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2024年 11月 21日 (木)

気に入った先生につくのは大事なこと




気に入った先生につくのは大事なこと

―研究も美術も、本物を何度も見て初めてわかるものがあると仰っていたけど、
 やっぱり知識や努力といった階層じゃなくて、直接五感で感じて、シームレスに、
 本当の意味がぱっとわかったりする瞬間ってあるんですね。

先生だって、そうだよ。
先生につくというのは、大事なことなんだよ。

吉田松陰なんかも、全国を歩いて、
気に入った先生を見つけようとしたんだ。

吉田松陰なんかは、学問の家に生まれたから。
あのときの藩主に講義をするんだよ。
年が10歳くらいの頃から。
その代わり、しつけがすごいっていうんだね。

それこそ、おじさんが先生の代わりをしていた。
お父さんがはやくに死んだからね。

松陰ができなかったり間違ったりすると、
殴る蹴るする、っていうんだよ。

母親が見ておれなくなって、吉田松陰に対して、
「死んでおしまいなさい」と言ったっていうほどだよ。

ただ、できなかったときに
殴ったり蹴ったりするのはおかしいんでね。
そのくらい、すごい罰を与えたっていうんだ。

普通だったら、ぐれちゃうよね。
やっぱり自覚していたから、ぐれないんだよ。


現場主義の伝統

ところで、あなたはどの学部を出たの?

―自分は、理学部の生物系です。

この大学の生物だって、歴史と伝統があるんだからね。
一番最初は、東北学院大学の先生(畑井新喜司さん)が、
いろいろ指導してくれたんだよ。

その先生が、学院大の教授をしていたのだけど、
その前に、アメリカで研究をしておられた。

シロネズミか何かの神経の仕事をされていて、
将来を期待されていたのだけど、
「日本に戻ってきて、新しく東北大学をつくるのを手伝ってくれ」
と言われ、日本に帰ってきた。

だから、浅虫の研究所(※)ってあるんだね。
現場主義なんだよ。
あのやり方は、その先生が指導された。

※理学部付属浅虫臨海実験所(現:東北大学大学院生命科学研究科附属浅虫海洋生物研究センター)

八甲田山もそうだよね。あれは非常に良い山で、
上の方は非常に寒いところの生態系があって、
下の方は比較的暖かいほうの生態系がある。

ちょっと上に行ったり、下に行ったりするだけで、
いろいろな生態系の研究ができるっていうんだね。

ああいう実験現場を持っているのは、
東北大学理学部生物系の強みなんだね。

それで、良い先生を連れて来ようと言うので、
第一次世界大戦後、ウィーンの大学の先生を連れて来たんだな。

世界的な先生だったらしいね。
それで良い伝統ができたのだよ。

だから現場主義というのが、
東北大学理学部生物系の伝統には、あるんですよ。

―そんな話は一度も聞いたことなかったです。

あはははは(笑)

―現場主義は、他の大学とは違うのですか?

らしいね。
下手すると、生きている生物をいじっていない先生もいるよ。

本当は、生きている生物を見ないと、本当の研究はできないよね。
ここの大学は、そういう伝統があるんだ。
そういう人たちを呼んできて、良い大学をつくったんだね。

東北大って馬鹿にする人もいるけど、
そんな馬鹿にするもんじゃないんだね。


自覚を忘れると、良い仕事ができない

―では、東北のポテンシャルについて、西澤さんは、どのようにお考えですか?

うまくいっているところもあるんだよね。
例えば、金属は結構うまくいっているんじゃない?

あまり有名じゃないけど、セイコー社なんて、
東北の仙台近辺に、いっぱい工房を持っていた。

それは、東北大学の本多先生のやり方を、
いっぱい持って行ってやっているんだから。

時計は昔、バネで動いていたのだけどね。
そのバネの材料で、非常に時計の性能が違ったんだよね。
そういう仕事は東北大学とタイアップしてやっていたのだから。

そういう自覚を忘れるとね、産業界で
本気になって良い仕事をする人がいなくなっちゃうんだ。
そういうことを自覚していれば、ちゃんやるのだけどね。


実は新しい元素を発見していた/小川記念園

「小川記念園」って、あなた知ってる?

片平町の東北大学の正門から北へ歩いていくと、
その角にあるのが、小川記念園。

あなた方、知らないかな。
「岩波ジュニア新書」というものがあるのだけど、
理学部化学の先生(吉原賢二さん)が一冊、書いたんだな。

その先生が書いておられるのが、小川先生。
小川記念園の主だよね。

それまで総長は、文部省から送り込まれた人が
ずっと選ばれてきたのだけど、そのうちに、
この大学の教授から選びましょうという話になって、
一番最初に選ばれたのが、小川先生なんだよ。
息子さんは、金研の教授をしたけどね。

あの頃、ひとつのブームが、新しい元素の発見だったんだよ。
小川先生は、一生懸命やって、新しい元素を見つけたんだ。
それで名前を「ニッポニウム (Nipponium:Np) 」とした。

元素につける名前には、
「ニュー(niu)」とついているのが多いんだ。
そして頭を「Nippon」とした。

「新しい元素を見つけたぞ」と言って騒いだのだけど、
「間違っていた」となって、取り消されちゃった。

ところが、本当はそうじゃなくて、
それは放射性元素だったんだよ。

放射性元素は、放っておくと、質が変わっちゃうんだよ。
放射線を出すから、違うものになっちゃうわけ。

だから、本当は見つけていたのに、見つけていない、
とやられちゃって、非常に不名誉を被ったの。

ところが、その後、その理学部化学の先生(吉原賢二さん)が、
ちゃんと調べて、実はちゃんと新しい元素を見つけていたんだ、と。

その当時は、こういう元素を見つけていたのだけど、
何年か経つと、別のこういう元素に変わっている。

だから、見つけていなかったと言っていたけど、
そうじゃないんだということが、岩波ジュニア新書に、
ちゃんと、書いてあるよ。

一部は知る人ぞ知るから、小川記念園というものを
つくっているわけだ。

そのうちに、行ってみなさいよ。
ツツジの季節になったら、あそこ、とても綺麗だよ。


魯迅と藤野先生

魯迅の話だって、そうでね。

ああいうことは、日本と中国の間で、
どういう意味を持つか、という話になるでしょう。

やっぱり魯迅が、ここ(東北大学)で、
そういうことに気が付いたってことは、
中国の人たちは、非常に大事にしているわけよ。

魯迅はもともと医者になろうと思って、日本に来たんだよ。
「仙台医学専門学校」(現在の東北大学医学部)に入ったんだ。

そこで、藤野先生という先生の講義を聞いていたのだけど、
日本語を良くわからない魯迅がノートを取れていないのを見て、
藤野先生は、講義が終わったら、魯迅のノートを持って行っちゃった。
それで、赤インクで全部書きなおしてくれたの。

じゃあ藤野先生は、学生にすごく優しい先生だったかと言うと、
とんでもない。すごくおっかない先生だっていうんだ。
他の日本人の学生がさぼって勉強しないのは、非常に厳しかった。

それで結局、東北大学医学部ができたとき、
藤野先生は教授に入れられなかったんだよ。

そのあと、藤野先生は国に帰っちゃったんだね。
掘立小屋のようなひどい小屋に住んでおられたのですから。

―それで、魯迅はどんなことに気付いたのですか?

藤野先生の直接の影響かはわからないけど、
これは医者になって中国人の病気を治してやるよりも、
中国全体の病気を治そう、中国がちゃんと目覚めて、
立派な国にならないとだめだと言って、文学者になったのだよ。


笑い話みたいな中に、大事な話がいっぱいある

―ずっと東北大にいたけれども、知らないことばかりです。
 でも、知らないでいるのは、すごくもったいないです。
 そういったことは、まだまだたくさんありそうですね。

けっこう、あるわけだ。
だから、笑い話みたいな中に、
大事な話がいっぱいあるんだよね。

まじめな話じゃないけど、あぁそういうことがあったのかと、
後の人が言うような話がね。

―そういったものの積み重ねの上に、今の私がいるし、今の社会もあるわけですね。
 それを認識しないままでは、私はどこから来たのか、認識できないような気がします。
 少なくともそれを目に見えるようにしたいです。

そうね。
この新聞つくった意味も、
そういうところにあるのでしょうから。

西澤潤一さん

―西澤さん、本日もたくさんお時間を頂きまして、本当にありがとうございました。


取材先: 西澤潤一     

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