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2017年 04月 25日 (火)

宮城県仙台第一高等学校校長 北島 博 さん

2008年4月23日公開


 「外から見たら、私たちは何もしていないように見えるかもしれません」。北島博校長は、柔和な表情で、こう話しはじめた。北島校長から語られる、仙台一高「らしさ」を表す様々なエピソード。本特集制作にあたり、数々の教員や校長ら管理職と接してきたが、そこに驚く程、共通していた点は― 自制心を以って「見守る」姿勢。社会という名の大海原で自分を持って生きるには、自分自身で羅針盤をつくるしかない。いずれ社会へ旅立つ生徒への、心からのエール。一朝一夕でできることではない。序列化によるコントロールを排除した「見守る」姿勢とは、つまり、多様性を受け入れる器量なのだ。


自分で考え、判断して、行動し、責任をとれる、自立した人間に。

 私たちが生徒にレールを敷いていけば、スムーズに事を運ぶことはできます。けれども彼らは、一生温室の中で生きていくわけではありません。外に出た時、自ら根を張り、草を生やし、花を咲かせるようになるには、それなりの雨風を受ける体験が必要です。骨太に子どもたちを育てよう、という伝統が仙台一高にはあります。自分で考え、判断して、行動し、責任をとれれば良いのです。主人公は、彼ら生徒です。校歌、教訓、標語。すべて一本筋が通っています。このような学校は、たとえ時代が変化しても、生き残って欲しいと思いますね。

 将来は、社会に合わせていく必要性が出てきます。けれども同じ「合わせる」でも、疑問に思わず「合わせる」のと、自分の中で租借し「合わせる」のでは、全く意味が違います。どこからが駄目なのかは、積極的にぶつかってみないとわかりません。こういう年代で、失敗を恐れずにやれることは、長い目で見ても大切なことだと考えます。生徒一人ひとり濃厚な3年間を送り、成長しているのだろうなぁと思いますね。それぞれの生徒一人一人が、「自分は一高生だ」と意識しているようです。仙台一高生は、50歳、60歳になっても、本当に熱い方が多いんです。仙台一高生だった時代は、長い人生のうちの、たった3年間のことなのですけどね。

 仙台一高の校長になってから、お盆と正月を我が家で過ごしたことはありません(笑)。8月15日は「大納涼大会」という卒業生同士の懇親を深めるための会に参加。1月1日には「初蹴り」と銘打った、ラグビー部の一高・二高定期戦に参加します。なぜこの日なのでしょう、やっぱり普通じゃないですよね(笑)。正月もお盆も土日も、生徒たちが勉強ができるよう、学校を開けています。生徒に学校に入るなと言うのは、高校入試くらいですね。

決して、頑なではないんですね。良いと思ったら、伝統を変えてもいい。

 生徒会執行部がない仙台一高における代表機関が「生徒総会」です。生徒たちが自らの意思で開催するもので、生徒集めから決議まで、生徒によって自主的・民主的に運営されています。教員は、この中に入ることはできません。しかし、共学化について生徒総会が開催されたときのことです。「校長、我々の議論を聞いて欲しい」と、生徒たちが私を招待したのです。決して、頑なではないんですね。良いと思ったら、伝統を変えてもいい。スーパーエリートになるのではなく、発信した子達が自分たちで話し合って決めていくんです。

 保護者もそれがこの学校の特徴だということを知っています。「うちの息子は運動祭に発起しました。自ら実行委員になって、成長していることがわかります」とある保護者の方は話しておられましたね。卒業式には「ハレ姿を見たい」と三世代で出席するご家族も多いんです。毎日の様子がネタですね。いろんな先生に聞けば、ネタが集まってきますよ(笑)。

 疑問に思えば主張する生徒たちですが、「よその学校はこうなのに、なぜうちの学校はなぜこうなのだ」という声は生徒から聞いたことがありません。例えば、定期考査前は短縮授業になる学校も多い中、仙台一高では定期考査直前でも6時間授業です。また土曜日は、土曜学習会があります。それでも「よその学校は休みなのに」といった声は聞こえてきません。何か疑問があれば、校長室のドアをノックして物申す一高生なのですけどね。

価値が多様である、そんな社会や学校であって欲しい。

 生徒たちは、自分の中の価値観に照らして、絶対的な評価で物事を見ようとしています。そういうことが大切なのだということを、自然と、知らず知らずのうちに学んでいるようです。生徒らは、発言者に対して批判や不満があれば「ピシーッ」と発します。反対に、「ここはみんな、聞くところだぞ」と判断すれば、「シーッ」と周囲に自制を促すんです。これをなくすと、価値の尺度がひとつになり、序列化がはじまります。人それぞれ違う価値の尺度があるのだから、色々な人がいていいんだと思います。同じ色に生徒を染めようとはしません。一人ひとりが違っていていいんだよ。価値観のベースにそれを持っていたいと思います。一朝一夕でできることではありません。普段から意識的にやらなければできないことです。

 いじめは、ひとつの価値観で、序列をつくることで発生します。人と比較して良い悪い、強い弱いと、一つの価値に狭められてしまうのです。もともと価値が多様である、そんな社会や学校であって欲しい。それぞれのその存在が、絶対的な価値として認められるべきなのです。

 エリート主義に聞こえるかもしれませんが、合う子、合わない子がいるかもしれません。自分で考えろといわれても、一体どうすればいいの?と悩みを持つ子もいるかもしれませんね。そして、すぐに光る子もいるし、ゆっくり時間がかかって光る子もいます。あくまで、3年間でできることは限られています。けれども5年、10年、50年後、どんな変化があるでしょうか。このようなことを建前で言っているところは多いでしょうが、本当に実行しているところはほとんどないでしょう。実際の世の中は、統制社会。出る杭は打たれます。仙台一高の大切な魂・精神を、脆弱にならず色褪せず、持ち続けて欲しいと願います。

【大草芳江】

付記(2008/04/28)

 「見守る姿勢」=「価値の多様性を受容しようとする姿勢」は、教育界に存在するものの、現実的には、様々な制約条件によって実現が難しい課題のひとつだ。個々人に依存しない形で、個々人が「多様性を受容できる器量」を発揮できる「しくみ」のひとつが、校訓「自重献身」・標語「自発能動」という仙台一高の「伝統」なのかもしれない。仙台一高への一連の取材活動を通じ、「伝統」を軸に、多様な価値観を受容できる「しくみ」が存在している事実に、新たな可能性を感じた取材活動であった。

取材先: 仙台一高      (タグ: ,

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