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2019年 11月 21日 (木)

国際政治学が専門の地引泰人さん(東北大学大学院 理学研究科 准教授)に聞く/次世代火山研究者育成プログラム担当に就任して 取材・写真・文/大草芳江

2019年05月02日公開

火山噴火の社会的影響にも考えを及ぼす火山研究者に

地引 泰人 JIBIKI Yasuhito
(東北大学大学院 理学研究科 准教授 次世代火山研究者育成プログラム担当)

1980年東京都生まれ、2004年慶應義塾大学卒、2006年東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。2008年日本学術振興会特別研究員(DC2)、2010年東京大学大学院 学際情報学府 博士課程単位取得退学。2010年東京大学情報学環附属総合防災情報研究センター特任助教、2013年東北大学災害科学国際研究所助教を経て、2018年より現職。

 2014年に発生した御嶽山噴火等を踏まえ、社会が期待する火山防災への貢献を目指し、日本の火山研究コミュニティが総力を挙げて次世代の火山研究者を育成する文部科学省の事業「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」が2016度からスタートした。本事業の次世代火山研究者育成プログラム担当として2018年12月に就任した、国際緊急人道支援/国際関係論/国際防災の政治学が専門の地引泰人さん(東北大学准教授)に、研究に対するモチベーションやこれまでの経歴、本事業に対する想いなどを聞いた。

1.研究のモチベーション

―はじめに、研究に対するモチベーションやこれまでの経歴について教えてください。


◆ 組織の意思決定に強い関心

 大学では法学部で政治学科に所属していました。もともと組織の意思決定、特に心理的ではなく政治的な意味で、人や組織が互いに与える影響に強い関心があります。私が中学生の頃に阪神淡路大震災、大学生の頃(1990年代後半)に北朝鮮による不審船事件やミサイル発射実験、1999年に東海村JCO臨界事故などが発生し、「日本の危機管理体制の構築や見直し」が当時の世の中で大切なキーワードになっていると自分なりに考えていました。


◆ 修士課程で水害時の意思決定を研究

 将来は、民間企業に就職するより、大学教員のような形で、自分で課題を設定する仕事がしたいと思い、大学院に進学しました。当初、国際比較の研究をしたいと考えていましたが、大学院に進学してから研究の大変さに気付き、修士論文では水害時のある地方自治体の意思決定をテーマに研究しました。

 私が大学院に進学した2004年は中越地震も発生しましたが、集中豪雨と台風による洪水が発生した年でした。水害時の意思決定は、地震発生時のそれとは異なり、火山噴火の場合と似ています。突発的な場合ももちろんありますが、基本的に火山は、噴火に向かって活動が徐々に活発化し、噴火して徐々に収束していく時系列があります。水害も同様に、特に台風の場合、台風が近づくほど進路予測情報の精度が向上し、それを基に自治体などが避難情報を流す時系列があります。その時系列の中でどのような意思決定が行われ、その中でどの情報が意味を持っていたかをテーマに、修士論文では事例研究を行いました。


◆ 博士課程で火山との出会い

 博士課程では、やはり国外の事例についても研究したいと思い、開発途上国における自然災害、もしくは紛争等で人道的な危機に直面する国への国際緊急人道支援が重要なテーマと考えました。そこで調べてみると、多種多様な団体が支援に入るために、統制の取れた支援活動が実現できていない問題がある一方で、情報共有や資金融通等の調整ルールづくりが国連主導で進められていることがわかりました。そのルールが唯一の解とは限らないのに、さまざまな思惑が錯綜する中で利害が一致する場合のメカニズムを博士論文の研究テーマにしました。

 ところが、お金もコネクションもない中、どうすれば国外で研究できるか悩んでいた時、インドネシアの火山で日本とインドネシアの研究者が共同研究を行う国際プロジェクトにたまたま参加することができました。それは私の人生にとって大切なプロジェクトでした。私は、噴火時における警報の伝達、特に住民が警報にどのように切迫感を感じ避難行動まで結びついたかを研究するグループに参加させてもらうことができました。


◆ 災害情報と各組織との相互作用に焦点

 研究を進めるうちに、災害時の情報が出されるものの、その情報を基にさまざまな機関が一糸乱れず速やかな災害対応を行うのは、インドネシアに限らず日本でもなかなか難しいことがわかってきました。そこで現在は、警報の発信者側が考えていることと、警報が伝達された受け手側がその情報を基にどのような行動をするのか、災害情報と各組織との相互作用に焦点を当てて、最終的には提言に結びつく研究を行いたいと考えています。

―現在は「災害情報と各組織との相互作用」という研究テーマに辿り着いたのも、もともとのモチベーションは、人から人へ情報がどのように伝わり、その人や組織の行動にどのような影響を与えるかに強い関心があるわけですね。


◆ 人は言われたとおりに動くとは限らない

 そうですね。例えば、上司が部下に指示した時、部下が指示通りに動く時もあれば、動かない時もあることは、些細なことから重大なことまで、一般的にもよく起こり得ることです。「人は言われた通りに動くとは限らない」ということは、何となく根底にあるのでしょうね。さらに直接的に言えば、「人の集まりとしての組織や社会の動きを、ある方向に向かせたいと思えば、本当に向かせることはできるのだろうか?」というのが、本当の起点です。

―「人は言われた通りに動くとは限らない」「組織や社会を思う方向に動かすことはできるのだろうか」に強い関心があるのは、今振り返れば、どこに原点があると思いますか?

 お恥ずかしい話ですが、高校生の頃、学園祭や体育祭の実行委員等を務める中で、不思議に思っていたことがありました。はじめのうちは皆「楽しいことやりたい」と思って集まり、いろいろ意見を出して喧々諤々していたのに、だんだん意見の統一が難しくなり、限られた日数を目前に、最後は少数派が「100%賛成じゃないけど、そうする?」と物事が動いたり、自分自身もその方向へ押してみたり。それが最善策だったとは思いませんが、「人を動かすことは難しいし、楽しい」と正直思いましたね。それが本当のモチベーションだと思います。研究のみならず、このプロジェクトについても、さまざまな立場の人や組織が関係する中、どのようなコンセンサスを図っていくかは大切なことだと思いますし、その点に私はやり甲斐を感じます。


2.次世代火山研究者育成プログラム担当に就任して

―2018年12月に本プログラム担当准教授として着任されてから、約3か月が経ちました。本プロジェクトにはどのような心持ちで携わっていますか?


◆ 社会科学を火山学主要3分野のスパイスに

 本プロジェクトの目的は火山を研究する次世代研究者の育成ですから、まず大前提として、火山学主要3分野と呼ばれる、地球物理学、地質・岩石学、地球化学の強化が一番です。一方で、御嶽山噴火を踏まえた社会的要請として、理学的探究心だけでは研究に対する社会的な理解を得ることが難しくなっています。

 料理に喩えれば、メインディッシュはあくまで火山学主要3分野で、私の専門分野である社会科学はスパイスのような位置付けと考えています。火山を研究する学生たちが、同じ火山を見るのでも、理学的な視点のみならず、どのような社会科学的視点があるかに、若いうちに触れておくことは、きっと将来の役に立つのではないでしょうか。

 そもそも研究のモチベーションは大切で、それなしに人は走れませんから、「マグマが綺麗なのはなぜだろう」と言う学生を「不謹慎だ」と叱っても意味はなく、理学的な探究心を大いに突き詰めて欲しいのです。ただ、視野が狭まり過ぎることは問題ですので、火山噴火が付近の市民生活や観光等に影響を与えることにも考えが及ぶ研究者になって欲しいと考えています。

―特に地引さんならではの視点で伝えたいことは何ですか?

 私が先生という立場で講義する時も私の価値観というフィルターを通しますので、結局は冒頭にお話した私のモチベーションを強調することになると思います。例えば、一口に「住民の避難行動」と言っても、家族で避難するのか、会社や畑など外で働いている最中に避難するのか、別の島に船で避難するのか等々で、その様相は全く異なります。また「噴火の推移を見定めることが難しい」と理学の研究者は考えており、実際その通りですが、それをじりじり見ながら復旧や復興を考えなければならないプロセスがあることなどについてです。

 また、地方自治体等で実施する火山の避難訓練等の業務に学生がインターンシップ生として参加する際のサポートもできればと考えています。自治体側がなぜその訓練シナリオにまとめたのか、その意図や歴史、今後の展開等について、私からも補足説明ができれば、限られた時間の中で学生たちがより理解を深められるのではないかと感じています。

 正解はないとは思いますが、少なくとも約10年後、今の学生たちが研究者になった時に「自分の専門分野だけを研究していればよい」と考えるのではなく、火山噴火の社会的影響についても考えを及ぼしてくれていれば、150点満点だと私は思っています。

― 今後に向けた意気込みをお願いします


◆ 専門的な相談ができる関係性をつくりたい

 私は前職で、火山噴火や地震のリスクがあると予測されるインドネシアで、災害事前対策を行っていました。ところが、実際に火山噴火等が発生すると、インターネットなどで情報をリアルタイムに取得できる時代になったとはいえ、火山のことがよくわからない人がいくら集まっても結局は何もできず、そんな時に相談できる専門家が身近にいることの大切さを痛感しました。本プロジェクトで、防災の重要性を感じてくれる学生が輩出され、彼らが30代になった時、そんな相談を彼らにできるとよいですね。また、本プロジェクトの範疇を超えるかもしれませんが、文系の学生たちにとっても、将来、理学の火山研究者と学際的な研究ができるよう、文理を超えた若い世代同士の交流ができる場があればよいと思っています。


3.メッセージ

― 中高生も含めた次世代へメッセージをお願いします


◆ 高校までの基礎学力は大学生活の土台

 受験勉強は大事です。何のためにやっているのか、私も当時はよくわかりませんでしたが、国語・数学・英語・理科・社会すべてが非常に重要です。自分の好きな科目を伸ばすことはよいことですが、ひとつだけが飛び抜けてよくても、他がゼロにはなって欲しくないです。なぜならば、総合的な基礎力がなければ、偏った大学生活を送ることになりますし、異分野の人の話を理解することもできません。ある一定水準以上の基礎学力が担保されなければ、本プロジェクトも全国の大学と共同で大学院生を育成することができません。高校生の頃は私も勉強のことを「毎日が筋トレのようで、一体いつになれば試合に出られるのだろう」と思っていましたが、そういうものなのですよ。

― 最後に、本プロジェクトへの参加を検討している大学生へメッセージをお願いします


◆ もし本当に火山に興味があるなら、めちゃくちゃラッキーですよ

 本プロジェクトは10か年計画のため、今の大学1年生くらいまでは、本プロジェクトに参加することができます。もし本当に火山に興味があるのなら、あなたはめちゃくちゃラッキーですよ、と言いたいですね。日本が国総掛かりで本気で人を育てようと、火山に興味のある学生をとことんサポートする体制ができています。それは約3年前まではなかったことですから、この10年ポッキリ、本当にラッキーですよ(笑)。あまり頑張りすぎると、身体のバランスを崩してしまうかもしれないので「頑張れ」とは言えませんが、参加して損はないはずです。

― 地引さん、ありがとうございました

取材先: 東北大学     

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