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2017年 10月 21日 (土)

【取材レポート】東北大生態適応GCOE 国際フィールド実習(中国) 取材・写真・文/大草芳江

2010年10月28日公開

 東北大学「生態適応グローバルCOE(GCOE)」が先月、中国にて実施した学生(博士課程)対象の「国際フィールド実習」に同行取材した結果をご紹介します。

 東北大学生態適応グローバルCOE(GCOE) は、「生態適応人材(Professional Ecosystem Manager:PEM)」プログラムの実践科目として、9月15日から22日までの7日間、中華人民共和国(宜昌・西安・南京・無錫・上海)にて国際フィールド実習を行い、博士課程後期学生ら11名が参加しました。PEMとは、生態学や環境学に関する高い専門性を持ち、実社会で環境問題に対応し解決していく人材の育成を目的に、本GCOEが新設した資格です。

 今年度の国際フィールド実習は、工学研究科の西村修教授がコーディネーター役を務め、中国の「水」環境に焦点を当てた実習が行われました。西村教授は「環境激変の今、課題に対する解決方法を誰も持っていない。しかしながら、論理性は磨くことができる。水に関する問題が多発している現実を目の当たりにし、まずは現場で感じてもらいたい」と本実習の意図を話しています。次世代を担う学生らが、中国の現場で見て感じたこととは何か。本レポートにてご報告します。

※詳細は、東北大学「生態適応グローバルCOE」WEBサイトをご覧ください。

1.世界最大の水力発電ダム「三峡ダム」周辺見学

 9月15日(水)早朝、一行は成田空港に集合し、上海市を経由して、湖北(こほく)省宜昌(ぎしょう)市へ向かいました。宜昌へ来た目的は、水資源と環境修復がご専門の重慶交通大学教授の楊清偉さんと面会し、長江中流域の三峡(重慶直轄市から湖北省宜昌市)にある世界最大級の「三峡ダム」を見学するためです。

 16日(木)は、楊さんの案内で、三峡ダム周辺を見学しました。まずは三峡ダムの歴史と役割について、楊さんからお話を伺いました。

 三峡ダムは1993年に着工、2009年に完成しましたが、構想は孫文が1919年に発表したとされています。現在も、発電ユニットや小さな船専用リフトなどを増設中で、2015年に100%完成する予定です。

 そもそもなぜダムはつくられたのでしょうか。三峡ダムの主な役割は、三つあります。一番の目的は、長江で頻発する洪水防止のため。二つ目は、水力発電のため。三峡ダムだけで、中国の年間消費エネルギーの約1割を賄う発電能力があります。三つ目は、船舶の運航のため。三峡ダムは、宜昌から重慶までの水運に大きな利便性をもたらすそうです。

【写真】展望台から眺めた三峡ダム。大型重力式コンクリートダムで、堤体の長さは約2キロメートル、高さは185メートル。通常水位は175メートル。

【写真】三峡ダムに付随して作られた船舶航行用の閘門(こうもん)。水面の高さを上下させ、落差のあるダム上流側・下流側の行き来を可能にする。

【写真】三峡ダムの貯水地には、1日30tにもなる大量のゴミが堆積していた(写真中央の陸地のような部分がゴミ)。中国政府は莫大なコストをかけてゴミを回収している。

【写真】楊さん(写真中央)に質問する学生ら(写真右)

 しかしながら、その一方で、水質汚染や生態系への悪影響など、ダム建設に伴う様々な問題も指摘されています。

 ダム建設に伴うマイナスの影響について、楊さんは、植物などの水没被害や土砂堆積、人為的な水位上昇による地すべり・がけ崩れ発生の危険性などを挙げていました。

 さらに、三峡ダムの貯水池は、宜昌市街の上流から重慶市街の下流まで約660kmにも渡ります。人為的な水位上昇によって増加した蒸発量は、降水量を増やすなどして、気候にも影響することが考えられるそうです。

 このほか、現地出身のガイドは、「三峡ダムは我が国の誇り。三峡ダムのおかげで安全になった。けれども三峡ダムの建設によって、報道はされないが地震が増えた。長江下流域の湖南省では、水質が悪化し水不足になった」と話していました。

 また、中国の代表的な生物で、長江に生息する回遊性大型魚類「カラチョウザメ」は、ダム建設によって回遊経路が遮断され、従来の産卵場までたどり着くことができなくなると同時に、生息環境の悪化によって個体数が激減したそうです。

 そこで一行は、カラチョウザメ保護のため宜昌に設けられた「カラチョウザメ研究所」も見学しました。カラチョウザメの人工繁殖と放流に力を入れる同研究所には、展示施設も併設されており、一般にも公開されていました。

【写真】カラチョウザメ研究所の外観

【写真】カラチョウザメ研究所の展示施設で説明を受ける学生ら。手前がチョウザメ

【写真】同研究所所長で三峡ダムに関する資料集『雄大な三峡ダムプロジェクト』著者に、三峡ダム建設前後の様子について話を聞く学生ら


【学生インタビュー①:三峡ダムを見学して】

 三峡ダム周辺見学後、学生らが率直に感じたことについて、インタビューしました。

◆ 環境への影響懸念 / 手塚あゆみさん(生命科学研究科)

 スケールの大きさを目の当たりにして、まずは「すごい」の一言。しかし、やはり環境への影響が気になる。例えば、ダム建設によって三つすべての河川が潰されてしまったが、生物の動きが完全に遮断されないよう、一つだけでも河川を残すなどの配慮があっても良かったのではないだろうか。
 また、三峡ダムのパンフレットには、野生生物の保護区をつくることで貴重な植物の水没を避けるなど、「対策は完璧だ」という書かれ方がされているが、ダム建設によって気候が変化すれば、その前提も崩れるかもしれない。
 大がかりな国家プロジェクトのため、なかなかデメリットを言えない政治的な背景もあるのかもしれない。ダム建設によって考えられるマイナスの影響が、一般市民に報道されているのかどうか気になる。

◆ ダム建設に反対できないと実感 / 坂本裕紀さん(生命科学研究科)

 現場を見る前までは、生態系へのダメージや住民の強制移住など、ダム建設の"罪"の側面を強く感じていた。しかしながらフラットな視点を心がけて現場を見てみると、中国ではダム建設による治水や利水など"功"の側面を強く感じた。中国政府の戦略的な宣伝のためなのかもしれないが、中国人が三峡ダムを誇りに思うのも理解できる。
 日本では「脱ダム宣言」などの動きがあるものの、中国はまだインフラ整備中の段階。これまで日本もさんざん環境を破壊しており、中国と日本のフェーズの違いを考えれば、そう簡単には反対できない問題だと感じた。

◆ 予め環境への影響を評価する必要あり / Hernando Bacosaさん(環境科学研究科)

 環境に対するマイナスの影響もあるが、水力発電の発電量も多く、二酸化炭素排出も少ないことを考えると、メリットの方が大きいと感じた。その一方で、祖国であるフィリピンの大型水力発電ダムでは、環境変化によって以前より乾季が長くなった影響で、水位が下がって発電できなくなる問題も起こった。ダム建設による環境への影響を予め評価することが大切だ。

◆ 理解できる反面、今後の影響を考えてしまう / 平瀬祥太郎さん(農学研究科)

 「すごいもんつくるなぁ」というのが、率直な感想。これだけの規模のダムをつくるのに、多くの人々が関わってきたのだなと感じた。自然環境への影響を考えてしまうが、これだけの人がいれば、洪水防止や電力供給などを目的とした国プロジェクトとして、あっても良いのではないかと、モチベーションは理解できる。
 しかしながらダム建設は、もとには戻らない不可逆的な活動。例えば、自分の専門分野から考えると、各地域にいる生物を人為的につなげた時、遺伝的に本来違うものが混じってしまう影響などが考えられる。これだけ大きなものをつくって、この先どのような影響があるのだろうと、やはり考えてしまう。

◆ 養殖と放流、遺伝的多様性への影響が心配 / 早坂瞬さん(農学研究科)

 カラチョウザメ研究所では、養殖した魚を放流していたが、環境への影響を考えると、養殖と放流は別々に考える必要があると思う。養殖の場合、病気になりにくいなどの特徴を親の形質に求めるため、遺伝的に偏りができる。そのため遺伝的多様性の低い養殖ものを放流することで、天然ものへの影響が考えられる。その辺りについて、中国の市民はどのように考えているのだろう。東南大学との学生らのディスカッションで、市民感覚を是非聞いてみたい。

◆ 同じ過ち繰り返さず発展できる方法議論したい / 木村幹子さん(生命科学研究科)

 日本は経済を優先し、環境を破壊してきた。中国が、日本と同じ過ちを繰り返す必要はない。中国に「発展するな」と言うのではなく、中国はこれから発展する強みを活かして、昔の日本と同じ道を辿らずに発展できる良い方法はないのか、若い世代同士で議論したい。

次へ 2.生態系の力を利用した水質改善システム見学



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