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2024年 03月 19日 (火)

第1回EBISワークショップ レポート「中小企業のIT化からIoT化を支援するMZプラットフォーム」セミナー 取材・写真・文/大草芳江

2019年05月07日公開

 産業技術総合研究所東北センター(以下、産総研東北センター)が東北地域新産業創出に向けて、産学官金"協奏"による新たな企業支援の試み「Tohoku Advanced Innovation Project(TAIプロジェクト)」を2018年夏からスタートさせた。産業・技術環境の変革の波に乗って企業が大きく発展できるよう、主に経営層を対象に、さまざまな先端技術を体験できる勉強会「EBIS(Expanding Business Innovations for executiveS)ワークショップ」を開催している。2018年度に東北各地で計4回実施されたEBISワークショップの模様をレポートする。

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※ 本インタビューをもとに産業技術総合研究所様「TAIプロジェクト報告書」を作成させていただきました。詳細は、産業技術総合研究所東北センターHPをご覧ください。


第1回 産総研EBISワークショップ レポート
「中小企業のIT化からIoT化を支援する
 MZプラットフォームセミナー」

「中小企業のIT化からIoT化を支援するMZプラットフォームセミナー」のようす=北上オフィスプラザ(岩手県北上市)

 産業技術総合研究所(以下産総研)が開発した「中小企業のIT化からIoT化を支援するMZプラットフォーム」を紹介するセミナーが12月4日、北上オフィスプラザ(岩手県北上市)で開催され、中小企業や支援機関担当者ら25名が参加した。

 はじめに、産総研東北センター所長の松田宏雄さんから挨拶と産総研の紹介があった。次に、MZプラットフォーム担当者の古川慈之さんからツールの内容や活用事例、IoTへの拡張について実演を交えた紹介があった。続いて、日新電機システムの金城聡さんがMZプラットフォームを導入した事例を紹介した。

◆ 挨拶・産総研の紹介、活用について
産業技術総合研究所 東北センター
所長 松田 宏雄 さん

 産業技術総合研究所(産総研)の東北センターは、宮城県仙台市の苦竹という工業地帯に位置し、産学官制度来所者も含めて約100人が日々、研究を行ったり、東北地域の企業皆様との連携を展開しています。

 産総研は2001年に独立行政法人、2005年に国立開発法人となりました。かつて国立研究所と言われていた時代とは環境が変化し、中長期(5ヵ年)計画ごとに設定した目標を達成するというミッションが与えられています。2015年度からの第4期の目標は、「技術を社会へ」を活動理念に、開発された技術を社会へ「橋渡し」することです。産総研自らの研究成果はもちろん、大学・研究機関等の成果も積極的に活用させていただき、それらを速やかに事業化へつなげるための橋渡しが私どもの最大のミッションです。

 産総研は、持続可能な社会の構築にむけて、グリーン・テクノロジーによる豊かで環境に優しい社会の実現、ライフ・テクノロジーによる健康で安心・安全な生活の実現、および、それらを達成する基盤となるインフォメーション・テクノロジーによる超スマート社会の実現を目指します。そのために研究組織をエネルギー・環境、生命工学、情報・人間工学、材料・化学、エレクトロニクス・製造の5つの研究領域と、地質調査、計量標準の2つの基盤技術の領域の計7領域に再編しました。

 「技術を社会へ」橋渡しする施策のひとつとして、各地域の大学構内に産総研地域センターとの連携研究拠点である「オープンイノベーションラボラトリ」、通称「OIL」の整備に取り組んでいます。各地域の大学の得意分野で、大学の基礎研究と産総研の産業技術を融合し、企業の皆様にも参加いただきながら、産業界への技術の橋渡しを推進します。例えば、名古屋大学には青色LEDの技術をベースに窒化ガリウムを用いたパワー半導体の早期実現化を目指す連携研究拠点を整備しました。東北大学には数学で材料設計を展開していく連携研究拠点を設置しています。また、より企業の戦略に密着した研究開発を実施するために、産総研の中に企業名を冠した「連携研究室」、通称「冠ラボ」を設置し、橋渡し機能の強化を図っています。近年、各技術の進歩が著しい中、産総研単独、大学単独、企業単独では、設備等の更新に追いついていけない状況です。そこで「豊かな"知の汽水域"で実り多い成果を」ということで、このような相互乗り入れにより、さまざまな領域の知の融合を図りたいと考えています。

 産総研は1882年の地質調査所の創立に始まり今日に至るまで、数多くの研究開発を成し遂げてきました。これまでの136年間の代表的な成果をご紹介します。地質調査所は創立から7年後の1889年に日本最古の日本列島の地質総図を出版し、現在も日本の地質に関する調査研究を行っています。つい最近、定義変更で話題になった「キログラム原器」を日本で保管しているのは産総研計量標準総合センターです。PAN繊維を原料とする軽量で高強度の炭素繊維は、1959年に産総研が世界に先駆けて開発しました。そのほかの成果もスライドにいくつか表示させていただきました。その後、産総研に再編されてからも、完全密閉型植物工場で有用な物質を生産する等、さまざまな研究開発を行っています。

 産総研全体としては、人員は研究職員約2,300人と事務職員約700人に加え、企業や大学、外部研究機関等からの約7,000人の外来研究員も含めて約一万人、予算は国からの運営費交付金や競争的研究資金、企業様からの共同研究費を合わせて年間約1000億円の規模で運営している組織です。産総研の約7割の予算と研究者が集積するつくばセンターを中核に、全国11ヶ所に展開する地域センターでは、各地域毎に特色ある世界最高水準の研究開発に取り組むと同時に、各地域の企業の皆様と密接な連携に取り組んでいます。本日のセミナーでお話させていただくのは、つくばのエレクトロニクス・製造領域ですが、この話題は産総研の中でも比較的全国展開が図られているもので、中でも九州地域に導入企業が数多くいらっしゃいます。本日ははるばる沖縄から企業様にお越しいただき、どのように産総研の技術を活用いただいているか事例紹介をいただく構成となっています。

 全国各地を訪れますと、「産総研を聞いたことがない」「名前だけは聞いたことがあるが、国の研究機関ということで付き合いにくい」といった企業皆様の先入観があると聞きます。日本全国で活用いただける組織になろうと、私ども地域センターではまず産総研を知っていただくことから始め、各県の公設試験研究所と協働しながら企業皆様との連携を深めています。連携メニューとしては、技術コンサルティングから人材育成、共同研究、受託研究、産総研の設備・装置・施設の提供、研究試料の提供、技術情報の開示、ライセンスの授与、事業化支援まで、さまざまなステージで企業の皆様をサポートするメニューをご用意しています。例えば技術コンサルティングは、産総研としては比較的新しいメニューで、共同で新しい技術開発を行うものではなく、コンセプト共創や先端技術調査など、技術的な課題の解決にむけた最適なソリューションを提案するものです。技術相談は無料ですが、技術コンサルティングは若干の費用をいただきながら、レポートを作成させていただきます。また、産総研が会員を募り、さまざまな企業と一体となって、テーマ別の研究会「産総研コンソーシアム」の運営も行っています。産総研の最新技術をコアとして、あるいは課題テーマごとに、材料メーカーからそれを活用するシステムメーカーまでさまざまな企業の皆様にお集まりいただき、技術応用の可能性を探り、新たな市場の開拓と研究推進を目指します。

 続いて、企業との連携事例をいくつかご紹介します。東北センターでは、化学ものづくりを重点化研究テーマとしており、産業界が必要とする高効率・省エネな新しい化学プロセスを提案すべく、研究開発を精力的に進めています。例えば、高圧炭酸ガスを用いることで有機希釈溶剤不要な塗装システムの研究開発を、宮城県の企業と一緒に展開しました。また、東北地域に多く産出する粘土を原料に、非常に高い耐熱性・耐久性・ガスバリア性を有する粘土系材料「クレースト?」を開発しました。その技術を利用した玉虫塗ワインカップは、食洗機にも耐えられ、2015年に「第6回ものづくり日本大賞」を受賞し、2016年に仙台市で開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では仙台市からの記念品として採用されました。以上2例は東北センターの成功事例です。産総研全体から東北地域の企業に展開させていただいた事例としては、表面の凸凹が6.3ナノメートル以下の極めて平坦な超高精度平面基板の開発や国際標準化・JIS化への貢献などがあります。東北の皆様と全国の産総研研究者をつないで課題解決等のお手伝いをするために、産総研だけでなく、東北各県の公設試験研究所等関係機関の方にも「産総研イノベーションコーディネーター(IC)」を委託し、地域に精通した"チーム東北"で地域の企業ニーズにきめ細かく対応しています。

 東北センターでは2018年度後半から新たに「Tohoku Advanced Innovation Project」、略称「TAIプロジェクト」を立ち上げ、本日のセミナーはその一環として開催しています。これまで産総研のシーズを活用して企業に新たな事業を展開いただくことに長年取り組んできましたが、各地域の特性とのマッチングをさらに向上させるには、新たな切り口が必要だと考えました。そこで、産総研にシーズがなくとも、社会で話題になっているテーマを一緒に勉強したり、その新たな技術を活用して新事業への展開を図ることを、各地域のさまざまな支援機関の皆様と一緒に支援させていただくために、TAIプロジェクトを発足させた次第です。TAIプロジェクトでは毎回テーマを決めて「Expanding Business Innovations for executiveS ワークショップ」、略称「EBISワークショップ」を開催します。鯛(TAI)を捕まえている恵比寿(EBIS)様のように、企業の経営者の皆様がうまいテーマを見つけ、新たな展開を目指していただきたいとの思いをその名に込めています。「こんな話題を勉強したい」というテーマがありましたら、ぜひ積極的にご希望ください。

 このような活動を私どもだけではなく、地域の企業様にご支援いただきながら展開していくため、地域中核企業とのコミュニケーションを一段高めることを目的とした連携組織「テクノブリッジクラブ」も設置しています。参加いただき活動を広げていただくことにご賛同いただければ、どんな企業様でもご参加いただけます。テクノブリッジクラブ企業は現在337社、東北地方でも63社と日々増えておりますので、ぜひご参加ください。

 「敷居は低く、間口は広く、奥行きは深く、志は高く」。これは産総研理事長の中鉢が日々申し上げていることですが、そのような気持ちで私ども産総研は取り組んでおりますので、ぜひお気軽に産総研や産総研ICのお近くの公設試験研究所様までお声がけいただければと思います。本日のセミナー会場となっている北上オフィスプラザの住所は「相去(あいさり)町」と読むそうですが、お互いに「相去り難い」セミナーになればと思います。ぜひご協力の程よろしくお願いいたします。


■ 講演1 「中小製造業のIT化支援ツールMZプラットフォームについて」
 産業技術総合研究所 製造技術研究部門 機械加工情報研究グループ長 古川 慈之 さん

☆→ 講演内容はこちら


■ 講演2 「MZプラットフォーム導入事例の紹介」
 株式会社日新電機システム 設計課長 金城 聡 さん

☆→ 講演内容はこちら


参加者の声

― 本日のセミナーに参加した動機と感想を教えてください。

◆「比較的簡単にIT化・IoT化が実現できそう」
/ 株式会社トーノ精密 研究開発 係長 小林 伊智郎 さん

 社内で現在運用している生産管理システムはありますが、工場を新設する際などに、より簡易なシステム構築を検討しており、産総研からMZプラットフォームを紹介されて参加しました。まだIT化段階ではありますが実際に少し試してみたところ、比較的簡単な印象でしたので、MZを習得できれば、いろいろなソフトウェアが作成できる可能性を感じました。また、今回のテーマのIoT化についても段階的には実現可能というポテンシャルを感じることができました。


◆「新たにプログラム言語を覚えなくてもよいのが魅力」
/ 株式会社小林精機 企画情報室 室長 行方 学 さん

 以前開発した社内システムが古くなってきたため、そろそろ新しいシステムを開発しようと考えていますが、最新の手書き型プログラム言語を1から覚えるのは大変なため、より簡単な方法はないか探していたところ、産業支援センターから今回のセミナーを紹介されて参加しました。実際にMZを試してから来ましたが、どれくらいのことが実現できるかは自分で試すだけではよくわからなかったため、今回それがわかってよかったです。事前に入手した資料が多過ぎて全容把握までは難しかったのですが、今回のセミナーでセンサなども活用できることがわかりましたので、会社に持ち帰っていろいろ試してみたいと思います。


◆「職人の手仕事を評価するアイディアが欲しい」
/ 株式会社東光舎 代表取締役社長 井上 研司 さん

 当社は理美容用ハサミおよびペット用ハサミの開発・製造・販売を行っている会社です。機械を一部導入してはいるものの、職人がほぼ手作業で製造しているだけに、個々人の仕事を評価することが難しく、何かよい方法や参考事例はないかと思って参加しました。今回紹介された事例のように、機械ベースであれば、どのピッチでどのように生産しているかをセンサで把握するのは容易そうですが、手作業の場合は機械の稼働率と生産効率が必ずしも一致しないため、何かよいアイディアはないか探しています。やはり類似事例は少ないと思いますが、産総研は手厚くフォローしてくださるという話だったため、個別に具体的な話ができれば、よいアイディアをお持ちではないかと感じました。ぜひ相談にのっていただきたいです。


◆「ソフトウェア開発会社としてもMZは魅力的」
/ Badass 代表 田中 裕也 さん

 前職のソフトウェア開発のキャリアを活かし、最近独立してIT関係の事業を始めたばかりです。IoTに興味があり参加しました。MZはプログラミングせずにソフトウェアを簡単に作成できる点がおもしろく、とても簡単にソフトウェアを開発できそうな印象でした。よくIT関係の技術者は「自分で作った方が早い」と言うものの、やはり1から自分で作成するのは負荷が大きいため、一連のソリューションを簡単に提供できるMZは魅力的です。現在、製造業や建設業の情報システムのコンサルティング業務も行っているので、MZをその提案のひとつにできるとも感じました。技術移転契約締結済み企業の事例をもう少し具体的に知りたいです。


主催者の声

― 本日のセミナーを産総研と共同で主催した動機と感想を教えてください。

◆「地元に事例と支援体制をつくりたい」
/ 株式会社北上オフィスプラザ 北上市産業支援センター センター長 安保 繁 さん

 産総研からIoT化支援ツールのシーズ紹介の依頼があり、もともとIoTやAIをテーマに研究会を開催したいと考えていたため、共同で今回の勉強会を開催しました。これを単発のセミナーには終わらせずに、MZを活用したい企業を何社か集めて実際の導入や改善の事例をつくる勉強会を継続開催するとともに地元企業による事例発表も行いたいですね。身近に事例が出てれば、他の会社も興味を持って「うちもやろう」と波及していくと思います。また、実際に試してみるとわからない点もいろいろ出てくると思いますので、地域企業のサポーター役となれるよう、今回のセミナーには複数の地元IT関係の技術者にも参加してもらいました。それでもわからないことがあれば産総研に相談するという体制を来年度にむけて構築したいと考えています。

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