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2016年 07月 24日 (日)

【KDDI復興支援室×宮城の新聞 ♯002】生態学者の鈴木孝男さん(東北大学・助教)に聞く:「東北グリーン復興プロジェクト」 取材・写真・文/大草芳江

2013年7月29日公開

干潟の生きものたちは、僕らの財産

鈴木 孝男 TAKAO Suzuki
(東北大学大学院生命科学研究科 助教)

KDDI復興支援室×「宮城の新聞」コラボレーション連載 ♯002
~東北復興の今、そして日本の未来のカタチ~

 生態系からの恵みを活かして、人・海・田んぼ、そして森のつながりから復興を考える「グリーン復興」。これからも繰り返されるであろう地震・津波に備え、地域の豊かさを支える生物多様性の回復を促すことが、より確かで持続可能な復興につながるという考え方だ。

 干潟に住む底生生物の調査・研究を行っている生態学者の鈴木孝男さん(東北大学大学院 生命科学研究科 助教)は、市民参加型干潟調査手法を確立。大学・NPO・企業・市民で協働調査を行い、自然との共生に対する意識や市民の環境リテラシーを促進させ、それが持続可能な地域復興へとつながることを目指している。

 今回、東日本大震災で被災した、蒲生干潟(宮城県仙台市)と鳥の海(宮城県亘理町)で行われた市民参加型干潟調査に、記者もボランティアとして参加。震災の干潟への影響や現状、そして「グリーン復興」という視点から見える復興のあるべき姿について、鈴木さんからお話を伺った。

<目次>
震災前から干潟をずっと調査
市民参加型干潟調査手法を確立
自然の回復力に驚き
干潟が元に戻るために大切な3点
干潟の役割が我々にもたらす恩恵「生態系サービス」
干潟の生きものたちは、僕らの財産
僕らは、体の中に自然を入れておかなければいけない
体験してみなければ、わからない


―まず、自己紹介も兼ねて、ご専門や干潟との関係について、ご紹介ください。

■震災前から干潟をずっと調査

 主に、干潟の底生生物(カニや貝、ゴカイの仲間)に関する生態学の研究をしています。
 2002~2004年、環境省の事業で全国の干潟調査が実施され、僕ら底生生物の研究者が、全国157箇所の干潟を調査しました。このうち、東北の南半分を僕が担当しました。この時初めて、全国の干潟が全て同じ手法で調査され、約1700種の底生生物について、良いリストができました。

 2008年には、宮城県レッドデータブック掲載種の見直しが行われ、10年前にはリスト化されていなかった、沿岸部の底生生物も掲載されることになりました。そこで僕が分科会代表を務め、県内全ての干潟を皆で調査しました。そして2012年の完成に向けて、2011年2月の会議では、レッドリストに掲載する生物もほぼ決定し、残すは補足調査のみ、という、ちょうどその時に、津波が来たのです。ですから、津波直前の県内の干潟データが、全てありました。そのような経緯で、これまで近隣の干潟を、ずっと見続けてきたのです。

■市民参加型干潟調査手法を確立

【図】市民による干潟の底生生物調査のための手法を確立し、その手法を解説するために作成したガイドブック(著者:鈴木孝男、木村妙子、木村昭一、発行:日本国際湿地保全連合)。 市民参加型干潟調査手法のポイントは、①他地域と比較可能な、再現性のある手法であること、②未経験者でも取組みやすい手法であること、③調査用具が入手しやすいこと。

 そんな中、バードウォッチングや干潟保護の活動をする人たちが、「私たち市民でもできる調査手法はないだろうか」と考えていました。干潟保全の際、市民が自ら調査して、データを持つことができれば、開発側と渡り合うことが、できるためです。しかし、干潟に出現する底生生物の分類群は大変幅広く、それぞれの専門家でなければ、同定が困難な種も多いことから、なかなかきちんとした調査は実現できていませんでした。

 そこで、市民が気軽に調査でき、なおかつ、きちんと定量的になる市民調査の手法を、何とかつくれないだろうか。そう考えて、日本国際湿地保全連合と協力し合いながら、5~6年に渡る試行錯誤の結果、その手法をやっと確立。その解説ガイドブックを出版したのが、2009年のことです。

 そんなバックグラウンドがあった中、あの震災が発生したものですから、津波で干潟があちこちで壊れ、干潟の生物はどうなったのか、非常に心配でした。ただ、震災直後は、沿岸部の復旧や、行方不明者の捜索や瓦礫等々の問題があったものですから、すぐには行けませんでした。けれども、干潟の生きものはどうなっているかは、僕らが調べるしかない。そう思い、少し落ちついた頃の2011年6月から、あちこち歩いて、干潟を調査してきました。

―東日本大震災の発生直後、干潟はどうなったのですか?

■自然の回復力に驚き

【写真】市民による干潟の底生生物調査のようす=蒲生干潟(宮城県仙台市)

 干潟を見続けてわかったことは、干潟ごとに震災や津波の影響が大きく異なることです。津波で甚大な被害を受け、干潟そのものが無くなる程、大きな撹乱を受けた干潟もあれば、一方で、松島(宮城県松島町)など、津波の影響をほとんど受けなかった干潟もあります。

 東日本大震災で被災した蒲生干潟(宮城県仙台市)の場合、いったん干潟が壊れて、「干潟が無くなった」と思いました。ところが、震災後、わずか3ヶ月で砂がついたのです。「自然の力で、これほど回復するんだ」と自然の偉大さに驚きました。恐らく蒲生干潟は、過去これまでも数百年、千年に一度の津波が何度か来たと思われますが、地形的に、なるべくして干潟になる場所なのでしょう。

■干潟が元に戻るために大切な3点

【写真】堤防が設置されたことで、産卵場所に行くことができなくなったカニのために、移動対策として設置されたネット=蒲生干潟(宮城県仙台市)

 ただ、干潟が元に戻る時に、大きな問題として、次の3つが挙げられます。

①干潟環境が戻ること。つまり、潮の干満によって、干出し、水を被り、干出することを繰り返す、干潟環境が元に戻ること。

②干潟が戻っても、生きものが戻らなければダメです。生きものが干潟に戻るために、子どもを産む親(幼生の供給源)を守ること。

③干潟と海の繋がりを断ち切らないこと。干潟の生物は、プランクトンになって海へ渡り、また干潟に戻る種類がほとんどです。しかし、干潟と海の連絡網を考慮しないまま、復興事業によって堤防や護岸工事等が進められると問題です。

 以上3つが大切です。それを考えながら、どんな干潟が存在し、どう変化しているかを、つぶさに見て行く必要があると思います。

―そもそも干潟の生きものが元に戻ることは、なぜ大切なのですか?

■干潟の役割が我々にもたらす恩恵「生態系サービス」

【図】干潟の食物連鎖

 干潟には、たくさんの生きものたちが住み、川が運んでくる有機物などの汚れや水中のプランクトンなどを食べて育っています。そのため、水中や底土中の汚れが少なくなる=水質浄化の働きを、干潟は持っています。しかも、それらが食べられる貝や魚になるなど、干潟は、様々な生きものを育む場所でもあるのです。

 それから、稚魚や稚ガニなどの隠れ家、成長する保育所としての働き。渡り鳥が採餌し、休息する国際空港の働き。津波や洪水の被害をワンクッション弱めてくれる防災機能の働き。釣りやバードウォッチングなどのレクリエーションの場。美しい景観、精神的なやすらぎの場。生物多様性を実感する環境教育の場など。

 このほか、観光資源や漁業資源にも関わっています。また、干潟と触れ合いながら暮らし続けてきた人たちにとっては、かけがえのない存在でもあると思うのです。このように、干潟が持つ効能や働きは多岐に渡っているのです。

 しかし、干潟の役割の恩恵を我々が受けていることに、社会では気づいていない人が多いと思います。干潟が我々にもたらしてくれる恵みを、最近では、「生態系サービス」と呼び、その恩恵を経済的価値として可視化する試みも行われています。それを考慮しない復興の土木工事には、問題があります。

 干潟の大切さを伝えつつ、干潟を元に戻していくことが、沿岸部に住む人達の復興にも関わることを説明する必要性を感じています。そんな意味でも、市民ボランティアに調査に参加してもらいながら、色々な場面で情報発信することが必要です。

―それでは、これからについては、どのようにお考えですか?

■干潟の生きものたちは、僕らの財産

【写真】市民参加型干潟調査では、ガイドブック等を参考にしながら、干潟で採集した底生生物の種を同定していく。未経験者で同定が困難な場合は、現場で調査経験者が確認する。

 海の干潟の生きものたちは、自然の博物館です。水をきれいにする場でもあるし、生物生産性が非常に高い場でもあるし、生物多様性を教える場でもあります。それを、僕らの自然財産として、僕らが守らなければいけないのです。

 訪れて「きれいだな」と思う景観は、生きものたちがたくさんいるところです。逆に、生きものが住まなくなると、きれいではなくなります。植物・動物も含め、生きものがいると、泥やヘドロを処理するから、きれいになるのです。

 干潟・沿岸域をきれいにしておくためには、実際に、たくさんの人が訪れて、「きれいだな」「こんな生きものがいるんだ」「おもしろいな」と実感してもらうことが大事です。それが、干潟・沿岸域をきれいにしていくための手法だと思っています。そのためには、いろいろな媒体を通じて、干潟が大切な場所であることを伝えていくことも必要だと感じています。

■僕らは、体の中に自然を入れておかなければいけない

【写真】蒲生干潟で数多く見られたカワゴカイ類とコメツキガニ。

 僕らは、自分の体の中に自然を入れておかないと、いけないのです。小さな頃から、自然と切り離されて、コンクリートの中で育つ子どもも、たくさんいます。そういう人たちには、自然の息吹や大切さが宿らない。本当の暗闇の怖さや自然の怖さが、わからない。今は、自然に触れ合う機会を積極的にもうけなければ、自然になかなか触れ合えない、残念な状況にあります。

   「危険だから」が先になりがちですが、だからこそ水辺に行って、普通に遊ぶ中で、自然と生きものたちとの付き合い方も、体で覚えていけると思います。そんなことを学ぶ場として、干潟は危険も少ないし、いろいろな生きものも発見できるし、環境教育には大変良い場です。

 干潟は、稚魚の保育所であり、エビやカニのゆりかごであり、渡り鳥の国際空港でもあります。そんなことを、体験しながら、干潟を守っていくことが、大切だと思います。


【写真】今回の市民参加型干潟調査で見つかった干潟の生きものたち(一部)。上段左から順に、アサリ、ヤマトシジミ(準絶滅危惧)、ハマグリ(絶滅危惧II類)、オオノガイ(準絶滅危惧)、下段左から順に、ニホンスナモグリ、ガザミ、マメコブシガニ(準絶滅危惧)、コメツキガニ。震災前と比較して、干潟は回復しつつある。

―最後に、次世代を担う中高生へのメッセージをお願いします。

■体験してみなければ、わからない

 干潟の生きものたちを見続けている立場としては、一度、現場を見て欲しいです。その場に身をおいて、考えてもらうことが一番大切です。やはり、体験してみなければ、わからないですから。

 実際に中高生を干潟に連れていったことがありますが、ほとんどの学生は、泥の中を歩くことが初めての人ばかり。そういうことも、経験だと思います。

 世界の面積の3分の2を占める海の中を、まずは、実際に見てごらん。今までとは全然違う世界が広がっていることがわかりますよ。やっぱり体験してみることが、一番です。

―鈴木さん、ありがとうございました。

取材先: 東北大学      (タグ: , ,

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