(13338)
2017年 04月 29日 (土)

地球物理学ってなんだろう?/西村太志さん(東北大学 地球物理学専攻長)に聞く 取材・写真・文/大草芳江

2015年4月13日公開

物理で地球を探究、
将来予測で人類社会貢献も

西村 太志 NISHIMURA Takeshi
(東北大学 大学院 理学研究科 地球物理学専攻長)

1963年愛知県生まれ。1992年東北大学大学院理学研究科博士課程を修了、「噴火活動に伴う地震及び微動の発生機構に関する研究」で東北大学博士(理学)の学位取得。岩手山、磐梯山やアフリカのニイラゴンゴ・ニアムラギラ火山、諏訪之瀬島、スメル山(インドネシア)などの地震観測や測地観測を実施するとともに、火山性地震のデータ解析や理論的研究を進める。東北大学助手、ロスアラモス国立研究所客員研究員、アメリカ地質調査所文部省在外研究員、東北大学助教授を経て、2012年より現職。

一般的に「科学」と言うと、「客観的で完成された体系」というイメージが先行しがちである。 
しかしながら、それは科学の一部で、全体ではない。科学に関する様々な立場の「人」が
それぞれリアルに感じる科学を聞くことで、そもそも科学とは何かを探るインタビュー特集。

 わたしたちの地球を、物理学の手法を用いて研究する学問が、「地球物理学」だ。地球といっても、その研究フィールドは地球中心から惑星まで広がり、理学的探求だけでなく、社会貢献にもつながる学問であるという。そもそも地球物理学とは、どんな学問なのか、東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻長の西村太志さんに聞いた。

※本インタビュー取材をもとに東北大学地球物理学専攻HPを作成させていただきました


西村太志さん(東北大学 大学院 理学研究科 地球物理学専攻長)に聞く



■そもそも「地球物理学」とは?

―そもそも「地球物理学」とは、どのような学問ですか?

提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻

 「地球物理学」とは、「地球」に関わる様々な自然現象のしくみを「物理学」という基本的かつ強力なツールを用いて理解する学問です。その対象は地震や火山など地球内部で起こる現象から、気象や気候など身のまわりの大気・海洋に関わる現象、さらにはオーロラや惑星活動など地球を包む超高層・太陽系惑星空間で起こる現象まで、地球に関わるありとあらゆる物理現象が研究対象となります。

 これらの現象は多様な時間空間スケールで大きな変動と進化を繰り返す複雑系システムです。様々なパラメータが複雑に絡み合い一見すると理解が困難に思える現象も、物理学を用いて一つひとつの素過程を抽出することで、複雑系システムを解き明かすことが地球物理学の目的です。

 日々の研究活動は地道なものですが、時として自然は、私たちの想像をはるかに超えた、豊かな表情を見せてくれる瞬間があります。その姿を世界中の誰よりも最初に見たい―、そんな知的好奇心こそが、私たちを研究に駆り立てる大きな原動力です。

 同時に、地球物理学は、その知見を予測科学として応用できる点で社会とも深く関わる学問です。代表的なものとして、気象予報や、現在実現を目指している地震・火山噴火の予知、宇宙天気予報などがあります。自然現象のしくみをより深く理解したいという真理の探求に加え、その知を防災・減災科学や環境科学に応用することで社会に貢献する役割も地球物理学には期待されており、研究を進める強い動機となっています。


■フィールドは地球中心から惑星まで

―東北大学の地球物理学専攻では、どのような研究が行われていますか?

 東北大学理学部の地球物理学専攻では、研究対象の観点から、地震や火山などを扱う固体地球系(A領域)、気象・海洋などを扱う流体地球系(B領域)、オーロラや惑星などを扱う太陽惑星空間系(C領域)の3つの領域に大別されます。"観測重視"の伝統を受け継ぎながら、観測と理論の両輪で研究を進めています。地球物理学のフィールド(研究現場)は、地球全体です。雄大な自然界の営みを間近に感じながら、まさに"生きている"地球を実感しながら学問を進められることが魅力です。

提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻

【A領域】固体地球系
(keyword:地震・火山噴火の発生過程、固体地球の内部構造など)
 地震や火山噴火がどのように発生するかを解明することに加え、それを予測する研究を進めています。さらに、固体地球の内部構造を調べることで、地球の成り立ちや、地震や火山噴火の発生場を理解することを目指しています。陸域だけでなく海洋や活火山の火口近傍など極端環境下での観測とそのデータ解析に力点をおくと同時に、数値シミュレーションなどの理論的な研究も精力的に進めています。
・地震・火山学 (固体地球物理学講座)
・沈み込み帯物理学 (地震・噴火予知研究観測センター、災害科学国際研究所)

提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻

【B領域】流体地球系
(keyword:気象予測、気候変動、大気・海洋・陸面相互作用、雲、エアロゾルなど)
 大気・海洋・陸面間の相互作用を支配する素過程を解明するとともに、環境・気候変動予測のための支配メカニズムの定量的理解を、観測とモニタリング、既存データ解析、数値モデルをもとに、目指しています。地球温暖化や、東北地方のやませも研究対象です。世界の海洋の状況をセンサでリアルタイムに把握したり(アルゴ計画)、温室効果ガスを飛行機でサンプリングしたり、南極氷床による気候変動の復元なども行っています。
・気象学・大気力学 (流体地球物理学講座)
・海洋物理学 (地球環境物理学講座)
・物質循環学 ・気候物理学 ・衛星海洋学 (大気海洋変動観測研究センター)

提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻

【C領域】太陽惑星空間系
(keyword:宇宙・惑星プラズマ現象、惑星大気現象、オーロラなど)
 惑星・地球や太陽などの物理現象の解明を、光・電波観測機器の開発、それを用いた地上遠隔観測や飛翔体直接観測とデータ解析、数値シミュレーションに基づき、目指しています。国内観測所に加えて、ハワイ山頂、北欧、アラスカなどで活発に海外観測を行っています。また、JAXAと共同で探査機や衛星に観測機器を搭載しており、例えば、月周回衛星「かぐや」にレーダーを搭載し月の地質構造をとらえ解析する成果などを挙げています。
・宇宙地球電磁気学 ・惑星大気物理学分野 (太陽惑星空間物理学講座)
・惑星電波物理学分野 ・惑星分光物理学分野 (惑星プラズマ・大気物理学センター)


■学生の主体性と創造性を育む

―地球物理学専攻ならではの教育について、教えてください

 地球物理学専攻の各領域で研究対象や現象は異なりますが、基礎方程式は共通です。そのため、学部における教育は領域によらずほぼ一環して行われています。学部2年次前期までは理学部物理系の学生との共通講義で物理学の基礎を習得します。2年次後期からは、宇宙地球物理学科の地球物理学コースの学生として、地球と太陽系惑星システムに関する様々な教科を学びます。

地球物理学実験では学生自身が実験テーマや方法を創案する(提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

 ここでは特に、本専攻ならではのユニークな伝統講義「地球物理学実験」をご紹介しましょう。一般的な実験の講義は、机の上にテキストと様々な装置が用意され、テキスト通りに習うスタイルが多いですね。ところが地球物理学実験では、基礎的な装置が棚においてあるだけで、机の上には基本的に何もおいてありません。実験は学生たち自身で相談して、問題を設定するところから始まります。自ら装置を組み上げ、実験や観測をして、結果を出し、皆の前で成果を発表する、というのが大きな流れです。

地球物理学実験で実験装置を自作し測定系を組み立てる学生(提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

 実験は1年間で大きく3期に分かれています。最初は、基礎的な実験の素養を身につけるため、物理定数の測定を2、3名のグループ毎に行います。その後、エレクトロニクスの基礎技術を習得するなどして、最後に「電離圏のようすを知ろう」「地震を測ってみよう」など、地球物理学らしいテーマを設定して、実験を行います。小さなスケールで実験し、失敗したり成功したりして、試行錯誤をしながら、まずは自分たち自身で実験をしてみるのです。同時に、地震学や気象学、宇宙空間物理学といった基礎的な講義も受講し、地球物理学の知識を習得していきます。学生からも印象的な講義の一つとしてよく挙げられ、外部からも「学生の自主性や創造的活動を引き出す上で優れている」と評価されており、他大学も参考にしていると聞いています。

 地球物理学実験は、私の学生時代より前から続いています。それまでの川内での実験とは異なり、何もないところから始まったことに私も最初は驚きましたが、学生同士で相談しながら、身の丈に合ったことを自分たちで選びながら決めることは楽しかったですね。テキストもないので、「こんなことをやりたい」と思った時は、自分たちで教科書も探し、それを読みながら、自分たちで装置を組み立てる作業を、2ヶ月くらいかけて、じっくり取り組めました。大変楽しくて、夢中になったことを今でも覚えています。


■地球の活動を"実感"しませんか?

―今から進学や進級を決める若い世代に、メッセージをお願いします

提供:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻

 地球は、常に変化をしています。変化する相手に対して、人間から問いかけ、得られたデータをもとに、相手がどう動くかを観測し続けることは面白いことです。地球物理学はまだ百年ほどの歴史しかない学問ですが、研究の進歩とともにデータもどんどん蓄積され、それをもとに現在の地球が見せる姿から、過去や未来の姿を予測することができるようになってきました。これからさらに進歩し、人間生活と異なるタイムスケールの地球から新たなデータを得て、"生きている"地球の過去・現在・未来の姿を紐解いていく過程が面白いのです。皆さんもそんな地球の活動を、ぜひ"実感"してみませんか?

 また、若い世代の皆さんは、もし関心のあることを見つけたら、積極的にいろいろな本を読み、それを人に話してみてください。自分が関心を持っていることは、積極的に調べられるし、一生懸命考えることができます。また、自分が考える以上に多くの色々な人の知恵を吸収することができます。それによって、関心はどんどん膨らんで発展していくでしょう。

―西村さん、ありがとうございました

取材先: 東北大学      (タグ: , , ,

▲このページのトップHOME


コラボレーション

ハワイ惑星専用望遠鏡を核とした惑星プラズマ・大気変動研究の国際連携強化)×宮城の新聞
東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)×宮城の新聞
宮城の新聞×東北大学理学部物理系同窓会泉萩会
KDDI復興支援室×宮城の新聞インタビュー
宮城の新聞×東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 塚本研究室
宮城の新聞×生態適応グローバルCOE

おすすめ記事

【特集】宮城の研究施設

一般公開特集

【特集】仙台市総合計画審議会
参加レポート

仙台の10年をつくる

【科学】科学って、そもそもなんだろう?





【科学】カテゴリ の記事一覧

同じ取材先の記事

◆ 東北大学





取材先: 東北大学 の記事一覧


▲このページのトップHOME

科学って、そもそもなんだろう?
最新5件



カテゴリ


取材先一覧

■ 幼・小・中学校

■ 高校

■ 大学

■ 国・独立行政法人

■ 自治体

■ 一般企業・団体


宮城の新聞
仙台一高
宮城の塾
全県一学区制導入宮城県内公立高校合同説明会をレポ
宮城の人々