心を科学する
今、私がやっている「心を科学する」というのは、
「主体性を相対化する」ということなんです。
主体性というのはね、
不思議だと思われているんですよ。
今のところはね。
―主体性が不思議とは、どういうことですか?
皆さんがやってきた今までの物理学は、
全部、原因があって結果がありますよね。
例えば、ニュートン方程式だと、
力があれば、これ動きますとか。
量子力学だと、ポテンシャルがあれば、
こういう波動ができますとか。
進化にしたって、進化する原因があって、
進化するんだからね。
全部、まず原因があるわけですよ。
でも、原因があって結果がある
(従来の科学の因果律)というのは、
ある意味で、受身だよね。
今までやってきたサイエンスって、
このあたりは全部、受身の科学でしょう?
一方、心の一番大事なところは、
自分が原因となって、動くところだと思うのね。
ではなぜ、自分が主体となって、
原因となれるのでしょう?
―外側から原因が与えられ、その結果として動くという受身ではなく、
自分が原因となって動く、というのが主体性ならば、
じゃあ、その原因はどこから来るのだろう?ということですか?
つまり、言葉だけで言うとね、
主体性というのは、
因果関係がないわけですよ。
だから、人間の行動は、
原因がわからないように見える。
わからないというより、今までは、
自分が主体となり、なぜ原因となれるのか、
サイエンスとして、あまりやれなかったの。
じゃあ、心が自由なのは、なぜですか?
心が健全でなくなったり、人に支配されると、
心が自由でなくなるのは、なぜですか?
ところで、あなたはどう思うの?
心は自由なの?
(ここでしばらく、沢田さんとのやりとりが続く)
自分が主体となり、なぜ原因となれるのか?
アインシュタインだって、
当時、不思議だと思われていたことを、
実は不思議ではなかった、と言った。
それが、一番大きな科学でしょう?
今、人間はこのあたりのこと
(アインシュタインなど科学者達の発見)は、
あまり不思議だと思っていなくて、
一方で、不思議だと思っていることが、
自分の心がなぜ自由なの?ということ。
それは、なんとく自分が、
世の中の主人公っていう感覚を
なぜ持てるか、という話なのね。
だって、自分が他の人と同じで、
自分の特徴は何もなくてね、
one of themと思ったって、
不思議じゃないでしょう?
例えば電子を並べたら、電子同士は、
「自分は、他の電子とは違う」
なんて、思わないでしょう。
それは原子でも、良いのだけどね。
細胞でも思わない場合が多いと思うの。
けれども人間は、自分が自由だ、
という感覚を持っているわけです。
人間は、自分というものを、
中心に考えることができる。
なぜ自分がある程度、自由だと思えるのか。
どうしてそういうことになるのですか?ということね。
それは教育のせいと言えば、そうかもしれないけど。
でも小さい頃からね、例えば、赤ちゃんでも、
わりと自分でしたがるよね。
自分がやりたいと思う気持ちとか、
意思や主体を感じるとか、
自分が自分と感じるとかね、
そういうことは、どうしてなんでしょう?
ということが、今までの科学ではかんがえなかった。
やってこなかったので、
それをサイエンスとしてはね、
ぜひやらなきゃいけない、
と思っているんです。
人間がわかれば、サイエンスというのは、
もう、だいたいわかるんですよ。
宇宙とかは、わかんないことも、
あるかもしれないけど。
少なくとも地球上に関しては、
主役だし、一番複雑だし。
だいたい他は、わかったじゃない?
電磁気学、量子力学、熱力学、
それ以外にあるとは思えないね。
その3つを以ってしても、
人間の意思とか、そういうのは
解明できるとは思わない。
心を相対化する
―なぜ解明できないと思うのですか?
だって全部、受身の方程式だから。
いわゆる従来の物理学は、もともと
心に対しては対象だと思っていないわけ。
それで、解明する手段はないと思う人が多い。
でも、僕はそうじゃくて、
それもサイエンスの一部の現象だと思ってる。
さっき、大草さん(インタビュー聞き手)、
(主体性について)いろいろ言っていたけど、
わかるようで、あまりすっきりしていない。
僕はもっと、すっきりする表現があると思って、
そういうの、「心の相対化」って言っているの。
心って言ったって、不思議なことは
別にありませんよ、と言いたいわけ。
ガリレオもダーウィンもアインシュタインも皆、
いろいろな不思議なことがあるけど、
そんなの不思議じゃないよって、言ったの。
ガリレオが木星を発見した年が400年前、
ダーウィンが生まれた年が200年前、
アインシュタインの年が100年前。
たまたまガリレオの年がぴたっと
400年前だから、僕は非常に、
そのことを強く感じているんだけどね。
400年、200年、100年って、
大事な発見って、だんだん短くなっている。
そして、これ以上、行かないの。
―なぜ、これ以上、行かないのですか?
等比級数でしょう?
だから、1+1/2+1/4+1/8・・・
全部足し算したら、どこかで止まるでしょう?
2になっちゃうんだよ。
だから、ここで終わりなんですよ(笑)
基本的な物理が、解明すべき問題は何もなくなってしまう。
で、仮に僕がそう言ったら、
誰か反論する人がいますか?
反論して欲しいのだけど。
実は、そういうことは、
等間隔で発見されていますよ、
って言う人がいるかもしれない。
まぁね、あまりこれを言うと、
「歳を取ると必ずそういうことを言い出す」とか
「歴史とかいって、自分が最後だとか言い出す」って、
言われるのだけどね(笑)
科学の歴史は、相対化の歴史
つまり、大事なことはね、
科学の歴史というのは、
相対化の歴史だというところ。
それまでは、地球の上の天体は、
神の思し召しだって言っていたわけ。
でも、(ガリレオが)それは全然違う、
たいしたことない、と言った。
人間というものも、(ダーウィンが)
サルと一緒だ、たいしたことない、
って言ったでしょう。
これ、「相対化」ですよね。
特別なことは、何もないということが。
そして、相対化が進んで、
最後に相対化しないといけないのは、
人間の心。「主体性を相対化する」ことです。
自分が特別だと、人間はなぜ思うのか。
皆、自分が特別だと思っているんですよ。
特別だと思うのは、事実だからしょうがない。
人間はなぜ、そういう風に思うようになったのか、
ということを科学的に解明した、ということ。
それを、当然ですね、って言ったの。
科学で言うと、そうなりますよね、
相対化すると、そうなりますよねって。
―具体的には、物理でどのように記述するのですか?
これは一種の制御理論なのだけど、
制御理論のパラメータを動かすと、
主体性というものが出てきますよ、って話。
ま、でも、たいしたことない。
さっき、あなたが言っていることと、
そんなに変わらないよ。
要するに、コア(内部世界)があってね、
それから外界を予測するとき、内部時計は、
物理時計より速いことが実験でわかった。
内部世界の指令を受ける運動が外部世界に先行する。
まわりより先に動くんですね。
時計が早く動くの。頭の中で。
そうすると、まわりに比べて、
自分が先行している。
それが主体性の原因だ、
って言っているようなものだね。
アインシュタインが、
時計は慣性座標系を持ってくると、
全部、時計は違いますよと言ったのと、
似ていると言えば、似てる。
人によって全然違う時計が、
自分の頭の中にあって、その動き方が、
物理時計とは違う、ということ。
なぜ心って「生き生きしている」の?
まぁ、要するにね、
「生き生きしている」というものが
人間の一番の条件だと思っているから、
ずっと最初から、つながっているんですよ。
「生き生きしている」っていう筋で言うと。
カオスやフラクタルといった
生物じゃない現象の「生き生きしている」から、
細胞をばらばらにしてもとにもどる、
といった下等動物の形態形成の話へ。
でも人間の「生き生きしている」って、
そうじゃないでしょう。心の問題でしょう。
それで、人間の心が「生き生きしている」
っていうことまで。
なぜ心って「生き生きしている」の?
って言っているようなもんだね。
というわけで、「生き生きしている」
というのを、シリーズでやってきました。
―生命というのは「生き生きしている」ものだという概念が
沢田さんの中に中軸として、ずっとあるのですね。
やっぱり主体性が、
人間の一番大事なところだから。
従来の物理は、
もう、ほとんどわかっていることだし。
物理学的に見てわかりにくいのは、そのへん。
悲しいとか嬉しいとかいうのは、概念的に困難があるわけではない。
でも最初から、最後まで見通していた
わけじゃないですよ。
わかりやすいところからやっていったの。
でも、雪の結晶も、
すごく「生き生きしている」んだから。
あれ見たら、すごくびっくりするよ。
一生をかける、価値がある。
僕はいつでも僕だから
―最後にメッセージをお願いします。
仮に、中高生の沢田さんがここにいて、
一言何かを言うとしたら、何と言いますか?
という共通質問を、メッセージに変えさせていただいてます。
僕自身はここにいてね、人生、後悔していないの。
言うとしたら、「ようやったね」とか、そんなこと。
でも、不思議な質問だね。
そんなの、ありえないなぁ・・・。
架空のコンセプトとして、メッセージは出せない。
コミュニケーションあっての、メッセージだから。
僕はここにいて、そこに僕はいないもん。
僕はいつでも僕だから。
―自分の目で見たリアルなものを対象にして新しい科学をつくる、
科学者としての沢田さんのスタンスを改めて感じました。
沢田さん、本日はどうもありがとうございました。
コラボレーション
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