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2017年 09月 24日 (日)

天分見つけてくれた



天分見つけてくれた

そういえば、長谷川等伯(※)、見た?
あれは見た方が良いくらい、すごいよ。
それはあれだよ、昔よく京都を見て歩いたからさ。

※長谷川等伯(はせがわ とうはく)は桃山時代に活躍した絵師。豊臣秀吉、千利休らに重用され、当時のトップ絵師集団・狩野派にたった一代で肩を並べ、脅かすまでの実力を得た人物。2010年は、等伯没後400年の節目の年のため、東京と京都で大回顧展が開催された。

京都で今まで見て一番良かったのが、
他の人とは違って、北山にある修学院離宮だよ。
行ってみて、びっくりしたよ。
すばらしい造園技術だね。

桂離宮を褒める人が多いけど、
こっちは修学院離宮の方がいいと思うけどね。

―どのようなところが良いと思うのですか?

行ってみないとわかんないよ(笑)
口で説明できるものではないよ(笑)
あははは(笑)

―そういえば、西澤さんは無類のモネファンだと聞きました。
 先生にとって、芸術と科学は、境目がなく見える世界なのですか?

そうそう。
そうだね、割り方、偏っていないのだと思うのだけどね。

小学校の先生に言われたよ。
お前、理科だけじゃないな、文科もできるな、って。

今思えば、その先生が、一番早く、
天分を見つけてくれたね。うん。

天分をちゃんと見つけてくれる人がいると、
子どもの方もその気になるから、伸びるんだね。

だから絵は、割り方好きだったのだけど、
本当に好きになったのは、むしろ大人になってからだよ。


音楽の方は、ダメだと思っていた

音楽の方は、ダメだと思っていたんだ。
歌ったって、下手だったしさ(笑)

ところが、大学院に残ったとき。
大学院と言っても、我々の時代の大学院は、
今の時代と、少し違うのだから。

むしろ戦争中に、何でも皆、兵隊に連れていかれちゃったら、
将来の大事な人間がいなくなっちゃうというので、
要するに、理工学系、学問の分野でできる奴を、
大学院の特別研究員という風にして残したんだよ。

軍人と相談して、そういうのは、
なるべく招集しないことになっていたんだ。
その中に、我々も入れてもらっていたのだから。

それで、とにかく世界で仕事をするようになったのだけどね。

やっぱり、その頃から、やっとあれだね、朝、起きてきて、
その頃、「大作曲家の時間」というNHKの番組があったのだよ。

バッハのカンタータをやっているのを聞いていたら、
突然、涙が流れだしてね。すごくショックを受けたのだよ。

その前は「なんだ、あんなにくだらないの」と思っていたのだけど、
その時以来、非常に西洋音楽も聞く気になったんだ。


好きになっちゃったんだよ

だから、モネだってね。

本当に良いと思うっていうのは、
自分で努力してなるもんじゃないんだよね。

見ているうちに、ぱっと、感ずるものがあるんだ。

だから、フィラデルフィアの美術館にね、
モネのエトルタの岩の絵があるのだよ。

最初は「なんで皆こんな変な絵に騒ぐのかな」
と思っていたのだけど、3回目に行ったときに、
当然、その絵の良さがわかったんだね。

それは見ているうちに、こう海の水が流れている
ような感じが、ぱっとわかるようになった。

初め見たときは、わからなかったから、
「なんだこんな絵」と思ったのだけど、
そういうので、初めて絵が好きになる。

だから、モネを好きになろう・好きになろうと思って、
好きになったんじゃないんだよ。

モネ、好きになっちゃったんだよ。
あはははは(笑)


本物に会って初めてわかる

その頃、だいたい日本で、本物なんて見れなかったんだから。
画集を見るのが、せいぜいだった。

当時の画集なんて、ろくなものじゃなかったら、
本当の絵の良さなんて、わかんなかったんだよね。

それで、外国に行ったときに初めて、
そういう絵の良さがわかった。

日本じゃ、ほとんど本物が見れなかったのだけど、
やっとブリジストン美術館が東京駅八重洲口にできてさ。

それが『みづゑ(美術出版社)』という雑誌に載ったんだよ。
もう、待ち焦がれていたんだよ。
もう、飛び込んで行って、見たよ。

だから、今の若い人たちって、
けっこう本物を見るチャンス、多いのだよ。

だから、初めは外国なんて行ったって、
しょうがないや、って思っていたんだよ。

教授に「勉学に行ってこい」と言われて、
「何しに行くんですか?」って言ってた。

けれども、やっぱり、むこうの研究室に行って、
むこうの人の話を聞いていくうちにね、
研究の本質が、ようやくわかってきた気がしたわけ。

―絵と同じなんですね。

うん。
だから、そういう風に、
本物に会ってみるというのが、非常に大事なんだよね。

一流の研究者に会って話を聞くとね、
研究っていうのが、どういうものかが、
わかってくると思うね。


やっぱりたくさん見ないと、よくわからない

だから例えば、バッハの音楽にしたって、
まだアメリカやヨーロッパからレコードを輸入することが
ほとんど行われていなかった時代に、
銀座にヤマハのレコードショップがあったんだよ。

そこに行くと、アメリカのレコードのカタログがあったんだ。
毎月出るんだ。

新しい盤がカタログにあって、それを一冊買って見ていると、
こういう音楽には誰が何月何日に演奏したか、
ということまで書いてあるんだよ。

今の人たちは、誰それのどういう音楽ってだけしか言わないけど、
我々は、誰が何時どこで演奏したかというところまで問題にするんだよ。

同じ演奏者や指揮者にしたって、出来具合がちがうんだ。
だから聞いてみて、良いと思わないといけないんだよ。

聴き方が足りないんだな。
本当に音楽好きになっちゃったら、
何月何日の演奏ですか、ってなる。

―モネの絵が動いているように見えたのと同じですね。

そうそうそう。
一遍、見るくらいじゃわかんないよね。

―お部屋にも、いっぱい美術品がありますね。
 あ、あれは棟方志功ですね。

あれは、版画だね。
この絵、出来が良いよ。

―出来が良い・悪いの判断は、どのあたりでしているのですか?

見て、そう思ったんだよ。
あはははは(笑)
やっぱりたくさん見ないと、よくわからないね。


今まで見た絵の中で一番良い絵

ついでに余計な話すると、
ちょうど戦争が終わった頃、ヨーロッパ行った時、
土日は、そのころから休みになっちゃったんだよ。

すると他に何もやることないから、
絵を見に行ったわけじゃないのだけど、
絵を見て歩くことになっちゃうんだ。

すると良い絵があるって言うので、
そういう絵を楽しむ習慣が、
自分の中にできちゃったんだね。

それで、あの頃、運が良かったんだよ。

皆、戦争中で経済的な苦しみがあったらしくて、
良い絵を持っていた人が売ったんだよ。市場で動く。
だから、我々が見るチャンスが多かったんだ。

売ろうと思うとね、いろいろなところで貸し出しするんだね。
皆が「良いね、良いね」と言うと、値段が上がるから。
いわゆる動いて歩くような、展示会がいっぱいあったんだね。

それがいっぱいあったから、めったに見られない
すごく良い絵をいくつか見ているんだね。
非常にラッキーだったのだけど。

そういうときに、チューリッヒで、
やっぱりそういうのを見ているのだね。

今まで見た絵の中で一番良い絵だなと思う絵が
二つあるのだけど、二つともそこにあったのだよ。

ひとつは、エル・グレコ(1541-1614)の絵ね。
死んだキリストを十字架から吊り下ろした絵。
それがものすごく好きな絵のひとつなんだな。

もうひとつは、ジョルジュ・ルオー(1871‐1958)の
「ピエロ」っていう絵があったんだね。道化師だよ。

つまり誰だって、道化師なんか、
やりたくてなっているわけじゃないんだね。

人間の苦悩が非常に絵にあるから、
見たときに、すごく感銘を受けるわけだ。

そのふたつね、もう一回見てから帰ろう、
と何度も思うから、何回も見て帰ってきた。

ところがね、日本に帰ってきてからね、
そのエキシビション(展覧会)の名前を忘れちゃったんだよ。

なんていうコレクションだったかな。うっかり。

2回目にヨーロッパへ行った時は、心がけの悪い話だけど、
実は、研究を見に行くよりも、絵を見に行きたかったんだな。
あはははは(笑)

―もう虜になっちゃったんですね。


しかし、俺もけっこう絵を見る目はあるんだな(笑)

それで、あの絵をぜひ見てやろうと思うのだけど、
名前を思い出せない。
だから、どこへ行ったらよいか、わからない。

ところがね、ボストンのファイン・アーツ美術館の
売店に行ったら、マネの画集があったんだね。

それを見たら、気に入ったやつじゃないけど、
例のコレクションに入っていた絵があった。
「ナイアココレクション」と言ったのだね。

それで、今度は忘れちゃいかんと、
無理してその画集は買ったわけ。

それで、どこへ行ったら、ナイアココレクションが見れるんだろうと。
でも皆に聞いたけど、わからない。

それで、たまたまフィラデルフィア美術館(アメリカ)
に行ったとき、絵のコピーを買ったんだ。

印刷で買うと色が良くないから、スライドで買うの。
スライドなら、比較的良い絵が楽しめるんだね。

だから高いけどスライドを買って、
女の事務員に絵を包んでもらっているときに、
「ナイアココレクションを知りませんか?」と聞いたら、
いきなりこちらを振り向いて「お前見たのか?」と。

その彼女曰く、自分はこの美術館に勤めて20年。
ナイアココレクションはぜひ見たいと思っているけど、
一度も見るチャンスがなかった。お前はラッキーだと。

ニューヨーク州のオールバニという町に、
県庁みたいなものがあるわけだ。

ナイアココレクションは、
そこにいた人のコレクションだと言うのだ。

その彼女曰く、その持ち主が、数年前に死んで、
コレクションはもう売られてしまった。

もうどこに行ったのか、わからない。
私は、もう一生、見るチャンスがなくなった。
だからお前はラッキーだ、と言ってくれたわけだ。

だから俺も、しかし、けっこう絵を見る目はあるんだなと。
あははは(笑)

つまり、彼女がそれだけ夢中になる絵を良いと思ったのだから。
その後、その絵を見ていないね。

だけど、絵を見ていたときに、ニューヨーク・タイムズの中に、
その絵が掲載されていたね。

それだけ、皆が注目していたのだね。


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取材先: 西澤潤一     

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