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2024年 11月 21日 (木)

2.生態系の力を利用した水質改善システム見学



2.生態系の力を利用した水質改善システム見学

 三峡ダム周辺を見学した一行は、続いて、生態系の力を利用した水質改善システムを見学するため、宜昌から陝西省西安市へ向かいました。西安には、エネルギーを使わずに水質を改善する「人工湿地」の実験施設が市内各地にあり、大規模に実践が進んでいます。

 一行は、西安建築科技大学教授で用水と廃水処理がご専門の任(れん)勇翔さんと面会。17日(金)は、まず西安建築科技大学を訪問し、研究室を見学。その後「中国西北地方における水資源の現状と水質汚染対策」について、任さんによる講義を受けました。

【左写真】西安建築科技大学に到着
【右写真】西安建築科技大学教授の任勇翔さん

【写真】西安建築科技大学の研究室を訪問。研究内容について質問する学生(写真右)

【写真】任勇翔さんによる講演「中国西北地方における水資源の現状と水質汚染対策」
(写真の人物は、同学副学長で、国の大型プロジェクトリーダーを務める王暁昌さん)

 中国西北地方は水資源量が絶対的に不足しており、水質汚染も非常に深刻です。そのため水質汚染制御と水環境改善対策に、国も地方政府も力を尽くしているとのことでした。受講後、一行は任さんの案内で、水質汚染が深刻な西安の黄河二級支流を訪れました。

【写真】西安で水質汚染が深刻な黄河二級支流を見学する一行

【写真】川岸に下りていくと強力な悪臭が鼻を突いた。水の色は黒く油分が浮いていた。

 この川の汚水を人工的に創出した湿地に引き込み、湿地の生態系が持つ水質浄化機能を利用して、水質改善を図る実証実験を任さんは行っています。続いて一行は、川のすぐ隣に設置された人工湿地実験施設を、任さんの案内で見学しました。

【写真】川の汚水を引き込み、湿地の生態系が持つ水質浄化機能を利用して、水質改善を図る人工湿地実験施設。日本よりも大規模な検証実験が行われていた。

 湿地は、水、土、植物、および微生物によって構成されています。それぞれの構成物が持つ水質浄化機能や構成物同士の相互作用を利用し、人工的に湿地の浄化能力を高めたのが、人工湿地による水質改善法です。

 人工湿地による水質改善は、湿地の生態系が持つ水質浄化機能を利用するため、低エネルギー・低コスト・省メンテナンスなどのメリットがあります。欧米では、家庭の汚水を浄化する省エネ型の施設として、人工湿地の普及が進んでいるそうです。

 一方で日本においては、面積が必要であることなどから、ほとんど導入されていません。日本で人工湿地技術を研究している本学工学研究科准教授の中野和典さんによると、日本では北海道での数例と、中野さんが設計し本GCOEが昨年、川渡野外実験フィールドセンターに設置した例のみ、という状況とのことです。

【写真】人工湿地実験施設を見学する一行(手前が中野さん、後ろが学生)。人工湿地実験施設は、いくつかの区域に分けられており、様々な方法の組み合わせが検証されていた。

【写真】ろ材を用いた水質浄化方法について、任さん(写真手前の右から二人目)から説明を受ける一行。ろ材には使用済の石炭(廃材)が再利用されていた。

 続いて18日(土)は、西安市の下水処理場内に設置された人工湿地実験施設を見学しました。

【写真】西安市内の下水処理場内に設置された人工湿地実験施設を見学する一行

 任さんによると、西安市ではこのほか2つの下水処理場で、人工湿地実験施設を用いた下水処理を行っており、西安市全体の下水処理能78万トン/日のうち約1割弱を、人工湿地実験施設による下水処理が占めているそうです。

 下水処理に人工湿地を用いるメリットについて、任さんは「従来の活性汚泥法と比べて、コストが約6分の1になる」と話していました。

 ちなみに中国では1990年代から、雲南省において人工湿地を用いた下水処理が既に実用化されており、その下水処理能は20万トン/日にも及ぶそうです。

 本GCOEで人工湿地技術を研究している中野さんは、「人工湿地は、自然を相手にしているため、実際につくって初めてわかることが多い。日本の自然条件などに合った人工湿地の運用手法を研究する上で、中国のモデルで実際に起こった問題を教えてもらえることは、大変有意義だ」と感想を述べていました。


【学生インタビュー②:人工湿地を見学して】

 生態系の力を利用した水質改善システム見学後、学生らが率直に感じたことについて、インタビューしました。

◆ 中国も環境問題に本気で力を入れ始めている / 坂本裕紀さん(生命科学研究科)

 中国は環境問題に本気で力を入れ始めていると感じた。見学した川の臭さには驚いたが、そう言えば自分が小さな頃、近所に似たようなどぶ川があったことを思い出した。新しいものに慣れ、すっかりそのことを忘れて、ついつい上から目線になり中国を後進国扱いしていた。けれども、自然の力を利用した人工湿地など、中国は日本や欧米の後を追っているだけではないのだなと感じた。

◆ 人工湿地に可能性感じる / 荒井重行さん(工学研究科、三菱マテリアル株式会社)

 人工湿地による水処理の導入は広い敷地面積を取りやすい欧米で進んでいるが、日本での実施事例はまだ少なく認知度も低い。日本での普及を進めるには、機能を高めコンパクト化すると共に、原水の水量水質の変動や季節変化にかかわらず、処理水質の安定を確保する必要がある。さらには低コスト・低エネルギー・低メンテナンスでなければ、従来法との優位性が出せない。これらの課題をクリアするためには、まだまだ技術的な課題も多い。
 会社(三菱マテリアル株式会社)では、人工湿地を用いた鉱山廃水からの重金属除去をテーマに研究を行っている。現在、鉱山廃水処理には、機械動力設備を用いた化学的な方法で行っており多大な費用がかかっている。そこで、処理水質が良好かつ低コストで済む人工湿地システムの実用化へ向けての開発を進めて行きたいと考えている。

◆経済発展と環境のトレードオフ実感 / 高野成央さん(生命科学研究科)

 非常に面白い国で、料理も美味しい。けれどもあの汚い川には驚いた。それに中国がこれほど近代化しているとも思わなかった。どんどん新しいものをつくってお金を稼ぐ。その一方で貧富の差も激しい。
 かつての日本の姿なのだろうと思う。環境に対して良くないことはわかるが、経済発展の方法はつくって売ることしか知らないし、いろいろなものを犠牲にして今日の日本がある。上りきったところで、これから日本は環境に対してどうあるべきなのだろう。
 持続可能な開発とは、環境を大切にしながら、今の価値観を失わずに、より良い生活をしたい欲求を満たす、経済発展のこと。けれども、経済成長と環境はトレードオフの関係にあることを中国では目の当たりにし、難しいことを実感した。中国の今の価値観や現状を、我々が否定できないと思う。けれどもその上でどうすべきかを考えるのが、僕らのミッション。難しい問題だ。
 現場を見るとショッキングで、つい否定したくなるが、東南大学の学生らと建設的な議論をするためには、イエス・ノーの話ではなく、こちらの価値観を紹介するのが良いかもしれない。

◆ 中国人の市民感覚、気になる / 早坂瞬さん(農学研究科)

 中国の大学の7?8割は国立大と聞いたが、見学した(国立大の)西安建築科技大学の研究設備は非常に整っており、国の大型プロジェクトも大規模に行われている。国も(環境問題に)無関心ではなく、大金をつぎ込み、かなり力を入れていると感じた。
 また人工湿地については、生物が持つ適応能力を組み合わせ、生態系を利用し、人間の経済発展と環境のバランスをとることができる、とても良い例だと思った。
 ただ、人工湿地を見学して一番気になったのは、あの川の水を使って農業をしている人たちの(環境に対する)市民の感覚。市民感覚が育たなければ、政府からの強いトップダンにも限界があると思う。
 研究が、政府と市民の間をどのようにつなぐかが自分たちのテーマ。感情論に陥り易い市民活動に、研究者が理論づける役割を担えたら良いと思う。けれども結局、市民の(環境に対する)感覚がなければはじまらない。明日、ディスカッションする東南大学の学生たちにも、市民感覚について是非聞きたい。

次へ 3.東南大学(南京)の学生たちとのディスカッション



取材先: 東北大学      (タグ: , ,

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