学会で「できっこない」と馬鹿にされた 研究費がもらえない状態が10年間続く
そのようなことがあったので、大学を卒業して、
コンピュータなど、いろんなことをやろうと思いました。
1960年代、コンピュータが、将来、
ビジネスに使えるかどうかは、まだわからない時代。
大学を卒業して、たくさんの同僚が
「コンピュータ会社に行きたい」と言っていました。
私もコンピュータをやりたかったけどね、
でもそれに比べると、人間の脳はものすごく、すごい。
人間よりずっと小さな動物や昆虫でも、
すぐに学習をするし、自分の命を奪われる所へは行かないし、
美味しいものがあればそっち行って食べるしね。
せいぜい数十万個程度の神経細胞で構成される脳であっても、
非常に素晴らしいわけです。
そこで、生物の神経システムがおもしろそうだなと思いました。
そして、できれば人間が、何かハンディーキャップを背負った時、
「為す術がありません」と宣言されても「そうですか」で終わるのではなく、
エレクトロニクスを使ってチャレンジすれば、おもしろそうなことがありますよね。
そういうことがきっかけで、もともとは
「日本が国際的に負けないような技術をやらなきゃいけない」
というところからコンピュータへ行って、
コンピュータはすぐものにはならないわけだけども、
小さな昆虫にも素晴らしい神経システムがあるなと思ったので、
そういうことを勉強してみよう、となりました。
けれども、はじめはもちろん、順調にはいかなかった。
ちょうど私が、半導体関係のデバイスの特性を研究し、
非常に小さい信号を計測するための設計方法で博士の学位を頂いていました。
それが、生体の神経の活動などを測る技術に使えるのではと思っていたところに、
医学部の神経内科の大学院学生だった半田康延先生(現・東北大教授)が
「これからの神経内科を発展させるためには、電子計測を勉強しなければ」と、
週に1日くらい勉強に来ていて、一緒にゼミをしていました。
彼の神経内科には、慢性の呼吸不全の患者さんが大勢いました。
おとなしくしていれば、かろうじて生きていていても、
体を動かすと呼吸不全になって、顔が真っ青になってしまう。
そこで「すでに心臓ペースメーカーはあるわけだから、
同じように呼吸ペースメーカーができても不思議ではないのでは」
と素朴に思ったわけです。
やってみると、おもしろそうだし、
調べてみると、どこでもやっていない。
そこで文献を、半年から1年くらい調べてみると、
可能性がありそうなので、装置をつくりました。
当時はコンピュータなんてありませんから、
トランジスタをひとつひとつ組み合わせた電子回路で電気刺激装置をつくりました。
呼吸ペースメーカーです。
人工的につくった呼吸不全の犬を、この呼吸ペースメーカーで元気にさせる動物実験を行い、
その論文を1970年前半に、国内・国際学会に出したりして、
一応、記録には残ったんですね。
けれども学会に新しい研究成果を出しても、みんなに馬鹿にされて。
だって、「神経」にさわることはタブーですよね。
技術的にも、できっこない。
神経なんて、さわっちゃいけません。
「神経に触って電気刺激するなんて、愚かなことはやめろ」
とまさに神経質に(笑)、ずっと言われ続けてきたわけです。
それから約10年間にわたって、研究費がもらえない状態が続きました。
いくら科研費を文部省に申請しても、厚生省に申請しても、
1円ももらえませんでした。
それに国の研究費は、教授が握っていますからね。
教授にとって優先順位が高い研究をやっているから、
「これだけ(研究費を)使え」って、簡単には言ってくれません。
学生をいっぱい預かっていますから、
お金がないところでどうするか、工夫ばっかりでね、
それで10年近くがまんしてやっていました。
そのうち、少しずつ認められきて、論文も評価されて・・・
けれども、お金がつかない。
たまたま半田先生がドイツへ行ったり、私がスウェーデンへ行ったりして、
少し研究の中断があったけれども、あれは1980年頃のでした。
信州大学医学部の助教授をしていた半田先生が、
週に一度、神経内科医として郊外の病院へ行っている間に、
ある患者さんにめぐり会ったのです。
その患者さんは、自宅の2階から階段を転落して首の骨を折り、
頭脳明晰で言葉も喋れるけれども、脊髄の神経が傷ついたことで、
両手両足が全く動かなくなっていました。
当時、治す手段はなく、「一生駄目だ」と宣告され、
朝起きてから寝るまで何にせよ、奥さんが世話をしている状態でした。
けれども、神経は生きているわけです。血液は流れているわけです。
問題なのは、神経が切れていて、脳からの命令が伝わらないこと。
それをエレクトロニクスでバイパスしてやって、
主要な筋肉を刺激してやったら、原理的には動くわけですね。
そのとき、私と10年近くやっていた、
呼吸ペースメーカーの技術が使えるかもしれないと半田先生が考え、
共同研究を再開したのが、1981年のことです。
1982年に私は北海道大学の教授として呼ばれました。
それまでは年間予算10万、20万を使えるか・使えないかの研究室でしたが、
北海道大学の附置研究所の教授になったので、
年間600万円くらいの研究費が確実に使えるようになりました。
この研究テーマを、北海道大学の私の研究室のメインテーマとして、
札幌と松本、約1000キロ離れたところで、共同研究をはじめました。
その頃になってきたら、世界中で私達とほとんど同時期に研究をはじめている連中が、
アメリカやユーゴスラビアにいることがわかってきました。
今みたいに、インターネットなどはありませんからね。
国際学会の論文を見たりして、90年くらいになって、わかってきたことです。
研究をやっている間に、少しずつ研究費ももらえるようになりました。
競争的資金の科研費も、毎年文部省からもらえるようになりました。
そうすれば今度は、旅費も自由に出せますから。
札幌と松本、行ったり来たりしていました。
ちょうどその当時、実用化されたばかりのファクシミリを買いました。
図などはすぐに送れます。隣に研究室があるみたいな感覚でしたね。
その頃からやっと、苦労して苦労して駄目だと思っていても、
まぁ何とかなるのかな、と。
ここ東北学院大学はクリスチャンの学校ですし、私もクリスチャン家庭の3代目。
子どもの頃から、聖書の言葉に親しんでいます。
「患難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生む」
ローマ人への手紙で、パウロが残している言葉で、
高校生の頃から座右の銘にしていた言葉です。
辛いことがあっても、あまりめげないでやりましょう、
というメッセージです。
たまたま運よく、後半は研究がうまく進展して、
私達がこの(機能的電気刺激の)分野に関する研究における
世界の三大ルーツ(仙台、アメリカ、ユーゴスラビア)と認めて頂き、
仙台でも、国際学会を二回くらい開催して頂きました。
NHKでも何回か全国放送されました。
有難いことに、科学技術を使うことで、
医学的に無理だと言われていた、両手両足が動かない人の手が、
我々のシステムで、世界ではじめて動いたわけです。
私はエンジニアですから、直接的に医療に従事することはないですけれども、
半田先生はお医者さんだし、患者さんたちと接することをずっとやっていました。
私達は、技術的なところや新しい方式を提案したりしました。
我々がいるとき、東北大でもマスターやドクターがいっぱい出ました。
コラボレーション
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