国際競争力ある産業づくり目指しシンポ開催/ものづくり日本大賞表彰式も
2012年3月23日公開
12日に開催された「ものづくり・知的財産活用シンポジウム」のようす=仙台国際ホテルにて
ものづくりの推進と知的財産権の活用を進めようと、東北経済産業局は12日、「ものづくり・知的財産活用シンポジウム」を仙台市内のホテルで開催し、地域企業などから約180人が参加した。ものづくりの現場で活躍する優秀な個人・団体を表彰する「第4回ものづくり日本大賞」の表彰式も行われた。
冒頭で東北経済産業局長の豊國浩治さんは、「早期の復旧復興を図ると同時に、国際競争力のある産業づくりが必要。東北の強みである技術やデザインなどを知的財産権として保護し、継続して活動できる仕組みを強化することが重要だ」と挨拶。
シンポジウムでは、宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマ代表取締役社長の大山健太郎さんが「グローバル競争下におけるものづくり企業の経営戦略」と題して特別講演。同社が震災後、早期事業復旧を実現できたポイントについて紹介した後、年商500万円の家業から1000億円(2011年度)の企業に成長させた経営理念などについて、「目線を、ユーザで考えるか、プロダクトで考えるか、その違いだ」などと語った。
このほか、特許庁による「がんばろう日本―日本の企業を知財で応援―」と題した基調講演や、知的財産活用に意欲的に取組む企業経営者によるトークセッションなどもあった。
「第4回ものづくり日本大賞」表彰式のようす
続いて、「第4回ものづくり日本大賞」表彰式では、優秀賞(4件)と東北経済産業局賞(7件)を受賞した東北の企業が表彰された。また、東北初の内閣総理大臣賞を受賞した齋栄織物株式会社(福島県)などの企業が、ものづくりに対する思いや取組みなどを発表した。
「第4回ものづくり日本大賞」を受賞した東北の企業は、以下のとおり(計16件)。
【内閣総理大臣賞】齋栄織物株式会社(福島県川俣町)「超極細生糸を使用した世界一薄い絹織物の開発」、【経済産業大臣賞】株式会社サンビックス(福島県郡山市)「電子機器トラブルを発生させない亜鉛めっきの開発」、【特別賞】NECトーキン株式会社(宮城県白石市)「環境配慮型高性能ノイズ抑制シートの開発と事業化」、林精器製造株式会社(福島県須賀川市)「伝統技術とコンピュータ制御技術の融合による時計加工手法の開発」、ソニーエナジー・デバイス株式会社(福島県郡山市)「移動式蓄電システムを利用したパブリックビューイングシステムの開発」、【優秀賞】 株式会社南部美人(岩手県二戸市)「糖類無添加! 麹の甘みを引き出した日本酒による梅酒の開発」、株式会社髙橋工業(宮城県気仙沼市)「コールテン鋼を用いた200年住宅」、株式会社リード(宮城県亘理町)「ダイヤモンドの常識を覆した超高剛性・超薄刃ダイヤモンドブレード製造技術を確立」、東洋システム株式会社(福島県いわき市)「高信頼性・低コストの二次電池評価装置の開発、世界の技術開発に貢献」、【東北経済産業局長賞】盛岡セイコー工業株式会社(岩手県雫石町)「『雫石高級時計工房』の伝統技術と先端テクノロジーの融合による超精密な機械式時計つくり」、有限会社テクノ・キャスト(宮城県大崎市)「臨床手技向上等に寄与する生体近似臓器(軟組織)模型の開発」、東北電子産業株式会社(宮城県利府町)「極微弱発光検出装置の開発と応用」、株式会社宮腰デジタルシステムズ(秋田県横手市)「世界で最も高速で高品質(高解像度)な液体現像電子写真高速印刷機の開発」、株式会社高研(山形県鶴岡市)「気管内痰の吸引を、カテーテル使わずにできる構造を実現した世界初の気管カニューレ」、ソニーエナジー・デバイス株式会社(福島県郡山市)「無水銀化アルカリボタン電池(LR)の技術開発と商品化」、クニミネ工業株式会社(福島県いわき市)「粘土を素材とする耐熱性ガス・水蒸気バリア膜用特殊粘土の実用」
インタビュー(主催者、講演者、受賞者)
◆研究開発促進のためにある「特許」を理解し活用して
/東北経済産業局長の豊國浩治さん
―本シンポジウムのテーマである「知的財産権」は、そもそもなぜ重要ですか?
新しい製品をつくるには、研究や開発に大変多くの時間や資金を要する。ところが、つくった製品を真似してつくる人がいれば、それまで費やした時間や資金は回収できなくなる。すると、自分で研究開発するより、他人のものを盗んだ方が得となってしまう。そうならないように、研究開発して新製品をつくった人や、発明した人には一定の権利を与え、それを使いたい場合にはお金(ロイヤリティ)を払ってもらう。これが知的財産権の制度である。
―重要視する「国際競争力のある産業づくり」と「知的財産権」との関係は?
特許は日本国内だけの問題ではない。中国などの外国に物を売る時、知的財産権を侵害されないよう、色々な措置を講じて守っていかなければ、せっかくつくったものが盗まれる恐れがある。まさに国際競争力という点でも、知的財産権の制度をよく理解し、活用いただくことが大切。特許庁が守ってくれると思わず、自ら意識的に守っていくことも重要だ。
◆単なる応用ではなく、常にオリジナリティを考えて
/アイリスオーヤマ(宮城県仙台市)代表取締役社長の大山健太郎さん
―特別講演の内容を踏まえて、中高生も含めた読者へメッセージをお願いします。
中高生の場合、まだ世の中の常識や技術をいろいろ学ばなければいけない時期だが、学んだことを単に応用するのではなく、それを基礎知識にした上で、自分のアイディアをどう活かすか、常にオリジナリティというものを考えていただきたい。日本は(欧米諸国への)キャッチアップ(=追い上げ)で高度成長してきたが、もう日本は今先端にいるので、キャッチアップする環境ではない。だからこそ、日本の生活の中、あるいは日本の技術の中から、新しいものをつくる気概を若い人には持っていただきたい。
◆電子機器の高周波ノイズを張るだけで吸収できるシートを開発
/NECトーキン(宮城県白石市)の佐藤光晴さん
【特別賞】
「環境配慮型高性能ノイズ抑制シートの開発と事業化」
携帯電話などの電子機器に生じる電磁ノイズの悪影響を防ぐために、貼るだけで効果的に電磁ノイズを吸収できる、高性能なノイズ抑制シートを開発。ハロゲンを使用しない製品開発に成功し、性能と環境とを両立した優れた技術力として、評価された。
―貴社の技術の特徴について、教えてください。
近年、電子機器の高クロック化に伴い、高周波化するほど本来期待する以外の電圧・電流が発生してしまい、機器の動作を阻害するという悪影響があった。このような電磁ノイズを防ぐために従来から電磁ノイズ対策(EMC)部品が使われてきたが、今回の「ノイズ抑制シート」は、非常にノイジーな成分が出やすい高周波帯域(10メガ~5ギガヘルツ)で余計な電波を熱に変換して吸収できる点が特徴的。また最近は、ノイズというマイナス要因を消す用途だけでなく、積極的に本製品を使って信号や通信品質を改善するといった、プラス要素を生み出す使用法が拡大している。
―そのような特徴ある技術を実現できた、貴社ならではの強みとは?
「ノイズ抑制シート」(商品名:バスタレイド)は、EMC(電磁的両立性、電磁環境工学)のパイオニアである東北大学の佐藤利三郎名誉教授をはじめ多くの方々のご指導やご協力をいただき、1995年に当社が世界で初めてノイズソリューションとして提案させていただいた製品。それを可能にしたのは、まず、当社独自の材料を保有している素材型デバイス創造企業であること、そしてEMC技術ノウハウや成膜プロセス技術等の長年培ってきた要素技術を活かしたE-デバイスの開発が根底にあり、お客様のニーズにあったデバイスをご提案させていただいている。
◆超高剛性・超薄刃ダイヤモンドブレードで超精密加工が可能に
/リード(宮城県亘理町)の鍋谷陽介さん
【優秀賞】
「ダイヤモンドの常識を覆した超高剛性・超薄刃ダイヤモンドブレード製造技術を確立」
世界に先駆けて、従来技術では成し得なかった超高剛性・超薄刃ダイヤモンドブレードを量産化した。従来ブレードよりも4倍以上の硬度を確保し、ブレード厚みを2分の1以下に抑えて、削ることが難しい素材の超精密加工を可能にしたことが評価された。
―貴社の技術の特徴について、教えてください。
例えば、携帯電話などの電子機器の中には、半導体やコンデンサーといった小さな電子部品がたくさんある。我々は、電子部品をあの形に切ったり研磨するための特殊な刃をつくっている。髪の毛を4分の1にできるほど薄い、約50μm(0.05mm)の刃だ。以前は1~2cmあった電子部品だが、今では1~2mmよりさらに小さくなっている。それに伴って切る幅も狭くなるため、刃も薄くする必要がある。ところが、高速回転で切る時、刃を薄くすればする程、どうしても曲がってしまう問題があった。そこで我々は、50μmと大変薄いが全く切れ曲がりのない、大変硬いダイヤモンドブレードを開発。この刃がなければ、世の中の様々な電子部品が切れなくなる。特にハードディスクの磁気ヘッド用ブレードとしては、世界で90%以上のシェアに達している。
―なぜ貴社だけが、そのような特徴ある技術を実現できたのでしょうか?
ダイヤモンドは硬いが熱に弱く、約600℃で炭化してしまう。我々は、高熱でもダイヤモンドが炭化しない特別な炉(焼結技術)を開発し、特許を取得。ダイヤモンドが炭化しないため、大変硬い刃に焼き上げることができる。同時に薄くする技術も大変難しいが、切る・削る・磨く世界で商売する我々の様々なノウハウにより、精度良く薄くする技術を確立した。
―今までのお話を踏まえて、中高生も含めた読者へメッセージを。
日本の優れた点は、中国のように真似する技術ではなく、想像してものをつくり出す技術。想像力の源は、育った環境や経験が基本になる。部屋に閉じこもらず、どんなことでも良いので興味を持ち、いろいろな感性に触れ、自身の感性を磨いてほしい。
◆気管内痰の吸引を、カテーテルを使わずにできる構造を実現
/高研(山形県鶴岡市)の奥山伸二さん
【東北経済産業局長賞】
「気管内痰の吸引を、カテーテルを使わずにできる構造を実現した世界初の気管カニューレ」
吸引カテーテルを気管に挿入する必要がなく、粘膜刺激による苦痛や人工呼吸器を外した時の酸欠および細菌感染のリスクがない、吸引カテーテルの機能を備えたカフつき気管カニューレを実現したことが評価された。
―貴社の技術の特徴について、教えてください。
何らかの理由で口呼吸できない人が、喉に穴を開けてチューブから呼吸する時、口に溜まった唾液や痰がつまって呼吸できなくならないよう、普通はカテーテルを用いて、唾液や痰を昼夜問わず頻繁に取る必要がある。しかし、カテーテルを用いることは、細菌感染や人工呼吸器を外した時の酸欠のリスク、カテーテルによる気管粘膜刺激の苦痛など、患者・介護者双方にとって苦痛や負担が大きかった。
そこで我々は大分協和病院と共同で、カテーテルを使わずにチューブの孔から唾液や痰を吸引できる特許技術を開発。まだシステム全体ではないものの、苦労の末、薬事法による承認も受けた。技術的な特徴は、チューブの外側でなく内側に孔を開けた点。これにより気管粘膜を吸い込むことなく安全に吸引できる点がポイント。
―なぜ貴社だけが、そのような特徴ある技術を実現できたのでしょうか?
当初はかなり長い期間、外側と内側の両方に吸引孔を設けていた。しかし外側に吸引孔があることで、万が一でも気管粘膜を吸引し出血したら大変だ。安全性を追求し、様々なテストを繰り返した結果、外側の孔を無くして内側だけにしても、吸引効率が下がらないことや、その理由も明らかになった。
―なぜ内側の孔だけでも吸引効率は下がらないのですか?
吸収孔は外側にあった方が効率が良いと普通は思うが、実は、痰は動かないものではなく、呼吸によって非常に動く。呼気の流れによって痰や唾液も一緒に流れていくため、勝手に孔の中へ入る。よって内側だけに孔があれば十分なことが明らかになった。単純な話だが、ここに辿り着くまでには、様々な試行錯誤があった。
◆人体に近い血管モデルを開発し、医師の吻合訓練に貢献
/テクノ・キャスト(宮城県大崎市)の曽根千枝子さん
【東北経済産業局長賞】
「臨床手技向上等に寄与する生体近似臓器(軟組織)模型の開発」
含水性ポリマー素材(PVA-H)による独自の中空技術を確立し、今までにないフレキシブルで湿潤性を有し、かつ生体物性に近い0.5~5mmのPVA-H製微小口径血管モデルを開発した。この血管モデルによって、より実際に近い臨床トレーニングが可能となり、微細血管の吻合訓練などの手技向上に大きく貢献している点が評価された。
―貴社の技術の特徴について、教えてください。
医療の先生方が血管を縫い合わせる練習をする時、従来はシリコンやブタの血管などが利用されていたが、我々は含水性ポリマー素材を用いて、より人体に近い血管モデルを開発した。血管モデルの太さは0.5mmから5mmまであり、先生方のニーズに合わせて販売。太さの異なる血管を縫い合わせる練習などにも役立っている。
―そのような特徴ある技術を実現できた、貴社ならではの強みとは?
堤定美博士(京都大学名誉教授)との出会いが今につながっている。堤博士から含水性ポリマー素材でいろいろな応用が可能であることを教えてもらい、血管のほかにも臓器など、様々なトレーニング用生体模型をつくっている。
―ありがとうございました
コラボレーション
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