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2016年 06月 25日 (土)

新しい博士の誕生をお祝い:東北大学理学部物理(新博士インタビュー)

2012年3月21日公開

東北大学大学院理学研究科で開催された物理学専攻・新博士講演会のようす=東北大学青葉山キャンパス(仙台市)

 東北大学大学院理学研究科物理学専攻は先月、新しい博士の誕生をお祝いする会を同大の青葉山キャンパス(仙台市)で開いた。専攻賞を受賞した新博士3名による講演会も開かれ、教員や学生ら約50名が熱心に聞き入った。

 講演会では、ニュートリノ科学研究センターの渡辺寛子さんが「カムランドにおける反ニュートリノ信号の包括的研究」と題して講演。同大のニュートリノ検出器「カムランド」を用いた、原子炉ニュートリノと地球ニュートリノに関する研究成果を発表した。

新博士講演会のようす

 金属材料研究所の内田健一さんは「スピン流・熱流・格子ダイナミクス相互作用に関する研究」と題して講演。電子の電荷に加えてスピンの自由度も積極的に利用する「スピントロニクス」が注目を集める中、スピン流を生成する新たな手法を発見した研究について紹介した。

 物性理論グループの星野晋太郎さんは、「非クラマース配置を持つf電子系の近藤効果と秩序化」と題して、電子の遍歴と局在の間でのみ起こる新しい物理について、理論的に研究した成果を発表した。

専攻賞授与式のようす

 続いて専攻賞授与式が開かれ、博士課程後期から渡辺さん(総長賞推薦)・内田さん・星野さんの3名、博士課程前期では小野善将さん・加藤新一さん・松下ステファン悠さん・澤部宏輔さんの4名が選ばれ、石原照也専攻長より賞状と記念メダルが贈られた。

 石原専攻長は「自分の研究が全体の中でどのような位置づけにあるかを確認し、様々な人々との議論を通じて学問の幅を広げることは、今後何十年先の研究生活に大切なこと。新しい出会いの中で、これからも研究を発展させていただきたい」と話している。


新博士インタビュー

 大学院生はどんな研究をして、何を考えているのだろう?専攻賞を受賞した新博士3名に、研究内容や研究生活の思い出などをインタビューした。

◆渡辺寛子さん

博士論文題名:「カムランドにおける反ニュートリノ信号の包括的研究」
指導教官  :井上邦雄教授(ニュートリノ科学研究センター)

―このたびは総長賞の受賞おめでとうとざいます。まずは喜びの声を一言。

 研究を始めた当初は、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。実際に(カムランドに)行ってみると、地下の中に入らされたり、ヘルメットをかぶってトンネルの中に入らされたり(笑)。想像していた物理実験のイメージとはだいぶかけ離れていたのでどうなることかと思いましたが、5年間続けてきて良かったと思います。

―それでは研究内容についてご紹介ください。

 私は、「ニュートリノ」という粒子を使った研究を行なっています。東北大学は「カムランド」と名付けられた世界最大の液体シンチレータ検出器を岐阜県に持っており、私たちはそこで実験を行なっています。

 液体シンチレータとは、ニュートリノが来た時に光を発するものです。その光を検出することにより、ニュートリノが来たことや、ニュートリノの持つエネルギー、どんな性質のニュートリノなのか等を、24時間365日ずっと監視しています。

 ニュートリノはいろいろなところから飛んで来ますが、原子炉や地球の中心、さらには太陽からも飛んで来ます。そこで私の研究は、いろいろなところから飛んでくるニュートリノを研究してその性質を調べよう、というものでした。

―なぜ原子炉ニュートリノを?

 自然に発生したニュートリノは、いつどこから発生したかや、その性質等はわかりません。しかし原子炉の場合、原子炉の運転状況を知ることで、いつどこから発生したかや、その性質等が良くわかっているニュートリノを使って研究できるメリットがあります。

 今回、原子炉ニュートリノを使うことで、「ニュートリノが三世代で振動している」というモデルに対し、その振動をあらわすパラメータを精密に測定できたことが、まず一つ目の成果です。

―なぜ地球ニュートリノを?

 私たちは地球に住んでいますが、実は、地球の中心がどうなっているかや、地球内部が持つ熱がどのようになっているかは、あまりよくわかっていないのです。なぜかというと、地球中心まで穴を掘っていくわけにもいかず、調べる方法がとても難しいためです。

 けれどもニュートリノを使えば、ニュートリノは他のものとあまり反応せずに長距離を飛べる性質があるため、地球中心で発生したニュートリノがそのまま何とも反応せずに、発生した情報を持ったまま地上に飛んで来ます。ですから、地球中心で発生したニュートリノを地上で観測することで、地球内部のことがよくわかるのです。

 そこで我々は、地球内部を探るために、地球の中心から来る反ニュートリノを検出しました。地球内部で発生する熱のもととして、ウランやトリウム等の放射性物質があるのですが、今回の検出により、その放射線物質起源の熱がどれくらいかを、初めて実際の測定で示すことができたのです。

 もともと地球物理の分野では様々なモデルがありましたが、そのモデルを実際の測定で検証することは、先ほどお話したように、大変難しいことでした。ですから、ニュートリノを使うことで今回初めて、実際の測定結果を使って、モデルに対して制限を与えることができたことは、地球物理分野の人にとっては大変画期的な成果でした。

 2002年、ニュートリノ研究で小柴昌俊先生がノーベル物理賞を受賞しましたが、その時の記者会見で「ニュートリノ研究は何かの役に立つのですか?」という質問がありました。基礎研究は人間の生活に役立たないイメージをもたれがちですが、今回の地球ニュートリノ測定のように、ニュートリノ自体の性質を理解するだけでなく、地球の理解や人間の生活に役立つことにも応用し始められている時代に来ていると思います。今回の研究成果には、そのような意味があったと思います。

―それでは5年間の研究生活の中で、特に印象に残っていることは?

 本研究は、東北大学を主体とした国際的な実験ですから、世界の研究者と常に一緒に議論したり、自分の考えを発表したりする場面が何度もありました。学生の段階から、そのような世界的な立場で、様々な人と議論できたことは、とても役に立ったと思います。

 また今回の研究には直接関係ないのですが、昨年からカムランドでは、「二重ベータ崩壊探索実験」という新しい実験を立ち上げています。去年はその準備にカムランドのメンバー総出で取り掛かったほど大掛かりな研究で、その立ち上げに最初から携われたことは、研究者になる上でとても良い経験になったと思います。

―最後に、後輩へのメッセージをお願いします。

 やっぱり生きていると不思議に思うことはたくさんあります。その不思議だなと思うことに、最先端で直に触れられ、しかも自分の手で試行錯誤できることは、研究者ならではの醍醐味だと思います。

 私も最初は「自分にはそんな能力なんてない」と思っていたところもありました。けれども、やっているうちにどんどんおもしろくなり、努力と思わないくらい楽しい時期もあるものです。

 ですから皆さんも、あまり気負わず、自分がやりたいと思ったことをやってみると、いろいろ新しい発見があって良いと思います。

―渡辺さん、ありがとうございました。


◆内田健一さん

博士論文題目:「スピン流・熱流・格子ダイナミクス相互作用に関する研究」
指導教官  :齊藤英治教授(金属材料研究所)

―このたびは専攻賞の受賞おめでとうございます。まずは喜びの声を一言。

 専攻賞の受賞は非常に光栄ですし嬉しく思っています。けれどもここ半年間は個人的なことや雑務などでいろいろ忙しく、なかなか研究に割ける時間がなかったので、そんな中で博士論文を満足のいく形できちんと提出できたことに、まずは安心しています。

―それでは、研究内容についてご紹介ください。

 電子は、「電荷」という電気的な性質と、「スピン」と呼ばれる磁気の性質、二つの性質を持った素粒子です。従来のエレクトロニクスは電荷の自由度のみを使ってきましたが、最近はスピンの自由度も積極的に使っていく「スピントロニクス」という分野が注目を集めています。

 スピントロニクスは、「スピン流」と呼ばれる、電流のスピン版の現象で駆動されます。スピン流を用いることで、例えば、磁場を用いずに磁石の方向を反転させたり、情報処理ができるなど、いろいろな応用への期待がされています。しかし、このスピン流を生成するための方法が、今まではあまりありませんでした。

 本研究では、スピン流を生成するいろいろな手段を開拓しました。主に熱や振動を利用したスピン流の生成法を発見したことが成果です。

―4年間(飛び級)の研究生活の中で、特に印象に残っていることは?

 僕が齊藤研究室に入った当時、研究室にはまだ数人しかいなかったため、先輩もつかず、右も左もわからない状態で研究がスタートしました。けれども、それは逆に言えば、自分のやりたいことを好きにやれた環境でもありました。ある意味では、それがいろいろな発想の転換やブレイクスルーにつながり、研究を順調に進められた大きな要因となったと思います。

 また、日々の実験ももちろん重要ですが、大変思い出深いことがあります。修士2年の時、大きな国際会議の招待講演を受けました。普通の英語の講演すら経験がなかったのに、いきなり招待講演をやることになり、本当に大変でした。けれども逆にそれを乗り切ることで、英語もそれなりに上達したと思います。やはり負荷をかけて、壁を乗り切ることが重要だと思いました。

―最後に、後輩へメッセージをお願いします。

 自分がやりたいと思ったり、疑問に思ったことは、臆せず先生や先輩に積極的に議論を持ちかけていくことが、大事なことだと思います。

―ありがとうございました。

【参考】詳しくは、第1回日本学術振興会「育志賞」受賞:内田健一さんインタビュー記事をご覧ください。


◆星野晋太郎さん

博士論文題目:「非クラマース配置を持つ f 電子系の近藤効果と秩序化」
指導教官  :倉本義夫教授(物性理論グループ)

―このたびは専攻賞の受賞おめでとうございます。まずは喜びの声を一言。

 僕は賞を貰うのが今回初めてなので、そういう意味では大変感慨深いです。受賞は指導教官の倉本先生はじめ、今はドイツにいる助教の大槻先生のお力添えのおかげです。両先生からは手取り足取り教えていただきました。その延長線上に今回の受賞があったと思います。

―研究内容についてご紹介ください。

 まず対象とするのは「f電子」という電子です。これは「ランタノイド・アクチナイド」という、周期表から飛び出した2行の元素を持つ物質群です。f電子は、「局在性」が非常に強いという特徴があります。局在と言うとちょっとわかりづらいかもしれませんが、局在とは原子核のまわりに束縛されている状態のこと。つまり、f電子は、自分自身では動きにくいという性質がもともとあるのです。

 けれども、そこに固体の中を動きまわる「伝導電子」という文字通り伝導する電子がいて、その二種類の電子が絡み合うと、とてもおもしろいことが起こるのです。それ自体では動かない局在の性質を持つf電子が、伝導電子に引きづられて、動き出すこともあるのですね。このとき電子は有効的な質量が非常に大きくなり、「重い電子」と呼ばれています。

 このように、自分自身では動かないのですが、伝導電子に引っ張られて動き出すことを、我々は「遍歴の状態」と呼んでいます。結晶中を引きづられて動き回るf電子のことです。このように(f電子には)、遍歴と局在、二つの振舞いがあるのです。

 本研究の成果は、あるところの原子中のf電子を見ると止まっているのに、その隣を見ると動き出している、そんな遍歴と局在性を示す二種類のf電子が交互に並ぶ秩序を理論的に発見し、さらにそれが今まで謎であったPrFe4P12という物質の秩序とも対応していることを示した点にあります。

―5年間の研究生活の中で、特に印象に残っていることは?

 当初は「理論物理学者は紙と鉛筆だけで理論研究を行うんだ」という気持ちで研究室に入りました。けれども今は、計算機が非常に発達しているので、それを使うことで非常に効率良く研究ができるのだなと思ったことが、非常に印象的でした。

 最初は計算機を使う研究は、自分の思い描く理論物理学者のイメージと異なっていたため、戸惑ったのです。けれども、そもそもの目的は紙と鉛筆だけで計算することではなく、自然を解明することなんだ、目的に対して手段は何でも良いはずだ、という心境の変化があってからは、悩みもほとんどなく研究を進めることができました。

 そこからは数値計算(計算機)を始めて、「これは強力な手法だな」という実感を持ちながら研究を進めてきた感じです。

―最後に、後輩へのメッセージをお願いします。

 月並みで申し訳ないのですが、自分のやりたいことをやるのが良いと思います。自分で決めたことは後悔がないですし、人のせいにもできません。その分すべて自己責任ですから大変ではありますが、逆に充実度も人から言われてやった以上にあると思います。

 あとは、あまり考えすぎないで直感を信じるのも手かもしれないですね。考えてもわからないこともあるし、考えることと感じることはまた違うので、直感に任せて行動することも大事かもしれません。理屈だけで動いたり、感情だけで動かずに、両方バランスよく使い分けていくと、人生が充実するのではないか。これまで感じたことは、そんなところですね。

―ありがとうございました。

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