(13566)
2017年 09月 24日 (日)

地球物理学者の日野亮太さん(東北大学教授)に聞く/科学って、そもそもなんだろう? 取材・写真・文/大草芳江

2017年09月14日公開

海底で探る巨大地震の発生メカニズム

日野 亮太  Ryota HINO
(東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター
/東北大学災害科学国際研究所 災害理学研究部門 教授)

1964年、大阪市生まれ。1983年大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎卒業、東北大学理学部入学。1987年同大学同学部卒、1992年同大学大学院理学研究科博士課程修了。地震・噴火予知研究観測センター助手・助(准)教授を経て、2013年東北大学災害科学国際研究所教授(現在も兼務)。2015年より理学研究科教授。

 2011年3月11日、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、それまでの予測を遥かに超えた国内観測史上最大のマグネチュード9.0を記録し、甚大な被害をもたらした。地震の海底観測が専門の日野亮太さん(東北大学地震・噴火予知研究観測センター教授)は、東北地方太平洋沖地震の震源域である宮城県沖の海底に地震計等を設置し、長期観測を続け、世界で初めて巨大地震を震源間近で捉えた。なぜあれほどの巨大地震が起こったのか?その答えを求めて研究を重ねる日野さんに、地震学の今とこれからについて聞いた。


海底で地震・地殻変動を測る

―はじめに、日野さんの研究内容の概要からご説明をお願いします。

【図1】2011年東北地方太平洋沖地震の発生時に、震源直近の海底に設置されていた海底水圧計(2011年9月に潜航艇により回収した際の映像)。地震に伴う地殻変動とその後の津波を観測し、この地震の発生機構の理解に有用なデータを提供した。(画像提供:東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター)

 私の研究対象は地震・地殻変動で、その特徴は、海底に地震計などのセンサーを設置してデータを取得するという観測手法にあります。例えば震源を決める時、基本的には流通している陸上の地震観測データが使われていますが、ごく最近まで海底には地震観測網がありませんでした。そこで私たちは、自前で海底に観測装置を設置し、誰も取得したことがないデータを観測する研究を行ってきました。それ以外は陸上での研究と同じですので、観測の方法に研究のオリジナリティがあると言えます。

―海底観測が重要な理由は何ですか?また、海底観測を他の人ができない理由は何ですか?

 日本周辺でしばしば発生する巨大地震の多くは、海で発生します。被害地震になりかねないような巨大地震を詳しく理解するためには、できるだけ震源に近い場所でデータを取得することが必要ですから、海底観測が大事です。それは私たちの先輩の頃からずっとわかっていたことでした。しかし、例えば、東北地方の太平洋沖で地震が発生するような場所は、水深2,000メートルを超えるような深海底です。深海底に人間が行くことはできませんし、装置を設置するにも高い水圧に耐えられる装置でなければなりません。観測技術面で陸上と比べて海底での観測体制が立ち遅れていたことが背景にあります。

―日野さんたちのグループは、なぜ海底観測ができるようになったのですか?

 海底観測装置のパイオニア的な仕事は、私たちの先輩が1970年代から始めていました。私自身は海で起こる地震に興味があったので、大学院で海底観測の研究室に入り、先輩たちと一緒に研究してきたわけです。

 私が大学院に入学した頃、ちょうどIT革命が到来しました。海底に観測装置を設置するには、先述の通り、自分では海底まで行けませんから、船上から装置をストンと落とした後、海底での観測が終了したら自ら戻ってくる装置を開発する必要があります。そのためには小さい装置で大量のデータを記録でき、小さな電池で長持ちして高精度に動作する装置を開発する必要がありました。先輩たちが直面したこれらの課題は、IT革命によってすべてクリアされたわけです。すると、観測方法の本質は変わらないかもしれませんが、観測時間が長くなったり、一度に使える装置の数が増えたりしたことで、ここ10年間くらいで研究が格段に進んだのです。


10年間で観測データが質量ともに進歩

―特にここ10年間で大きく進んだことは何ですか?

 ここ10年間で一番大きな進歩は、まず、地殻の非常にゆっくりした変形である地殻変動を海底でも測れるようになったことが大きいと思います。

―海底の地殻変動は、どのように測るのですか?

【図2】GPS-音響結合方式による海底地殻変動観測の方法。観測船(またはブイ)におけるGPS測位と、海中音響測距を組み合わせることで、海底基準点の動きを測定することができる。(画像提供:東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター)

 陸上の地殻変動には、最近は皆さんにもお馴染みのGPSなどの衛星システムを用いた測位技術が用いられますが、海底では衛星からの電波が海水を通らないため利用することができません。ただ、海水中で電波は通りませんが、音は遠くまで通ります。そこで東北大学では、海底にある観測装置の位置を船から音波で測るとともに、観測に用いる船の位置をGPSによって決める技術を開発し、GPSを用いた陸上観測に近いことを海底でもずっと実証モードで行ってきました。それがここ最近になって、かなり具体的に何が起こっているか、データとして見えるようになってきたことが大きいですね。

 また、地殻変動を海底でも測れるようになったことに加え、地震計の数が飛躍的に増えたことも大変重要です。

―海底の地震計の数が飛躍的に増えることで、何が新たに見えるようになったのですか?

 地震計で震源の場所を長期間プロットしていく(観測値を点でグラフに書き入れる)ことで地下の構造がわかるのです。地震はどこでも発生するわけではなく、地震が発生する場所と発生しない場所があります。例えば、地震は「断層が動いて発生する」と言われており、断層に沿って震源が決まるので、断層の位置がわかります。その断層から出た地震波を観測することで、その途中にある地下岩石の状態が、例えば「ここには固い岩石があり、ここには柔らかい岩石がある」というようにわかります。それを海底でも観測することで「海底下の地図」がつくれるようになってきました。それが地震の起こり方とどのような関係があるかに進展があるということです。

 つまり、地殻変動に関して言えば、データの質が大きく変わり、地震観測に関して言えば、データの量が飛躍的に増えたことで、新しいものが見えるようになってきたと思います。


地震学でわかっていること・わかっていないこと

―そもそも現在の地震学でわかっていることとわかっていないこととは、何ですか?

 今わかっていることは「地震は、地下の断層が動く時に発生する現象である」ことです。断層が動く時、揺れのもとになる振動が出て、それが周囲に伝わり地表に達すると、地面の揺れとして私たちは感じることになります。大雑把に言えば、この説明で色々なことが理解されています。しかしながら、では具体的に「いつ、どこで、どれくらいの大きさの地震が発生するか」は全く予測できない状態と言ってよいでしょう。それを目指していたのが地震予知ですが、簡単なことではありません。

 ただ一方で、少しずつわかってきたことは、「地震はどこでも発生するわけではない」ということです。先述の通り、断層の上で地震は発生するわけですが、地震を起こせる断層が地球上どこにでもあるわけではなく、地球全体で見ると、ごく限られた場所にしかないのです。日本の中でもよく見てみると、地震をよく起こす場所は、全体の中では、それほど多くあるわけではありません。では、その場所がどこにあるのか?あるいはなぜその場所で地震が起こりやすく、他の場所ではあまり地震は起こらないのか?その理屈がわかれば、次に巨大地震が発生しやすい場所がわかるだろう。そのような研究を私たちはずっと続けてきて、ある程度はわかっていた気がしていたのです、2010年までは。


2011年以降に見えた地震の新たな全体像

―2011年の震災以降、どのように認識が変わったのでしょうか?

 基本的に「"動く前の断層"の"固着している部分"が"動かそうとする力"を支えきれなくなって動くのが地震だ。ただし、断層はどこでも固着しているわけではなく、"動けるところ"と"動けないところ"がある。よって、"動けないところ"を見つけることができれば、それが将来の地震を起こす場所だろう」と考えていました。それは全体像としては今でも間違ってはいません。しかし「ここが固着しているだろう」と思う場所に、大きな思い違いがあったのです。そして結果的に、マグニチュード9という未曾有の巨大地震が発生することを、私たちは全く予測することができませんでした。ですから、「地震を起こしそうな場所とはどんなところか?」は改めて見直さなければいけません。それが今、私たちが直面している最大の課題だと思います。

 もうひとつは、「断層が動くところで地震が起こっている」と先程話しましたが、約10年前までは、「地震を起こしていないところは何もしていない。断層は地震を起こすところと、起こさないところの二つに分かれる」と思っていたのです。しかし実はそうではなく、地震の揺れは感じなくとも、「地震のような現象」がかなり起こっているらしいことがわかってきました。

―「地震のような現象」とは何ですか?

【図3】普通の地震と「ゆっくりすべり」。観測技術の進展により揺れをあまり起こさない「ゆっくりすべり」の存在が知られるようになり、海底でも観測され始めている。(画像提供:東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター)

 揺れを起こすような地震は断層が素早く動くことで起こるのです。ところが、揺れを感じないくらいにゆっくり、地殻変動しか起こっていないような"ゆっくりした断層の動き"があり、「ゆっくり地震」「ゆっくりすべり」等と言われています。20数年前、そのような地震があるのではないかと最初に言い始めた先生が「地殻変動のデータを丹念に見ると、地震でもないのに動くことがある。何かが変だ」とお話されていました。観測網が非常に緻密になった今では、かなりの数でゆっくりすべりが発生しているらしいことがわかってきたのです。すると、私たちは断層の動きが本質と思っていますが、その中のごく一部の地震という現象しか、これまで見ていなかったことに気づきました。そこで、もっと、ゆっくりした断層の動きを視野に入れて研究を進めることで、地震の発生メカニズムをよく理解できるのではないかと考えています。そこで今、ゆっくりした断層の動きが、いつ・どこで・どのように起こるかを丁寧に系統的に調べようとしています。
 
 特に私たち東北大学は、東日本の海で起こる地震活動に最も関心がありますが、長い間、東日本の海では、ゆっくりすべりは起こらないと考えられていました。ところが、2011年の東日本大震災が契機となって精力的に研究を進め、あるいは「ある」と信じて探した結果、なかなか無視できない活動があるのではないかということが見えてきたのです。

―以前、東北大学天文学教室の二間瀬敏史さん(現・京都産業大学教授)へのインタビューで、「重力レンズにも、強い重力レンズとか弱い重力レンズとか、色々種類があるんです。弱い重力レンズは、昔はそんなちょっとした歪みは観測にかからないと思っていてあまり興味がなかったわけです。けれども研究していくと、どうもそうじゃなくて、そういう効果の方が大事な場合もあると、認識を新たにしたっちゅう面もあるんですね。そういうことをやっているうちに、いろいろおもしろいことが出てきたんです」とお話していたことを、今のお話を聞いて思い出しました。

 そうですね。私たちも実はちょっとそれに似ていて、今まで目に見えている地震ばかりを見ていましたが、その背景にある、今まで見えていなかった断層のゆっくりとした動きの方が実は主役で、やっと私たちは、その主役に目を向けられるようになったのかもしれません。


ゆっくりすべりと巨大地震の関係性

【図4】海陸の地殻変動観測データから推定した2011年東北地方太平洋沖地震時の断層すべり量の空間分布。(画像提供:東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター)

―ゆっくりすべりに目を向ける中で、新たにわかってきたことは何ですか?

 2011年に東北地方太平洋沖地震が発生する1ヶ月半くらい前から、実際に震源となった場所の近くで、非常に微弱ですが、ゆっくりしたすべりが起こっていたらしいことがわかっています。そのゆっくりしたすべりが徐々に広がって、最後に巨大地震の発生につながり、その後も断層は止まれず、動き続けるのです。今もなお動き続けているかもしれません。

―ゆっくりした断層のすべりが地震発生後も止まれずに動き続けると、どうなるでしょうか?

 地震発生時、地震を起こした断層の上で、すっかり力を開放してしまったところは、その動きを止めるでしょう。しかし、その周囲に十分付いて来られずに遅れてすべる部分があって、今でも動き続けているとすると...。断層はずっと続いていますから、遅れて滑った反対側に、次の地震にむかって力を貯めているところがあるとすれば、ゆっくりしたすべりがこれを引っ張りますから、連鎖的に大きな地震につながる可能性があります。世界的に見ると、巨大地震の発生後、その隣り合ったところで、また巨大地震が発生することがよく見られます。2011年の巨大地震から約6年が経ちますが、隣り合うところでまた巨大地震が起こる可能性があることを考えると、ゆっくりしたすべりが今も続いている行末をきちんと調べることが大事です。

 つまり、地震発生の前後にゆっくりしたすべりがあり、その全体像を明らかにすることで、初めてひとつの地震の全体像が見えてくるのではないか。それが昔の観測データを再分析したり、新たな観測を海底で始める中で、だんだんわかっています。


巨大地震を間近に捉えた世界初のデータ

―新たな観測データだけでなく、過去の観測データからも「ゆっくりすべり」はわかるのですか?

 反省はしているのですが、データが大量なので、見たいものから優先して見てしまうのは仕方がないことです。巨大地震が発生すると、私たちは「この地震は予知できなかったのだろうか?」と、まず地震発生直前のデータを見直します。すると、先述のような複雑な現象があったことがわかります。そうすれば、その仲間がさらに昔発生していなかったかを遡っていけますので、大学院生達と今も再分析をしているところです。つまり、探すものが見つかれば改めて観測データを見る。あるいは、探すものが見つかり、現在の観測体制では取れないデータであれば、新しい観測を始めることになると思います。

 いずれにせよ、巨大地震を間近で捉えることができたのは、世界で初めてのことでした。宮城県沖地震の発生に備えて、私たちは宮城県沖にたくさんの観測網を構築していました。実際に発生したのは宮城県沖地震よりも遥かに巨大な地震でしたが、結果として、震源すぐそばで巨大地震のデータを取ることができました。データは色々なことを私たちに教えてくれます。貴重なデータはやはり何度も何度も見て見落としがないように調べていく必要があると思い、未だにその時のデータを見ています。

―ちなみに、海底で観測網を構築する場所は、どのようにして決めるのですか?

 観測にはコストが発生するので、どれくらいの規模で観測できるかは、一番はじめに考えなければいけないことです。もし非常に大規模な観測ができるのであれば、東北地方一円に、何千台も観測装置を設置できますが、現実そうはいかないので、重点的に調べるべき場所があります。例えば、先述の宮城県沖地震を例にすると、過去の発生場所はわかっているので、それらをヒントに地震が発生しそうな場所で待ち構えます。あるいは、地下の岩石の分布で、地震が起こりやすそうなところを選び、そこで観測を進めるかもしれません。

 ただいずれにせよ、大まかに状況がわかっていなければ、どこで重点的に観測すべきかはわからないので、最初はそういう意味では、勘ですね。そこから「少しずらした方がよい」「もう少し絞った方がよい」「もっと広げた方がよい」等と徐々に考えていくと思います。

 はじめは2011年に地震が発生したところの行末をとても知りたかったので、私たちは宮城県沖を中心に観測してきました。しかし、まわりにむかって、ゆっくりすべりが広がっていることがわかってきたので、現在は、観測の中心をだんだん福島県沖にずらしています。実際に昨年11月に福島で地震が発生しており、やはり活動の活発さが現れていますね。

―地震予知は簡単ではないとのことですが、ゆっくりすべりから地震発生の予想はできそうですね。

 そうですね。例えば、防災科研(国立研究開発法人防災科学技術研究所)の「強震モニタ」(http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin)では、地震計で観測された今の揺れがそのままリアルタイムで配信されています。このモニタの「ゆっくりすべり」版ができれば、それは予知ではありませんが、ある種の天気予報のようなものができるかもしれません。

 ゆっくりすべりと地震の関係は今とても興味を持たれていますので、私たちはこれを観測的に追及していくべきと考えています。


「日本沈没」に登場した地球物理学者に憧れて

―続いてインタビューの後半では、日野さんの個人的なモチベーションについて伺います。はじめに、日野さんはなぜ研究者になったのですか?原点のようなものはありますか?

 すごくはっきりわかるのですが、まずひとつの原点は、私は化石が好きな恐竜少年でした。小学校に上がる前の頃から地面の中に興味がありました。

 二つ目の転機は、我々世代の地震学の専門家の多くが大きな影響を受けている「日本沈没」(1973年に刊行された小松左京による日本のSF小説)です。この小説が出た後、映画やテレビドラマにもなって、ある種の社会現象になりました。私は当時小学校低学年くらいで、映画を見て、人がどんどん亡くなるのがすごく怖かったです。けれども映画の中で、竹内均先生という著名な実在の地球物理学者が登場し、その怖い地震現象を説明するのです。それに大変感激して「地球物理学者になりたい」と思いました。

 以来ずっと地球物理学に関連する本を読んでいました。当時は「プレートテクトニクス」による説明がちょうど始まった頃で、「プレートが動いて、引きずっていたものが反発して海溝型の地震が起こる」という説明を読みました。そこで「本当にプレートが動いていることや、プレートの境界が沖合にあるというけれども、自分の目で見ることができるのかな?」などと考え始めたのが高校生の頃です。

 調べてみると、実は、海の観測はデータが足りないせいで、全然わからないことだらけ。プレートテクトニクスの実証は始まってはいたものの、まだまだ断片的でしたし、プレート境界地震が起こっているとは言うけれども、本当にプレート境界がどこでどんな形をしているかまでは、あまりよくわかっていないようでした。だったら、そんな観測を行う研究を自分はやりたいと思い、学部も東北大学でしたので、大学院からこの研究室に来ました。

 今思えば馬鹿な話ですが(笑)、当時、海底観測を専門とする先生が東北大学にいたことを知って来たわけではなく、地球物理学のある大学は多くはないので、東北大学に来てみたら、たまたま海を研究している先生がいらっしゃったのです。本当にドンピシャでよかったです(笑)。以来、一もなく二もなく、そのままこの研究室ですね。


装置を触っていると、すごく幸せ

―当時指導された先生も、日野さんと同じような問題意識で海底観測をされていたのですか?

 僕が研究室に来た時には他大学に移られた先生が、東北大学での海底観測をはじめた方でした。その先生は、海のプレートが沈み込んでいく時にどんなことが起こっているか?や海のプレートとは一体何か?に興味を持って当時研究をされていたと聞いています。私を直接指導してくださったのは、若い女性の先生でした。その先生は「私たちはどこから来て、どこへ行くかを知りたくて、地震学をやっている」と仰っていました。おそらく地震そのものよりも日本列島がどのようにできたのか?に興味を持っていたのではないでしょうか。日本列島はプレートが沈み込んでいく海底と密接に関係していますから、海の観測をしていくと、それに近づいていく実感があったのかもしれないですね。同じようなことをやっていても、皆、感じ方はそれぞれかもしれません。

―日野さんは大学院でこの研究室に入り、どんなことから始めましたか?

 プレートに対する興味もあったのですが、道具を使って自分のデータを取ってくることがすごくおもしろそうだと思ったので、とにかく観測に連れて行ってもらい自分が作った地震計を海底に沈めることをずっとやっていました。地震計を海底に沈めて観測できる期間は今でこそ1~2年ですが、当時はまだ10日くらいでした。ただ10日間観測しても、なかなか地震のデータは取れないですよね。そこでどうやって研究をするかというと、人工地震を起こすのです。人工地震なら、必要な数の地震を起こすことができ、発生場所と観測場所の組合せがはっきりわかります。そうして地震の揺れが地下を伝わる時の変化を追跡すれば、海底下の地図が描けます。

 それはそれでおもしろくて、地殻にも厚いところと薄いところがあることがわかり、極端なところでは井戸を掘ればひょっとしたらマントルが見えるかもしれないくらいに(笑)、薄いことがわかりました。だいたい東北地方の地殻は約30kmですが、伊豆・小笠原あたりのごく僅かなエリアでは地殻が6~7km くらいの薄さでした。それまでも色々な状況証拠から、その場所は変な地殻構造をしていることがわかっていました。そこで人工地震探査をやろうという研究プロジェクトが立ち上がった時が、ちょうど私が大学院に入った頃で、「そんなに観測が好きなら、やってみるか」と言われてやらせてもらったわけです。

 地震計を自分でつくるのも、人工地震を起こす道具の調整なんかも全部楽しくって(笑)。道具を触るのがすごく好きみたいで、そういう装置を触っていると、すごく幸せで(笑)。同じように装置が好きな人は他にもいました。例えば、ゆっくりした揺れを測れる地震計は調整がとても難しいので、当時はまだ海底では実用化されていなかったのですが、東京大学の先生方が開発されていた装置を僕もお手伝いさせていただきました。また、ゆっくりした揺れを測るなら、地殻変動を測れるようにすればいいじゃないかということで、音波を使って距離を測る道具もつくりました。海底観測の道具をつくる人は、それほど多くないのです。日本で10人いるかいないか、世界で30人になるかどうかくらいです。

―それだけ海底観測の装置開発は難しいのですね。

 そうですね。数少ない人たちの努力で、海底のゆっくりすべりを実際に観測できるまで、徐々になってきたわけです。


プレートを実感したい

―大学院では地下構造を調べるための装置開発から観測まで、とてもワクワクしながら日野さんが研究に取り組まれてきた様子が伝わってきました。ところで、高校の時に興味を持っていたプレートについては、実際に見たり実感できたりしたのでしょうか?

 全体像として海のプレートが沈み込んでいることは大事ですが、残念ながら、大学院生の時に自分が観測した場所では、プレートの動きを見られるわけではありませんでした。けれども、地下構造を調べるテクニックを磨けば、いずれはプレート境界を自分で見られる日が来るだろうとは思っていました。実際にそれができるようになったのは、博士号を取得後、東北大学に研究者として就職した後のことです。

 私が就職した頃、三陸沖などで大きな地震が続きました。大きな地震が発生した後は余震が多く発生します。その頃には、1ヵ月くらいは地震観測ができるようになっていたので、1ヶ月でも地震の震源を多く決めることができました。最初に発生した地震がプレート境界で起こったのならば、その余震の分布の仕方を見れば、プレート境界の形になるはずです。すると、上から見るとスカスカで、横から見ると本当に綺麗な面になって地震の震源が並んでいたのです。ベタ一面で地震は起こるのではなく、あるところは固まって、あるところはスポッと抜けている。どこでもくっついているわけではなく、あっちこっちもう穴だらけだ、と実感しました。そして、仲間の研究者たちが同じ場所で行った人工地震探査のデータを解析すると、私が決めた震源のところにちゃんと、沈み込んでいる太平洋プレートの上面で地震波を跳ね返す面がありました。その時ですね、やっと、やりたいことに近づいてきた気がしたのは。さらには、プレートが動いていることを実感したいわけですが、今やっていることがまさにそれかもしれないです。


ゆっくりすべりしか起こせない断層と早く動ける断層があるのは、なぜか?

―今後の意気込みについて教えてください。

 個人的な興味では、"くっついているところ"と"くっついていないところ"があるのは、なぜそうなっているのか?を非常に知りたいです。"くっついているところ"と"くっついていないところ"が、結果的に巨大地震を将来起こすところと起こさないところの色分けに役立つという実用的側面もありますが、それとは別に、なぜゆっくりすべりしか起こせない断層と早く動ける断層があるのか?を解明したいです。この問題は色々な人が世界中で研究していますが、まだ明快な答えはありません。その競争の中で、我々は震源間近で観測しているアドバンテージを活かし、例えば、東北地方太平洋沖地震の時は、何十メートルも断層が動きましたが、なぜここだけ動けたのか?を、誰が聞いてもわかる筋道で説明できることが当面の目標です。


諦めずにずっと考え続けることは楽しいこと

―今までのお話を踏まえ、次世代へメッセージをお願いします。

 おもしろいと思ったことは徹底的に追及すると、またおもしろくなります。ですから常に「なぜそうなるのか?」と原因を考え、「次に何が起こるか?」を予測してみてください。それが大事だよというお説教ではなく、楽しいよと伝えたいのです。きっと理科が好きな子は、それが楽しいと思う素養を持っていると思いますが、うまくいかないことが多くて諦めてしまうこともあると思います。例えば、予想が当たらなくて「自分はだめだ」と思ったり、原因を追求しようと思っても、わからないから、止めてしまうこともあるかもしれません。けれども諦めずにずっと考えていることは、本当は楽しいよ。そんな思いを共有してくれる若い人たちが次世代としてどんどん育ってくれると、科学者がまた育ってくると思います。

―日野さん、ありがとうございました。



東北大学 日野研究室 学生インタビュー

Q1 どんな研究をしていますか?自分がおもしろいと思うことを教えてください。

◆今野美冴さん(博士課程 2年)
 私は海底地殻変動観測の高精度化に関する研究を行っています。船で観測に行くのですが、自分でデータを現場まで取りに行って解析することが、おもしろいと思っています。

◆山本龍典さん(博士課程1年)
 私も海底地殻変動に関する研究を行っており、海底で地面の動きをモニタリングするシステムの解析を行っています。このシステムは陸上でも使われますが、海底で完結すると、mmレベルで精度よく地面の動きを検出できることがおもしろいと思っています。

◆高橋秀暢さん(修士課程 2年)
 超低周波地震(ゆっくりと断層がすべる地震)について研究をしています。自分たちでOBS(自己浮上型海底地震計)を設置・回収し、その記録から、新しい現象を見つけられるかもしれないところにおもしろみを感じています。

◆西森智也さん(修士課程 1年)
 卒業研究では、東北地方太平洋沖地震の発生後から現在に至るまで、東北地方太平洋沖の応力の状態をまとめました。東北地方太平洋沖では数百年の周期で地震が発生していると考えられていますが、応力で見ると、その活動周期を実感できることがおもしろいです。

◆西間木佑衣さん(修士課程 1年)
 卒業研究では、東北地方太平洋沖地震の前に発生したスロースリップイベント(ゆっくりすべり)について研究しました。スロースリップイベントを研究することで、巨大地震が起こるメカニズムを解明できるといいなと思っています。

◆田中優介さん(修士課程 1年)
 人工衛星を用いて地面の動きを測り、そこから地下の断層の動きを調べる研究を行っています。特徴としては、これまでとは違う手法で、地震が発生する時だけでなく、発生前後の小さな動きも調べられるのではないかと研究しています。


Q2 日野研究室を一言であらわすと?

◆今野さん
 「チークワーク」。海底観測で皆と一緒に船で行く時は団体行動ですから、皆で協力することが重要です。結束力がある研究室だと思います。

◆山本さん
 「自給自足」。自分で装置を設置して自分でデータを取ってくるのがおもしろいからです。

◆高橋さん
 「海賊」。僕も山本さんと同じで、自分で設置した装置で自らデータを拾ってくることが、おもしろいです。どこに宝が眠っているかわからないから、僕らは海賊です。

◆西森さん
 「バラエティ」。一見すると研究内容は「海域で起こる地震」で狭いようにも見えますが、実は一人ひとりが違う研究をしていて、研究内容はバラエティに富んでいます。

◆西間木さん
 「エキスパート」。私は大学院から東北大学に入学しました。日野研究室のメンバーは、地殻変動研究のエキスパートと感じます。

◆田中さん
 「動物園」。ここ海域グループでは多種多様な研究が行われています。観測の道具ひとつとってみても、海底に置く人もいれば、人工衛星を使う人もいます。海底から陸上、空まで、非常に多様で、まるで動物園と水族館が合わさったような研究室です。


Q3 最後に、後輩の中高生へメッセージをお願いします

◆今野さん
 自分が興味を持ったことに関しては、本を読んだり人から話を聞くinputも大事ですが、自分の中で消化してoutputすることも大事です。興味を持って挑戦することを大切にしてください。

◆山本さん
 「楽しいな」「興味がある」と感じたことには、とりあえず、首を突っ込んでみることが大事だと思います。

◆高橋さん
 自分がおもしろいと思ったこと、好奇心を大事にして欲しいです。

◆西森さん
 どうせ未来はどうなるかわからないのだから、どんどんチャレンジすることが重要だと思います。それに、例えば5年後に自分が想像できる未来なんかつまらないです。どんどんチャレンジして自分の未来を開拓して欲しいです。

◆西間木さん
 色々なことに「なぜだろう?」と疑問を持って、自分で調べてその問題を解決することがすごく楽しいことだと思えたら、とてもよいと思います。

◆田中さん
 深く考える前に、まず飛びついてみることが時には大事だと思います。そもそも研究は、努力しても報われるかどうかすらわからない面もありますが、そんな努力を喜んでやれる、良い意味での変わり者が研究者として活躍すると思います。

―皆さん、本日はありがとうございました。

取材先: 東北大学      (タグ:

▲このページのトップHOME


コラボレーション

ハワイ惑星専用望遠鏡を核とした惑星プラズマ・大気変動研究の国際連携強化)×宮城の新聞
東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)×宮城の新聞
宮城の新聞×東北大学理学部物理系同窓会泉萩会
KDDI復興支援室×宮城の新聞インタビュー
宮城の新聞×東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 塚本研究室
宮城の新聞×生態適応グローバルCOE

おすすめ記事

【特集】宮城の研究施設

一般公開特集

【特集】仙台市総合計画審議会
参加レポート

仙台の10年をつくる

【科学】科学って、そもそもなんだろう?





【科学】カテゴリ の記事一覧

同じ取材先の記事

◆ 東北大学





取材先: 東北大学 の記事一覧


▲このページのトップHOME

科学って、そもそもなんだろう?
最新5件



カテゴリ


取材先一覧

■ 幼・小・中学校

■ 高校

■ 大学

■ 国・独立行政法人

■ 自治体

■ 一般企業・団体


宮城の新聞
仙台一高
宮城の塾
全県一学区制導入宮城県内公立高校合同説明会をレポ
宮城の人々