気に入った先生につくのは大事なこと
―研究も美術も、本物を何度も見て初めてわかるものがあると仰っていたけど、
やっぱり知識や努力といった階層じゃなくて、直接五感で感じて、シームレスに、
本当の意味がぱっとわかったりする瞬間ってあるんですね。
先生だって、そうだよ。
先生につくというのは、大事なことなんだよ。
吉田松陰なんかも、全国を歩いて、
気に入った先生を見つけようとしたんだ。
吉田松陰なんかは、学問の家に生まれたから。
あのときの藩主に講義をするんだよ。
年が10歳くらいの頃から。
その代わり、しつけがすごいっていうんだね。
それこそ、おじさんが先生の代わりをしていた。
お父さんがはやくに死んだからね。
松陰ができなかったり間違ったりすると、
殴る蹴るする、っていうんだよ。
母親が見ておれなくなって、吉田松陰に対して、
「死んでおしまいなさい」と言ったっていうほどだよ。
ただ、できなかったときに
殴ったり蹴ったりするのはおかしいんでね。
そのくらい、すごい罰を与えたっていうんだ。
普通だったら、ぐれちゃうよね。
やっぱり自覚していたから、ぐれないんだよ。
現場主義の伝統
ところで、あなたはどの学部を出たの?
―自分は、理学部の生物系です。
この大学の生物だって、歴史と伝統があるんだからね。
一番最初は、東北学院大学の先生(畑井新喜司さん)が、
いろいろ指導してくれたんだよ。
その先生が、学院大の教授をしていたのだけど、
その前に、アメリカで研究をしておられた。
シロネズミか何かの神経の仕事をされていて、
将来を期待されていたのだけど、
「日本に戻ってきて、新しく東北大学をつくるのを手伝ってくれ」
と言われ、日本に帰ってきた。
だから、浅虫の研究所(※)ってあるんだね。
現場主義なんだよ。
あのやり方は、その先生が指導された。
※理学部付属浅虫臨海実験所(現:東北大学大学院生命科学研究科附属浅虫海洋生物研究センター)
八甲田山もそうだよね。あれは非常に良い山で、
上の方は非常に寒いところの生態系があって、
下の方は比較的暖かいほうの生態系がある。
ちょっと上に行ったり、下に行ったりするだけで、
いろいろな生態系の研究ができるっていうんだね。
ああいう実験現場を持っているのは、
東北大学理学部生物系の強みなんだね。
それで、良い先生を連れて来ようと言うので、
第一次世界大戦後、ウィーンの大学の先生を連れて来たんだな。
世界的な先生だったらしいね。
それで良い伝統ができたのだよ。
だから現場主義というのが、
東北大学理学部生物系の伝統には、あるんですよ。
―そんな話は一度も聞いたことなかったです。
あはははは(笑)
―現場主義は、他の大学とは違うのですか?
らしいね。
下手すると、生きている生物をいじっていない先生もいるよ。
本当は、生きている生物を見ないと、本当の研究はできないよね。
ここの大学は、そういう伝統があるんだ。
そういう人たちを呼んできて、良い大学をつくったんだね。
東北大って馬鹿にする人もいるけど、
そんな馬鹿にするもんじゃないんだね。
自覚を忘れると、良い仕事ができない
―では、東北のポテンシャルについて、西澤さんは、どのようにお考えですか?
うまくいっているところもあるんだよね。
例えば、金属は結構うまくいっているんじゃない?
あまり有名じゃないけど、セイコー社なんて、
東北の仙台近辺に、いっぱい工房を持っていた。
それは、東北大学の本多先生のやり方を、
いっぱい持って行ってやっているんだから。
時計は昔、バネで動いていたのだけどね。
そのバネの材料で、非常に時計の性能が違ったんだよね。
そういう仕事は東北大学とタイアップしてやっていたのだから。
そういう自覚を忘れるとね、産業界で
本気になって良い仕事をする人がいなくなっちゃうんだ。
そういうことを自覚していれば、ちゃんやるのだけどね。
実は新しい元素を発見していた/小川記念園
「小川記念園」って、あなた知ってる?
片平町の東北大学の正門から北へ歩いていくと、
その角にあるのが、小川記念園。
あなた方、知らないかな。
「岩波ジュニア新書」というものがあるのだけど、
理学部化学の先生(吉原賢二さん)が一冊、書いたんだな。
その先生が書いておられるのが、小川先生。
小川記念園の主だよね。
それまで総長は、文部省から送り込まれた人が
ずっと選ばれてきたのだけど、そのうちに、
この大学の教授から選びましょうという話になって、
一番最初に選ばれたのが、小川先生なんだよ。
息子さんは、金研の教授をしたけどね。
あの頃、ひとつのブームが、新しい元素の発見だったんだよ。
小川先生は、一生懸命やって、新しい元素を見つけたんだ。
それで名前を「ニッポニウム (Nipponium:Np) 」とした。
元素につける名前には、
「ニュー(niu)」とついているのが多いんだ。
そして頭を「Nippon」とした。
「新しい元素を見つけたぞ」と言って騒いだのだけど、
「間違っていた」となって、取り消されちゃった。
ところが、本当はそうじゃなくて、
それは放射性元素だったんだよ。
放射性元素は、放っておくと、質が変わっちゃうんだよ。
放射線を出すから、違うものになっちゃうわけ。
だから、本当は見つけていたのに、見つけていない、
とやられちゃって、非常に不名誉を被ったの。
ところが、その後、その理学部化学の先生(吉原賢二さん)が、
ちゃんと調べて、実はちゃんと新しい元素を見つけていたんだ、と。
その当時は、こういう元素を見つけていたのだけど、
何年か経つと、別のこういう元素に変わっている。
だから、見つけていなかったと言っていたけど、
そうじゃないんだということが、岩波ジュニア新書に、
ちゃんと、書いてあるよ。
一部は知る人ぞ知るから、小川記念園というものを
つくっているわけだ。
そのうちに、行ってみなさいよ。
ツツジの季節になったら、あそこ、とても綺麗だよ。
魯迅と藤野先生
魯迅の話だって、そうでね。
ああいうことは、日本と中国の間で、
どういう意味を持つか、という話になるでしょう。
やっぱり魯迅が、ここ(東北大学)で、
そういうことに気が付いたってことは、
中国の人たちは、非常に大事にしているわけよ。
魯迅はもともと医者になろうと思って、日本に来たんだよ。
「仙台医学専門学校」(現在の東北大学医学部)に入ったんだ。
そこで、藤野先生という先生の講義を聞いていたのだけど、
日本語を良くわからない魯迅がノートを取れていないのを見て、
藤野先生は、講義が終わったら、魯迅のノートを持って行っちゃった。
それで、赤インクで全部書きなおしてくれたの。
じゃあ藤野先生は、学生にすごく優しい先生だったかと言うと、
とんでもない。すごくおっかない先生だっていうんだ。
他の日本人の学生がさぼって勉強しないのは、非常に厳しかった。
それで結局、東北大学医学部ができたとき、
藤野先生は教授に入れられなかったんだよ。
そのあと、藤野先生は国に帰っちゃったんだね。
掘立小屋のようなひどい小屋に住んでおられたのですから。
―それで、魯迅はどんなことに気付いたのですか?
藤野先生の直接の影響かはわからないけど、
これは医者になって中国人の病気を治してやるよりも、
中国全体の病気を治そう、中国がちゃんと目覚めて、
立派な国にならないとだめだと言って、文学者になったのだよ。
笑い話みたいな中に、大事な話がいっぱいある
―ずっと東北大にいたけれども、知らないことばかりです。
でも、知らないでいるのは、すごくもったいないです。
そういったことは、まだまだたくさんありそうですね。
けっこう、あるわけだ。
だから、笑い話みたいな中に、
大事な話がいっぱいあるんだよね。
まじめな話じゃないけど、あぁそういうことがあったのかと、
後の人が言うような話がね。
―そういったものの積み重ねの上に、今の私がいるし、今の社会もあるわけですね。
それを認識しないままでは、私はどこから来たのか、認識できないような気がします。
少なくともそれを目に見えるようにしたいです。
そうね。
この新聞つくった意味も、
そういうところにあるのでしょうから。
―西澤さん、本日もたくさんお時間を頂きまして、本当にありがとうございました。
コラボレーション
おすすめ記事
【特集】宮城の研究施設 一般公開特集 |
【特集】仙台市総合計画審議会 仙台の10年をつくる |
【科学】科学って、そもそもなんだろう?
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 【大草 芳江|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?|防災科学技術研究所】
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 【大草 芳江|弘前大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
日野亮太さん(東北大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.02 【大草 芳江|東北大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
同じ取材先の記事
◆ 西澤潤一
科学者の西澤潤一さんに聞く:科学って、そもそもなんだろう?【第2弾】(1/4) 2010.10.05 【大草 芳江|科学って、そもそもなんだろう?|西澤潤一】
科学者の西澤潤一さんに聞く:科学って、そもそもなんだろう?【第2弾】(2/4) 2009.10.05 【大草 芳江|科学って、そもそもなんだろう?|西澤潤一】
科学者の西澤潤一さんに聞く:科学って、そもそもなんだろう?【第2弾】(3/4) 2009.10.05 【大草 芳江|科学って、そもそもなんだろう?|西澤潤一】
科学者の西澤潤一さんに聞く:科学って、そもそもなんだろう?【第2弾】(4/4) 2009.10.05 【大草 芳江|科学って、そもそもなんだろう?|西澤潤一】
科学って、そもそもなんだろう?
最新5件
地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 | |
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 | |
■記事一覧を表示 記事カテゴリ > 科学って、そもそもなんだろう? |
カテゴリ
取材先一覧
■ 幼・小・中学校
■ 高校
- ・仙台一高 (15)
- ・仙台二華 (14)
- ・仙台二高 (12)
- ・仙台城南高校 (5)
- ・仙台城南高等学校 (0)
- ・仙台高専 (4)
- ・宮城一高 (4)
- ・宮城県高等学校理科研究会 (2)
- ・岩ケ崎高 (1)
- ・東北工業大学高校 (0)
■ 大学
■ 国・独立行政法人
- ・内閣府 (1)
- ・宇宙航空研究開発機構 (5)
- ・文部科学省 (0)
- ・東北経済産業局 (17)
- ・水産総合研究センター東北区水産研究所 (1)
- ・理化学研究所 (3)
- ・産業技術総合研究所東北センター (36)
- ・科学技術振興機構 (1)
- ・防災科学技術研究所 (1)
- ・高エネルギー加速器研究機構 (1)
■ 自治体
- ・仙台市 (8)
- ・仙台市博物館 (4)
- ・仙台市天文台 (12)
- ・仙台市教育委員会 (13)
- ・仙台市産業振興事業団 (1)
- ・仙台市科学館 (8)
- ・仙台文学館 (2)
- ・仙台管区気象台 (2)
- ・塩釜市 (3)
- ・宮城県 (8)
- ・宮城県古川農業試験場 (2)
- ・宮城県教育委員会 (1)
- ・宮城県農業・園芸総合研究所 (1)
- ・気仙沼市 (1)
- ・登米市 (1)
■ 一般企業・団体
- ・DIC株式会社 (2)
- ・K sound design (1)
- ・KDDI (2)
- ・natural science (1)
- ・せんだい・みやぎNPOセンター (2)
- ・てとてと (1)
- ・ひのき進学教室 (11)
- ・みやぎ工業会 (8)
- ・みやぎ工業会会長 (0)
- ・みやぎ産業振興機構 (3)
- ・アスター (1)
- ・インスペック (1)
- ・エツキ (1)
- ・ソニー (3)
- ・ソニー教育財団 (1)
- ・ソフトバンク (1)
- ・ティ・ディ・シー (1)
- ・デュナミス (1)
- ・ドットジェイピー (1)
- ・ナノテム (1)
- ・ハリウコミュニケーションズ (3)
- ・ハード工業有限会社 (1)
- ・フジイコーポレーション (1)
- ・プレファクト株式会社 (1)
- ・ヤマダフーズ (1)
- ・全国学習塾協会 (3)
- ・公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン (1)
- ・勝山酒造部 (1)
- ・及源鋳造株式会社 (1)
- ・大武・ルート工業 (1)
- ・太白少年少女発明クラブ (1)
- ・宮城の新聞 (0)
- ・宮城県中小企業家同友会 (1)
- ・宮城県産業人クラブ (0)
- ・宮城県職業能力開発協会 (1)
- ・宮城県酒造組合 (2)
- ・工藤電機 (2)
- ・平孝酒造 (1)
- ・応用物理学会 (2)
- ・新東総業株式会社 (1)
- ・日刊工業新聞社 (7)
- ・日本アンドロイドの会 (1)
- ・日本技術士会 (2)
- ・日本私立大学団体連合会 (1)
- ・日本農芸化学会東北支部 (1)
- ・日本IBM (3)
- ・日東イシダ (1)
- ・有限会社 柏崎青果 (1)
- ・東京エレクトロン宮城 (1)
- ・東北ニュービジネス協議会 (1)
- ・東北活性化研究センター (3)
- ・東北経済連合会 (1)
- ・東北電力 (2)
- ・東北電子産業株式会社 (1)
- ・東栄科学産業 (1)
- ・林精器製造 (1)
- ・株式会社三栄機械 (1)
- ・株式会社悠心 (1)
- ・河北新報 (1)
- ・神田産業株式会社 (1)
- ・秋田化学工業 (1)
- ・笹氣出版印刷 (1)
- ・米鶴酒造 (1)
- ・萩野酒造 (1)
- ・農芸化学会 (1)
- ・遠藤工業 (1)
- ・鈴木製作所 (1)
- ・阿部蒲鉾 (1)
- ・阿部蒲鉾店 (1)
- ・鳴子の米プロジェクト (1)
- ・NECトーキン (1)
特別企画 「宮城の塾」
学習塾から見る 宮城の教育の「今」 塾選びに一役 |
【科学って、そもそもなんだろう?】 若手研究者座談会「地震学×情報科学の融合で得られたもの」 2024.09.16 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 【同窓生に聞く#01】中鉢良治さん(元ソニー社長、産総研最高顧問)がリアルに感じていることって、何ですか? 2022.10.27 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 |
記者ブログ
ひとり新聞社「宮城の新聞」の大草よしえが衆院選に立候補 2021.10.19 | |
最近の活動は「Twitter」に移行しました 2019.11.01 | |
【追記】テレビ朝日「モーニングバード」スタジオ生出演&iCAN'15世界大会(アラスカ)世界第1位! 2015.06.19 | |
2014年の振り返りと、2015年の抱負 2015.01.05 | |
平成25年度を振り返りました・・・。 2014.04.02 |
中野塾(泉中央・北高森) | |
ひのき進学教室(泉中央・長命ヶ丘・八幡教室・上杉教室) | |
夢学館(東照宮・福室) | |
早稲田育英ゼミナール(泉中央) | |
ソーメック個別学習院(若林区、太白区、泉区に6教室) | |
明和塾(北山・八木山) | |
JUKU ペガサス仙台南光台教室(南光台南) |
アクセスランキング
- 【宮城の塾】 宮城の塾 仙台市を中心とした学習塾・幼児教室・進学塾の特集
- 世界中の研究者が憧れる研究拠点へ/東北大学WPI-AIMR本館竣工記念式典/科学って、そもそもなんだろう?
- [vol.1] 第1回宮城の日本酒を楽しむ会/社会って、そもそもなんだろう?
- 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~/社会って、そもそもなんだろう?
- 宮城県仙台第一高等学校/教育って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 ひのき進学教室(泉中央本部教室・八幡町教室・上杉教室・五橋教室・長町教室・愛子教室・吉成教室・大和町教室、他)
- 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く)/科学って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 JUKU ペガサス仙台南光台教室
- 【宮城の塾】 質問できます!/宮城の塾|宮城の新聞
- 【宮城の塾】 明和塾(北山教室・八木山教室)