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2017年 06月 27日 (火)

日本は各分野の最先端を行っている、けれどもイノベーションは出ていない



日本は各分野の最先端を行っている、けれどもイノベーションは出ていない

 僕は思うのだけどね。日本では、今のサイエンスが発展するまでに、まだ100年くらいしか経っていないんですよね。そこは僕は良く知らないけれども、少なくとも今の西洋風の natural science(自然科学)なんて、開国するまで日本になかったわけですよ。

 けれども、たった100年の間に、日本人は18人(※)のノーベル賞をもらった。もちろん皆もらったのは戦後なのだけど、欧米の人なんかはね、「たった100年のうちに、こんなにたくさんの人がノーベル賞をとる日本って、一体どういう国だ?」と興味の目で見ているの。日本人はあまり、そんなことは言わないけどね。

 ※日本のノーベル賞受賞者数は、南部氏を含め18人(医学生理学賞1、物理学賞7、化学賞7、文学賞2、平和賞1)

 だから、「どれだけ我々が優秀か」と言うのは語弊があるけれども、そういう意味で良くやったというか。今後も文科省が言っているような何年間で何とかって(いう目標)、僕、あれ達成されるのではないかと思うんです。

 ただね、ノーベル賞ばかり思っていたら駄目なのは、ノーベル賞ばかり多くとっても、国が廃れる例はあるんですね。イギリスなんかも、ノーベル賞受賞者は多いけれども、その割に国は少し下降線を辿っているところがあるからね。

 つまり、それはバランスだと思うんですよ。curiosity driven ばかりやっていたら、それは basic science(基礎科学)では成功しても、国の繁栄は意外と進まなかった、と。そこが難しいところだし、だからこそ僕は、両方が必要だと言っているわけです。

 その例として、今の日本で言われているのは、こういうことですよ。「日本は各々の狭い分野では最先端を行っている。だからノーベル賞が出ているのだ」と。どの分野でも既存の学術領域の最先端を、けっこう行ってるのですよ。成功しているわけです。

 ところが日本の欠点としては、「日本からはとんでもないイノベーションは出ていない」と。それは現実には、ほとんどアメリカから来ている。インターネットシステムやgoogle、カードシステムなんて、日本から出ていないわけです。

 国の繁栄や経済発展は、イノベーションに関わっています。だから今はね、大学人が各分野の最先端を行くのは、もちろん重要。けれども日本ではなぜイノベーションが出ないのか。これを変えなければいけないと思います。


横の知識を勉強させるような教育システムになっていない

―山本さんは、その理由をどのように考えていますか?

 僕は、それは教育システムだと思っています。あなたも受けた、僕も受けた、今の人たちも受けている、教育システムだと僕は思っているんですよ。

 それは多分、初等教育は、僕は間違っていないと思います。だって、だからこそ各々の領域の最先端に皆が行けるようになっているわけだから。

 だから、もうちょっと高等教育になった時、とんでもない横の知識を勉強させるようなシステムになっていないんですよ、日本は。大学院に行ってもね、学部と同じことしかやらない。

 僕が大学院に行って思ったことは、「え?!なんだこれは?これだったらまだ学部4年生までの方が、よく勉強しているじゃないか。大学院に行って、もっと素晴らしいことをやると思ったら、なんだまた繰り返しか」って。

 それで結局ね、「他の分野は知らん」となっている。僕が今から30年くらい前に思ったのは、そういうことですよ。今でも多分そうだと思います。

 そこが結局、違うわけですよ。せっかくある程度基礎を習った上でね、横のこともやればできるような、23・24歳(大学院生)の年代に、今までやってきたことを深くやることしかやらないんだもん、日本の大学では。そこが僕、問題だと思います。

 自分のところだけを深く深く深く、それは最先端には行きますよ。けれどもイノベーションというと、横のものを見てて、それを自分に取り込むとか、自分の持っているもので相手方へ攻め入るとか。何かとんでもないことをやらないと、あるいはとんでもない発想をしないと、そういう革新的なことは出ていないですね。

 もちろん今まで存在するdiscipline(学問領域)での改革・進展は進みますよ。例えばこのパソコンを、もっと小さく、もっときれいに、もっと使いやすくした。そういうものは、どんどん進化すると思います。

 でも、「あれ?こんなの今までなかったな」というのは、日本から出てないじゃないですか。そうでしょう?だから、それをやっぱり出したところが、それこそが国の発展に結び付くような気がしますね。

 そこが、次の世代に残された問題じゃないかと僕は思います。それこそが、画期的で今までに全くないようなアイディアや技術革新といったことが起こる素地ではないかなと思いますよ。


けれども、変わるって、なかなか難しい

―では、大学院の教育課程が、特定の専門分野だけを深めるだけでなく、横のこともやるような制度になったら、日本からもイノベーションは出てきますか?

 僕は絶対にね、そのあたりの制度を根本的に変えなければいけないと思います。例えば学部3・4年生や大学院が、昔から言われていることだけど、結局、徒弟制度みたいになっているんですよね。

 いわゆる伝統芸能とは言わないけど、それを継いで、そこを深く深くするには良い制度だし、それはそれで素晴らしいことだと思います。ただ望むらくは、とんでもないことが出てきたら、もっと良いかな、と。

 例えば、江戸時代に剣の修業をして、その道を究める。けれども剣が幾らうまくなっても、とんでもない敵が出てきたら、太刀打ちできないじゃないですか。だから、やっぱりそれは今の教育制度をある程度変えれば、もっと可能性があるのではないかと思うのです。

 やっぱり社会というのは、変わるから。それに対応していかざるを得ないし、うまく対応していった人が、やっぱり成功する、と言いますか。だから、それはそこで対応せざるを得ないということじゃないですか。

 うーん...。でもね、変わるって、なかなか難しいよなぁ。いろいろなことがあるから、そう簡単には今の制度を変えろと言ったって、それで困った人が出てくるというか、抵抗勢力があるからね(笑)

 それはそうなの。だって、変えるということはね、必ずそれを望まない人が出てくるわけだから。今そこで安泰な人はね、そんなの望まないもん。そうでしょう?だから、それはものすごくinertia(慣性)かかるよ。

 だから、何かの時にそういう風に変えていくと言うかな。社会が大きく変わった時は、やっぱりそういうチャンスなんですよね。日本だって、そういうチャンスが今まで2度か3度くらいあったのではないですか、明治時代とか。そういう時に、やっぱり大きく変わっている。

 この頃は安泰だからあまり変わっていないけど、ちょっとずつは変わっています。でも非常に画期的な変化ではないよな。ま、大学もだから、努力していますよね。そういう意味で変わるように。


とは言え、最初は好奇心から

 とは言え、こういう若い子どもさん達にはね、まずはやっぱり興味を持ってもらわないといけないですね。最初から工学的なことを言ったって、そりゃ興味を持たないよ。

 ある程度、社会のことがわかってから「これは経済的な話が重要だ」と、こっち(目的志向)の重要性がわかるけど。子どもって、やっぱり「なぜ?」「どうして?」というところだから、initiation(入口)は curiosityから入った方が良いと思いますね。

 まずは興味を持ってもらって、だんだん大きくなった時、「やれやれ社会を動かしているのは、いろいろなfactor(要素)があって複雑だ。単なるcuriosityだけではなぁ...」と思う人は、そっちに行けば良いのであってね。最初はやっぱり興味を持ってもらわないとね。

 今は僕、偉そうなことを言っているけれども、自分の子供の頃を考えたら、そんな話なんて何もない。単にぽけーっとしていて、受動的に大学へ行ってね。そんな深く考えてやっている人って少ないし、もし最初から考えていたら、もっと偉くなっていたかもな(笑)。けれどもそんな人はいないよ。

 子どもの頃は、「なんでだろう?」「どうして?」と思うけれども、それにどんな意味があるかとか、考えないじゃない。単におもしろいからやる、という話だけどな。だから、まずは小学生や中学生の人なんかには、そういう興味を持ってもらわないといけないですね。


なんとなく自分の肌に合う

―山本さんが子どもの頃は、いかがでしたか?

 「子どもの頃から、これがおもしろかったから」という話がよくあるけれども、僕ね、サイエンスで特におもしろかったところはないですね。何となくのほほんと過ごして、理科系にしますか・文科系にしますかくらいは考えたけどな。

―いつの間にかここにいた、みたいな感じですか?

 そうだね(笑)。やっぱり最初に考えたのは、大学に入ってからじゃないですかね。大学に入る時だって、何か別にこの分野っていうようなあれはなかったですよ。理科系に行きますかって、そんな感じ。

―では、「大学に入ってから」は?

 いや、まぁ考えたと言うか、なんとなく自分の肌に合うっていうか、好き嫌いと言いますか。

―フィーリングと言うか、「こっちよりもこっちの方が合うな」といった感じですか?

 まぁ、こんなこと言うと怒られちまうけど(笑)、数学の成績は良かったけれども、あまり数式使ってごちゃごちゃやるのは、ちょっと俺には向いてないかなって。

 「でも俺って、本当にこれ合っているかな?」「いやいや、アバウトな方が合っているんじゃないかな」って、そんな感じですよ。それで、なんとなく化学の方が良いんじゃないかなと。ですから「こっちが好きで好きで」という感じではないです。

―現にそうやって研究者としての道に進まれたわけですが、実際には合っていましたか?

 いや、何とも言えないね。どれがベストフィットなのかとは。ま、そりゃ悪くはなかったけど。

―途中で肌触りが悪くなったとか、それはなかったのですか?

 それはなかったですけどね。最初からそんな合っている人っていますかね?どうですか?そういう人もいるかもしれないけどね。僕はもっとアバウトな感じで「いいな」という感じ。人いろいろですよ。

 まぁ何やっても、大体そこそこまで行くのではないですかね。分野選択は、やっぱり重要ですけどね。そこが全然合ってなかったら困るし、それを逆に言うと、ある程度そこに入ったらまぁ何とかやっていけるという感じかな。


良い人につくことが重要

 うーん...自分はそんなんだけど、やっぱり人が重要ですよね。どういう人の輪の中に入っていくか。そこにラッキーさと言うか何かがあるよな。例えば、大学でどこの研究室に入りますか?という話、結構重要だと思うよね。そこでうまく合えばいいし、合わなかったらあれだし。

―「肌に合う・合わない」と先ほど仰っていましたが、そこには人という要素が大きいということですか?

 そうそう。分野もあるし、人もあるね。その後だって、例えば若い研究者が「外国に行きたい」「どこかの助教授になりたい」時も、人と人とのつながりは結構重要ですよね。それは自分が意図しないまでも、後から考えてみたらやっぱりそういうこと。

 例えば、仮に親が学者で子どもが学者になろうとした時、「お前、あそこの大先生はすごいから、あそこについておけ」という話、よくあるじゃないですか。あれって、ある程度は当たっていると思います。

 そういうsuggestion(提案)をされてうまく行く人もいるだろうし、そういうsuggestion がなかったら、自分でやるしかないし。何でも人って、やっぱり重要だと思いますよ。

 逆に言えば、それが若い人の能力でもあるんだよな。やっぱり良い人につかないといけない。何でもそうですよ。ゴルフや野球だってね、やっぱり良いプロについて基礎をちゃんとやったら、ある程度は行くだろうしね。研究者でも、やっぱり良い人につくことが重要だよね。

―では、そもそも「良い人」とは?

 「良い師匠」という意味は、何も面倒見が良いとか、その人の言いなりになれば良いポストを見つけてくれるとか、そういう意味の良い師匠ではなくってね。

 やっぱり研究の姿勢とか攻め方とか。それから、どういうことをやったら重要で、自分の立場を明確にできるかとか。そういった非常に基本的なことを、そういう人から学ぶのだと思うんだよ。実はそういうことがすごく重要だ、ということなのですね。

 だってね、そこらに書いている知識なんて勉強したら頭に入るじゃない。ある程度のレベル以上の人は皆、それは一緒だと思うの。じゃあ後は何が違うのかと言ったら、やっぱり限られた能力をどのように注力したら、一番良い結果が出て問題が解決できるかとか。それから、どのように攻めれば良いかとかね。良い人についたら、それは見えますよね。


洞察力が重要

―山本さんは先生からそのようなことを学んだのですね。

 そうですね。僕が大学の時についた先生はね、ちゃらんぽらんな人だったけど、人の心をつかむのがうまかったですね。何人かを束ねて組織をつくって、うまくその方向へ導いたり。あぁ、こういう風にやるのかって、その時は思いましたね。

 その人はその後、途中から(大学を)やめて、ある大会社の副社長になったよ。やっぱりね、人生60年、70年やっているとね、うまく社会にフィットするようになっているんだよなぁ。

 そして、学問的に教わったのは、やっぱりアメリカの先生ですね。その人から、さっき話したような研究の姿勢や攻め方などを学んだのです。

 どんな分野でもそうですが、時間も金も皆、無限大に持っているわけではないですから。与えられたboundary condition(境界条件)の中でベストの攻め方をしないと、なかなか良いものが出てこないわけです。誰だって時間と金をかければ、良いものは出てくるのだから。

 だからこそ「洞察力」が重要なのですよ。それは別に研究だけじゃなくて、何でもそう。「これはここだ」と見抜いて、そこに注力して成功するわけです。そのようなことは、いろいろありますよ。やっぱり人によって違うのではないかな。ほかにも緻密なものの考え方とかね。

 僕が幸せだったのは、doctor(博士号)を取ってすぐにアメリカに行った時、いろいろ教わったわけです。それで「あぁ、こういう風にやるのか。俺は日本でmaster(修士課程)とdoctor(博士課程)の5年間、無駄飯食っていたな」って。いやいや無駄飯じゃないけど(笑)。日本的なものは学んだけどね。けれども、そんなの当時の日本の先生は教えてくれなかったよ。

―日本とアメリカ、どう違うのですか?

 そりゃ違うよ。その先生は、ハーバード・C・ブラウンさん。日本人2人(鈴木章氏、根岸英一氏)が今年ノーベル賞をもらったところの親分です。彼らよりちょっと後、あるいはオーバーラップした時に、僕はそこへ行ったの。やっぱり、研究の進め方が違いましたね。


次へ アメリカでは、いろいろな分野を各々深く勉強する



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