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2017年 06月 28日 (水)

産総研東北センター内に「DIC-産総研 化学ものづくり連携研究室」開設/その狙いと展望を聞く(2) DIC(株)R&D本部長の川島清隆さん 取材・写真・文/大草芳江

2016年09月07日公開

企業から見るオープンイノベーションの可能性

川島 清隆 Kiyotaka Kawashima
(DIC株式会社 執行役員 R&D本部長)

1958年、岐阜市生まれ。京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻修了。エンジニアリングプラスチック技術本部長、電子情報材料事業部門企画管理部長、技術企画部長、ソリッドコンパウンド製品本部長を経て、現職。

日本企業を取り巻く競争環境が厳しさを増す中、日本全体としてイノベーションを継続的に創出するシステムの構築が求められている。そんな中、日本最大級の公的研究機関である産業技術総合研究所(略称:産総研)は、ナショナル・イノベーションシステムの中核的役割を担おうと、社会や産業のニーズを捉えながら、研究成果を事業化につなげるための「橋渡し」機能に注力している。その一環として、産総研の化学プロセス研究部門では、「DIC(旧:大日本インキ化学工業)-産総研 化学ものづくり連携研究室」を今年4月1日、東北センター内に新しく開設。そのねらいと展望を探るインタビューシリーズの第2回目は、「化学ものづくり連携研究室」開設企業第1号である、DIC株式会社R&D本部長の川島清隆さんに聞いた。

<目次>
【特集】産総研東北センターに「DIC-産総研 化学ものづくり連携研究室」開設
(1)産総研の濱川聡さんに聞く~技術を誰よりも早く実用化する「橋渡し」役に~
(2)DIC(株)の川島清隆さんに聞く~企業から見るオープンイノベーションの可能性~
(3)そのねらいと展望を探る座談会~イノベーションに必要なこと~

※本インタビュー取材をもとに、産総研Newsletter No.43の作成を担当させていただきました。


企業側から見る「化学ものづくり連携研究室」の存在価値とは

―そもそもなぜ貴社は、産総研を連携相手として選んだのですか?

 産総研の他にあるかと聞かれれば、産総研以外にないと思うのです。国家プロジェクトも、その担い手として研究を進めるのは、日本最大級の国立研究機関であり、世界トップレベルの幅広い技術を持つ産総研であることは間違いないでしょう。産総研には約2,800人もの研究者がいます。その2,800人が、当社のブレインになる可能性があります。その意味で、産総研との連携は、当たり前だと認識しています。良いことばかりを言っていますが、お世辞抜きで、本当にそう思いますよ。

―これまでも貴社と産総研は連携して研究を行っていたそうですが、貴社の立場からすると、従来と比べ今回の「化学ものづくり連携研究室」では、何が異なりますか?

 私自身は、R&Dの責任者を今年から務めているため、正直なところ、それ以前のことは詳しくわかりませんが、これまでの産総研との研究と比べると、今回の「化学ものづくり連携研究室」は、非常に企業側がやりやすい形だと思います。

 まず、はっきり言えば、資金面で、企業側の投資がそれほど大きくなくとも、産総研から企業研究専従の実験スペースや設備、技術シーズなどを活用できることは、企業として大きなメリットがあります。

 また、個々の企業対産総研で研究を行う実験スペースを産総研内に設置できることは、様々な面において、企業側が今まで「こうだったらいいな」と思うことを、実現可能にすると思います。

―企業側の「こうだったらいいな」とは、どんなことですか?

(1)産総研の設備や技術を総合的に活用できる
 我々企業の考える連携研究室の存在意義とは、当社との連携専用の実験スペースを産総研内に用意いただいたことで、産総研の保有する施設や技術などを、これまで以上に総合的に我々の研究開発に活かして展開できる点が、まず大きなメリットです。

(2)産総研の研究者が我が社のブレインに
 二点目は、産総研の研究者が、当社のいわばブレインとなり、その場で当社の技術者たちとディスカッションをしながらアドバイスをいただき、新しいものを開発できる点です。

(3)産総研の幅広いネットワークを活用できる
 さらに、産総研には非常に幅広い情報のネットワークがあります。その一部を我々が共有させていただくことで、どんな問題でも解決できると期待しています。

 つまり、すべて「その場」でできることが、従来のとは異なる点です。「場」があるとは、すなわち頻度も高く密度も濃い。その意味では大きく変わったと認識しています。


中期経営計画における「化学ものづくり連携研究室」の位置づけとは

―貴社の中長期計画では「化学ものづくり連携研究室」をどのように位置づけていますか?

 当社の3カ年の中期経営計画である「DIC108」では、その基本戦略を、[事業][財務][経営インフラ]の大きく三つで捉えています。このうち[事業]では具体的な事業施策を4つ掲げています。①成長牽引事業の拡大:利益を牽引する強い事業をより強くしましょう。②戦略的投資機会の追求:オープンイノベーションやM&A等に対する積極的投資により、事業化のスピードアップを図りましょう。中期経営計画では、3年間で1,500億円の戦略的投資枠を数値計画に織り込みました。③次世代事業の創出:新しい次世代事業を創り出しましょう。これはまさに研究開発の一番大きな目的です。④成熟地域でのさらなる合理化:さらに利益が出るよう、工場の形を変えていきましょう。

 このうち、①成長牽引事業の拡大に関連して、実はすでに産総研と研究を始めており、様々なテーマに結びついています。②戦略的投資機会の追求では、産総研との研究や、さらには産総研をつてに大学等とつながり、外部リソースを積極的に活用しながらオープンイノベーションを積極的に進めています。③次世代事業は、まさに今回の連携研究室そのもので、産総研との様々なやり取りを通じて、その場で、新しいものをつくることを進めます。

 このように、当社の中期経営計画の大きな事業施策の中に、すでに産総研との研究がいくつも織り込まれているのが実態です。ですから我々にとって今回の連携研究室は、先述の通りの存在価値があるのです。今後ますます産総研との連携を強化しつつ、さらには大学等とも連携し、我々と産総研と大学の三者で強く結びついていきたいと考えています。


産総研との研究テーマについて

―産総研との研究テーマについて、ご紹介をお願いします。

【写真1】プリンテッドエレクトロニクス(画像提供:DIC株式会社)

(1)プリンテッドエレクトロニクス材料
 当社の中期経営計画の次世代事業における代表的なテーマは、「プリンテッドエレクトロニクス」、文字通り、印刷(プリント)技術を高度な電子・電気製品(エレクトロニクス)に応用する技術です。例えば、携帯電話の中には基盤があり、無数の電子回路や半導体・電子部品などが使われていますよね。それらは非常に複雑かつ多段な製造過程を経て、基板に何層にもわたり組み込まれています。ところが印刷技術を応用することで、電子回路の配線から半導体まで、すべて印刷で製造できるようになるのですよ。極端なことを言えば、もう電子部品は要らないわけです。導電性や絶縁性のインク、さらには半導体のインクなどを、すべて印刷だけで製造できれば、工程数を大幅に簡素化できるため、大きな価格革命が今後期待されます。また機能面においても、なんせ「書く」だけですから、厚みや大きさなどの問題を克服することが期待される分野です。このプリンテッドエレクトロニクス用インクの研究開発を、産総研との研究で進めています。

【写真2】 食品用パッケージ(画像提供:DIC株式会社)

(2)バリアパッケージ材料
 もうひとつの代表的なテーマが、パッケージ材料です。簡単な例は、うどんやパンなどを密閉する食品用パッケージですね。難しい例としては、LEDや半導体などは、製造された後、ビールのようにトラックで運ぶわけにはいかないのですよ。半導体などは、水分など様々なものに大変弱く酸化されやすいため、非常に密閉されたバリア性の高いパッケージが必要です。このように一言でパッケージと言っても、簡単なものから、ガスや水などを全く通さない高いバリア機能を有するパッケージまで、世の中では求められているわけです。そこで、様々なバリアパッケージに必要な材料を開発するため、産総研の技術シーズを今、活用しようとしているところです。

【写真3】カラーフィルタ用顔料(画像提供:DIC株式会社)

(3)機能性顔料
 また、当社の成長を牽引している中心事業は、実は印刷用インキだけでなく、その原料となる顔料(ピグメント)、つまり色素の粉末なのです。顔料は色々なものに入っていますが、特に今、我々の成長を牽引しているのが、液晶パネルのカラーフィルタに特化した顔料です。この機能性顔料を、さらに新しいプロセスでつくったり機能を向上させるために、産総研とすでに研究を進めていましたが、さらに今回の連携研究室も活用する計画です。

 このように産総研との研究テーマは、実は、10以上あります。それを今回の化学ものづくり連携研究室を活用して、「その場」で研究開発をします、ということなのです。


パートナーとして産総研に求めること

―これから産総研に期待することや、求めることはありますか?

 産総研は、冒頭でも申し上げた通り、日本の技術の柱であることは間違いなく、我々企業にとっては、限りなく広がる宝の山です。それと同時に、今後は「ブレイン」というより、事業の「パートナー」として産総研を捉えていくべきと我々は考えています。

 また、今回の化学ものづくり連携研究室を機に、産総研と当社の連携はますます強化されるでしょう。さらに今後にむけた要望として、産総研と当社の2者のみならず、そこに大学も結びつけていただき、日本の技術基盤をつくっていただくことで、より実務的になり、ますます幅が広がるのではないかと考えています。例えば、ちょうど今年6月末に、産総研と東北大が「産総研・東北大 数理先端材料モデリングオープンイノベーションラボラトリ」(OIL)を設立しましたが、そこに企業が入ることを推進いただきたいですね。

 実は昨日、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の視察から帰ってきたばかりなのです。MITではオープンイノベーションを非常に積極的に、かつ大規模に進めています。日本は、特にアメリカと比べると、この連携はむしろ遅過ぎたくらいだと思うのです。

 有名なMITの研究施設も視察しましたが、非常にオープンで驚きましたし、大変幅広い研究が行われていました。そこに企業の付加価値を見出すことができると思います。とてもおもしろい話がたくさんありましてね。例えば、ムール貝(イガイ)は、特殊な紐(足糸)で海中の岩などに付着しています。それが不思議な紐で、強い波には強固に付着するのに、弱い波にはふっと流れるそうです。その紐にはうまい具合に柔らかいところと硬いところがあり、それがどんな構造かを調べていました。他にもバイオの材料になると、よく似た紐で、ひっぱると色が変わるそうです。力を加えれば発色するのは非常におもしろい発想で、企業にとっては、新しい製品が生まれるヒントをもらえるわけです。

 米国では、このような取組みをどんどん推進していました。日本では、MITを産総研と読み替えても良いわけで、産総研には、そんな役割があるのではないかと思いましたね。


オープンイノベーションの目的は、リスクヘッジとサステナビリティ

―そもそもなぜ今、オープンイノベーションが重要だと思いますか?

 とても難しい話ですが、間違いなく言えるのは、自分一人でやれることは知れています。一方、複数人で一緒に考えれば、必ず良いアイディアが出ます。しかしながら、長らく日本の企業はそれをやってきませんでした。なぜならば、競争第一だったからです。とにかく、勝つことが大切。そのためには何かが大切かといえば、他人に教えないことです。そのため、これまで自分たちの力だけで何とかしようとしてきました。

 しかしながら、自分たちでできる範囲は知れていますし、時間も有限です。そこで、皆で共有する部分をつくり、早く結果を出すことで、リスクを回避しようというわけです。もちろん、自分たちだけでやれば、得られるリターンも独り占めですね。しかし、それは大きなリスクが伴うことです。自分たちだけでは、最後まで結論が行き着かないリスクや、時間がかかるリスクも十分考えられます。成功すれば、成果は独り占めですが、失敗すれば、その責任もすべて自分たちで負うことになります。

 そこで、皆と利益を分割して、たとえリターンが従来の例えば3分の1になったとしても、3~4倍のスピードで進めた方が、逆に言えば、同じ時間で従来はひとつしかできなかったものを3つも4つも得られるわけですし、成功する確率は高まるわけですね。そんなリスクヘッジ(リスク回避)の意味では、結果的には自分たちの大きな成果につながると思います。つまり、リスクを少しでも下げてスピードアップを図ることが、オープンイノベーションの大きなメリットのひとつです。

 また、企業は利益を追求する立場ですが、同時に、社会貢献も追求すべき立場にあります。そこでオープンイノベーションのもうひとつの機能として、先述の営利的な目的以外にも、いわゆるサステナビリティとして、如何に社会が必要とするものを早く提供するかという意味があると思います。次世代を考えた時、企業が競争したって、それで日本や地球が滅んでしまっては、何の意味もないですから。


サステナブルな社会を実現する化学へ

―それでは、次世代を担う若手は、どのような認識で社会に出る必要があると思いますか?それを次世代へのメッセージに代えてお願いします。

 広く言えば、自分たちは一人では生きていけないことを、しっかりと認識する必要があると思います。身近な友達や両親、まちの人だけでなく、アメリカにいる人も中国にいる人もアフリカにいる人も皆、同じ地球の上に住んでいて、地球の上にはカーテンをつくれませんから、大気や温度なども共有しています。その意味で、自分だけでは生きていけないこと、皆で生きていかなければいけないことを、若い人たちがわかってくれたらと思います。それをわかることは、相当大変なことだと思うのです。生命の大切さを感じると同時に、自分が生きていくためにはどうすればいいか、自分たち一人では生きていけないことを、わかってほしいです。

 「化学」という観点から言えば、これから地球を壊すのも救うのも化学でしょう。化学はこれから責任が重いと思います。歴史を振り返ると、化学は環境を壊してきたという一面もあります。これからは、むしろ環境を修復する化学や産業でなければいけないと私は思います。これからの若い人たちにはそれをやって欲しいですね。サステナブルな社会を実現するために化学も変わらなければいけないと思います。

 最近、美しい風景を見ると、「綺麗だな」と思うと同時に、「これ以上、壊してはいけない」と思うのです。私が以前、担当していた樹脂は、熱にも薬品にも強く、金属のように固くて、簡単につくれるものでした。お客様に「この樹脂は、こんな特徴がある、とても素晴らしい樹脂ですよ」と説明していましたが、最近は、それを自然に戻す技術まで考えてこそ、技術は完成したことになりますし、企業は責任を果たしたことになると思っています。なかなかそれを実行するのは難しいですが、子どもたちにつけを背負わすことは恥ずかしいことですので、是非とも成し遂げていきたいと思っています。

 他人を大切にする気持ちがなければ、動物と同等になってしまうと思うのです。そのもとは何かと言えば、「皆で生きていこう」という気持ち。化学をやる人間は、そのことを考えないと、当前ですが、ダメだと思うのです。

 それを率先して行うことが、化学企業の使命だと思います。産総研も、サステナビリティに関する研究をされていますから、その意味でも産総研と連携していく必要があると考えています。

―川島さん、ありがとうございました。

取材先: DIC株式会社     

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