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2017年 06月 27日 (火)

【KDDI復興支援室×宮城の新聞 ♯001】東北大学理事(震災復興推進担当)の原信義さんに聞く 取材・写真・文/大草芳江

2013年5月9日公開

東北復興、ひいては日本再生の先導を目指す、
歴史的使命がある。

原 信義  Nobuyoshi Hara
(東北大学理事(震災復興推進担当))

1951年生まれ、工学博士(東北大学)。1975年、東北大学工学部卒。1977年、東北大学工学研究科修了。1977-1990年、東北大学助手。1990-2003年、東北大学助教授。2003年-東北大学教授(大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 材料電子化学講座)。

KDDI復興支援室×「宮城の新聞」コラボレーション連載 ♯001
~東北復興の今、そして日本の未来の形を探るべく、復旧・復興に携わる「人」に聞くシリーズ~


東日本大震災の被災地域の中心にある総合大学として、
東北復興、ひいては日本再生の先導を目指す、東北大学。

震災直後の同学教職員による自主的な復旧・復興活動をベースに、
震災発生から約1か月後には「東北大学災害復興新生研究機構」を
立ち上げ、大学一体となって復興プロジェクトに取り組んでいる。

復興に取り組む中で見えてきた今、そして未来の姿とは何か。
東北大学理事(震災復興推進担当)の原信義さんに聞いた。

<目次>
大学に何ができるか。震災直後の東北大学の取り組み
①災害科学国際研究推進プロジェクト/文理融合型の世界的な災害科学研究の拠点へ
②地域医療再構築プロジェクト/東北を医療過疎地から医療最先端地域へ
③環境エネルギープロジェクト/次世代エネルギーによる災害に強いまちづくり
④情報通信再構築プロジェクト/東日本大震災で明らかになった情報通信の課題解決
⑤東北マリンサイエンスプロジェクト/地震・津波で海の環境や生態系はどう変化したのか
⑥放射性物質汚染対策プロジェクト/放射線被害の最小化へむけて
⑦地域産業復興支援プロジェクト/新しい産業をつくらなければ本当の復興にはならない
⑧復興産学連携推進プロジェクト/被災地企業と産学連携で研究成果を地域に還元
復興アクション100+
誰も取り組んだことのないことに取り組むということ
行政の手が届かない領域を大学が壁を越えて前へ
科学技術の進歩だけでは解決できない問題がある
創造的な未来へ


東北大学理事(震災復興推進担当)の原信義さんに聞く



Q. まず、東北大学として震災復興に取り組んだ経緯について教えてください。


大学に何ができるか。震災直後の東北大学の取り組み

◆東日本大震災で東北大学の被害800億円弱
 東日本大震災で、東北大学は非常に大きなダメージを受けました。学生は春休み中ということもあり、キャンパス内で亡くなったり怪我をしたりする人はほとんどいませんでしたが、帰省中の学生や新しく入学予定だった方3名が、津波で亡くなりました。また、建物と研究設備に大きな被害がありました。特に、青葉山キャンパスエリア(工学部・理学部・薬学部)一帯が非常に大きな被害を受けました。工学研究科では3つの建物が使用不可能となり、理学研究科の建物では火災が発生するなどの建物被害がありました。研究設備は約6000台の装置が壊れました。金額にして、建物と研究設備で800億円弱の被害です。

東北大学病院は、災害直後から被災地市町村と連携し、患者の受入れを行った(c)東北大学

◆震災直後の教職員による復旧・復興活動
 そんな中、震災直後から東北大学の先生方が、それぞれの専門分野で災害からの復旧・復興に貢献しようと、現地へ飛び出しました。例えば、大学病院は、被災地への医療物資の搬送、医師の派遣、患者の受入れ・搬送などを行ったり。地震や津波の専門家は、現地調査を行って情報発信をしたり。ロボットの専門家は、ガレキの上を移動できるロボットを使って貢献したり。放射線の専門家は、原発事故直後から福島にセンターをつくり放射線量を計測したり。いろいろな場所で多様な活動が行われました。このような取り組みの多くは、それぞれの先生方が個人あるいはグループとして行ったものでした。

◆東北大学は震災復興の先頭を走る歴史的使命がある
 大学全体として、復興へ向けた取り組みが必要ではないか、ということで、震災発生から1か月後の2011年4月、「東北大学災害復興新生研究機構」を立ち上げました。国や被災地域の県・市町村、関連するさまざまな機関や企業と話し合いながら、東北の復旧でなく復興のため、東北大学として何ができるかを検討したのです。東北大学は、東日本大震災の被災地域の中心に位置し、しかも唯一といえる総合大学ですから、復旧・復興に関係する学問・研究分野を全てカバーできます。そのような意味で、東日本大震災からの復興に対し、東北大学は先頭を走る歴史的使命があるのではないか。それが、私たちの一致した想いだったのです。

◆8つのプロジェクトと復興アクション100+
 その結果、8つの大型プロジェクトを計画しました。震災の年の2011年秋から国に支援していただいて始動したプロジェクトもありますが、多くは2012年春にスタートしました。今、8プロジェクトすべてが走り出しています。この他にも、東北大学の先生方がそれぞれ自主的に行っている活動が、2011年夏に集計した段階で、100以上ありました。それらをまとめて、「復興アクション100+(プラス)」と呼んでいます。大学全体の取り組みは、「8つのプロジェクトと復興アクション100+」に集約されています。


Q. 震災復興に対する取り組みについて、具体的にご紹介ください。


①災害科学国際研究推進プロジェクト
/文理融合型の世界的な災害科学研究の拠点へ

 今更申し上げるまでもなく、今回の震災は人類史上かつてない形の災害です。特に日本は、これまで繰り返し地震と津波の被害を受けてきました。しかし今回は、原子力発電所の事故という今から50年過去にさかのぼれば起こり得ないような事故が、自然災害に誘引されて起こった複合的な災害であり、まさに人類史上経験したことがないものとなりました。東日本大震災での経験と教訓を次へと繋ぎ、また確実に起こり得る大災害を、いかに防ぎ、被害を最小限におさえるか。それをきちんと科学としてやっていかなければなりません。

災害科学国際研究所のロゴマーク(c)東北大学

◆68年ぶりの研究所新設/災害科学国際研究所
 具体的には、その実施のため「災害科学国際研究所」(IRIDeS:International Research Institute of Disaster Science)を新設。IRIDeS(イリディス)はアイリス(あやめ)の複数形で、ロゴマークはあやめの花の形なのですが、上下逆さまにして見てみてください。「災(わざわい)」という字に見えませんか?「災い転じて、災害に賢く対応できる社会に変えていく」という決意を表しているのです。これまで東北大学として研究所の再編・統合はありましたが、完全に新しい研究所をつくったのは、68年ぶりのこと。この研究所の新設が、大変重要性があるということだと思います。

◆理学・工学だけでなく人文科学・社会科学や医学も
 日本には、既に東京大学地震研究所や京都大学防災研究所など災害を研究する研究所がありますが、IRIDeSの特徴は、理学・工学だけでなく、人文科学・社会科学や医学の分野の研究者も参加している点です。「文理融合型」の災害研究機関は、恐らくIRIDeSが唯一でしょう。特に地震・津波の発生に関しては、現在の理学・工学の力だけでは予想ができません。規模や周期などについては、歴史学の力を借りることも重要です。例えば、約1100年前に、東日本大震災と同じような場所・規模の地震と津波があったことは、地質分析などで科学的にはわかっています(貞観地震)。一方で、歴史的な記録に地震や津波のことが書かれていたり、古くからある神社やお寺の名前が災害に由来していたりすることもあります。これらを総合的に考える必要があるため、人文科学の分野が一緒なのです。また、被災地の状況にすばやく対応できる災害医療を研究するため、医学の分野もあります。

◆災害の記録を次の世代に伝える
 この他、災害の記録を次の世代に伝えるアーカイブ事業「みちのく震録伝」に取り組んでいます。アーカイブ事業は全国いろいろな形で行われており、総合的には、誰かがまとめる形になるでしょう。皆それぞれの想いで取り組んだものを、全体の記録として残すことをしようと、東北大学が中心となって取り組んでいます。

2012年5月、災害科学国際研究所(IRIDeS)開所式(c)東北大学

◆災害科学の世界的拠点へ
 日本の災害科学の研究成果を、日本の今後の防災・減災につなげることは当然のことながら、「国際」と名をつけた通り、同時に国際展開を重視する点が、もう一つの需要なポイントです。日本で起きるようなタイプの災害は他の国ではあまりないかもしれませんが、防災・減災という点では自然災害に対する方法があるわけですから、皆で共有しなければなりません。そこで様々な国内外機関と連携しながら災害科学の研究を進めています。2013年の4月からは、環太平洋の大学連盟APRU (The Association of Pacific Rim Universities : 環太平洋大学協会)の自然災害に関する研究の中核をIRIDeSが担っています。

 このように国際展開を重視しながら、かつ防災・減災は国民一人ひとりのためのものですので、国民と密接に繋がるような活動も、一方で非常に強く意識しています。例えば、学校で防災についての授業を行ったり、市や町の避難訓練に協力したり。大変欲張りな取り組みですが(笑)、恐らくこのような形態で取り組めるのは私たち東北大学だけではないかと思っています。IRIDeSには、80名程の研究者がおり、約100の研究プロジェクトが動いています。


②地域医療再構築プロジェクト
/東北を医療過疎地から医療最先端地域へ

 もともと東北の沿岸地域は「医療過疎地」で、病院が少なく、医師や看護師などの医療関係者の不足も深刻な問題となっていました。そんな中、今回の津波で、病院も流され、医療関係者も地域を離れ、放っておけば地域医療が完全に崩壊しそうな状況でした。そこで地域医療を何とか立て直そうと、次の(1)(2)の取り組みをしています。

(1)総合地域医療研修センター

総合地域医療研修センターでは、シミュレーターを使った各種医療技術トレーニングを行っている(c)東北大学

◆被災地の地域医療・災害医療を担う人材を育成
 一つ目の柱である「総合地域医療研修センター」では、東北大学病院や医学部等で被災地から医療関係者を受け入れ、再教育を行い、地域に戻って地域医療を担っていただく取り組みを行っています。具体的には、東北大学に「クリニカルスキルスラボ」というトレーニングセンターをつくり、シミュレーターを使った医療技術トレーニングを行っています。また、学生にも災害医療や地域医療を経験してもらおうと、学生を被災地域の病院に派遣する体験実習も実施しています。さらに、被災地の医療機関への支援を強化しようと、東北大学病院が中心となって「地域医療復興センター」を新設。医師が足りない地域への医師派遣の調整や、地域医療に関心のある若手医師の育成等、地域の医療に携わる人材を確保するための仕組みをつくっています。

(2)東北メディカル・メガバンク機構

2012年9月、東北大学は、東北メディカル・メガバンク事業について、宮城県と協力協定を締結した(c)東北大学

◆被災地への循環型の医師支援システム
 もう一つの柱、「東北メディカル・メガバンク機構」の目的も、地域医療の再構築です。そのために地域医療を支える循環型の医師支援システムをつくりました。勤務している病院からの医師派遣は一方通行になりがちです。そこで、医師を循環させるために、現在行っているのが、「ToMMoクリニカル・フェロー」を任命する循環型医師支援制度です。3人の医師でチームをつくり、交代で1年にわたって地域医療の支援に当たります。医師1人につき、1年の中で8カ月間は大学で研究を行い、残り4カ月間は被災地の医療機関で診療に当たる、それを3人の医師でローテーションする仕組みです。若手の医師は、研究への興味も強いですから、大学で研究を行うことで、彼らのやる気を高めることができます。

◆「個別化医療・予防」のためのバイオバンク事業
 では、そこで何を研究するかですが、東北の震災復興に役立つ研究をしようと、被災地住民に対する15万人規模の「バイオバンク事業」を行います。一つ例をあげると、子ども・両親・祖父母の親子三世代の遺伝情報と診療情報等を長期間継続して調査し、遺伝情報と環境要因と病気の関係性を解析します。その結果をデータベース化することで、将来的にはある人がどのような病気にかかりやすいのかがわかるようになります。また、病気の発症は遺伝だけでなく環境要因が大きく働きますので、環境要因を抑えることで病気の予防もできます。つまり、個別化医療・個別化予防が可能になるのです。これほど大規模な調査は、海外では事例がありますが、まだ日本では行われたことはありません。

 要するに、被災地で医療を立て直すのはもちろん非常に重要ですが、同時に、東北発の新しい医療を生み出したいのです。被災地の人たちが最初に最先端の医療を受けることができます。そのためには被災地域の住民の方の協力なしにはできません。住民の方の血液や情報を頂いて行う事業になりますから。その人たちがどのような病気にかかるかに関係しているので、健康診断をやりながら、調査を行います。つまり、この活動そのものが医療活動の一部であり、長期にわたって住民の健康調査をしながら行っていきますので、住民の方にとっても役立つ調査です。東北が最初に健康な地域になろう、ということです。

◆カルテの電子化・情報ネットワーク化
 東日本大震災では、津波で紙のカルテが流されたため、被災地で医療行為ができず、非常に大変でした。そこで、東北メディカル・メガバンク機構の事業の一つとして、カルテを電子化し、病院同士を情報ネットワークで結ぶ宮城県の事業のサポートも行っています。


③環境エネルギープロジェクト
/次世代エネルギーによる災害に強いまちづくり

 今回の原子力発電所の問題もあり、次世代のエネルギー研究開発が非常に需要です。この環境エネルギープロジェクトでは、東京大学や筑波大学の協力を得ながら、次の3つの研究課題に取り組みます。

◆【課題1】波や潮流の力を利用する海洋発電
一つ目の課題が、三陸海岸へ導入可能な波力(岩手県久慈市)と潮力(宮城県塩釜市)の海洋再生可能エネルギーの研究開発です。東京大学の生産技術研究所が中心となって昨年から研究が始まり、今年は海での実証試験が始まる予定です。

◆【課題2】植物プランクトンから油をつくる
 2つ目の課題が、微細藻類と呼ばれる植物プランクトンからエネルギーをつくる研究開発です。本研究に関して有名な筑波大学の研究者と、東北大学の先生が協力して行っています。実証試験は、津波で壊滅的な被害を受けた蒲生(仙台市)の下水処理場で行います。目標は、下水処理水を使って油をつくることです。

◆【課題3】地域特産エネルギー+電気自動車
 3つ目の課題は、東北大学が中心になって取り組む、再生可能エネルギーを中心とし、人・車等の移動を加えた都市の総合的なエネルギー管理システム構築のための研究開発です。エネルギーのやりくりと人・物の流れのやりくりをうまくやりましょう、普段から使えて、災害時にはスイッチひとつで災害モードになるシステムをつくりましょう、というものです。
 エネルギーに関しては、地域特有のエネルギーを使います。例えば、宮城県大崎市は有名な鳴子温泉のある穀倉地域です。そこで温泉熱による発電やバイオマスのエネルギー利用を研究している東北大学の先生がいます。このような地域特産エネルギーを上手く使って、電気自動車などにエネルギーを供給する。電気自動車は蓄電池を積んでいますので、平時は電気自動車にエネルギーを供給して人を運び、災害時は電気自動車が電気を運ぶ。そんなエネルギーを管理するシステムをつくっていきましょう、という災害に強い、新しいまちづくりのためのエネルギー研究です。


④情報通信再構築プロジェクト
/震災で明らかになった情報通信の問題解決

◆災害に強い情報通信技術の仕組みづくり
 震災の時は、なかなか携帯電話がつながらず、全く情報が得られないなど、情報通信技術の弱さが明らかになりました。そこで、情報通信の仕組みを災害に強いものにしようという研究に取り組んでいます。東北大学は日本唯一である通信関係の研究所を持つのが特徴ですが、その電気通信研究所が中心となり、独立行政法人情報通信研究機構、民間の通信会社であるKDDIやNTT、製造メーカー等が連携しながら、研究を進めています。もし次に災害が起こって停電しても、携帯電話に電池さえあれば、何も問題なく電話がつながるよう、研究開発を頑張っています。


⑤東北マリンサイエンスプロジェクト
/地震・津波で海の環境や生態系はどう変化したか

東北大学の調査実習船「翠皓」による定期環境調査を行っている(c)東北大学

◆海洋生態系の変化の調査研究と水産業復興
 主に津波によって、海洋の生態系が大きな影響を受けました。海洋の生態系の変化は、水産業の復興に影響しますが、海洋の環境や生態系がどう変化したかは全く不明な状況でした。このプロジェクトでは、今回の震災の地震と津波で海がどのように変化し、それに対して生態系がどのように変化するか、調査研究を行います。
 科学的にも非常に興味深い調査ですが、一方で漁師の方や水産加工業者などの水産業者にとっては、海は今どうなっているかが非常に重要な問題です。そのため、漁場環境の分析調査を定期的に行い、漁業関係者への情報発信も同時に行っています。基本的には生態系の調査研究なのですが、「養殖の方法をこう変えた方が良いのでは」など、水産業の復興に役立つ提案も行いながら進めています。特に、宮城県の亘理辺りでは、ホッキ貝猟のエリアにガレキがあるのですが、宮城県が調査しているのはさらに沖合なので、東北大学がその隙間を埋める形で調査しています。


⑥放射性物質汚染対策プロジェクト
/放射線被害の最小化へむけて

 福島原発事故によって汚染された生活環境の復旧・復興を目指し、除染や放射性物質の検出技術の開発と食品の汚染測定への応用を、東北大学の技術を活用しながら行っています。

宮城県丸森町の小学校校庭での除染作業のようす(c)東北大学

◆魚や野菜切り刻むことなく短時間で放射能検査
 放射性物質によって汚染された生活環境の復旧技術の開発では、新しい除染方法の研究をしています。例えば、食品の放射能検査では、これまでサンプルを切り刻んで、時間も長くかける必要がありました。東北大学の先生が、野菜や魚を切り刻むことなくそのまま短時間で検査できる、放射能測定器をつくりました。機器は、宮城県石巻漁港と福島市の放射線モニタリングセンターに設置され、一般市民に解放されています。まもなく、ベルトコンベアに魚などを載せて連続的に測定ができる装置が完成予定です。風評被害をなんとか取り除くための研究開発プロジェクトです。

◆生物への放射性物質の影響を研究
 被災動物の包括的線量評価というプロジェクトでは、生物への放射性物質の影響を調べています。福島第一原発の周辺で殺処分された牛や豚の臓器や血液を取り出し、周辺の植物や土と一緒に、冷凍保存して、それを順次分析しています。例えば、血液中のセシウム濃度と、臓器中のセシウム濃度の関係を調べたり、母牛と子牛の放射線の蓄積の違いを調べたり。すると、生きている牛や豚に関しても、血液の中のセシウム濃度を測れば、臓器にどれくらいセシウム濃度があるかが比例関係でわかります。また、セシウムが体のどの部分に溜まりやすいかなども、わかってきました。それを今度は人間に活かすわけです。いずれにせよ、原発事故があった今だからこそやらなければいけない調査であり、結果を次世代に残していかなければならない仕事です。


⑦地域産業復興支援プロジェクト
/新しい産業をつくらなければ本当の復興にはならない

◆東北発イノベーションを起こす人材を育成
 やはり今まで無かったものを今回つくらなければ、本当の復興にはなりません。建物や道路といったハードウェアは、非常に時間はかかるものの、いずれは何とか元に戻るでしょう。しかしながら、そこに産業がなければ人は戻ってこられないのです。とにかく雇用を生み出すような新しいビジネスをつくっていかなければ、本当の復興にはならない。そんな想いで取り組むのが、復興を継続的に支援するための調査研究活動と人材育成です。

地域イノベーションプロデューサー塾の入塾式のようす(2012年5月)(c)東北大学

 調査研究では、アンケート調査などを実施してまとめると同時に、産業復興に対する提言を行っています。また人材育成では、東北発のイノベーション(革新)を起こす人材を育成しようと、経済学研究科の先生方が中心となって「地域イノベーションプロデューサー塾」という人材育成事業に取り組んでいます。昨年の試行的開講では12人が受講し、今秋から本格的に開講。東北大学で30人、岩手県花巻市と福島県会津若松市のサテライトで5人ずつ、計40人の塾生を募集します。塾生には新しいビジネスのプロジェクトを計画してもらい、良いアイディアで実現可能な計画ができれば、その計画に対して資金援助が得られるでしょう。銀行がお金を貸してくれるかはなかなか難しいですが、活動を見たある団体から、実際に資金援助の申し出も出ています。


⑧復興産学連携推進プロジェクト
/被災地企業と産学連携で研究成果を地域に還元


 東北大学の理念の1つに、「実学尊重」があります。その理念に基づき、大学で開発した新しい研究成果を社会に還元しようと、これまでも産学官連携を積極的に行ってきました。その復興バージョンです。特に地域を意識しながら取り組む産学連携で、被災地の企業と連携しながら、地域経済が活性化するように国などの支援を活用して取り組んでいます。


復興アクション100+

菜の花プロジェクトのようす(2012年5月)(c)東北大学

◆津波塩害のための菜の花プロジェクト
 教職員が自主的に取り組む復興支援プロジェクト「復興アクション100+」の一部もご紹介します。「津波塩害農地復興のための菜の花プロジェクト」(農学研究科)では、東北大学が持つ世界唯一のアブラナ科作物の「ジーン(種)・バンク」から、塩害に強い品種を選び、仙台市の農業園芸センター等に植えました。地表面に積もったヘドロを取り除いて表土を露出させれば、津波をかぶり、他の作物が育たないような塩分の強い土でも、菜の花が育つのです。今年もそろそろ花が咲く頃で、4月下旬には実際に菜の花を植えている畑の見学会を行います。現在はさらに、なたねから取れる油で、バイオディーゼル燃料をつくり、発電しようという計画も出てきました。放射線被害のあった南相馬市でも菜の花を植えています。全国的に複数の団体が関わっている大きなプロジェクトです。このほか、子ども向けの心のケアを行う「震災子ども支援室 S-チル」(教育学研究科)など、様々な活動が行われています。


Q. 震災復興への取り組みを行う中で、見えてきた現状や問題点とは何ですか?


誰も取り組んだことのないことに取り組むということ

 一部は震災直後からスタートしたプロジェクトもありますが、プロジェクトが本格的に始動したのが昨年の春から、多くのプロジェクトは秋以降のスタートです。もう少し経てばこれから問題も出てくるかとは思いますが、実際は多くが始動してまだ半年ですので、現時点ではまだ問題に遭遇している状態ではありません。

 一方、先ほど申し上げた「東北メディカル・メガバンク機構」のバイオバンク事業など、もともとの課題を解決しなければ進めないプロジェクトもあります。これを実施するには当然、住民の方から血液や情報をいただいて研究する必要があるわけです。個人情報の扱い方や倫理の問題など、今まで誰も取り組んだことのないことを全て決めていかなければできない事業ですから、このような難しい課題を一つ一つ解決していかなければなりません。こういうことは法律だけ作って適用しても、恐らくうまくはいかないものです。

 しかし逆に言えば、それらの課題がきちんと解決できれば、日本全国に展開できるようになるため、日本は一気にゲノム調査の先進国になれます。では、それをどうすればできるかを、私たちが実践・検証しながらつくっているのです。

―ゲノム調査は、倫理の問題など様々な問題があるためになかなか踏み込めない現状があるということですが、それが今回の震災をきっかけに踏み込める、ということですか?

 先ほど申し上げたように、個人情報や倫理の観点から、日本では、これまで大規模なゲノム調査に、なかなか踏み出せなかったのです。今回の震災があって、皆が医療に関心を持っており、そして、東北大学はやはり、東北地方の医療の中心的役割を担っています。ですから住民の方からの信頼が非常に厚い。そのようなポテンシャルもあり、また人の移動が少ない地域なので、調査が行いやすいことなど、いろいろな要因があり、東北でしかできない事業なのではないかと思います。東北でうまく行けば、それが成功例となり、他の地域に展開できます。他に展開することは将来的には重要ですが、これが成功することで、東北の人たちが最初に恩恵を被るのです。


行政の手が届かない領域を大学が壁を越えて前へ

 震災復旧・復興の現場では、法の規制や縦割り行政の弊害など前進を妨げる壁の存在が問題になることがあります。私たちは大学ですから、基本的に教育・研究ベースで動いています。そのため、復興そのものの進み具合と必ずしも直接はつながっていないので、壁を感じることは少ない方だと思います。どちらかと言えば、「もう一歩先の東北の未来を創造すること」を私たちは考えているからです。一方で、「復興アクション100+」を行っている先生方の取り組みは、どちらかと言えば、現場に近い取り組みで、壁を感じることがあるようです。

 例えば、福島県では国の政策で子どもたち全員に線量計を配布し、調査をしていますが、宮城県は県全体で同様の調査はやらない方針です。しかし宮城県南には、比較的空間放射線量が高い所があります。そのような行政の手が届きにくいエリアがあるのです。そこで東北大学の先生が、福島県と隣接する宮城県丸森町で子どもたちの被ばく調査を実施してくれています。今やるべきであると思われる場所ではやる。そのような取り組みへの支援をしっかりとやらなければいけないと思います。

 そして、私自身が去年から1年間見ていて感じているのは、やはり、今回の震災からの復興には時間がかかるだろうということ。特に、福島第一原発事故に関わる復旧・復興は、非常に時間がかかるだろうということ。先ほど申し上げたように、県を境にして行政の取り組みが異なることもあります。子どもたちには放射線防護教育が必要ですが、きちんとした良いマニュアルなどなく、学校の先生にも知識がありません。組織的な取り組みがないと思われます。そのようなことにも、やはり私たちが大学として協力しなければいけないと感じています。

 どうしても、子どもたちの未来を支える形のプロジェクトは、研究としては中身を作りづらいのです。子どもを育てる部分は、研究としては非常に限られた部分になってしまうので、どうしても後回しになってしまう。それが今、おそらく私が感じている問題点の背景ではないでしょうか。そこの部分で、国から直ぐ支援していただけないものに対しては、私たちが大学として支援を続けていきたいと思っています。


科学技術の進歩だけでは解決できない課題がある

 やはり特に放射能に関わる課題が一番大変だと思います。風評被害もそうですが、いろいろな課題がまだたくさんあると思います。例えば、新しい放射能測定装置を開発して測定しました、すると「20Bq(ベクレル)/kgでした」。しかし、その数字を出しても必ずしも売れるわけではないのです。私も工学系の人間ですから、科学技術の進歩は人類の福祉に役立つと信じていますが、やはりそれだけでは解決できない課題がある。そういうことも見えてきました。

 10Bqとか100Bqとかいう数字そのものに対する信頼性が揺らいでいるせいかもしれません。放射性物質の基準値が、ある日突然変わると、一体その前の数値は何だったのだろう?ということになりますから。ですから科学者も、もう少し踏み込んできちんと説明する責任がありますし、もっと地道な努力が必要でしょう。おそらくプロジェクトとして資金援助してもらってやることではないことが、これから重要になると思います。

 東北大学の一つの重要な使命として、より広域にむけて、一層協力していく必要があるでしょう。これまでも、各県の大学が中心となり、東日本大震災からの復興へ取り組んでいます。もちろん、私たち東北大学も岩手県や福島県で活動していますが、より一層、特に福島側にむけた活動を重点的に展開していかなければいけないと考えています。

 しかし大学としては、国から付託された8つの大きな研究プロジェクトできちんと成果を出さなければいけないので、そちらも一生懸命やる必要があります。最初にも申し上げましたが、この復興の取り組みは、全ての分野・領域が一気に集中して動いており、なかなか大変ですが、プロジェクトが全て成功したら、やっぱり東北が変わるよね、という夢を持って、進めていきたいです。


Q. 最後に、今までのお話を踏まえて、未来にむけたメッセージをお願いします。


創造的な未来へ

 震災からの東北復興と日本再生、その先頭を切るのが、東北大学の歴史的な使命です。この先2~3年の話ではなく、5年、10年、15年先を見据えて、大学として今後もしっかり様々な取り組みを進めていきます。特に、新しい東北の未来につながるようなものと、一方で福島の復興ですね。この2つが私としては重要だと考えています。

 「これが、あの震災の時に、東北から生まれたのだよね」。新しい東北、生まれ変わった東北と言える、いくつかのもの。それが同時に地域に役立つ形で還元できるようなもの。「東北発」・「震災発」を形にしていくには、時間がかかると思いますが、東北大学全体で応援して取り組んでいく必要があると考えています。

 一方、福島第一原発は廃炉そのものに30~40年かかりますので、大学としても長期的な支援を行う必要があると思います。一日も早く、多くの人が地元に戻れるよう、除染による生活環境の復旧を加速し、また新しい産業をつくるなど、いろいろなことをやらないといけないでしょう。私たち東北大学も福島にできるだけ貢献していきたい。それが、これからの未来です。

―原さん、本日はありがとうございました。


関連リンク

東北大学「復興アクション」に関する詳しい情報は、下記WEBサイトに掲載されています。
東北大学災害復興新生研究機構

取材先: 東北大学     

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