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2019年 03月 27日 ()

産総研「TAI(鯛)プロジェクト」始動!~東北発イノベーションに向けて~ 取材・写真・文/大草芳江

2019年02月28日公開

 産業技術総合研究所東北センター(以下、産総研東北センター)が東北地域新産業創出に向けて、産学官金"協奏"による新たな企業支援の試み「Tohoku Advanced Innovation(TAI:鯛) Project(TAIプロジェクト)」を2018年夏からスタートさせた。産業・技術環境の変革の波に乗って企業が大きく発展できるよう、主に経営層を対象に、さまざまな先端技術を体験できる勉強会「EBIS(Expanding Business Innovations for executiveS)ワークショップ」を開催する。「東北の企業の皆様に"海老"で"鯛"を釣っていただきたい」と語る本プロジェクトのコアメンバーに、その狙いや目指す方向性を聞いた。

<目次>
【特集】産総研「TAI(鯛)プロジェクト」始動!~東北発イノベーションに向けて~

(1) 産総研東北センター所長の松田宏雄さん・所長代理の伊藤日出男さんに聞く:「企業ニーズの明確化による事業変革を支援」
(2) 東北経済産業局地域経済部長の蘆田和也さんに聞く:「産業の大変革期に求められる企業支援とは」

※ 本インタビューをもとに「産総研東北ニュースレターNo.47」を作成させていただきました。詳細は、産総研東北センターHPをご覧ください。


(1)産総研東北センター所長の松田宏雄さん・所長代理の伊藤日出男さんに聞く


産業・技術環境の大変革期に必要なこととは?

―これまでも、新事業創出に向けた技術セミナーなど、企業支援・産業振興の取り組みは多く行われています。そんな中で今回、産総研東北センターとして「TAIプロジェクト」を発足するに至った経緯や狙いは何ですか?

【松田】
 ここのところ、インダストリー4.0やSociety 5.0など、重要そうだけどもよくわからない言葉が飛び交い、産業も非常に速いスピードで変革しています。そんな中、企業の皆様もこれからどのような方向へ進んでいけばよいかわかりにくい状況になっています。また、企業支援・産業振興のあり方も変革が迫られています。

 そこで、研究開発を通じて地域の産業振興を図るというミッションを掲げる産総研が地域のハブとなり、ゆるやかな集まりの中で、企業の皆様、あるいは大学も含めた他の研究機関等の皆様とそれらについて一緒に考える場をつくることはできないか、という議論になりました。それが「Tohoku Advanced Innovation(TAI:鯛)Project(TAIプロジェクト)」発足のそもそもの狙いです。

 これまでのセミナーや勉強会は、一方的に講師の話を聞くだけで終わってしまうことが多かったと思います。TAIプロジェクトでは、先端技術の紹介に加え、企業の経営者の皆様が「少し試してみたい」と思われた時に、そのチャンスをできる限り提供することで、従来とはまた違った、もう一歩踏み込んだ取り組みにできるのではないかと期待しています。

【伊藤】
 必要とするニーズやシーズが明確化している企業向けの支援メニューは、各支援組織がすでにお持ちだと思います。TAIプロジェクトでは、既存の支援メニューにつながっていく、もう一歩手前の領域を皆様と一緒につくっていきたいと考えています。


先端技術の体験を通じて企業ニーズを明確化

―具体的には、どのような取り組みを行うのですか?

【伊藤】
 産業・技術環境の変革の波に乗って企業が大きく発展できるよう、経営者や次期経営者の皆様が、先端技術にチャレンジできる体験型の勉強会「EBIS(Expanding Business Innovations for executiveS)ワークショップ」を開催します。単なる改善にとどまらない、イノベーションによる新事業拡大を目指すという意味をその名前に込めています。ロゴマークも名前にかけてTAI(鯛)を釣り上げるEBIS(恵比寿)様です。恵比寿様は、各中小企業の経営者の皆様をイメージしています。

 EBISワークショップへの参加を通して、先端技術が各企業にどのように役立つか、気付きを得ていただき、企業ニーズの明確化、必要なシーズの協奏的な確立を通して、企業の新たな事業の発展に向けた動きを支援します。その歩調はそれほど速くはないかもしれませんが、EBISワークショップを着実に積み重ねることが、ひいては東北地域の産業活性化や雇用の拡大につながっていくと考えています。


「AI」「IoT」「放射光」など、テーマ提案大歓迎

―EBISワークショップのテーマは、どのように決めるのですか?

【伊藤】
 EBISワークショップのテーマについては、それぞれの県で施策も事情も異なりますので、各県の自治体や公的研究施設、大学などと相談しながら設定していきます。あるいは、地元の企業の方から「こんなテーマでEBISワークショップを開いて欲しい」と提案があれば、それにお応えできるような企画を考えます。

IoTをテーマにEBISワークショップ開催(岩手県北上市、12月)

 EBISワークショップの開催にあたり、8月に宮城県で準備会を開き、東北経済産業局の皆様をはじめ産学官金の皆様から、どのような方針で進めるべきか、ご意見やテーマ案などをいただきました。それを受けて宮城県では、放射光とIoTに関するEBISワークショップを2月から3月に開催する計画で進めています(取材は2018年12月)。2018年12月には産総研が中小企業のものづくり支援を目的に開発したソフトウェア「MZプラットフォーム」に関する勉強会を、岩手県と青森県で開催しました。

 企業の皆様が曖昧模糊としているニーズを明確化する、あるいは各企業の皆様にとって必要なシーズを得ることをお手伝いするにあたっては、産総研が支援できるシーズを持っていない場合もあるかもしれません。しかし、産総研以外にもさまざまな産学官金の支援組織がありますので、産総研がハブとしての機能を果たしながら皆で一緒に、企業の皆様の気づき、そして事業の新展開に向かう動きを支援する場をつくりたいと考えています。


"協奏型"産業振興へのチャレンジ

―今回強調されている「一緒に考える場」とは、従来とはどのような点が大きく異なるのでしょうか?

従来型の産総研シーズベースの企業支援とのちがい

【松田】
 技術シーズを持つ我々産総研や大学・研究機関から企業の皆様に対して、「こんな新しい技術があるので新しい事業ができますよ」と一方向に話をするだけでなく、「このようなサービスが提供されれば、社会の要望にうまくマッチする」といったようなことを一緒に勉強しながら探り出したいと考えています。

 それを実現するために、今ある技術では足りないとすれば、どんな研究が必要か。そんなフィードバックをかけながら一緒に勉強できれば、研究者も自己満足ではなく社会からの要請に基づいた研究の指針になりますし、経営者の皆様も「ただ聞いているだけではなく、自分で試してみよう」となる。すると従来とは異なる産業振興の場をつくることができるのではないかと期待しているのです。

 そのようなことから、TAIプロジェクトの名前も産総研内部では「東北地域新産業創出へ向けた"協奏型"調査研究」としています。オーケストラのように地域の産学官金の皆様とともに奏で、ともに発展していく過程として、産総研のポテンシャルを使ったシーズの開発につながるのであれば、産総研としても喜ばしいことであります。

 また、金融機関の皆様にも今後の新しい展望を一緒に勉強いただきたいと考えています。「産学官金連携」は最近よく言われるようになりましたが、金融機関が新しい事業に融資する際、うまくいく計画に投資するイメージの方が強かったと思うのです。既存モデルを後追いする事業計画より、今までにないものを実現していくような将来展望のある事業計画の方がリスクは大きいわけですが、リスクを取るのは経営者ばかりで、金融機関が安全なところで投資すれば安全に金利を取れる社会ではもはやないと思うのです。そのようなことも含めた産学官金連携を図りたいと考えていますので、金融機関の皆様にもより積極的に連携いただきたいですね。

―これまで産総研のシーズベースだったところから、その責任領域を少し広げ、新たな企業支援のあり方を模索しているという位置づけでしょうか?

【松田】
 少しずつ広げる、ということです。もちろん研究者自身は変わるわけではありませんので、メインのシーズドリブンの研究開発はほぼ従来どおりにやるわけです。それで足りない領域があれば、従来とは異なる今回のような切り口も入れてみよう、ということです。

 そのようなことが可能かどうかを調査するため、産総研内部でのプロジェクト名に今年度は「調査研究」が付いています。理事長からも「まずはゆるやかな集まりをつくることができれば調査段階では成功だから、あまり成果を焦らず進めるように」と言っていただいています。

―先日、IoT(MZプラットフォーム)をテーマにしたEBISワークショップを取材した際、参加した企業のニーズとして「新技術がどのように自社の業務に導入できるか具体的によくわかないので、まずは把握するために参加した」という声が多かった印象でした。

【松田】
 すでにできあがった技術について知りたい気持ちはどの企業にもあるでしょう。しかし、我々が期待しているのは、実はそのもう一歩先なのです。これから起業する方や、すでに事業を起こしている経営者の皆様に、「社会がこのようなことを要求しているけど、それを達成するには既存技術では足りない。もう一歩踏み込んで研究開発までして達成したい」ということを一緒にお考えいただきたい、というのが本意です。

 もちろん、いきなりそんな高い理想を言っても、企業の皆様も「自分はこんなことを勉強したい」となかなかすぐには来られないでしょうから、まず一歩目は、すでにできあがった技術のセミナーという形で入ってみました。けれど、そこで止まっているのが、このTAIプロジェクトの本来の目的ではないのです。すでにできあがった技術をお渡しするのであれば、いくらでも既存のセミナーはありますからね。

 そのような意味では、東北放射光をテーマにした2019年2月のEBISワークショップが本来のTAIプロジェクトの趣旨に近いと思います。集まった企業の皆様には、一方的に講師から話を聞いてそのまま帰るだけではなく、例えば「放射光に対して何を期待しているか」や「放射光でこんなことができるのか」といった積極的な発言をしていただき、「だったら、こういうこともしてみたい」と次のステップをお考えいただきたいのです。むしろ、「こんなことをやりたいけど、もっとこんな方向で研究をしてくれないか」と、逆にこちらが研究の注文を受けるのが理想です。そうでなければ、恵比寿(EBIS)様のように鯛(TAI)を釣れないですからね。

 そのようにして将来、新しい事業が東北発で生まれるようにという想いを込めて、「Tohoku Advanced Innovation(TAI:鯛) Project」と命名し、皆で頑張っていきませんか、というお声がけになっているわけです。


東北発の新産業創出に向けて

―東北から内発型のイノベーションが生まれることを促進する場づくりが、今回のTAIプロジェクトの目指すところなのですね。

【松田】
 東北発の新産業創出が究極の目標とすれば、我々、産業技術総合研究所は「総合」の意味合いを少し広げる。そして長い目で見て、同じ方向に気持ちが向いている人たちのゆるやかな集団ができれば、いつかはそれを達成できるのではないか、という気持ちでスタートしています。これまでの国のプロジェクトは、中央にいる大企業がリードしていくケースが多かったと思います。東北地方からそのような芽を出す、ひとつのきっかけになれば、大成功ですよね。

 また、人が集まる場で自分のアイディアを喋ると、他の人に取られると思う人もいるかもしれません。しかし東北から新しい事業が立ち上がれば、他の人に取られるより、そこから派生してくる事業の方が多いと思うのです。東北放射光施設がそのよい例だと思います。そんな視点で一緒に勉強してもらえれば、研究機関と企業の連携のみならず、企業同士の連携という形でもチャンスが広がっていくのではないでしょうか。

 本プロジェクトのターゲットは「経営者、あるいは次期経営者の皆様」としておりますが、ぜひ多方面にわたる分野の各階層の皆様にご参加いただき、お互いにエンカレッジしながら、東北発の新産業創出に向けて、ともに進んでいければと思います。

―松田さん、伊藤さん、ありがとうございました。


(2)東北経済産業局地域経済部長の蘆田和也さんに聞く


―産総研東北センターが今年度から新たな企業支援の試み「TAIプロジェクト」をスタートさせました。本プロジェクトは東北経済産業局地域経済部長の蘆田和也さんによるアイディアがきっかけで発足したと伺っています。本プロジェクトを着想するに至った経緯について、社会や東北地域に対する現状認識も含めてお話いただけますか?


産業界に押し寄せる大変革の波

 理由はいくつかありますが、ひとつは時代背景があります。従来の仕事の世界観に対して、まさに今、新しいツールとそれに伴う新たなモデルが次々と生まれており、これから新しい仕事が飛躍的に増加すると言われています。これまでの仕事と新しい仕事が共存している状態が今ですから、今は新しい仕事に移行する準備期間として非常に大切な時期です。

 そのような変革期を象徴する一例が、自動車産業に押し寄せる「CASE(ケース)」です。CASEとは「Connectivity(つながる)」「Autonomy(自動運転)」「Sharing(共同所有)」「EV(電動化)」の頭文字を取った造語で、日本、そして世界を支える自動車産業に社会的・技術的な変化が一挙に押し寄せるようすを一語で表したものです。産業のあり方を変えるレベルの大変革が今まさに起こり始めているのです。

 ユーザーの価値観もまた大きく変化しています。インターネット普及後に生まれてきた若い世代は、車や時計といったモノを所有することに喜びを感じていた世代とは価値観が異なります。よい体験をしてSNSで「いいね」を得ることに価値を感じており、シェア、オンデマンド、ソーシャルなど、新たな価値観に合わせたサービスが流行しています。

 これらを支える新たな技術の進歩も日進月歩です。コンピューターの計算速度は飛躍的に向上し、AI(人工知能)も実用的に使えるようになりました。さらに、インターネットで"情報"が瞬時に伝わった世界から、(ビットコインなどの暗号通貨に用いられる基盤技術である)「ブロックチェーン(分散型台帳技術)」の技術によって瞬時に"価値"を伝えられる世界になろうとしています。

 あるいは、あらゆる場所にセンサーを配置して情報を取得し、通信によって常につながるIoT(Internet of Things)の実現には、これまで無線通信にかかるコストの高さがネックでしたが、低コストで省電力な無線通信方式の「LPWA(Low Power Wide Area:省電力広域)ネットワーク」の開発が進むなど、IoTの通信を安価に実現できる新技術も登場しています。

 開発手法についても、特にIT分野では最初の計画段階で全体の仕様を厳密に決めてから開発を進めるという従来の手法(ウォーターフォール型)から、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進めて徐々に進化させていく手法(アジャイル型)に変わりつつあります。

 このような新しい動きを、まず試してみなければわからない時代に入っているはずです。すると、ここ東北でも、まずは新しい情報に触れられることと実際に試せる場が大切であり、それが今の時代背景で一番求められていることではないかと考えました。


新しい技術を試せる場を東北に

 一方で、産業技術総合研究所(以下、産総研)東北センターは2017年に50周年を迎えられたのを機に、改めて地域産業への貢献について考えておられました。産総研の持つ技術シーズを地域の産業界に「橋渡し」をするというミッションは、これまでも大きく果たしていただいています。それに加えて、社会が急速に変化する中、新しい技術を噛み砕いて紹介し、実際に触れてもらうような場を、産総研という大きな"器"で地域に提供することも、大きな役割ではないかという議論がありました。

 その議論の際、研究機関等が新しい技術と地域のニーズを結びつける場として貢献している好例として、私は会津大学の「会津オープンイノベーション会議(AOI会議)」の取り組みを紹介させていただきました。AOI会議では研究と産業ニーズの早い段階からの意見交換を行い、年間約360回もいろいろなレベルでの会合を開いているそうです。

 AOI会議の考え方は、研究機関の持つ技術シーズを企業に移転するという従来の考え方ではありません。研究機関にシーズがあるかどうかも、かつ地域に明確なニーズがあるかどうかも置いておき、まず新しい動きについて一緒に勉強してみましょう、というものです。実際に新しい動きに触れてみると、「そんなことができるのなら、こんなこともできるんじゃないか」という発想になりますよね。そして「新しい技術について、もう少し深く話を聞いてみたい」と、やりたいことが具体化するにつれ徐々に会合をクローズにしながら、有志メンバーが実際に試してみるというのが、AOI会議の構造でした。例えば、ブロックチェーンをテーマに勉強会を開いた時には「会津大学で試しに学内通貨をつくってみよう」という話になり、会津大学が持つIT関連のさまざまな技術がその実現を支えたそうです。

 このようなことを東北6県の規模でやれるとすれば、やはり産総研東北センターだろう、と思いまして、いろいろな話題についてそれが実現できるといいですね、という発想でお話しました。こうした議論を産総研として真摯に受け止めてご検討を進めていただき、今回のTAIプロジェクトを発足いただいたと理解しています。


東北の「組織の知」を高め、挑戦数を増やす

―TAIプロジェクトを通じて、東北がどのようになることを期待していますか?

 最近耳にした言葉に「組織の知」があります。簡単な例で言えば、おじいちゃん・おばあちゃんがITを使えなくても、孫がスマホを使っているのを見ると、使えるようになりますよね。身近に使える人が出てくれば、自分が使うことへのハードルが一気に下がる、という意味です。TAIプロジェクトで新しい技術への取り組みを地域の中で進めていくことは、地域としての「組織の知」を高めることに最適だと思うのです。

 東北で暮らしている実感として、新しい技術分野についてセミナー等が毎日開かれている東京にいる時とでは、やはりキーワードへの引っかかり方が違うと感じます。インターネット上にこれだけ情報が溢れる今日において、本来的に情報格差は存在しないはずですが、「東京で新しい技術ができている」と聞いたとしても、なかなか身近に感じられていない可能性があると思います。一方、東北にいる隣の人ができていたら、自分もできる感を持ちますよね。

 こんな状況を「乗り遅れないため」だけでなく、「時代をリードするため」につくっていければ最高ですよね。大きな変革の真っ只中で、そもそも東京とではなく世界と勝負するわけですから、スタートラインにいち早く立ち、挑戦数を増やした人こそが新しい時代をリードできるのではないでしょうか。変化していく時代背景の中で地域としての「組織の知」を高め、挑戦数を増やす動きを東北の中に生み出す仕掛けが欲しいのです。

 このような試みは、産総研が普段取り組んでいる世界最先端の技術開発とは異なります。「挑戦数」と言いましたが、個人的には「失敗数」でもよいと考えています。成功かどうかは問わず、トライすることに価値があるはずです。

 なぜならば、試してみなければ、わからないからです。先程もお話したような技術革新によって、以前アイディアはあったけれどもできなくて諦めていたことが、今ならできるかもしれない時代に入っています。数十年前に考えて諦めたことをもう一回、やってみる価値は十分あるでしょう。

 さらに、新技術を用いて人手を介さないシステムをつくることによって、劇的な競争力が生まれることが一番大きいと思います。その一例が、配車アプリの「ウーバー」です。通常のタクシー会社を運営しようとすれば、車を所有する必要がありますし、バックオフィスで人を雇う賃金も必要です。ところが、ウーバーはアプリやクラウドを利用することで、車も、バックオフィスにいる人も不要になるため、お客さんが支払う料金は従来のタクシーより低額になっても運転手の収入は増えることが、ありうる時代に入ってきました。

 この話は、ネットコマース株式会社代表取締役の斎藤昌義さんによる講演の引用ですが、80年代までのITの役割は、切符きりが自動改札機になったように、人間の仕事の一部をITで置き換えた、「道具としてのIT」でした。それが90年代には、基幹系のシステムなどビジネスの大きな部分をコンピューターに担わせるようになり、ビジネスの効率化や品質を高める「仕組みとしてのIT」になりました。

 そして今、手順が決まっている業務を単にITに置き換えただけの世界とは全く異なる、「思想としてのIT」になると言われています。先程挙げたウーバーの例のように、少し前までは無理だったものが、当たり前に、低コストで使えるようになりました。ITが既存の常識を破壊し、ビジネスそのものの形を変えていくような、常識の転換が急速に進んでいる状況が今なのです。

 これと同じことは、いろいろな分野で起こせると思います。ですから皆で試してみたいですよね。このような大変革の波はどんどん押し寄せてきますから、自ら進んで取り組んだ方がよいでしょう。


地域特有の課題解決法を世界へ展開

―ここ東北において、どのような考え方で進めていくべきとお考えですか?

 岩手県立大学の「北国IoT」のように、地域特有の課題解決をIoTによって目指すプロジェクトは我々が取り組むべき考え方だと思います。北国のソリューションを東京から買ってきても、使い勝手がよくないはずです。むしろその地で開発し試してみて、よければ皆に使ってもらうことが、新しいビジネスを生み、世界に展開していく土台になるでしょう。

 株式会社MAKOTO代表取締役の竹井智宏さんによれば、「都会と田舎の経済(市場)規模は、全世界で計算すると、半分半分」だそうです。都会で流行しているビジネスとは別に、田舎のためのビジネスが市場の半分を占めるわけですから、ここ東北ならではの発想で試してみる場が生まれれば、そこから新しいマーケットが広がるのではないでしょうか。

 TAIプロジェクトから少し話が離れますが、田舎の問題は密度の低さですから、ポイントは、密度の低い場所で如何にサービスを提供できるかです。シェアリングや人手を介さないサービスなどは田舎でも活用しやすいと思いますので、新たな位置情報や通信システムなどと相俟って、これまで不可能だったいろいろなことが可能になるかもしれませんよね。

 タクシーを例にすれば、タクシーとしての用途でしか使えなければ、人口密度が低い場所で抱える課題解決は難しいですが、タクシーがいろいろな用途で使えて車体や運転手という限られた地域のリソースがフルタイムで活用できれば、話は変わりますね。例えば、病院に行く時は相乗りで一人あたりの単価は低くても必ず何人かで乗車する仕組みで、予約も人手を介さず無料でできる仕組みができれば、徐々にそのようなモデルも成り立つのではないでしょうか。

 はじめから大々的にやる必要はなく、小さくやっていき、それが自然と広がる形でよいと思います。ITの場合、ビッグデータ活用で競争力を生み出すモデルでなければ、スケールメリットをあまり求めないですし、製造業とは異なり基本的にコピーは無料ですから、むしろビジネスとしては広がりやすいですよね。

 ものづくりについても、こうした動きと無縁ではなく、今のまま続く部分と変化していく部分とが渾然としている。将来における自社の強みづくりにむけて今から、取り組むべきです。そのような議論もこのTAIプロジェクトで取り組めたらよいと思います。

 このような取り組みを進めようとした時、"技術的な知恵袋"が側にいて欲しいということで、このTAIプロジェクトの場があるわけです。「AIって何かできそうだけど、何ができるかよくわからないよね」では、そこで終わってしまいますよね。"今できる範囲"と"まだできない範囲"、ただ、"もう少しすればできるはずのこと"と"もう少ししてもできないこと"を、きちんと解説してもらえば、新しい技術を取り込んで実際にやってみることができるようになると考えています。


トライ数日本一を目指す

 EBISワークショップの実施形態も、まずは「トライ」にまで行けることが大事ですから、格好良いセミナーを何回開催したかはあまり気にせず、小さくてもよいので試してみる場を何回開催できたかが大事だと思います。AOI会議の例も、敢えて小さな会合まで数えて「年間360回やっています」というのがアクティブな感じでよいですよね。すると「自分も参加しよう」となる。

 同時に、トライしたことは皆と共有する。それがうまくいっても、いかなくとも、です。トライした経験を共有することで、「東北の組織の知」を高める、その「経験・知のダム」のようなものができるとよいですよね。トライしてみてどうだったか、詳細は言えないでしょうから、表題だけでもよいので発信し、まわりに言えるようになった段階で少しずつ情報を付加していけばよいのです。「東北ではトライが今8チーム動いています」とか、そんなのができたらおもしろいですよね。

 よし、TAIプロジェクトの標題ができましたよ(笑)。「トライ数日本一を目指す」です。「3年間でトライ数100」を目指しましょう!

-蘆田さん、ありがとうございました。

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