としては、具体的にどのような取組みをしているのでしょうか。
もうひとつは、我々も、さらに上を目指します。
「大学のレベルが高いところを目指す」という意味ではなく、
生き方なり考え方なり、あるいはものの見方も含めて、
高いところを目指す、という意味です。
その上で、別の価値観に触れさせることが非常に大事なことだと
この学校では考えています。
機会ある毎に、学校外の方々にもおいでいただいています。
一番は、すばらしい同窓がいるわけですね。
身近な先輩から、色々な機会に、お話をして頂いています。
あるいは外へ連れて行き、様々な体験を踏ませています。
例えば一年生は7月の「野外体験」など、
厳しい自然の中での体験も、彼らにとって貴重なものとなるでしょう。
そのようなことを積み重ねながら視野を広げ、
さらに高い目標を、三年間で自分の中に形作っていくような取組みは、
連綿と続いています。
将来、リーダー的立場で活躍するときに必要な力
―そもそもどのような前提で、頭でっかちではない、
心も体もたくましい骨太な人間を育てることを目指しているのですか?
将来、様々な分野のリーダー的立場で活躍するとき、
もちろん知識や教養も必要ですが、それに加えて、
リーダーシップが取れるかとか、ものごとを筋道立て、
きちんと整理して、推し進めていけるかとか、
人と人との関わりの中で、物事を進めていけるかとか、
そういった訓練が、色々な学校行事あるいは部活動で非常に鍛えられている、
ということは言えると思います。
ですから、「骨太」と一言で片付けたことですが、
その中身というのは、知識・教養に加えて、
行動力や判断力、あるいは指導性など、
そのようなこともあわせて、育てなければならない。
そういったものを備えた人間をつくる。
目指しているところは、そういうところです。
社会の組織の縮図
―「北陵祭」実行委員会へのインタビューでも、組織の中にいる個人が、
自分の立ち位置や役割を理解し、組織全体として最大の力を出そうとして
動いている生徒さんの姿が印象的でした。(※取材記事はこちら)
まるで社会の組織の縮図のようです。
第61回「北陵祭」実行委員の皆さん
これまで積み重ねてきた、文化祭としての蓄積があるわけですね。
組織はどうあるべきかとか、それぞれが、
どのような立場でどう動かなければいけないかとか、
そういったことが自然と蓄積され、
ベースになっているわけです。
これまでの積み重ねが
きっちりと次の世代へ伝わって、それがだんだんと洗練され、
今の組織なり局なりをつくっているわけです。
いろいろな試行錯誤の中で生まれたしくみなのですね。
ある意味、社会の組織の縮図のようなものですよね。
委員長は一人ですが、その下で責任者として働く者もいるわけです。
そのような中で、いわゆるリーダーシップが育つ場面もあるだろうし、
人に対しての思いやりを持って、動かしていくようなことも体験できるでしょう。
それがやはり社会に出る時に、非常に生きてくるのだろうな、と思いますね。
知らぬ間に、人間的な成長につながっている
―その真っ只中にいるときは、「社会に役立つから」というモチベーションよりも、
生徒さん自身は純粋に「より高いものへ」という気持ちなのでしょうね。
それが後々になってから、社会で役立つことを実感するのでしょう。
生徒達の姿を見守る庄司さん=「対一高定期戦」にて
そうですね、彼らは純粋だと思いますよ。
知らぬ間に、自分の中にそういうものが身についている、
人間的な成長につながっているのだと思います。
それが結果として、いずれ将来、
いろいろな場面で生きていくのでしょう。
それは、自分が卒業してから10年、20年経ったときに、
振り返ってみて思うことではないのでしょうか。
実際に同窓生から話を聞くと、自分の今の姿があるのは、
部活動でこういう人に出会って触発されたからだ、とか。
また、手前味噌かもしれないですが、
二高で素晴らしい教員に出会って、自分の目が開けたとか。
そういうお話は、いろいろなところで、よく耳にしますね。
ですから、先ほど私が言ったことは間違いではないでしょう。
人間的な成長がベースにあっての学問であり教養
やはり最終的には皆、上級学校を目指すことになるのですが、
人間的な成長が、結果として、勉学にも非常に良い影響をもたらすと思うのです。
つまり、人間的な成長がない中で、ただ単に知識を詰め込むだけとか、
勉強時間を確保して机へ向かうだけでは、
自分の最終目標までには、なかなか達せないのではないかな。
人間的な成長がベースにあっての学問であり教養だろうと、
私は思います。
家庭と学校の両輪
学校行事には、毎年多くの保護者が見学に訪れる=「大運動会」にて
人が育つには、ひとつは、学校という環境もそうですし、もうひとつは、家庭です。
学校でも、子ども達をより伸ばすために、勉強も行事も、
キャップをかけるのではなく、支援してやるというスタンスで接しています。
そして、本人自身が持っている意欲や向上心というものがありますよね。
そのような下地をつくっているのは家庭です。
このように、学校と家庭の両輪があって、
非常にうまく伸びていくのだろうと思いますけどね。
二高生の親御さんは、小さい頃から、高いところを目指して、
決して芽を摘むのではなく、伸ばしてやろうという姿勢で、
家庭でも育てられてきたのだろうなと思います。
非常に心強いのは、これはどの学校もそうでしょうが、
保護者の方々、PTAの方々が、非常に協力的だということです。
よく学校を信頼してくれて、協力してくださっている。
それは学校として非常に、心強いことです。
学校生活の中で恒常的にある「刺激」
環境を形づくる我々としては、いろいろな場面で、
いろいろな手法を使って、彼らにいろいろな刺激を与えていきます。
親も、そのようなことをやっていると思います。
その刺激の仕方は、学校によっていろいろあるだろうし、
子ども達の目指しているものによって、どのような刺激が良いか、
また、どの時期にどのような刺激を与えれば良いのかが違ってくるのだと思います。
―ここでは、どのような「刺激」をどのように与えているのでしょうか?
それは、学校行事であったり、
広く人と触れ合い、別の価値観に触れさせること。
あるいは毎日の授業の中で、先生達が、色々な教材を使いながら、
彼らの知的欲求に応える、あるいは好奇心を刺激すること。
非常に力ある先生方が、我が校にいらっしゃいます。
授業ひとつにしても、非常に密度の濃い授業をやっていただいています。
そこでの刺激の与え方、と言うかな。
そのようなことも、日々の授業の中で行われているわけです。
「刺激」と一言で言っていますが、
ある意味では、学校生活全体の中で、色々な機会に色々な場面で、
そういうことが恒常的に行われているとは言えると思います。
そのひとつひとつが精選され、それなりの内容とレベルを伴った
「刺激」になっていると言っても、良いのかなと思いますね。
「刺激」という言い方は、あれかな(笑)
新生・仙台二高
―最後に一言、お願いします。
二高は、共学化して三年目を迎えました。
これまでの伝統や歴史は当然踏まえていくわけですが、
時代は変わり、世の中の動きも、とにかく急です。
そこで我々は、周囲の動きも見極めつつ、
単に過去の伝統にすがるだけではなくて、
自分たちがまた新しい歴史をつくっていく意識が必要だと考えます。
我々は「新生・仙台二高」を掲げているのですが、
ひとつのターニングポイントに今、差し掛かっていると感じています。
そもそも学校は、生徒のためにあるわけです。
生徒が何を目指して、生徒にとって何が一番良いのか。
そこが原点なのだと思います。
我々が、歴史や伝統をベースにして彼らを導くことももちろんありますが、
それと同時に、今いる子ども達が本来的に何を考え、何をしたいと思っていて、
何が彼らにとって一番良いのか、学校として何をやってあげることが良いのか。
それが時代によって、少しずつ違ってくると思います。
そこはやはり、大事にしていかなければならないと感じています。
二高に注がれている期待は大きいものがあります。
そのような期待に応えられるよう、新しい歴史・伝統を、
つくる心構えをもって努力したいと思います。
―庄司さん、本日はどうもありがとうございました。
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