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2017年 04月 25日 (火)

【学校づくりのプロセスから見る教育】東北工業大学高等学校「将来構想」インタビュー(第1回)久力誠校長に聞く 取材・写真・文/大草芳江

2011年4月28日公開

生徒自身がもっている夢や希望をしっかりと確かめ,
それを実現するための力をつけることが,私たちの仕事。

久力 誠  Makoto Kuriki
(東北工業大学高等学校 校長)

 【学校づくりのプロセスから見る教育】
学校も"人"によってつくられるプロセスがあり、常に変化している。
学校づくりのプロセスを担う"人"から見える、教育とはそもそも何かを探る。


学校づくりのプロセスには、そもそも学校とは何かを問いなおし、
社会にとって必要な人材とは何かを考え、
学校が持つポテンシャルを再認識し、再構築していく営みが不可欠である。

新しい学校像の創出を目指して、
2010年に「東北工業大学高等学校将来構想審議会」を発足し、
学校改革に取り組む東北工業大学高等学校。

学校づくりのプロセスを担う "人"へのインタビュー取材を通して、
そのプロセスを可視化していくシリーズ。
第1回は、久力誠校長に聞いた。


<目次>
改革の前に「学校って何だろう」と考えたい
生徒の成長に必要なものを提供することに尽きる
見えないベールに隠れてしまっている自分
自らベールを剥がす学びとは?
教師が全責任を持って取組む
科学技術立国日本を支える人材を輩出する
責任を果たしつつ,可能性を狭めない
未来に向かっていく生徒たちをつくる
生徒の変化をとらえる目を鍛える
将来やるべきことは,今やるべきこと
自己責任とチーム力が必要
教師自身が生徒像をしっかり持つことが決め手
将来構想は法人の方針


改革の前に「学校って何だろう」と考えたい

 このところ「学校改革」という言葉が頻繁に使われますが,将来構想を策定するにあたって「改革を前面に出す」という意識はあまり持っていませんでした。なぜならば,もちろん改革は必要なのですが,「改革」という言葉だけが独り歩きしているきらいがありますし,何よりもどの学校にもこれまで存在してきた大切な歴史があるからです。

 ですから「改革」を言う前に,「そもそも学校って何だろう?」と立ち止まってみて,「本校は一体何ができるのか?」「どのような役割を果たすべきなのか?」「そのためには,何が足りないのか?」ということを考えたいのです。本校の「将来構想」はそんな思考の中から誕生しました。


生徒の成長に必要なものを提供することに尽きる

 それでは「そもそも学校って何だろう?」と考えてみましょう。高等学校は,生徒が思春期の大事な時期を過ごし成長していく場ですから,成長に必要なものをきちんと提供すること,つまり,基本的な知識はもちろんのこと,問題を見つけて解決する力や,情報を集め解決方法を探し出す力を身に付けさせることに尽きると思うのです。

 次は,何をどう提供するかです。学校とは基本的に授業で成り立っていますので,授業抜きの学校は考えられません。もちろん,人間の成長は,授業で学ぶだけで足りるわけでなく,友人との関係や部活動,いろいろな行事など,様々な刺激や活動によって促されます。ですから,学校はそれらすべてを保証しなければなりません。 

 しかし,核となるのは,やはり授業であると私は考えています。授業は教諭時代,管理職時代を通して私自身がずっと追求してきた課題です。授業は必要な教科科目が組まれているだけではなく,それらの中で生徒がどう成長しているかが問われますので,教師にとっては永遠の課題です。もちろん,公立でも,私学でも何も変わりません。ですから,どのような授業をどのように展開すれば学校としての機能が実現できるか,それがこれから述べる「将来構想」の柱となっていきます。


見えないベールに隠れてしまっている自分

 私が本校に赴任して気になっていることは,生徒が自信を失っているのではないか,ということです。もちろん生き生きとチャレンジしている生徒も沢山います。けれどもトータルで見た時,必要な時に出すべき自分を出しきれないでいると感じるのです。

 校長室では,生徒・保護者に「特別指導」の申し渡しをする機会があります。特別な指導が必要となった問題やその背景は様々なのですが,共通していることは,生徒は自分の中に正しいものを求める心を持っているということです。それから,正しいか・正しくないか,どうすれば良いか・悪いかという判断の基準も持っています。それなのに,それが実際の場面でピシッと出てこないため,問題行動に走ってしまうのです。

 何か自分の心と自分の体に,2枚,3枚のベールを被せているようで,自分という人間を素直にすっきりと表現できずに,問題をおこしているように思えるのです。しかし,校長室で話してみると,どの生徒も,実に良い少年少女なのです。それでは,自分の良さを素直に出せず,流されてしまっているのはなぜか?それは,自分に自信を持てないからではないか。こんなことを強く感じた1年間でした。

 このような生徒たちを見ていると,自分自身を見つけられないままに現在に至っていることがわかります。生まれてから高校に来るまでの人生には,それぞれいろいろあるわけです。その過程の中で伸びやかに力をつけて来た生徒と,そうでない生徒がいるわけですから,そうでない生徒に対しては,自分の中の良さと,持っている力を抵抗なく出せるようにするための手立てを整えられる,懐の深い学校でありたいのです。

 それはレベルが高い・低いとか,偏差値が高い・低いとか,そうことではなく,学校がやるべき本質的なことであると私は考えています。生徒が自分の立ち位置に立って行動できれば,当然伸びていくでしょうし,自ずと結果もついてくるはずです。


自らベールを剥がす学びとは?

 それでは,生徒たちのベールを剥がす学びとは何だろう?この学校で,他の公立や私立とは違った何ができるのだろう?そう考えて行き着いたのが「大学と接続した新しい学びの創造」というキーワードです。

 本校は,東北工業大学と同じ法人のもとにあります。大学とは距離的にも近いのも,大学を持つ他の私学と比べて強みです。東北工業大学はその名の通り,工学部を主体とする大学でしたが,ライフデザイン学部が新設されたことで大きく幅が広がり,「創造から統合へ」のスローガンのもと,文理が融合されたユニバーサルな学びが展開されています。

 けれども,「大学ではレベルの高い学問や研究,人間教育がされていて,大学と接続しさえすれば今より良い高校になるに違いない」と単純に考えているわけではありません。もしそうならば,始めから大学の先生に教育してもらえば良いのです。決してそうではなく,私たちが生徒を見て,生徒にとって何が必要か?を判断した時,必要な場面で大学の力を借りるということです。

 つまり,より高い専門性を持つ人々の知恵や力を導入することで,生徒たちの未来を見る目や,自分の中にくすぶっていたものに火をつけるための動機付けができると思うのです。もちろん大学に限らず,専門学校や企業,場合によっては予備校や塾を含めても良いと思います。自分の中から自分を作っていこうとする力が出てくれば,余計なベールはおのずと剥がれていきます。


教師が全責任を持って取組む

 一方,大学と接続しようとしまいと,自分に磨きをかけるには,コツコツと努力して,基礎的・基本的な部分を身に付けることを抜きにしてはあり得ません。刺激を与えさえすれば何でもできるようになるのなら,テレビを見ているだけでOKなのです。

 つまり,基礎・基本の定着については,高校の教員が全責任を持ってやらなければならないのです。我々の仕事は,生徒が自分の夢や希望を実現させるための力をつけてやることです。ですから,基礎・基本とそれを乗り切るための心を揺さぶる刺激,この二つをどのように組み上げてカリキュラムをつくっていくか。そして,それを実際の指導レベルにまでどのように落とし込んでいくか。これが学校づくりの決め手になります。

 このプロセスで大切なことは,生徒が伸びているか・伸びていないか,つまり,生徒が今までの自分を脱皮して,次の自分を見つけていこうと思っているか・いないか,ここを教員がしっかり点検できているかどうかにあります。

 おそらく一気に完成品にたどり着くことは不可能でしょう。たとえできたとしても,そんな完成品はありきたりのカリキュラムやシラバスでしかないのです。

 それに,生徒は想定どおりに成長してくれるわけではありませんから,目標は見失わないようにしつつ,状況に合った方法を編み出さなくてはいけません。それを機敏にやれるかどうかが勝負でしょう。


科学技術立国日本を支える人材を輩出する

 国際社会における日本のありようを考えた時,やはり工業・科学技術を抜きにした未来はあり得ません。それを支える一つとして,教育の責任があると思います。

 そう考えると,すべての生徒を理系にということではないのですが,中心に科学技術を据えながら,それを社会の中でどう機能させていくかということまで学べる学校像が浮かび上がってきます。

 当然,本校は私学ですから経営的な側面は大きく,多様な生徒を幅広く獲得し育てていくという視点は不可欠です。ですから,単純に進学だけで結果を出せば良いと考えているわけではありません。自然界だけではなく,社会は多様な人々がいて初めて成立しているのが事実だからです。

 ある科学技術が一つの製品を生み出し,世の中に提供される過程を考えると,もちろんベースになる研究者や技術者は必要なのですが,実際にモノを作る技能者,製品を考える人,デザイン,広告,流通,販売等々膨大な人とシステムが必要になります。このように,科学技術とそれを支える人材を提供する役割を担っていきたいというのが本校の一つのスタンスです。

科学技術科

 本校は今年創立50周年を迎えましたが,草創の目的はまさに科学技術立国日本を支える技術者を育てることでした。戦後日本の高度成長と経済的繁栄は,世界に冠たるエレクトロニクス技術の確立によってもたらされたことは事実です。「電子科」からスタートし,社会に有意な人材を輩出してきた本校も,科学技術の長足の進歩とともに,「電子」というくくりで教育できる時代ではなくなりました。ですから,これからは「電子」という枠にとらわれずに,「科学技術」という視点で学びの区域を広げたいのです。

 もちろん社会が求めている科学技術すべてに対応することは不可能ですが,少なくとも東北工業大学にある学部学科を一つの基準としながら,それと合致する科学技術の専門分野をつくっていきたいと思います。そこで新しく構想したのが「科学技術科」です。

 つまり,科学技術科は東北工業大学と最も強く結びついた学科となります。ですから科学技術科の生徒は,東北工業大学への進学を保証したいのです。また,きちんとした技術や資格を身に付けるカリキュラムで力をつけ,然るべき所に就職しても良いでしょう。

 独自科目として設定する「科学技術研究」(仮称)に取り組む中で,興味関心を深めるとともに応用力を鍛えます。高大接続による7年間の学習,大学院を入れれば9年間の学びをスタートさせるイメージです。自分がどれだけ社会に貢献できる人間になっているのか,そのことをしっかりと捉えられるような人間を育てたいのです。

探究科

 先に述べたように,科学技術立国日本は,技術や製品を生み出す人材だけでなく,それを取り囲む多様な人材によって支え,維持されています。一つの製品を生み出すことだけを考えても,たくさんの人々の知恵と労力の積み重ねがあるのです。

 様々な分野で自ら新しい何かを生み出す力を育てるには,いわゆる高校の教科科目の枠の中だけでは難しいでしょう。そこで,自分がもっている基礎的・基本的な知識と応用力を駆使して,考える力,問題解決の力,人に伝える力を身に付けることを,独自教科である「探究学習」(仮称)という一つの道具立ての中で実現することを目指した専門学科,「探究科」を作りました。

 探究科は,普通科をベースとした,文系・理系の要素を含む専門学科です。ですから特別に専門的な勉強をするわけではありませんが,自ら問題を見つけ,自ら考え,自ら提案していく,という大学でも社会でも必要なスキルを,基礎・基本の知識と同時に身に付けていくことがねらいです。

 なお,探究学習と言うと難しい研究的なイメージ持たれるかもしれませんが,身近に「こんなことができたら楽しい」と思うことを,大学などの専門的な力と組み合わせながら取り組んでいくという学習スタイルです。例えば,科学技術にこだわらず,歴史や文化,フードやスポーツなど多彩な探究学習を可能にしたのです。

 このような活動をとおして,ベールに隠れた自分が一端引き出されてきたら,「それを軸にしてもっと広がっていけるよ」と生徒に自信を持たせ,「けれども,これをやるためには,もう一度少し基本に戻ろうね」と,基本の学習に戻させます。つまり,いつも基本と応用を行ったり来たりするイメージですが,これはどんな場合でも,物事を獲得するための基本的なプロセスでもあります。

 それと同時に,例えば国際交流やSSHなども視野に入れて準備を進めています。探究科については,限られた大学だけでなく,様々な大学や専門学校,全国そして世界の高校生との交流を通して,さらに鍛え上げていきたいと考えています。

特進科(仮称)

 日本トップクラスの研究者,経営者,リーダーといった人材を育てていくことを強く意識したのが「特進科(仮称)」です。最初に述べたように,高学力や高偏差値を目指すということだけではなく,科学技術科や探究科と協力し合いながら,それらの機能を十分に理解して,ひっぱってく社会づくりや組織づくりができる人材を育てることが目標です。

 ですから自ずと,進学先として日本のトップ大学はもちろん世界のトップ大学を目指す生徒が育ってきます。科学技術科も探究科も進学をベースに組まれているわけですが,特進科は世界をより強く意識しているということです。

 そして,高いレベルの進学戦線に参入して目的を達成するには,「自分はどうなりたいのか?」「どのような形で社会に貢献したいのか?」という厳しい自己追求がなければなりません。ほかの高校にはないしっかりした学びの場と同時に,そのような自己追及をするための質の高い仕掛けを科学技術科,探究科同様に準備します。

 以上のように,新しい高校像として3つの学科を考えています。ただ,これまでの話しでお分かりのように,どの学科であっても基本的な考え方は変わらず,どれだけ強くどちらに向かっていくかという点が違うということです。

 そして,世界がうまく機能していくためには,本校が提示する3つの学科すべての要素が必要なのです。特進科だけでは世の中は動かないし,探究科だけ,科学技術科だけでもやはり動きません。この3つがチームとなって世の中は動いていくわけです。そう考えるとまさに,この学校そのものが一つの新しい世界と言えます。

 つまり「科学技術立国日本を支える」と言っても,色々なステージがありますから,そのステージに合わせて3つの学科がつくられているわけです。もちろんこれは概念としてのステージであって,実際の社会や生活している場面では,どこからでも行き来ができるわけですので,できるだけ学校もそのようなつくりを目指します。


責任を果たしつつ,可能性を狭めない

 生徒募集の段階では当然学科の"くくり"がありますが,学校に入った時点で,その"くくり"は出来るだけ取り払おう,と考えています。つまり,途中で転科ができるようなフレキシブルなシステムを考えているのです。

 例えば,「科学技術科に入ったけど,探究科や特進科で学びたい」「探究科に入ったけど,もっと専門的な科学技術科の方が面白い」といったことが生じた場合,少なくとも2年生になる時点,もしくは1年生の半ばで転科ができるようなシステムを考えています。

 なぜならば,中学3年生で自分の将来に対して方向性を決めることは,本当に難しいことだからです。別の言い方をすれば,高校3年間かけても難しいし,大学4年間かけてもやはり難しい。ですから,あまり早い時期に幅を狭めるのもどうかと思うのです。

 つまり進路を頭打ちにしないで,入学時はひとまず立ち位置が違うけれども,そこから上は自由にどこまでもどうぞ,という感じです。

 しかし,ただ単に「何でもできるよ」「自由にどうぞ」と言うのは,非常に無責任な話です。人間,やはり何か一つをやり遂げるには,好き・嫌いや,やりたい・やりたくないに関係なく,やり続けることによってしか身に付かないことは間違いないからです。

 ですから,いつまでも「何でもやって良いよ」とするつもりはありません。そこはプロの教師陣によるキャリア教育がしっかりとナビゲーションします。


未来に向かっていく生徒たちをつくる

 繰り返しますが,生徒自身がもっている夢や希望をしっかりと確かめ,それを実現するための力をつけてやるのが,私たちの仕事です。けれども今,なかなか夢や希望を見つけられない,あるいはそんなことを考える機会を失っている生徒が,外見上増えていると感じています。

 このような状況は本校だけのことではないようです。ですから,そこを何とかしてあげたい。では生徒の心の中には何もないのかと言えば,当たり前ですが,決してそうではないわけです。最初の話に戻りますが,生徒自身の心の中にはあるのだけど,それをどこかで「考えても無駄だし,できないし」と抑えてしまっている。

 心のちょっと奥に隠れてしまった伸びやかな部分を,もう一回引き出してやりたい。例えば小学生の頃,出来なくても,わからなくても「はい」と手を挙げてしまったような,そういう状態をうまくつくってやりたい。人間は「やる気になった時に変われる」と心から思っているからです。

 そして,自分の内面的な力を出すことができたら,これまで成績が良かったとか,悪かったとかはほとんど問題にならなくなる,これもまた確信があります。

 このようなきっかけをつくる仕掛けが「大学との接続」ということです。内輪だけでやっているとどうしても,「こんなに良い生徒が育ちました,以上終わり」と言った感じになってしまいがちですが,決してそうではないと思うのです。

 私たちは未来を創っていく生徒を育てているのですから,内輪で,今,良いと言われる生徒を育てても仕方ないと思うのです。自分で未来を探して見つけて行く生徒を育てるという点で,やはり大学の魅力は欠かせません。


生徒の変化をとらえる目を鍛える

 「大学と接続した新しい学びの場」の具体的なイメージとしては,一つは大学の先生に来ていただいて講義をしていただくことがあります。また探究学習や科学技術研究についても,テーマ選びなどから協力していただき,研究を進める中で,必要に応じて大学の講義を受けたり,もしくは一緒に実験したりすることなどを考えています。

 例えば,土曜日や夏休みなどに,大学の施設設備を使って集中的に実験ができれば,研究とはどういうものかをある程度感じることができます。今,大学の先生は大変お忙しいのですが,皆さんから将来構想を楽しみにしていると仰っていただいています。東北工業大学の先生方の懐の深さには感謝あるのみです。

 ただし,それですべての生徒を網羅しよう,何でもかんでも全部やろうと思った途端,全部ができなくなるものです。重視すべきことは,生徒が伸びたか・伸びないかであり,どれだけ沢山の生徒をそこに巻き込んだかです。

 これは部活動でも同じです。例えば野球部が勝ったからと言って生徒全員が素晴らしくなる,なんて甘いことはありません。けれども野球部が頑張っている姿を見て感化される生徒は必ず出てきます。それを1人,2人と増やして行ったら,実は60人の野球部員が500人の生徒を支えていた,となるわけです。

 ですから,ある先生が大学からおいでになって,その講義を受けた生徒がたった10人だとしても,その子たちが輝く活動をしてくれれば,それは10人ではなくて,20人,30人に影響を与えます。それが5つあれば,150人になるわけです。一方で,どうしてもそこからはみ出る生徒もいるわけですから,それはまた別のフォローシステムをつくっていけば良いのです。

 結局,生徒が自分自身で立つ足腰さえつけてあげれば,「あとは自分で頑張ろうね」と言うだけで良いと思うのです。言い換えると,やったら必ずやっただけのことがあることを見つけて行く目,それを教師自身が身に付けなければ,何をやっても徒労感ばかりで,何をやっても成功しない,という結論になってしまいます。

 つまり,生徒が変化した小さな芽を,教師側が的確に見つけるセンスを持たなければいけないということです。しかし現状では大きな障害の方に目が行き,小さな前向きな変化に意識が届かない傾向にあると感じています。課題の多い生徒を毎日目の前にしているとそうなりがちなのはわかるのですが,やはりこれまでと違った新しい視点で見ていく姿勢を鍛えなければなりません。


将来やるべきことは,今やるべきこと

 本校の将来像は今の学校の上に成り立ち,今の生徒があってこその次の生徒です。ですから将来構想も,将来に対して準備するのではなく,現在にチャレンジしなければなりません。できるだけ現在の生徒に還元しながら,経験を積み重ねていく必要があるのです。

 ですから現在は,教員の授業研究を重視するとともに,他校の視察研修や「公私間教員交流」による人的交流など,積極的な研修活動を行っています。理科では既に探究的な学習の取組みを,長期休業を活用して始めていますし,来年からは進学指導の在り方も変えていきます。また,入り口となる入学試験の形も少しずつ改善しています。

 そのような小さな実践を積み重ねて,学校の中に知的財産とスキルを蓄積しなければ,将来構想で謳っている新しい生徒の育成はできないのです。当然,普通の授業で生徒がワクワクするものになっていなければ,探究学習や科学技術研究の指導など到底できません。

 新しい学校で私たちがやるべきことは,本校にとって本質的に必要なことなのですから,今やれなくては駄目なのです。ですから可能な限り早めに試行的な実践に取り組みます。

 具体には,23年度から大学との接続を開始します。まず4月のPTA総会で,全生徒と保護者を対象に,理事長の講演会を行います。その後,大学の先生による講義を,一つの学科・学部だけでなく,できるだけ多く実施し,まずは,東北工業大学に対する理解を深めます。大学の先生による講義は,生徒だけでなく保護者も対象に考えます。東北工業大学でどんなことが研究されているかは,十分には知られていませんが,実は面白い研究がたくさん行われています。私も実際に見て驚きました。そのことは生徒だけでなく保護者にもきちんと伝えたいのです。


自己責任とチーム力が必要

 本校の教員に必要なことは,自己責任とチーム力です。自己責任で最も大切なことは,授業を成立させることです。生徒が静かに授業を受けていることが授業の成立ではありません。授業の中で生徒が,変わっていくこと,そして,広い意味でも狭い意味でも学力をつけていくこと,つまり学びを成立させることが授業なのです。実はそれは簡単なことではなく,教科担任一人の力だけでできることではありません。ですから学校としての姿勢を明確にして,教科や学年を中心としたチームで取り組んでいく必要があるのです。

 例えば,授業の多くはクラス単位で行われますが,クラスを管理するのは担任の仕事です。それができていないと,授業に来た他の先生が年中担任と同じことをしなければならなくなります。しかし,それでは授業が成立しません。ましてや探究学習や科学技術研究となれば,尚更です。

 つまり,それぞれの先生が責任を果たすことと同時に,チームとして目標に向かって努力し,臨機応変に対応することができなければ,将来構想を現実のものとすることは不可能です。

 ただ,目標がはっきりしていれば,たとえばチーム内にいろいろな齟齬が生じても,目標に対して重大なことなのか,それほどではないのかがわかります。ですから,時間が経てば間違いなく,目標に向かっていこう,とまとまるはずです。逆に目標がはっきりしていないと,個人の思惑ばかりが膨らみ,亀裂がどんどん大きくなってしまいます。

 現在本校の教職員は未来に対する理想があり,全員が理想に向かっている集団です。人間一人ひとりは力のない存在で,欠点だらけです。それならば,お互い良いところで付き合おうという文化を,より重視してつくっていかなければなりません。

 結局,一人ひとりが力を出し合う機運がなければ,将来構想はもちろん,何も生まれません。嬉しいことに,学校のいろいろな場面で積極的な動きが起こりつつあり,論議も表面化しています。将来構想についても,一部の先生方から冊子で提案が出てきました。それは,とても頼もしいことですし,必ず力となって実を結びます。


教師自身が生徒像をしっかり持つことが決め手

 これまでも研修はしてきたわけですが,目標と終着点がはっきりしなかったため,学んだことがそれほど生かされてきませんでした。しかし,今回の将来構想は平成25年度スタートと区切を明確にし,外部にも公表しています。つまり,私たちは逃れられない状況にいるのです。その結果,これまでの捉え方とは違って,自分自身が今から始めなければならないと認識しています。

 先生方からいろいろな提案や要望が出てくるようになりましたので,ボトムアップのエネルギーが形になっていけばと考えています。トップダウンでどんどん決めていっても,溝が大きくなって最後は崩壊するだけです。本校ではこれまでそういう苦い経験もしています。学校は生徒に伝わって初めて目標が成就します。その仕事ができるのは実は校長ではなく,一人ひとりの教職員なのです。先生たち自身の中から,「こうやりたい」という意志が出てきて形になるのが一番良いわけです。

 そのために,校長として方針は明確に打ち出しますが,具体的には先生たち自身が動くことを大事にしようと思っています。例えば自分が頭で描いた10のことを10やろうと思うと,大変なことになります。でも今は,そのうち3つできれば良いという気持ちでやっています。

 というのも,物事は何か一つしっかりとやっていけば,必ずそこから波及していくからです。10の目標はバラバラにあるのではなく,大きな目標を達成するための具体の手立てなのですから当然です。また,たとえ3つだけでも,それに5人ずつ関わって,というように実践する教職員の数が増えることも大切にしたいのです。と言いつつも,ダラダラしてはいけません。ですから「改革する」という意識はやめて,期限を明らかにして,最初に話した通り,きちんとした学校をつくることに全力で取り組もうと考えるようになりました。

 よそ目には,目新しいことを打ち上げたように思われるかもしれません。しかし実際にやっていることは,きちんと授業を研究し,きちんと授業を実施して,生徒の心や世界観を広げていく,という当たり前の活動に尽きるわけです。

 学びの本質を外さずにいかに学校を作ってけるか,ポイントはこれしかないだろう,と私は考えています。その点では,昔も今も変わっていません。だからこそ「改革」を声高に叫ぶのではなく,淡々と実践していくのみなのです。

 この地味で気の遠くなるような仕事を,どれくらい本気で真剣にやり続けるか,そういうことを目標に授業研究をはじめて2年目になります。しかし,まだまだ課題が多いのも現状です。

 単に授業を公開したり,授業の論議をするだけでは限界があるのです。それぞれの先生方が,自分が望んでいる生徒像,描いている生徒像をしっかり持って,教科を通してそれをどのように実現するかにチャレンジし続けることが要なのです。まずはこのことを先生方一人ひとり心の中に,信念として定着させたいという思いがあります。

 皆が皆,同じ方向に向いて行動することを望んでいるわけでもなく,できることでもないと思っています。ただ,一人ひとりが目標を共有し,それを成し遂げようとする強い思いを持つことができれば,大成功だと思っています。その時こそ本校が飛躍的に変わる時であり,その時期は近いと確信しています。


将来構想は法人の方針

 実は,最初にお話しすべきことだったのですが,これまで述べてきた将来構想は単なる私見や願望ではなくて,学校法人東北工業大学の方針なのです。

 高等学校の在り様は高校だけの問題ではないという理事会の判断から,理事長の下に,法人局長をトップとする,法人,大学,高校の主たるメンバーで構成される「東北工業大学高等学校将来構想審議会」が設置され,平成22年6月10日第1回の会議がもたれました。

 三者が同じテーブルに着いて高校の将来構想について継続的に協議するということは,法人50年の歴史の中でもそう無かったことですから,論議を噛み合わせるまでには少し時間を要しましたが,4回にわたる審議会をとおして,想定以上のレベルで意思疎通を図ることができ,これまで述べたてきたような将来構想の骨子が誕生したのです。

 審議会には外部からの有識者にも加わっていただきました。外部の委員は審議会の雰囲気について,「大学が高校の今後に対してこれほど協力的に臨んでいることは珍しい。驚きであるとともに大変心強い」と話されていました。

 このように,法人が不退転の決意で,仙台の地に大学と接続した新しい高校教育文化を誕生させようとしていることを改めてお伝えして,私の話の締めくくりといたします。

取材先: 仙台城南高校      (タグ: ,

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