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2024年 11月 21日 (木)

既存の放射光施設を利用して企業が実地研修、宮城県が成果報告会

2020年01月23日公開

宮城県が主催した「第1回 放射光利用実地研修(あいちトライアルユース)成果報告会」のようす=1月22日、TKPガーデンシティ仙台(仙台市)

 宮城県は、既存の放射光施設を活用した実地研修の成果報告会を1月22日、仙台市内で開催し、中小企業や大学などの関係者ら約150人が参加した。2023年の次世代放射光施設(宮城県仙台市)稼働を見据え、利用促進につなげようと、県内企業を対象に、県が30万円を上限に放射光利用実地研修に必要な経費の3分の2を負担するもので、今年度採択された2社が成果報告を行った。研修は、愛知県にある放射光施設「あいちシンクロトロン光センター(AichiSR)」で行われた。

 報告会では、はじめに宮城県産業技術総合センター所長の大﨑博之さんが、「世界最先端設備が稼働し、社会的、科学的に高い成果が東北の地から生み出されることを期待している。分析ツールのひとつとして次世代放射光施設を身近に感じてもらいたい」とあいさつした。次に、宮城県の千代窪毅さんが、宮城県の次世代放射光施設に関する取り組みを紹介し、研修の概要について説明。研修の特徴として「1.初心者向けであること。2.モデルとするAichiSRには愛知県の公設試が隣接し、産業利用が約60%と高いこと。3.宮城県産業技術総合センターの職員によるサポートを受けられること」の3点をあげた。

あいちシンクロトロン光センターの産業利用コーディネーター砥綿眞一さんによる講演

 続けて、あいちシンクロトロン光センターで産業利用コーディネーターを務める砥綿真一さんが「AichiSR における放射光の産業利用」と題して講演を行い、設備の概要や利用方法等について説明を行った。また、産業利用の事例として酒造における放射光利用の例をあげ、放射光による酒造好適米のデンプン結晶構造解析や、酵母の品種改良等の事例を紹介した。


◆ 採択企業による成果報告

真壁技研の福田泰行さんによる成果報告「金属ガスアトマイズ粉末の内部観察」

 その後、採択された2社から成果報告があった。まず、真壁技研の福田泰行さんが「金属ガスアトマイズ粉末の内部観察」と題して発表。同社は、3Dプリンタの原料等に使われる金属ガスアトマイズ粉末内部に発生する空隙を減らそうと、放射光で空隙を観察した結果、定量的な評価ができた成果を報告。福田さんは「放射光施設のよさを体感することができた。次世代放射光施設の稼働が始まれば、積極的に活用していきたい」と述べた。

ケディカの成澤博文さんによる成果報告「高耐食めっき被膜の構造解析」

 次にケディカの成澤博文さんが「高耐食めっき被膜の構造解析」と題して発表。硬くて耐食性が高い高付加価値な表面処理法を開発するため、熱処理条件やリン濃度によるめっき被膜の構造変化を放射光で測定した結果を報告した。成澤さんは「最初は放射光という言葉を知らないくらい無知な状態だったが、装置の仕組みや特徴、用途、解析方法等まで丁寧に対応いただいたおかげで理解が深まり、解析の選択肢が広がった。今後も研修を継続し、東北の中小企業に放射光の門戸を広げていただきたい」と語った。

 最後に、企業のサポートを行った宮城県産業技術総合センターの小松迅人さんと曽根宏さんが、持込試料の準備から測定、データ処理等まで、実習のサポート内容について紹介。放射光施設を利用する際のポイントは、「放射光を使うこと自体が目的ではなく、何を解決したいのか、課題を明確にすることが大切」と口をそろえて強調した。また、質疑応答では、放射光施設利用時のサポート体制やコスト等に関する質問が集中した。


【主催者インタビュー】
 宮城県 経済商工観光部 新産業振興課 千代窪 毅 さん

― 改めて本研修の狙いと、成果発表会を実施しての所感を教えてください。

 東北・北海道は放射光施設がない地域ですから、企業が「放射光」という言葉を知らないのも当たり前です。身近ではない状況の中で、まず放射光を知ってもらうためには、実際に自分で放射光を使ってみること、しかも、人様のサンプルではなく自社のサンプルで測ってみることが重要と考えました。放射光では、普段の装置による測定とは異なる見え方が可能です。実際に、宮城県産業技術総合センターの装置でも見えない世界があることを、本日の成果報告会でも聞いて研修の価値を実感した次第です。

― 中小企業の方向けにメッセージをお願いします。

 「そもそも何を解決したいか」を明確にしなければ、せっかく放射光で素晴らしいデータを取得しても、その結果をどのように利用すればよいかがわからなくなります。ですから、「放射光について知ろう」というアプローチではなく、日頃の企業活動で困っていることをまとめ、課題を明確にするところからアプローチしていきましょう。

― 次世代を担う中高生へメッセージをお願いします。

 2023年に完成する次世代放射光施設は、単に東北初というだけでなく、世界的に見ても最先端の施設です。まずは見学して、どんな施設かを感じてほしいですね。そして、日頃、不思議だと思うことがあると思いますが、場合によっては、その疑問が次世代放射光施設で解明されるかもしれません。不思議だと思う気持ちをぜひ大切にしてください。

― 千代窪さん、ありがとうございました。


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取材先: 宮城県     

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