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2017年 08月 18日 (金)

岩崎俊一さん(東北工業大学理事長、東北大学名誉教授)に聞く:科学って、そもそもなんだろう? 取材・写真・文/大草芳江

2011年11月30日公開

科学は知を広げて新しい文化を生み、
技術はものづくりを通して社会を組織化して文明を築く

岩崎 俊一 Shun-ichi Iwasaki
(東北工業大学理事長、東北大学名誉教授)

 1926年福島市生まれ。1949年東北大学工学部通信工学科卒、東京通信工業(現ソニー)入社、51年東北大学電気通信研究所助手。同助教授、教授を経て86年同所長。89年東北工業大学学長、2004年から同理事長。東北大学名誉教授、文化功労者、日本学士院会員。

 「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします


インターネットによる情報化社会の実現に
重要な役割を果たした技術のひとつが、情報記録を担う
ハードディスク装置(HDD)の小型化・大容量化である。

ここ数年で、HDDの記録方式は、従来の「水平磁気記録」より
大容量化に有利な「垂直磁気記録」方式へ一気にシフトした。

この「垂直磁気記録方式」の開発で、高密度磁気記録技術
への貢献が高く評価され、2010年(第26回)日本国際賞(※)
を受賞したのが、東北工業大学理事長の岩崎俊一さんである。

「科学は知を広げて新しい文化を生み、
技術はものづくりを通して社会を組織化し文明を築く」と語る
岩崎さんが、リアルに感じる科学とはそもそも何かを聞いた。

※「日本国際賞」とは、「科学技術において、独創的・飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、人類の平和と繁栄に著しく貢献した」人に対して、国際科学技術財団が授与する賞。日本にもノーベル賞に匹敵するような賞が必要だとして、1985年に第1回の授与式が行われた。

<目次>
科学技術の真の目標は、社会が必要な時に役立つこと。
 かつ、人々の生活に不可欠な技術の発展を図ること。

真理を見つけるのが研究、それと同時に、その真理を実現する。
水平から垂直へ
「世界に勝つ」より「世界に貢献できるか」
概念だけでなく、ものをつくることが大事


東北工業大学理事長・東北大学名誉教授の岩崎俊一さんに聞く


科学技術の真の目標は、社会が必要な時に役立つこと。
 かつ、人々の生活に不可欠な技術の発展を図ること。

―岩崎先生がリアルに感じる、科学ってそもそもなんですか?

 僕は工学者だからね、科学だけでなく、科学と技術がある。科学は知を広げて新しい文化を生み、技術はものづくりを通して社会を組織化して文明を築く。人々は文明の中に生きている。科学は文化であり、技術は文明である。

―岩崎先生は、なぜそう思うようになったのですか?

 僕の研究の体験から言うと、僕はハードディスク(垂直磁気記録方式)の研究をした。30年前に研究を始めた頃、発想は新たな創造を目指した科学だった。しかし今は、広く普及して、技術になっている。

 技術は、多くの人に対する普遍性を持っていて、次の新しい発想の基板になっている。したがって、科学は技術の母であって、また技術は科学の父であるといえる。

 我々の日常の生活に直接影響を及ぼすのは、技術であり、科学ではない。だから、科学技術の真の目標は、社会が必要な時に役立つこと。かつ、人々の生活に不可欠な技術の発展を図ること。

 つまり、科学技術とは、科学だけではなく、それをもとにして人の生活に役立つものにする技術を含んでいるということだ。

―岩崎先生は、研究者として現役の頃から、そのようにお考えだったのでしょうか?

 いや、だんだんわかってきた。最初は工学だからね、役に立つことだけを考えていた。しかし、その前に科学があるな、と。だから科学を実現して、技術として人々の生活に役に立てるんだ、と。つまり、科学と技術はそんな関係にあると思っている。

―なぜ、だんだんそう思うようになったのでしょうか?

 それはね、僕の研究が今、とても社会の役に立っているから。例えばハードディスクが変わった。現在のハードディスクには、僕の発明(垂直磁気記録方式)が使われている。

 30年前のハードディスクはこんなに大きかったけど、今はこんなに小さくなって、メモリが桁違いに増えた(写真1)。2006年から一気に、世界中のハードディスクが、従来の水平磁気記録方式から、僕が発明した垂直磁気記録方式にシフトした(図1)。

【写真1】新旧ハードディスク装置の比較。左:現在(垂直磁気記録方式)は、重さ135g、メモリー量300GB、消費電力0.4W。右:1980年代(水平磁気記録方式)は、重さ35kg、メモリー量0.3GB、消費電力600W。

【図1】ハードディスク装置(HDD)の世界出荷台数と垂直磁気記録方式の割合の年次推移(2011年には約6億台と推定)


 そして実際に、いろいろなところで使われるようになった。データセンター(インターネット上の膨大な情報の多くを格納する大規模情報記録施設)、医療、出版・放送、レコーダー、モバイルなど。それは、今のIT文明をつくっているわけだ。

 そして今回、千年に1度の巨大津波が猛威を振るう映像を、インターネットで世界中の人々が見た。この映像は、津波の恐ろしさを直接体験した人々が撮ったものだ。

 そして津波の映像は、我々に様々な知見を与えてくれた。大きな速度で、膨大な水量だった。今までは頭の中で想像していた津波が、初めてこういうものだとわかった。それは今までになかったことだ。なぜかと言うと、インターネットに記録できる情報容量が増えたから。だから、皆が津波の映像を撮ることができた。

 今までの研究は皆、津波の痕跡だけを見ていただろう。けれども今度は違う。津波の映像(動画)を見て、その大きな破壊力、真っ黒な濁流、膨大な水量、といったことが初めてわかった。動的な研究への出発点になる。それは、このハードディスクのおかげなんだよ。

 だから、社会の中で必要なときに役に立たなきゃだめなんだな、科学技術というのは。そして、人々の生活に必要不可欠なものをつくるのだ。


真理を見つけるのが研究、それと同時に、その真理を実現する。

―岩崎先生は、30年前の段階で、この研究が社会に役立つことが予めわかっていたのですか?

 わかっていた。

―なぜ、わかったのですか?

 それは、それまでの研究から必然的にそうなるという自分の信念ができたと言える。ただ、世の中はそう簡単にはついてこなかった。しかし、約5年前からそうなった。世界中で、僕の発明が毎年何億台と生産されているのだよ。そういう仕事は、あまりないね。

―他の研究と比べて、何が違うのでしょうか?

 それは、応用ではなく実用だから。いわゆる応用と基礎と言うが、応用とは非常に軽い言葉だ。一方で実用とは、それがなければ困るということ。現在のインターネットの時代には、このハードディスクがなければ困るんだよ。だから、バッと使われた。

―岩崎先生は、30年前の段階で、このような形で社会に不可欠なものとなることが予めわかっていた、ということですか?

 磁気記録の仕組みをよく調べていったら、やはりそうなるべきだ、という真理は見つけた。そういう真理を見つけるのが研究の第一歩で、それと同時に、その真理に従ってものを実現する。つまり、皆に使ってもらう。

 だけど、こんなにものすごく使われるとは思っていなかったね。発明当時、これほどの情報化社会は想像できなかった。だから今になってみれば、ものすごく大事な研究だったんだと思う。

―「真理を見つける」ことも簡単なことではないと思いますが、さらに「その真理を実現する」、つまり「実用」まで持っていくまでには、また違った大変さがあるのではないかと思います。岩崎先生は、そこまですっと簡単に行けたものですか?

 いやぁ、いかない。だから、20数年もかかったんだ。PHP出版の『世界に勝てる、日本発の科学技術』(志村幸雄著)という本の中に、基礎研究から実用化までの期間の例が載っている。

 垂直磁気記録は実用化までに約30年、光触媒も約30年かかっている。それには、やっぱり基礎研究をやってから実用までには、いわゆる「死の谷」、すなわち「そんなもの、いらない」と言われる時期がある。「今までのもので十分間に合う。なぜそんなに難しいことやらなければいけないんだ?」と言われる時期がある。

―それでも岩崎先生が研究を続けてきた理由とは何ですか?

 それは、必ず役に立つものにしようという信念があったからだ。

―たまに弱気になることはなかったのですか?

 ない。そのうちに、皆がついてくるという確信があった。自分が真理に一番近いところにいると考えていたから。

―では、岩崎先生はどのようにして「死の谷」を乗り越えたのですか?

 そのためには、日本学術振興会で垂直磁気記録の研究委員会をつくり、いろいろなメーカーの人や他の大学の人と一緒に研究を進める研究体制を作った。

 外国の雑誌の発表論文数が少なくなった「死の谷」の時も、我々が行った合計9回の国際会議の発表論文数で補っている。こういう努力の結果、2007年末までに論文数は3500件。特許数は日本が930、アメリカは490も出て垂直磁気記録の技術が確立した。

 それをベースにして今、インターネットがこれほど発展し、東日本大震災の時に沢山の津波の映像が撮れた。垂直磁気記録方式の研究は、そのハードディスクの高度化に、間に合ったのだと言える。

 だからやっぱり、本当に社会に必要なことをやっていたんだなと改めて思う。それがライフワークだったんだ。津波の映像は100年後にも残る。最初はそこまでは想像していなかったが、自分の想像を超えて役に立っている。記録の研究者にとって本当の目標だったわけだ。


水平から垂直へ

―そもそも岩崎先生は、なぜ垂直磁気記録の研究を始めたのですか?

【写真2】1979年、茅誠司・元東大総長(左)、永井健三氏、岩崎俊一氏(右)

 この写真の真ん中の人が、僕の恩師・永井健三先生。永井先生は日本の磁気記録のパイオニアとして、いろいろな発明をされていて、とても有名な先生だったよ。僕は永井先生の仕事を継承したわけ。

 永井先生の哲学はね、工学とは「Money making(お金をつくること)」だって。僕も、最初は不思議だったけどね。お金をつくるということは、実際に実用することなんだね。実用にならないと、工学とは言えない。

 永井先生は、テープレコーダーなどといった実用のものを生み出した。僕も磁気記録の研究を続けていたら、永井先生の道とはちょっと違う、別の世界が開けた。永井先生の研究は、ピアノ線を長さの方向に記憶する、水平の記録。僕のは、ディスクの面に垂直に記録する。

―水平と垂直で何が違うのですか?

 水平と垂直で、構造から物性に変わった。水平は磁石の長さや厚さなど構造で決まるのだけど、垂直は原子の持っている磁気、少し詳しく言うと、スピンで直接決まるものに変わった。それで桁違いに容量が増える。容量を大きくするのが、必然だからね。

 今から話すのは、僕が「2010年(第26回)日本国際賞」を受賞した時の講演会でも話したモデルで、その講演会の内容はインターネットの動画でも見られる。

磁石を使って磁気記録の原理を説明する岩崎さん

 そもそも録音とは、こういうふうに磁石を並べて、外から加える磁力によって、磁石の向きを変えることで、信号を記録することができる。

 例えば、方向の変わった磁石が組になって、一つの正負の信号になる。NとN、あるいは、SとSが必ずつきあうように記録されるのが、今までの水平の記録。

水平磁気記録方式のモデルの説明

 その時には必ず、こういう反発力が起こる。記憶するということは、この反発力に逆らって、この磁石の向きが変わらないように、あるいは磁石の強さが弱まらないように記録していく。そういうものが磁気記録だという常識をもって考えていた。

 ところが、この磁石をどんどん細かくしていくと、反発力が非常に難しい作用をする。だから本来、水平の記録ではこういう記録を行うことで生じる反発力をなるべく少なくする方向にしたいけど、原理そのものがそうなっているので、できない。しかし、なるべく残る磁石が大きくなるよう努力してきたのが、これまでの歴史だった。

垂直磁気記録方式のモデルの説明

 それに対して、垂直型の記録は、異なった向きの磁石を磁性体の中で垂直に立てることで、お互いの反発力がなくなり吸引力が働く状態。すると、磁石が自然に凝集されていく。その自然の力を利用して高密度な記録を行えるのではないか、というのが垂直の発想。


―なぜ、そのようなことに気がついたのですか?


【図2】磁気テープ内部の磁化の様子

 それは、1975年頃のこと。実際に、磁気テープに入っている磁化のメカニズムを確認してみようと思った。それで結局、直接見たほうがよいのではないかと思い、高密度に記録した磁気テープの断面を観察した。

 するとわかったことは、今まで水平記録とは、横向きの磁化が残っていたはずだったのが、高密度になるにしたがって、実は渦を巻くようになる。渦の反発をもとに逆向きの渦になっている。これをよく見ると、中で閉じた渦は外に磁力線を出さず、したがって出力に寄与しない。

 それと、もう一つは、横向きに磁化したはずのものが、実は垂直の磁化成分を大きく持つ。高密度の記録では、垂直磁化が残るのが自然ということがわかった。

 先ほどの実験でもお話した通り、従来の水平記録では、NとN、あるいはSとSがつきあい、極めて不安定である。こういう風に、近づけると、どうしても反発しあって垂直方向に動く。それが自然と改めて考えた。

 それに対して、もし垂直磁化の記録ができれば、お互いに吸引力が働き、磁石は凝集する。これは高密度な記録に一番適しているのではないか、という大事な発見がなされた。

 その前は、「メタルテープ」という高性能な音の良いテープを30歳の頃に発明した。あなたたちのお父さんも使っていたと思う。けれども、そのあと磁気記録をよく調べてみたら、こういうことになった。それで、これは水平から垂直にしなければいけないと考え、研究が始まった。

―なるほど。それまでは、そもそも磁気記録に水平と垂直の方向があること自体、わかっていなったのですね。

 誰かが「縦にすればよい」というところから、始まったわけではない。誰からも「やってくれ」と言われていない。

 だから、最近になっていろいろな会社が垂直ハードディスクをつくり出したけど、「僕の発見でこのように小さくなりました」と、はっきりと言えるわけです。そういう研究はあまりないね。「どこかが足りないから始めた」という研究が多い。でも本当の研究というのは、そうではない。

 垂直記録という考えは、30年前は科学だった。それを実際に証明しなければいけない。証明するということは、ものをつくるということ。そうでなければ皆、納得しない。あまりにも大きな仕事だからね。納得させるための努力が、うんと必要だったわけだ。


「世界に勝つ」より「世界に貢献できるか」

―そもそもなぜ岩崎先生は工学を志したのですか?

 僕は昔、日本の国を守るために、1943年に海軍兵学校に入ったが、1945年に日本は米国に負けた。日本の海軍は、電波兵器が劣っていたために、米国の海軍に徹底的に負けた。だから僕は大学では通信工学を志して、永井先生のもとで学んだ。永井先生は日本の磁気記録のパイオニアだった。

―これまで私は様々な方にインタビュー取材をしていますが、戦前に生まれた方は特に、日本という国を意識され、日本が生きていくためにはどうあるべきかを根本にお考えになって研究をされていると感じています。岩崎先生もそのようなお気持ちですか?

 その通り。どうすれば皆が生きていけて、世界に貢献できるか。「世界に勝つ」と言うより「世界に貢献できるか」だ。

―「世界に勝つ」より「世界に貢献できるか」という発想になったのは、なぜですか?

 それはね、最初は負けないつもりでやった。しかし戦後の復興には、米国から随分、恩恵を受けた、ある意味でね。その恩返しをする。僕らが研究をちょうど始めた頃はね、欧米の国から「基礎研究ただ乗り」という批判が、日本の科学技術に対して、うんとあったんだ。

 1980年代、日本がどんどん発展していって、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」になった時の話だ。「日本は基礎研究をやらないで、応用ばかりやっている。だから米国の基礎研究にただ乗りしている」と、たくさん言われたんだよ。僕は悔しかった。

 それで、あんたたちにもただ乗りさせてやろう、そういう研究をやろう、と思った。米国にとっても、大きなビジネスになるような研究をしてあげよう。日本だけじゃなく、世界のために。だんだんそうなっていったんだな。

 研究というのは、give and takeだ。そういう対等な関係でないと、だめなんだという気持ちになった。そして今、その通りになった。世界中でつくられている。

―自然とそういう気持ちに変化するものですか?

 だんだん変わってくるものだよ、人間っていうのは。自然とだんだん気持ちが大きくなっていくんだな。皆のため、って。そして、それは研究の大きさそのものだ。水平を垂直にすることは本当に物理学の基本でしょう。それを一つの国が特許を出して独占するのはおかしい。

 だから僕は、水平を垂直にするという、基本的な最初の特許だけを取っている。それは30年も経っているから、特許は当然、有効ではなくなっている。そのあとで、会社は製品の研究をするために特許がいるでしょう?その時はそれぞれ特許を取りなさい、と言ってきた。

 僕が研究組織の委員長だったから、最初の基本的な考え方をはっきり出した。それ以後の特許は一切取らない。国立大学の研究とはそうあるべきだと思っている。

 そして今、テレビも全部薄型になって、皆このハードディスクが入っているんだよ。ハードディスクは年間6億台以上生産されている。ということは、1年300日と考えて、一日200万台つくるわけだ。それを、何十万という人が世界中でつくっている。

―岩崎先生は、「それまでの研究から必然的にそうなるという信念があった」と仰っていましたが、とは言え、実際に実用化されたのを見て、率直にどんな感想を抱きましたか?

 僕がこうやってテレビを見ているわけだ。自分の発明がちゃんと生活の中に入って、世の中の役に立った。不思議だな、と思うよ。前のメタルテープの時もそうだった。音のよいテープを、喜んで皆が使っていた。

 けれども本当に役立ったと思ったのが、今回の津波の映像だ。寺田寅彦という人が『津波と人間』の中で、「このような震災を防ぐには、忘れないように努力する以外にはない」と言っている。あの映像は、まさに津波の恐ろしさを忘れないようにする現代のロゼッタ・ストーンと言えるだろう。

―垂直磁気記録の発見から実用化まで約30年。もし、さらに時間がかかっていたら、岩崎先生は実用化される結果をご自身の目で見ることができなかったかもしれませんね。

 それはね、その他にも、ものごとは40年ごとに変わるという原則を発見しているんだよ(笑)。イノベーターというのは、いろいろなことを考えるんだね(笑)。

 一番最初のピアノ線磁気録音の発明から40年間経って、テープレコーダーができた。それは水平型だった。それからさらに40年経って、僕は垂直磁気型の発明をした。それは必然のこととして、当然そうなるという信念になった。

―将来、必ず実用化されると確信して、あとは時代がどうついてくるかを待っていた、という感じなのですか?

 そうそうそう。もう、待ち伏せしていたことになる(笑)。


概念だけでなく、ものをつくることが大事

―最後に、今までのお話を踏まえて、読者の中高生へメッセージをお願いします。

 今度の大震災で、世の中の成り立ちがよくわかった。お互いに助け合って生きていかなければならないということが。それが一番大切なことじゃないかな。今回の津波の映像を見て、大自然の厳しさ、恐ろしさがよくわかった。

 それともう一つ大切なことは、単なる概念だけではだめだ。先ほどお話したような、水平から垂直といった基本的なことを考えてハードディスクをつくった結果、後世に残る津波の映像を残すことになった。

 ただ言葉のみではなくて、そういう役に立つものをつくって、人々の生活を意義あるものにする。そういうことが、ものづくりの基本になる。非常にやり甲斐のある仕事じゃないかな。

 僕は、20数年も垂直磁気記録を研究してきた。もっと長く見れば、磁気記録の研究は1950年頃から60年間も研究しているわけだ。前半は水平型の研究をしていて、後半の30年近くは垂直型の研究をしたことになる。

 考えてみると、今度の津波の映像を撮れと神が命じたものらしい。ライフワークとは、そういうものだと思うね。だから、これほどがんばってきたんだな、と納得している。

 100年前の三陸津波ではとても撮れなかった映像が撮れて、後世に残せる。それはものすごく大事な仕事だった。ものづくりには、そういう役立ち方がある。

 あの津波の映像を見て、多くの人々は、自然の力の大きさや厳しさに比べ、人間の行為の小ささや思慮の浅さを改めて認識し、今、文明の岐路にあると感じているでしょう。だから世界中から日本へ真摯な同情と沢山の支援が寄せられたのだね。これまでに無いことだと思う。

 だから、本当の意味で大事な仕事だったんだなと、自分では思っている。

―最初は岩崎先生の頭の中で始まったことが、実際に現実の世界で様々な役立ち方をしているというのは、改めてよく考えてみると、とても不思議な感じがしますね。

 ははは(笑)。それはやっぱり、もとをただると科学なんだね。そして、世界まで影響させたのは、技術までもっていったからだ。最初の発見だけでは科学。けれども発見だけでは知識に過ぎない。それが実際にどれくらい人々の生活を支え、また考え方を変えているかが、最も大切なことだと思う。

 僕自身も非常に不思議な気になっている。最初はこれ(【図2】磁気テープ断面に生じる磁化模様)だったのだから。それが始まりで、ここまで来ている。

 それは役に立たせようとする意思がなければだめね。そして役に立つということは、永井先生が「Money making」と言ったように、皆がそれをつくって、それを生活に使う、ということなのじゃないかな。

―永井先生の「Money making」の意味が、最初はよくわからなかったけど、今はよくわかった、ということですね。

 うん。それがわかった。だから、ものづくりというのは大事なのだ。文化と文明の違いは、そこなんだ。ものをつくって初めて文明になる。

 僕はちょうど一週間前、奈良に行って平城京を見てきた。やっぱり沢山ものをつくっているから、歴史として後に残っている。

 ものがちゃんと残ることは、非常に大きなことだ。よいものをつくれば、皆が使っているから、後世に残る。これは本当の人生の目的にもなれる。

 さらに、ものをつくるというのは、人の気持ちを変え、行動を広めるところまで持っていくことができる。それが「文明」なんだよ。今回撮ることができた映像は、不思議な役の立ち方をしている。現代文明に対する人の気持ちを変える。

 そこまでは僕も考えていなかった。ただ便利になったなんていうのではなくてね。磁気記録という技術に、それほどの影響力があるとは思わなかった。

 だから、非常に大事な仕事だったのだな。本当にね、僕、不思議だなと思うんだな。わずかこんな絵(【図2】磁気テープ断面に生じる磁化模様)を見てね、それがこんな風になるなんて。自分でも不思議なんだよ。

 誰も垂直で変わったとは思っていないけど、実際はそのために生活が変わっている。僕が発明したなんてことを知らない人が皆、当たり前のように使っている。それが、技術の極限の目的だね。

―岩崎先生、どうもありがとうございました。

取材先: 東北工業大学     

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