取材・写真・文/大草芳江
09年06月18日
日本は資源がない国。人間の脳みそで頑張るしかない
星宮 望 Nozomu Hoshimiya
(東北学院大学学長、学校法人東北学院院長、東北大学名誉教授)
1941年生まれ。東北学院高校卒業。東北大工学部電子工学科卒業。同大学院電子工学専攻博士課程修了後、東北大助手、東北大助教授、北海道大教授、東北大教授を経て、2004年より東北学院大学学長、2007年より学校法人東北学院院長に就任、現在に至る。機能的電気刺激(FES)研究に関する、日本の第一人者。
「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします
脊髄損傷で手足の自由を失った患者に対し、手足の筋肉に直接、電気刺激を与えることで
失われた機能を回復させる「機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation FES)」。
このFES分野研究における、世界三大ルーツのひとつが、ここ仙台である。
現在、東北学院大学学長・東北学院院長の星宮望さんは、FES研究に関する日本の第一人者だ。
しかし発表当時、独創的な本研究は「学会で馬鹿にされ」、「約10年間、研究費がもらえない状況」だった。
それでも、オリジナルを貫いた星宮さんの原点とは何だったのか。
星宮さんがこれまで生きてきた軌跡から、星宮さんという「人」から見える「科学とは、そもそも何か」を探る。
東北学院大学学長の星宮望さんに聞く
―単刀直入に伺います。「科学って、そもそも何ですか?」
それは、すごく難しいんじゃないでしょうか。
そうするとやはり、あなたの言うように、
子どもの頃から、なぜそのように進んできたのか、
というのが大きいんじゃないかな。
ある意味、原点と言うか。
「科学技術で飯を食うしかない」
―では、星宮さんの原点とは?
お話をいただいて、よくよく考えてみたら、
子ども心がついた頃、食べ物がなかったことが、非常に大きいですね。
私は、ぎりぎりの戦前生まれ。
4歳半の頃(昭和20年)は、
子ども心に、仙台の大空襲を覚えています。
父は海軍の航空機燃料開発の研究者だったのですが
日本の敗戦により、父がクビになりました。
その頃の生活が、一番苦しかったですね。
食べるものが、ありませんでした。
白いご飯を見たことがなかったのです。
白いご飯は、2年に一度だけ。おかずがないので醤油を少しかけて食べたら、
あまりに美味しかったので、半分は取っておいて、
それをコタツにしまっておいたら、数時間で腐っていました。
ものが腐るということを覚えたのは、その時です。
とにかく、食べ物がない。
それに体が弱くって、病気で小学校1年生を2回やっています。
「死ぬかどうか」と言われていた子どもでした。
その当時、子どもの頃から、
ずっと言われ続けてきたことがあります。
「日本には、資源も何もない。しかも戦争で丸焼けだ。
だから日本は、人間の脳みそで頑張るしかないのだ」
先生からも親からも、しょっちゅう、そう言われていたからね。
それが、やはり原点ではないでしょうか。
日本には資源がないわけだし、鉱物資源や石油はもちろん、
食べ物だって、輸入するお金が要るわけですね。
ですから小学校上級生くらいから、とにかくきちんとした頭を使って、
オリジナルのものをつくって、外国に売ってやらなければとても駄目だ、と。
科学技術で、日本を支えなければ駄目だと、そう思っていましたね。
私は数学や理科が得意だったから、自然にもう、
「科学技術で日本を支える」と思っていました。
おそらく、そこが原点だと思いますよ。
私は、小学校2年生から仙台に住んでいますが、
当時、仙台市内は丸焼けでした。
五橋中学校あたりから三越あたりを見ても、
残っているビルディングは、子供の目で見てふたつか、みっつだけ。
私が育った東北学院の赤レンガの建物は、
外枠だけが残って、中は丸焼けでしたからね。
やっぱり、科学技術で飯を食うしかない。
中学校くらいの頃には、そう強く思っていました。
今でも、それは構造的に変わらないと思いますよ。
オリジナルなものを考え出して、それを世に問うて、
世界全体からサポートしてもらって、
エネルギーや食料など、いろいろなものを外から買っていることは、
私が子どもの頃から、今でも構造的には変わっていませんね。
そういう意味では、オリジナルなものを出すことを大事にすることに、
最近の日本は、ちょっと重きを置いていないのではないか、と危惧しています。
オリジナルなものを大事にする仙台に育った
―星宮さんが、オリジナルを大事だと思うのは、なぜですか?
高校くらいになってから、先生や先輩から、いろんな話を聞いていました。
私は小学校で遅れていますから、遠回りはできないなと思っていました。
すると、ちょうどすぐ傍の東北大工学部の電気系が、ものすごいとわかりました。
私、電気が好きでしたからね。
近いうちに、エレクトロニクスをやろうと思っていました。
世界のアンテナ「八木アンテナ」や、
今は電子レンジになっている「マグネトロン」、
「磁気録音」などは、全部仙台で発明していますからね。
半導体は、アメリカとの貿易摩擦や半導体戦争があったけれども、
特に「磁気記録」に関しては、全部が日本オリジナル・仙台発でしょう。
磁気の方式から材料から、ほとんどが日本オリジナルですから、
磁気製品に関しては、貿易摩擦が起こったことがありません。
東京通信工業(現SONY)がうまくいったのは、
東北大学の電気工学科の教授だった永井健三先生が発明した
「磁気録音」の特許の功績が大きかったんですね。
永井先生が最終講義をする定年の年に、
ちょうど私は大学3年生で、直接講義を聞いていました。
永井先生が定年退職された後は、
実質、東北学院大学の初代工学部長になられた。
戦後の光通信、それから半導体の大先生である西澤潤一先生には、
マスター(修士論文)やドクター(博士論文)の審査をして頂きました。
西澤先生がちょうど教授になった頃の学生が、私でした。
私は、ずっとオリジナルなものを大事にする仙台に育ったし、
そうでなければ日本人は食べていけない、と今でも思っています。
そういう意味で、日本の教育に対して、
非常に疑問を持っているところがあるのです。
特に、中学・高校・大学の連携が、非常に悪い。
極端な例をあげますと、20年ほど前、半導体戦争がありました。
半導体はもともとアメリカで発明されたものですが、
日本でレベルが上がり、高性能の半導体メモリなどが格安で日本からアメリカへ輸出して、
アメリカの市場を席巻していきました。
そこに貿易摩擦が生まれ、アメリカで裁判になったのです。
そのときに日本を代表した人材が、非常に手薄だったわけですね。
なぜかと言うと、アメリカの法廷ですから、英語を喋れないといけない。
それに、法律もわかっていなければならない。
もちろん技術内容もわかっていなければなりません。
ところが、英語も喋れて、法律もわかって、技術内容もわかる人間は、
全日本に5人くらいしかいない、って言うんです。
だって、子どもの頃、文科系と理科系に分けてしまうでしょう。
幅の広い格好で、世界的に競争できる人が少ない。その典型例ですね。
当時、それを聞いて、非常にびっくりしたんですよ。
けれども、今でも状況は、同じか、あるいはもっと悪いと思いますよ。
それが、日本の現状ではないでしょうか。
「入りやすいから」といって、入試科目はどんどん減らすし。
高校の先生に言っても、「絞った勉強をさせたほうが良い」と言う。
絞った方が結果は出るけれども、
将来本人が伸びるように教育していないでしょう。
それはすごく良くない、と思っています。
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