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2017年 04月 30日 (日)

【研究室訪問】新博士インタビュー(東北大学総長賞・物理学専攻賞)

2010年03月31日公開

新博士の講演会・祝賀会のようす=東北大学大学院理学研究科物理学専攻

 大学院の博士課程に在籍し、学位論文に合格することで取得できる、日本の最上位の学位・博士(はくし)。

 東北大学大学院理学研究科物理学専攻では、新しく誕生した博士による講演会と祝賀会を2007年度から開催している。青木専攻長は「研究のプロ誕生を皆でお祝いするパーティー。日本の科学技術の将来を担ってほしい」と新博士への期待を語る。

 講演会は、フィギュアスケートに例えれば、エキシビションにあたるもの。先月東北大学で行われた講演会では、専門の異なる人でも理解できるよう、新博士14人が講演し、続いて祝賀会が開催された。

 生まれたての博士は、どのようなことを感じながら、研究生活を送っていたのだろうか。今年度の「総長賞」「物理学専攻賞」を受賞した新博士3人に、深く印象に残っていることを聞いた。


新博士(総長賞・物理学専攻賞の受賞者)に聞く

【総長賞】中山耕輔さん・インタビュー

博士論文題名:角度分解光電子分光による銅酸化物高温超伝導体バルク電子構造の研究
指導教員   :高橋隆教授(光電子固体物性研究室)

―総長賞受賞おめでとうございます。まずは、喜びの声をお聞かせください。

中山耕輔さん

 非常に光栄な賞をいただき、うれしいとともにありがたく思っています。博士課程では、指導教官の高橋先生はじめ多くの先生方にお世話になりました。先生方のご協力に対して、恩返しができたのではないかと思います。

―ご出身はどちらですか?いつからこの研究室に所属していますか?

 秋田県出身です。学部4年生から、この研究室に所属しています。

―6年間の研究生活を振り返り、率直に感じることや、深く印象に残っていることは何ですか?

 この研究室に入って良かったなと、いつも思っています。僕は「超伝導」の研究をしているのですが、超伝導体を装置で調べようとすると、非常に高い分解能で精密に測定する必要があります。そのような研究ができる装置は限られており、国内でも数える程しかありません。そんな中、この研究室は高い分解能を持つ装置の開発を推し進めており、他にはできない研究ができます。自分がやりたい研究をでき、非常に幸運でした。

 この研究室には、そのような装置が三台あります。幸運にも僕は、三台目の装置を一からつくることに携わることができました。自分で一からつくることで、装置に対する理解が深まったことは大きかったですね。例えば、実験中に装置の調子が悪くなった時も、いろいろ思い当たるところが出てきます。将来的にも絶対に役立つ経験だと思います。

 そして、僕が博士課程在学中の2008年、東京工業大学の細野先生によって新しい高温超伝導体が発見され、世界中がその話題で非常に盛り上がりました。そんな中、共同研究者からいただいた超伝導試料を我々の装置で測定し、超伝導体を特徴付ける「超伝導ギャップ」を世界で初めて直接観測できました。世界的な盛り上がりの中、このような研究に携わることができ、非常に幸運でした。

―では、研究内容について教えてください。そもそも「超伝導」とは何なのか、なぜ世界中の研究者が高温超伝導体に注目するのか、そのような中で中山さんの研究はどのような位置づけにあるのかも含め、ご説明をお願いします。

 そもそも超伝導とは、電気抵抗がゼロになるという現象です。例えば、超伝導体で電線をつくれば電力のロスがなくなりますし、最近では、超伝導体でつくった電磁石をリニアモーターカーの推進力として積む等の応用が検討されています。

 ところが実際の応用を考えると、超伝導になるまで冷やす装置をつくる必要があり、コスト面等で非常に大変です。そのため、なるべく高い温度で(※)超伝導体にすることが求められており、それについてこれまで研究されてきた年表が、こちらの図です。

※なるべく高い温度:高温超伝導における高温とは、安価な液体窒素で冷やせる程度の-200℃~-100℃くらいを言う。超伝導は当初、絶対零度(0K=-273.15℃)近くまで冷やさねば起こらず、冷却には高価な液体ヘリウムが必要だった。


新型鉄系高温超伝導体の超伝導機構(提供:東北大学大学院理学研究科物理学専攻光電子固体物性研究室)

 この図は、超伝導体になる温度について、年表のようなものです。銅と酸素を含むこちらの物質(銅酸化物:左下図のうち緑の丸で点を打ったもの)で、超伝導になる温度(超伝導転移温度:Tc、単位はK ※)が急激に上昇したのが約20年前のこと。もともと僕は、この銅酸化物について研究していました。そんな中、先述の通り、2008年に鉄を含む高温超伝導体が発見されました。では実際に、この鉄系超伝導体は、銅酸化物超伝導体の超伝導転移温度を超えるかどうか。世界中の研究者が注目して研究を始めました。

※K(ケルビン)とは、絶対零度(-273.15℃)をゼロとした単位。160Kは約-113℃。

 そもそも超伝導体では、その中を動いている電子がふたつで対(ペア)をつくり、このように動き回っています(クーパーペア:図右上)。そして、これらの電子がどのようにして対をつくるのかが、超伝導転移温度の高さとも関係しています。

 要は、電子がこのような対をつくれば超伝導になれるのですが、どのようにして高い温度で対をつくっているかや、対をつくるもとのエネルギーは何か等を、明らかにしたいと考えています。これが将来的には、より高い超伝導転移温度をもつ物質をつくる指針になることを期待して研究しています。

―具体的にはどのような実験手法で調べているのですか?

 電子が対をつくる強さと、超伝導になる温度は、かなり密接に関係しています。電子がくっつく力は何かを明らかにするためには、どのような強さでくっついているかを調べるのが、一番良い方法です。それを調べられるのが、私たちが行っている「光電子分光(こうでんしぶんこう)」という実験手法です。

 光電子分光とは、電子の対を破壊し、それにどれくらいのエネルギーが必要だったかを調べれば、もともと電子がどれくらいの強さでくっついていたかがわかる方法です。この実験手法を用いて、それらを実際に測定し、世界で初めて明らかにしました。

 ただ、博士論文ではこの成果は入れずに、もともと研究していた銅酸化物の結果をまとめました。銅酸化物に関しても、なぜ超伝導になるのかメカニズムは明らかになっていません。これまで研究していた銅酸化物も、2008年に発見された鉄系も、どちらも高い温度で超伝導になる物質ですので、比較も重要だと思い、並行して研究していました。

―では博士論文では、どのような成果をまとめたのですか?

 僕が銅酸化物で見たことは、どうも超伝導転移温度よりも、実際はもっと高い温度で電子はペアを組んでいるだろう、ということです。これまでの超伝導体では、電子がペアを組んで超伝導体になる、ということが同時に起きていたのですが、どうも銅酸化物では違っているようなんです。

 実際には、超伝導転移温度よりも高い温度から電子はペアを組んでいるので、もっと高い超伝導転移温度を目指せる可能性もあります。もしかすると、電子がペアを組んでも超伝導にならないよう、何か阻害しているものがあるのかもしれません。ですから阻害しているものを取り除くことで、超伝導転移温度を上げることにつながる可能性もあります。その辺りはまだ研究しなければならないところです。

―超伝導転移温度よりも高い温度から電子はペアを組んでいるとのことですが、具体的には、どれくらいの温度なのですか?

 おそらく、室温くらいから電子はペアを組んでいるのです。銅酸化物の超伝導転移温度は160ケルビン(※約-113℃)なので、その2倍くらいですね。博士論文の成果としては、超伝導機構を理解するのに重要な結果だと思っています。

※K(ケルビン)とは、絶対零度(-273.15℃)をゼロとした単位。

―研究生活のなかで、いつも心に思っていたことは何ですか?

 恵まれた環境の中、今できるうちにやりたいことをいっぱいやってしまおう、といつも思っていました。一生懸命実験をしていたな、と思います。しかも、世界中の研究者が超伝導の研究をしているので、競争も激しいんです。自分が持っていたデータを、他の研究者が先に報告してしまうような経験もしました。

 その時は、本当に悔しかったですね。次は自分が最初にやろう、と強く思いました。特に、鉄系の高温超伝導体が見つかったばかりの頃(2008年)は、1日、2日の勝負でしたね。そのときはもう、研究室総出で実験していました。まさに世界の研究最先端を味わうことがでました。

―これからの進路について教えてください。

 研究者として進むことを考えています。来年度は博士研究員としてこの研究室に残る予定です。

―最後に、後輩へメッセージをお願いします。

 今できることを一生懸命やる、ということしかないですね。それが自分は重要だと思っています。

―ありがとうございました。


一から建設に携わった装置で研究中の中山さん


【物理学専攻賞】阿部伸行さん・インタビュー

博士論文題名 : らせん磁性強誘電体における電気分極の磁場による制御
指導教員    : 有馬孝尚教授(強相関固体物性研究室)

―専攻賞受賞おめでとうございます。まずは、喜びの声をお聞かせください。

阿部伸行さん

 とても嬉しいです。ただ、研究は私一人でやったわけではなく、いろいろな方と共同研究してやってきたものです。そして研究の過程では、先生や他の研究者の方々にいろいろなことを教えていただきました。ですから、感謝の気持ちの方が大きいですね。

―ご出身はどちらですか?いつからこの研究室に所属していますか?

 横浜国立大学を卒業後、修士1年からこの研究室に来ました。

―5年間の研究生活を振り返り、率直に感じることや、深く印象に残っていることは何ですか?

 自分が考えていなかった現象が起きることが、おもしろいですね。研究はある程度の目的をもって進めるものですが、予測と全然違う結果が出たときの方が、わくわくします。

 もちろん研究では、ある程度の目標をもって調べますが、あまり自分の先入観で実験を進めるのではなくて、出てきた結果を謙虚に見るところから、私の研究成果が出てきたということです。これも先生方に教わったことですね。

―研究生活では紆余曲折もあったかと思います。そのなかで心掛けてきたことは何ですか?

 どんどん新しいことを取り入れること、新しい分野に踏み込んでいくことです。研究の段階に応じていろいろな研究手法をとっていくのですが、新しいことに取り組む時は、どんどん自分から取り組んでいこうと、いつも思っていました。

 もちろん研究では、悩んだこともたくさんあります。けれどもそこで止まっていると、どんどん気持ちが下向きになってしまいます。やはり自分から動いていかないと、苦しい状況は打開できないな、と思っていました。

―博士過程に進んだ理由は何ですか?

 研究が楽しいというのが、一番の理由だったと思います。博士過程で学ぶメリットは、自分で考える習慣ができること。物理の勉強はもちろんですが、研究のプロセスを学ぶことができます。

 新しい現象に対してどのように取り組んでいけばよいか等、概念的なものを学ぶことができると思います。あとは、チャレンジングな事にも進んでいけるようになったと思います。

―これからの進路について教えてください。

 この研究室の助教になる予定です。

―最後に、後輩へメッセージをお願いします。

 何でも興味を持って物事を見ていくことが大事ということは伝えたいなと思います。

―ありがとうございました


研究中の阿部さんのようす


【物理学専攻賞】石渡弘治さん・インタビュー

博士論文題名 : 超対称模型における暗黒物質崩壊を起源とする宇宙線の研究
指導教員    : 諸井健夫准教授(素粒子・宇宙理論グループ)

―専攻賞受賞おめでとうございます。まずは、喜びの声をお聞かせください。

石渡弘治さん

 このような光栄な賞をいただけたこと、研究を評価していただけたことを嬉しく思います。けれども正直なところ、博士号をとっても賞をいただいても、実はあまり充実感や達成感を感じていませんでした。博士論文を書く過程では「あぁ何もわかってない、今まで僕は一体何をやってきたんだろう」と思う事だらけ。ですから博士論文をパスして、ほっとしたのは確かですが、「まだ何もやってないなぁ」という気持ちの方が強かったですね。

 けれども数日前に実家へ戻り、専攻賞の賞状とメダルを両親に渡したときのこと。父も母も喜びを素直に表現して褒めるタイプではないのですが、喜んでくれているのがわかり、うれしかったですね。 僕も少しは自分に自信を持ってもいいかな、という気持ちになれました。

―ご出身はどちらですか?いつからこの研究室に所属していますか?

 学部4年生から、この研究室に所属しています。出身は福島県です。

―6年間の研究生活を振り返り、率直に感じることや、深く印象に残っていることは何ですか?

 希望する分野に進んだものの、思ったより辛いことが多かったですね。研究者になる前提で大学院に進学しましたが、研究者として研究を続けようと思えば着実に成果を出す必要がありますし、勉強しなければならないことがたくさん出てきて圧倒されました。

 普段の作業は、机の上で計算したり論文を読んだり、本当に地味なんです。それらの積み重ねがひとつの成果として形になるわけですが、それまでは形になるかどうかもわかりませんし、9割方はほぼわからない状態が続きます。ただでさえ同世代が働く中、学生を長くやっていることに後ろめたさも感じますし。苦しい日々でしたね。

 実は修士課程修了後、一度辞めようと思って就職活動をしたんです。けれども相談相手の父や姉に「研究をはじめて、まだ3年。決断するには早いのでは」と言われ、確かにそうだと自分でも考え直しました。今焦って就職しても、博士号を取得してからの就職と、たかが2年の違い。「人生50年を振り返れば、2年半の遅れも大したことないよ」という父の言葉にも後押しされ、とりあえず先のことを心配するのはやめよう、と決めました。

 研究者になるにしても、自分がおもしろいと思った分野で、今できる目の前のことをひとつひとつやっていこうと気持ちを切り替えました。「研究者になるためには、こうでなければいけない」と集中しすぎると、研究自体がおもしろくなくなってしまう、と感じたからです。もちろん、それだけで能力が上がるわけではありませんし、知らないことは未だにたくさんあります。けれども気持ちの面では、かなり違いましたね。

―「思ったより辛いことが多かった」状況をどのように乗り越えたのですか?

 目の前の今できることに集中することもひとつです。けれども、あっちこっち行ってぶつかり、凹むことがしょっちゅうだった自分にとって、話ができるいろいろな場所があったことが非常に大きかったですね。研究とは直接関係ないのですが、例えば、家族や友達に愚痴ることで自分の状況が整理されたり、ティーチングアシスタント(TA)で後輩に物理を教えるときに自分の原点を思い出したり。

 ほかにも、体のトレーニングをしていました。高校生の頃までは、気合いで頑張れば何とかなると思っていました。トレーニングは頑張れば頑張るほど、目に見える成長を実感できます。トレーニングを通じ、忘れがちだった根性や気合いを思い出しましたね。

 けれども大学・大学院と進むうち、一人ではどうにもならないことも出てきます。辛い時つい閉じこもる癖がありますが、そんな時こそ外に出て行くことが絶対必要だと身をもって実感しました。やはり、身のまわりに話を聞いてくれる人がいたことが大きかったですね。

―これからの進路について教えてください。

 研究者としての道を進みます。日本学術振興会特別研究員として、東京大学の宇宙線研究所にポスドク研究員として所属します。その半年後には、アメリカに行きます。

 つい先日、実家へ戻った時、高校の物理の先生と飲みに行ったのですが、そこでも博士号取得と進路先が決まった報告をしました。先生も喜んでくれ「あぁ、あの時、辞めないでよかったなぁ」と思いましたね。

―最後に、後輩へメッセージをお願いします。

 人に感謝しながら、頑張ることが大切だと思います。

―ありがとうございました。


研究中の石渡さんのようす


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