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2020年 10月 24日 (土)

【研究室訪問】東北大学 流体地球物理学講座教授の山崎剛さんに聞く気象学研究 取材・写真・文/大草芳江

2020年5月29日公開

気象学は観測・概念モデル・数値実験を
お互いよりよくしていくことで発展

山崎 剛 Takeshi YAMAZAKI
(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 流体地球物理学講座 教授)

1962年 長野県生まれ(育ちは埼玉県)、1985年 東北大学理学部天文及び地球物理学科第二卒、1987年 東北大学大学院理学研究科博士課程前期2年の課程修了、1989年 東北大学理学部助手、1994年 博士(理学)、1994年 東北大学理学部助教授、2002~2006年 海洋研究開発機構サブリーダー、2012年 東北大学災害科学国際研究所(兼務)、2018年 東北大学理学研究科教授、現在に至る。

 今回訪問した研究室は、東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の流体地球物理学講座です。「流体地球物理」というと難しそうですが、「要は、気象の研究室です」とのこと。地表面に接している大気と地表面との関わりを研究する「気象学分野」と、幅広いスケールの地球大気の数値シミュレーションを行う「大気力学分野」を得意とするグループが、協力し合いながら教育と研究を進める当講座には、全国から気象好きの学生たちが集まります。身近なのに、まだまだわかっていないことも多いという気象をどのように研究しているのか、また、その研究の意義とは何か、教授の山崎剛さんに聞きました。

※本インタビューは、弊社が事務局・HP運営を担当する東北大学物理系同窓会「泉萩会」とのタイアップ企画です。

◆ 陸面過程と数値モデルの二本柱で気象学研究

― はじめに、研究の概要について教えてください。

 我々の研究室の正式名称は「流体地球学物理講座」で、気象学と大気力学の二つの分野が相互に協力し研究を行っています。一般的には気象学と思っていただいても差し支えありません。気象学の中でも、我々の研究室が特に力を入れているのが、「陸面過程」と「数値モデル」です。


【図】気象学と関連する学問分野や過程

 もともと私自身は、地面に接している大気(大気境界層)と地面との関わりである「陸面過程」を専門にして、学生時代から研究をしています。もうひとつの研究の柱である「数値モデル」は、2018年3月に退職された岩崎俊樹特任教授が中心となって研究しているものです。数値モデルとは、大気の運動を物理法則に基づき数値的に解くための道具で、平たく言えば、天気予報です。現在の天気予報は、風や気温などの時間変化をコンピューターで計算し、将来の大気の状態を予測していますが、それが数値予報モデルです。


◆ 身近なのにわからないことがまだまだ多い大気の底

― なぜ山崎さんは、学生の頃から気象学、中でも陸面過程を研究し始めたのですか?

 高校生の頃から気象学に興味がありました。当時、「地球物理学」を学科名に掲げる大学は東京大学、京都大学、東北大学、北海道大学の4校程度と多くはなく、気象学も大学ごとに得意分野がありました。その中から私は「大気放射学」と「大気境界層」を得意とする東北大学を選び、「大気境界層」を研究している近藤純正先生の研究室に入りました。

 大気境界層を選んだ大きな理由は身近だからです。大気境界層とは大気の一番底の部分で、地面に接した部分を指します(図1)。まさに我々人間が生活している非常に身近な場所なのに、わかっていないことがまだまだたくさんあるところに惹かれました。


【図1】大気境界層の模式図


◆ 積雪面の熱収支の研究からスタート

― 最初はどのような研究から始めたのですか?

 私が最初に行った研究は、地面が雪に覆われている時の熱収支あるいは融雪でした。地球上で起こるほとんど全ての気象現象は、本を正せば、太陽から地球に降り注ぐエネルギーが大気に伝わり、それが大気の運動を起こすことによって発生します。太陽からのエネルギーの約50%は地面まで到達します。そのエネルギーは地面を暖め、それが大気に伝わっていく熱(顕熱)と、そこに水があれば水を蒸発させる熱(潜熱)に分配されます。蒸発した水は移動し、どこかで雲をつくったり雨を降らせたりします。このように、太陽から来たエネルギーが直接地面を暖めるのか、それとも水を蒸発させてどこかに雲をつくるのか、そのエネルギーの分配のされ方によって気象は大きく変わります。太陽からのエネルギーが地面でどのように分配されるかを調べることが大きなテーマです(図2)。

 地面でエネルギーがどのように分配されるかは、地面の性質、つまり地面が何で覆われているか、あるいは、気象の条件によって変わります。例えば、砂漠のような乾いた場所では、水がほとんどないため、入ってきたエネルギーのほとんどが大気を直接暖めるのに使われます。まさに灼熱の世界ですね。一方、水で覆われていたり、植物が生えていたりする場所では、多くのエネルギーが水を蒸発させるのに使われます。このように、エネルギーの分配のされ方は地面の性質によって変わります。中でも雪は非常に特徴的な地面で、ちょうど当時、近藤先生が研究を始めていたため、私も積雪の熱収支の研究を始めることになりました。


【図2】大気と陸面の相互作用

― 雪はどのような点が非常に特徴的なのですか?

 雪は、ご存知の通り、白いですよね。他の地面は黒っぽいので、日射をまず吸収しますが、積雪面は白いので、太陽から来た日射のうち、約40~90%は跳ね返してしまう点が非常に大きな特徴です。また、雪は氷でできているため、いくら暖かい風が吹いたり日射が入ったりしても、地表面の温度は0℃より上がりません。その代わり温度が上昇すると、太陽からのエネルギーは雪をとかすのに使われます。この熱収支を調べることで、どれくらいの雪がとけるかもわかるため、応用のひとつとして融雪という問題にも取り組みました。


◆ さらに植生地の熱収支・水収支も研究

 次に私が取り組んだ研究が、植生地でのエネルギー分配のされ方です。もちろん陸面過程に興味があって研究室を選んだわけですが、どちらかと言えば、もともと陸面の中でも植物に興味がありました(笑)。植物もまたおもしろいと同時に難しいところがあるのです。

― 植物がおもしろいと同時に難しいところとは、どんな点ですか?

 まずひとつは、地面を覆う植物としては森林や樹木等がありますが、形が非常に複雑です。その凸凹が、大気の流れ(風)にとって摩擦として働きます(つまり風速に影響します)。

 次に、先述のエネルギー配分の観点では、その多くが蒸発に分配されます。植物の場合、その多くは蒸散です。ただ、植物は水を蒸散させたいから気孔を開くのではなく、光合成を行いたいから気孔を開いて二酸化炭素を取り入れる時、本当は出したくない水が出てしまうのが蒸散です。

 適当な温度と日射という光合成を行いやすい状況で、植物は気孔を積極的に開き、二酸化炭素をたくさん取り込もうとする代わりに、蒸散もたくさん行うわけですね。一方、光合成を行いにくい状況になると、植物は気孔を閉じるので、蒸散も少なくなります。

 また、過度な乾燥等、根から水分を吸い上げることができない状況の時、もし気孔を開いてしまうと水を失い、葉がしおれたり枯れたり、光合成どころではない危険な状況に陥ってしまうため、植物は気孔を閉じます。蒸散されない場合、太陽からのエネルギーはその周辺の空気を直接暖める熱に分配されます。

 すなわち、気孔の開き具合によって、大気に対する作用が変わります。その理解なしには、地面での正確な熱収支、さらには大気に対するエネルギー分配はわかりません。それが植物の非常に難しくておもしろいところです。

 このように、最初に雪、次に植物を研究しました。当時も、地表面の性質を研究している人はいましたが、雪と植物の両方を研究している人はほとんどいませんでした。そこで今度は、雪と植物が共存する状況を研究テーマにし、それが私の研究の特徴になりました。雪と植物が共存する状況は、森林が豊富な日本でも起きますし、私自身は、シベリアの北方林における熱収支・水収支を随分研究してきました。


◆ 雪が"ある"ことだけを考えればよいわけではない

― 気象学の中でも陸面過程、特に雪と植物が共存している状況に注目して、山崎さんは地表面の熱・水収支を長年研究されているのですね。「身近なのにまだまだわかっていないことがたくさんある」ことに惹かれ、学生時代から研究を続けているというお話でしたが、これまでの研究で明らかになってきたことは何ですか?

 いろいろあります。例えば、春先に雪が徐々にとけていく時、木がない場所を覆う雪と、森林の中にある雪、どちらが先にとけてなくなるかを最初の頃に考えました。皆さんのイメージでは、木のない場所の方が、日差しも当たるので、先にとけると思うかもしれません。よく調べてみると、条件によって融雪は変わることや、いくつかの条件が揃えば、森林の中にある雪の方が先にとけることがわかりました。

― ちなみに個人的な疑問で恐縮ですが、木の周りの雪が、木のない場所よりも先に雪がとけているのはなぜだろう?と、ずっと気になっていました。

 実は、それも実験をして調べました。はじめに、木製の黒い柱と白い柱を雪の中に埋めて、どちらが先にとけるかを観察しました。どちらかと言えば、黒い柱の方がとけますが、実は、条件によって、どちらがよくとけるかは変わります。

― 色の違いの他に、生きた木と死んだ木で違いはないのですか?

 もうひとつ皆さんがよく思うのが、生きているせいで雪がよくとけるのではないか。実際に調べてみましたが、生きている木と死んでいる木材で、ほとんど差はありませんでした。木が出す熱によって雪がとけると思っている人もいますが、それはほとんどないですね。

― 私の仮説は間違っていました(笑)。では、どのような条件で雪のとけ方は決まるのでしょうか?

 実は、木の周りの雪は、放射でとけます。放射の場合、2つの要素があります。ひとつは、雪にどれくらい日射が入るかによって、雪のとけ方が変わります。白い柱の場合、柱にぶつかって跳ね返った光も雪に入るため、その分だけ雪がとける分の日射が増えます。ですから、白い柱の存在は、雪に入る日射を増やす効果があります。一方で黒い柱の場合、日射が入ると吸収してしまうため、跳ね返って雪に日射を与える効果はありません。その代わり、黒い柱が日射を吸収して暖まるので、その暖まった分だけ赤外線を多く放出します(物質は自身の絶対温度の4乗に比例する赤外線を出します)。その赤外線を雪に与えることによって、雪をよりとかす効果があります。この2つの要素で、木の周りの雪はとけていきます。

 この時、雪がどれくらい白いかが、非常に重要な要素になります。日射の反射率は「アルベド(albedo)」という言葉で、0から1の数値で表します。0はすべて吸収する黒体で、1は100%反射するという意味です。雪の場合、アルベドは新雪の0.9程度から、日が経つにつれて雪が汚れ、雪解けの頃には0.4程度まで落ちると言われています。

 黒っぽい雪の場合、日射を吸収できるため、柱で跳ね返ってきた日射もキャッチできる分、白い柱の方がより効果的になります。一方、雪が真っ白な場合、せっかく柱から余分に日射をもらっても、雪が吸収しないで跳ね返してしまうため、キャッチすることができません。すると、黒い柱の方が、赤外線も若干反射はするものの、約98%の赤外線は吸収するため、日射のエネルギーが赤外線に変換され、それを雪が吸収できます。

 このように雪が白いか・黒かによって、白い柱と黒い柱で雪のとけ方は変わることがわかりました。木がある場所の雪が先にとけるかどうかは、色々な気象条件やアルベドによって変化することがわかってきました。

― なるほど。木の周りの雪の穴の謎は、木と雪それぞれの日射の反射率の組み合わせで決まるわけですね。

 実は当時も、はっきりとはわかっていなかったのですよ。木の周りの雪の穴は、地球全体の気象に効くという話ではありませんが、興味としてはおもしろいですよね。

― ありがとうございました。話を戻しまして、植物と雪が共存している状態をきちんと調べたことは、地球全体の気象の理解とどのような関係があるのでしょうか?

 地球全体の気象を計算する数値モデルができ始めた頃、春先の気温を低く計算し過ぎてしまうという大きな問題がありました。その原因は、雪さえあれば、「温度は0℃より上がらず、日射は反射する」という計算をしていたためです。ところが実は、木のある場所では、雪があったとしても、木が日射を吸収することによって大気を暖める効果を考えれば、春先の誤差は非常に少なくなることがわかりました。雪が"ある"ことだけを考えればよいわけではないことが大事な点です。

― 地球規模にもなると、雪と木が共存している場合の効果が効いてくるのですね。

 そうですね。例えば、シベリアは非常に広大な面積が雪で覆われています。雪が覆っている・覆っていない・いつ消えるかは気候にとって非常に重要な要素です。雪が消えなければ、先述の通り、大気を暖める効果は非常に弱くなるため、そのような意味でも、地球上のどの場所がどの時期に雪に覆われているかをきちんと把握することが、将来予測をする上でも大事です。


◆ 大気の運動を数値的に解く「数値モデル」

― もうひとつの研究の柱の数値モデルについて、教えてください。

 数値モデルの研究を大きく分けると、過去に遡っていく研究と、将来を予測していく研究があります。数値モデルが具体的にどのようなものかは、こちらのスライドをご覧ください(図3)。この全球の大気を格子で区切ったイメージ図は、気象庁で使われているものです。地球上を縦・横・高さ方向で格子状に切り、そのひとつひとつの場所の気温、気圧、風等を、運動方程式や熱量保存式等の物理法則を用いて数値的に計算し、次の時間はどうなるかを予測します。


【図3】数値モデル、データ解析

 地球上を格子状に切る間隔は、いわゆる気象予報に使われるモデルで、数十から100 km刻みで計算しています。この刻みを細かくするほど、大気の状態をより正確に表現できます。ただし、刻みを細かくするほど、例えば間隔を半分にすれば計算時間は10倍もかかるので、やたら細かくすることはできません。一方、やませや台風、最近増えている集中豪雨などの現象を調べようとすると、対象とする現象にもよりますが、50 kmでは足りず、5 kmから1 km、場合によっては、より細かい解像度が求められます。

 そこで、このような気候モデルと応用分野で求められる解像度のギャップを埋めるために、知りたい場所だけを切り出し、そこだけ詳細に計算する「ダウンスケール」という手法を用いて詳細な気象を推定することを行います。

 例えば雪の降り方を見る場合、水平方向刻みのスケールを約20 km、5 km、1 kmと細かくしていくと、1 kmくらいの解像度で山の形や雪の降り方に対応して見えるようになります。日本のように地形が複雑な場所で「どこで、どれくらい雪が増える・減る」と議論したい時は、せめて5 km程度の解像度にする必要があります。ダウンスケールは将来予測をする上でも大事です。

 もうひとつの大きな背景として、2018年から「気候変動適応法」が施行されました。気候変動の対策には、その原因物質である温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行う「緩和」と、気候変動に対して人や社会、経済のシステムを調節することで影響を軽減しようという「適応」のふたつがあります。適応策の法的位置づけが明確化されたことで、対応が求められる自治体などが最初に必要とする基本情報は、10年後、20年後の気温上昇や降水量等の地域気候予測情報です。そこで我々に課せられているのが、より信頼性の高い気候予測です。

― 「ダウンスケール」はどのようにして行うのですか?

 ダウンスケールの方法は、ふたつあります。ひとつは、数値予報モデルに運動方程式等を適応し、より詳細な気象を推定する「力学的ダウンスケール」で、我々もこの方法を用いています。もうひとつは、既存の詳細な観測データに関して、大きなスケールでわかっている気象とローカルな気象との間に経験的・統計的な関係式をつくり、その式を適応してダウンスケールを図る「統計的ダウンスケール」です。

 どちらの方法もそれぞれ長所と短所があります。統計的ダウンスケールは、計算に時間がかからないため、温度の詳細な分布等を出すことは得意ですが、元データに含まれていない現象は再現できないため、例えば集中豪雨のような、細かな地形が関係する気象の予測等には向きません。それは力学的ダウンスケールの方が向いていますが、格子を細かくするほど計算時間が非常にかかるため、ケースを絞るようなことをデザイン時に考える必要があります。

― ちなみに、気候変動によって雪の降り方は将来どうなると予測されますか?

 将来は弱い降雪が減り、強い降雪が増える、という予測結果が出ています。温暖化のため将来的には降雪量自体は減るものの、雪や雨の振り方は「強い雨が降る頻度は増える一方で、弱い雨が降る頻度は減る」というのが大方の予測です。それが意味することは、災害になる危険な大雨の発生確率が今後も増える一方、水不足になる危険性も増える、つまり「極端化」するというのが、大方の見方です。

※ 最近の成果は
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20191217-10587.html
https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20200312-10957.html
 をご覧ください。


◆ 観測・概念モデル・数値実験で気象学が発展

― 陸面過程と数値モデルの間には、どのような関係がありますか?

 数値予報モデルの中でも、太陽から来る熱の分配を必ず計算するため、陸面課程によって計算結果は変わります。「コンピューターでシミュレーションしました」と言うと、正確だと誤解してしまう方も多いのですが、変な式が入ったモデルで計算すれば、コンピューターはその通り"正確"に計算するので、変な結果を出します。ですから、モデルに用いる式が本当に正しいかの検証や、よりよいモデルの研究が重要です。また、陸面過程に関しても、改良すべき点がまだまだあり、その辺りが陸面課程と数値モデルの接点です。

 数値モデルも、ふたつに分かれます。ひとつは、天気予報も該当しますが、とにかく入れられる要素はすべて入れる「数値実験」です。もうひとつは、本質的な要素だけを抜き出し、それ以外は切ってしまうことで、何がこの現象に効いているかを調べる、単純化した「概念モデル」です。これらのモデルに使われている式が本当に正しいかどうかを検証するには、「観測」して確認するしかありません。あるいは本質的に何が効いているかを調べるために、モデルの中のある要素をわざと無視し、本当にその現象が再現できるかを確かめることで、何が本当に大切かがわかってきます。このようにして観測・概念モデル・数値実験をお互いによりよくしていくことで、気象学が発展していると思います。


【図4】気象学の発展


◆ 過去の気象を再現する

― 今後に向けての意気込みを教えてください。

 大きくふたつあります。まずひとつ目が、先程、数値予報モデルには将来予測のほかに、過去に遡る研究があると話しました。過去を再現する研究を、「領域再解析」と呼びます。数値モデルは縦横上下の格子ごとの場所の大気の状態を計算するため、過去を計算すると、例えば、50年前のある場所・ある時間の大気の状態を、格子状に分かれた均等なデータとして作成できます。過去に残っているのは観測データだけで、測定していない場所はわからないわけですが、数値モデルを用いることで、測定していない場所の気象がわかるわけです。

 このようにして何十年もつながるデータをつくることで、すでに起こっている気候変動等を、より定量的に評価することができます。また、再解析のもうひとつ大きな意義として、歴史的な災害を起こした極端な気象現象を、当時の観測だけではあまりはっきりしなかったところまで、端的に再現できるようになります。あるいは、約50年前よりも都市域が非常に広がっているのが現在ですが、もし森林伐採をしていなければ、その地域の気象はどうだったのか、仮想的に都市域を取り除くことで土地利用の検討が可能です。そして、これは私の興味ですが、過去の積雪量の評価は、過去から現在にかけての水資源の評価になります(図5)。このように領域再解析によって色々なことができるので、研究室をあげて研究を進めていきたいと考えています。


【図5】日本領域における過去60年の大気場の再解析


◆ 寒気の生涯を追跡する

 もうひとつ我々の研究室で力を入れているのが、岩崎特任教授が開発した、寒気の流出や蓄積を調べる新しい手法です。「温位」(水蒸気を含まない大気の塊を1000ヘクトパスカルに断熱圧縮したと仮定した時の温度)という、温度を修正した量を用いて、ある温位よりも低い空気を「寒気」と定義します。すると寒気はいつどこで発生し・どのように流れ・どこで消えるのか、寒気の生涯を追跡できるようになります。この手法を学生たちも引き継いで研究し、良い成果を出しています。

 北半球全体の寒気の振る舞いを見るために、温位が絶対温度280K以下の冷たい空気を寒気と定義します。図6は、1月の寒気の厚さの30年間の平均です。青色は寒気が分厚く溜まっている場所で、北極海やシベリア域、北米で、非常に分厚い寒気ができていることがわかります。図の矢印は寒気が流れ出ている方向を示します。寒気が流れていく先は、大きく分けて地球上にふたつあります。ひとつは日本の近く、極東付近です。もうひとつは北米の東側です。寒気の流出は一定ではなく、時々どかっと来ます。それがいわゆる「寒波」です。


【図6】北半球全体の寒気の振る舞い(Iwasaki et al., 2014)

 図6の右図は、青色が寒気のできる場所で、赤色が寒気の消える場所を示した図です。冬の寒気は、陸上や北極海の氷上で生まれ、流れ出ていった先の海上で、海から熱を受けることで、暖まって消える仕組みになっています。温位という量を用いて何度以下で寒気とすると定義したことで、寒気の生涯を量として描くことが可能となりました。この手法を用いることで、様々な寒気がどこから来て・どのように流れていくか等、小さなスケールでも診断できるので、色々おもしろいことができます。これも我々の研究室で力を入れているテーマです。


◆ 小さな頃から星や気象に興味

― 山崎さん自身は、そもそもなぜ気象に興味を持ったのですか?小さな頃の原点を教えてください。

 小学生の頃は、星を見るのが好きでした。星を見ていたのが、だんだん天気の変わり方や風の吹き方等、気象に興味を持つようになりました。小学生の頃は、毎日1回ずつ、気温を測ってノートに書いたりしていましたね。なぜそれを始めたのか、今になってはよく覚えていませんが(笑)、興味は持っていました。高校生になると、地学部に入りました。当時は天文班と地質班しかなかったので、自分で勝手に気象班を作り、気象のことを調べました。自転車の後ろに温度計を付けて学校の周りを走り、ヒートアイランド現象を調べたりしていましたね。そんな感じで、子どもの頃から天気や気象に興味を持っていました。


◆ 「なぜ?」を追求する好奇心を持ち続けて欲しい

― 最後に、今までのお話を踏まえ、中高生を含めた次世代へメッセージをお願いします。

 好奇心を大事にして、「なぜだろう?」と不思議に思うことをよく考えて欲しいですね。特に我々理学部は「なぜだろう?」を失ってはいけないと思うのです。最近は研究も、どうしても「役に立つ」ことが求められます。必要に迫られて我々も研究動機に「~に役立つ」と書きますが、根底で大切なことは、「なぜ暑くなるの?」「なぜこういう風が吹くの?」といった「なぜ?」ですよね。「なぜ?」を追求する好奇心を持ち続けて欲しいと思います。

― 山崎さんのお話も、身近な陸面過程に対する「なぜ?」から始まっていますね。

 先程の木の周りの雪の話も、「なぜとけるのだろう?」「じゃあ、それを調べてみよう」、なんですよね。遊び心かもしれませんが、「なぜだろう? 不思議だな」と思ったことは、大事だと思います。例えば、数値モデルの話もしましたが、最近は人工知能等の色々な手法が登場し、実用からすると優れている点もあって、天気予報等も置換されていく部分も多いと思います。一方で、我々が取り組む「モデル化」とは、イコール現象を理解することだと考えています。ですから現象と合うモデルは、やはり合うだけの理由があるわけで、「ここが良くできているから、よく合う」ということを考えることも忘れないようにしたいです。皆さんにとっては、それを忘れないで欲しいと思っています。


― 山崎さん、ありがとうございました。



■ 流体地球物理学講座 学生インタビュー


写真左から、池田翔さん(修士2年 ※)、鈴木健斗さん(修士1年 ※)、山口純平さん(修士2年 ※)。
※ 取材時(2018年度)の学年です。

― それぞれの研究テーマを教えてください。

池田翔さん(修士2年※) 「気象予報データを利用し、イネいもち病害確率を予測」
 農作物が長時間濡れると、カビに感染していもち病にかかりやすくなります。カビによる病害危険度情報の作成に役立てるために、気象庁の週間天気予報データを用いてイネ葉の濡れ具合を予報し、水田での葉面の濡れ具合を濡れセンサーを用いて観測することで、検証する研究を行っています。

鈴木健斗さん(修士1年※) 「関東地方等に発生する沿岸前線の予報を改善」
 暖かい空気と冷たい空気の境目を前線と言いますが、関東地方や仙台平野等は、局所的な前線である「沿岸前線」が発生しやすい場所です。沿岸前線がどこにあるかの予報は、気温や風向・風速、雪と雨の境目等の予報に重要ですが、現段階では難しいのが現状です。そこで、気象庁が天気予報で使用している気象モデルを用いて、沿岸前線予報改善のための研究を行っています。

山口純平さん(修士2年※) 「記録的大寒波を『寒気質量解析手法』により解析」
 私は「寒気質量解析手法」という寒気を可視化するツールを用いて研究を行っています。寒気が来れば、気温が低下し、強い風が吹くことが知られていますが、これまで天気予報でも、実は専門研究でも、寒気とは何かが定義されていませんでした。そこで研究として定量的に扱うために寒気を定義することが、この研究室で行われました。それを用いて私が研究したのが、2016年1月に発生した、沖縄本島観測史上初の雪を観測した記録的大寒波です。私は寒気可視化ツールを用いることで、この大寒波がどこから来たのか、1週間遡って解析することができました。このことは気象予報にも役立ちますし、地球温暖化に伴って寒気がどうなるのかも議論しやすくなると思います。

― この研究室を選んだ理由は何ですか?

池田 「好きな天気予報と農業、どちらも勉強できる」
 ここにいる3人全員が気象予報士です。もともと私は「お天気少年」ではなく「農業少年」でした(笑)。中学生の時、家庭菜園で育てていた野菜が病気になる経験をしたのですが、その年はやませという冷害をもたらす風が長期間吹き大冷害になった年で、気象と農業に強い関わりがあることを感じました。その後、気象に興味を持ち、将来は気象予報官になりたいと思いました。自分の好きな天気予報と農業のことが勉強できるので、大学では、この研究室に入りました。

鈴木 「お天気少年、気象学研究室に入るために東北大学を選んだ」
 私は、小学生の頃からお天気少年でした(笑)。例えば、雪が降れば、外に出て気温を測ったり雪の深さを測ったり、天気図を毎日書いたりしていました。気象予報士の資格も中学生の頃に取得し、将来は気象予報の仕事に携わりたいと考えていました。東北大学の気象学研究室は、山崎先生の前任の岩崎先生(現特任教授)が気象庁で数値予報を長年研究されていた方で、東北大学気象学研究室に数値モデルのノウハウがたくさんあります。私は東京に住んでいたのですが、大学は研究室で選んで、東北大学に入学しました。きちんと希望通りの研究室に入れてよかったです(笑)。

山口 「気象を数式で表現できることに感動して」
 私の場合、気象学の研究室があると知ったのが、大学3年生の時でした。それまでは気象に漠然とした興味を持ち、天気図を書いたりしていました。大学3年生の頃、気象学を数式で扱う授業で、これまで現象として扱われてきた気象を物理学では数式を用いて表現できることに興味を持ちました。具体的には、温帯低気圧の発達を数式で表せることを知り感動しました。この研究室は特に数値を用いて気象を表す手法に大変長けている研究室ですので、大学3年生の研究室選択の時、ここに入りたいと考えました。

― この研究室を一言で表すと?

山口 「オールラウンダー」
 一言で表すと、「オールラウンダー」ですね。気象のことを何でも扱っている研究室です。空間スケールで言えば、大気の大循環から台風のような局地気象まで。時間スケールで言えば、数時間規模の集中豪雨から数百年規模の温暖化まで。何でも扱える気象の研究室です。

鈴木 「地球を自在に操れる」
 一言で言うと、この研究室のおもしろいところは、「地球を自在に操れる」ところです。モデルの研究室ですが、例えば、「なぜ大雨が降ったのだろう?」を解析する時、「この山があったから、風がぶつかって空気が上昇し、たくさん雲ができた」と仮設を立てたとします。モデルなら、山を消したり、海水温の温度を操ったり、水蒸気量を増やしたり、自分の仮説に基づいて自由に実験することができます。地球を自在に操れるところが、おもしろいところです。

池田 「社会貢献のための気象学」
 一言で言えば、社会貢献のための気象学だと思います。例えば、防災のために、「メソスケール(2 - 2,000 kmのサイズ)」という小さなスケールでの気象が影響をもたらす寒気や台風等の構造やメカニズムが、気象モデルを用いて研究されています。また、温暖化予測は、これまで全球的なスケールでしたが、最近は地域スケールでの温暖化予測の情報が必要とされていますし、産業利用にむけた気象情報も求められています。そのような「社会貢献のための気象学」が研究できる研究室だと思います。

― 最後に、後輩となる中高生へのメッセージをお願いします。

山口 「やりたいことを持っている人が強い」
 この研究室に入って感じたことは、やりたいことを持っている人が強い、ということです。自分がやりたいことを持っていると、早いうちから目標を持ち、それに向かって進んでいけますし、強くなれると言いますか、人生が豊かになると思いました。それが自分の力になることをひしひしと感じています。

鈴木 「気象学の勉強をする人は、物理と数学を極めて」
 将来、気象学の研究室に入りたい人に向けて、私は話します。気象は、中学校や高校では地学で教えられると思います。もし将来、気象学の勉強をしたいなら、物理や数学の知識が重要になるので、高校数学と高校物理をまずはしっかり極めるとよいと思います。あとは、英語も必要ですね。

池田 「夢中になれるものを見つけて」
 自分が偉そうに言うことではないですが、将来なりたいものや、夢中になりたいものが、早く見つかるといいと思います。自分の場合は、中学校の頃の家庭菜園や気象がそれでした。好きなもののためなら大変なことも苦しくないと思いますし、中学校、高校と、どの教科に特に力を入れたらよいかがわかるので、より集中できると思います。

― ありがとうございました。

取材先: 東北大学     

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