[Vol.2]
渡辺一馬さん(株式会社デュナミス 代表取締役社長)
1978年2月、宮城県角田市生まれ。1997年、新設の宮城大学へ第一期生として入学。在学中に学生ベンチャーサークル・デュナミスへ参画。2001年3月、卒業と同時にデュナミスを会社法人化し、代表に就任する。現在、数多くのプロジェクトに関わりながら、幅広い活動を行っている。
-皆さんの中で、「社長」という言葉を知らない人はいないだろう。けれども「社長」が何を思い、何を考え、何を行動しているかのかを、知っている人はそう多くはないかもしれない。宮城大学第一期生による、宮城大学発ベンチャー企業デュナミスの若き「社長」、渡辺一馬氏。大きな体と大きな心で大きな夢を語るその姿からは、"自分のまわりが幸せになれば"という彼自身の生き方そのものがメッセージであることが感じられる。
"他人を楽しませると、自分も楽しいし嬉しい。そういうことが当たり前なんだよな"って思えるような、そんなお手伝いができればと思っています。
「宮城大学時代に仲間達と一緒にはじめた、自分たちで仕事をしてお金を稼ぐというサークルを、会社にしてから7年目。特に最初の頃はホームページをつくる等、パソコンの仕事が多かったので、今でもパソコン関係の仕事が多いですね。最近は、それぞれの人たちが将来を楽しく生きられるような地域にしたいと思い、それらをお手伝いする仕事をしています。具体的に言うと、中高生に対しては、学校の先生へ進路指導に関する情報提供をしたり、その前段階の授業をつくるお手伝いをしています。大学生には、就業体験(模擬的に仕事をするインターンシップというもの)を提供しています。」
-なぜ、そのような仕事をしようと思ったのですか?
「中学校や高校という段階で進路を考えようとしても、どうしても自分のまわりには、自分の親とか親戚とか、学校の先生や塾の先生しかいないじゃないですか。けれども世の中に仕事というものは、3万種類あるとも言われている。それなのにほんの一握りの選択肢で、これからの80年を考えろと言われても、わからないじゃない。だから、皆さんがいろいろなかっこいい大人たちに出会えるような環境をつくりたいんです。写真や本だけでなく、生で出会えるような道をつくりたい。それに急に皆さんが社会に出ても、"就業"って何なのかわからないと思うので、いずれつながらなきゃならない社会に対して、前向きにつながれるものをつくりたいと思っているんです。」
-本来なら無数にあるはずの選択肢を、リアルに感じられる環境づくりを目指すと言うことですね。では、実際の教育現場から感じることは?
「最近とある高校へ行って、進路指導の現場を見てきました。そこで衝撃的だったのが、そもそも高校って、義務教育じゃないですよね?権利じゃないですか。それなのに"学ぶことがつまらない""何のために勉強しているのかがわからない"っていう子がたくさんいたことに、非常に驚きました。でもそれも表面上のことで、高校生の皆さんも、いっぱい楽しいことをしたいし、もっといろんな人としゃべりたいって思っているんじゃないかな。ただ、今の学校のしくみではそれが生かせないことが多いので、学校の先生だけに限らずに、もっと広いお手伝いを求めなきゃ、と思っています。」
-今の学校のしくみではできないことを、やろうと?
「そうです。だから大人のみんなも、もっと学校に出て来ようよ、という思いがあります。かっこいい大人を見つけたいし、皆さんをかっこいい大人に出会わせたい。全然、もうからないんですけどね。じゃあ、もうからないのになぜやってるのかと言うと、"楽しいから"です。それにこれは長いスパンでの"投資"だと思っています。ここはなかなか皆さんに理解していただけないところなんですけどね。稼ぐためだけに、20代、30代、40代、50代という時間を使いたくないんです。たとえ60歳、70歳になって収入がなかったとしても、まわりのみんなが楽しくて、優しかったりすれば、自分が楽しいし嬉しいじゃないですか。もっと人と人が助け合ったり、励まし合ったり、伸ばし合ったり、そういう地域をここでつくるのが目的なんです。だから、今からを生きる皆さんが、"給料が良いから""仕事が楽だから"という理由だけじゃなく、"他人を楽しませると、自分も楽しいし嬉しい。そういうことが当たり前なんだよな"って思えるような、そんなお手伝いができればと思っています。」
"ないものはつくるしかない"。それが生きることの本質だと思う。
「学校のテストもそうだけど、人から言われたことをやらされるだけでは、そもそも人との関係性がないから、それをやっても感謝されることはないですよね。本来的には学校の委員会だって、"お互いにありがとう"という、仕組みなはずなんですがね。今の学校の先生は、委員会を義務化してしまうから、楽しくないし、何の学びにもなっていないんです。そういうことをですね、皆さんには見つけて欲しいんだなって。」
-人との関係性が見えなくなるほど、社会は細分化・複雑化して、それぞれの枠組みが形骸化している現状。学校もその例外に漏れず、社会の縮図がそこにはある。そもそも委員会なんて、はじめから"ない"状態でスタートして、誰かが何かに困ったときに、気づいた人がつくればいいのに。結果それが委員会という形になっていたら、それはすごいことですよね。
「まさに、それで。基本的には、まさに、それなんです。仕事って、"ないものをつくること"だなって最近思っていて。それなのに、そういうことは教えてもらえないんですよね。"世の中にはなんとなくあるべきものがあって、そこに向かってみんな当てはまろうね"という話を学校からやんわりとされていて。それを皆さんも"やだな"と思っているのだけど、知らず知らずに、当てはまっていく自分がいたり、抵抗する気持ちを忘れてしまったりするみんながかわいそう。」
-宮城大学の第一期生ということで、"ない"という必然性は強かったと思いますか?
「そうですね。"ない"からつくったわけですよ、大学の時に。先輩がいないから、何もないし、部活もお祭りもない。だからつくんなきゃいけなかった。必要だからやったし、必要なくなったら解散させた。その経験が、今の自分をつくっているんです。だから今、会社をやっているんですね。先生からやれって言われたものはつまんないけど、自分でやってることは楽しいじゃん。それが生きるっていうことの本質だと思います。」
最終的には、死んだときに"あんな人いてよかったね"って言われたい。前倒しして30代くらいに言われたら、もっとハッピーなのであって。
-"そういえば社長って、そもそも何をしているの?"と思う中高生も多いかと思います。
「基本的にぼくがやっていることは、人に会いまくること。人がやりたいことを、引き出してあげて、ワクワク・ドキドキ度が上がるお手伝いしています。かっこいい大人増えれば、皆さんが出会えるかっこいい大人が増えてくる。」
-そこに、"相手がお客様"という感覚は、あるんですか?
「お客さんと思っていないですね。人と人とのつながりって、そういうものじゃないと思う。自分の会社の社員に対しても同じで、目上の人には失礼かも知れないけど、友達っていう感覚の方が近いかな。つまり、何らかの部分での、パートナーになりたいと思ってる。今の世の中みんな、お客さんとサービスする側って関係だけになっていて、え~っ、それだけじゃないよね~って、思っちゃう。なんらか、あきらめちゃいけないことがあるんじゃないかな。サービスって言ったって、きっとどこかで誰かが同じものをやっているわけじゃないですか。ぼくであるという必然性がなくなっちゃう。"1万円もらったからサービスとしてこれだけやります"という関係だけじゃなくて、将来の見えにくい目的のために、それ以上の何が出来るんだろうといつも考えていますね。何かを乗り越えちゃう、ってことをやってみたいなぁ。」
-いわゆるギブ&テイクの関係を超えるものを、求めるということなんですか?
「give give giveだね。最終的には、死んだときに"あんな人いてよかったね"って言われたい。前倒しして30代くらいに言われたら、もっとハッピーなのであって。そこが"サラリーマン的な"生き方をした人と、こういう人生を送った僕だと、違うと思うんだよね。」
"生きること"と"仕事をすること"と"勉強すること"は、ほぼイコールでつながっている。
「何かをはじめようと思っても、道具がなければ何もやれないんです。何もやれないんだから、それを学ぶために勉強すると思えば、勉強も楽しいじゃん。本質的な仕事をしている人たちに共通しているのは、誰かに強制されて仕事をしているんじゃなくて、"自分でこういう風に生きよう"と思って生きていることなんです。そういうかっこいい大人達を、学校に連れてきているんです。"生きること"と"仕事をすること"と"勉強すること"は、本来ならば、ほぼイコールでつながっているのに、みんな、つながってないよね。本当はお父さんやお母さんが皆さんに伝えないといけないことなのだけど、ほとんどのお父さん・お母さんはそれをこれまで教わってきていないので、生き方そのものがそういう人たちを学校に連れてきて、その人の生き方自体を皆さんに味わっていただけることを、今やっているんだよなぁ。」
-では最後に、今の中高生に伝えたいことは?
「役に立つんだから、勉強はだまってやっとけ。」
「"ないものをつくるしかない"と思ったり、"自分が楽しかった"って思うのは、どういう時かを思い出してください。自分自身がワクワク・ドキドキすることを大切にして、それは何かって探すことが大切なんじゃないかな。そして、"役に立つんだから、勉強はだまってやっとけ"。"何か自分でやりたい"って思ったら、それに早く手が届いた方が良いじゃん。野球でも、2軍より1軍になったほうがいいじゃん。早く深くやるためには、自分の勉強のやり方を覚えていた方が得なんだよ。同じことをやるにしても、半年でマスターしてしまう人もいれば、10年たってもマスターできない人がいる。この記事を読んでいる皆さんの時期に、勉強の仕方を覚えているかどうかが、分かれ目なんだな。例えば、目の前に宿題の山がある。それをロールプレイングゲームみたいに楽しめるか、すぐに投げ出してしまうか。どうせやらないといけないわけだから、楽しんでやっていく方が得だよね。その目の前のものを楽しくしていくことを、ぼくたちはやっていきたいと思う。」
「人生の豊かさって、いかに勉強するかにかかってきちゃう。」
「それにちょっとネガティブな話をするけど、今、中国の貧富の差が広がってきていて、稼ぐ人は一日1億円以上稼ぐし、一方で一日600円ぐらいの日当にありつけるかどうかという生活をしている人もいるんだって。例えばある広告代理店のお兄ちゃんは、社員20名くらいの会社で、年商4~5億円で、モデルの奥さんがいて、3000万円のマンションを購入して、さらに不動産なんかやってばりばり稼いだりしてるわけですよ。そして、より勝とうとするために一生懸命勉強をしている。一方で、全然稼げない人もいる。3000万円するマンションを買うには、中国の農民が700年分働かなきゃいけないんだって。それでそういう人たちの子どもたちが、たった9歳、10歳の子どもたちがですよ、泣きながら、"お父さん・お母さんをこれ以上苦しめたくないから、科学者になってお金をたくさんもらうんだ"って死に物狂いで勉強をしている。もちろん、金持ちの子どもたちは、いい教育をがんがん受けていている。そういう国が、隣にあるんだぞ。10年後、20年後、自分たちの同級生が、同じレベルで仕事をしていくことを想像してみてよ。 勉強の仕方を15歳まで学ばずにいれば、差がつくのは当たり前だよね。そうなったら、みんなは何も考えないで仕事をやるような国に、住むことになっちゃうんだよ。今見ている貧しい人たちが、半世紀も過ぎたら、逆転するかも知れないんだよ。このままだと、反対になっちゃうもん。日本の子どもたちが一年間で読む本の量は、漫画や教科書を除けば、せいぜい10冊くらいでしょ。インドだと一年間で本棚1個分、読む子もいるんだよ。何が起きるんだよ、そんなことしたら。"豊かさ"って言ったら、わかりづらいと思うんだけど、人生の豊かさって、いかに勉強するかにかかってきちゃう。」
「つまんなくするのは自分。自分で楽しくできる世の中なのに、"つまんない"っていうスイッチを自分で押しちゃうんだ。」
「学ぶことって、実はめちゃくちゃおもしろいはずなんだけど。悲しいかな、"勉強すること"と"学ぶこと"が分かれちゃっている。知ったときの楽しさを、もっと味わってほしいな。それって、"学校の先生が悪い"とか、"社会の仕組みが悪い"とか、そういうだけじゃなくて、実は自分の心持ちひとつで、けっこう変わったりするんだよ。つまんなくするのは自分。自分で楽しくできる世の中なのに、"つまんない"っていうスイッチを自分で押しちゃうんだ。」
「だまされたと思って、いろんな人と話をしてみて下さい。」
「大人と話すことを、怖がらないで欲しい。実は怖がっているのは、大人の方だから。お互い怖がってるんだから、皆さんからも話しかけてあげてください。"なんで楽しいんですか?""なんで仕事してるんですか?"っていう話、けっこう大人は楽しいんだと思うから。」
(2007/04/02 Five Bridgeにて 文責:大草芳江)
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