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2024年 04月 20日 (土)

電子工学者に聞く:畠山力三さんインタビュー(東北大教授) 取材・写真・文/大草芳江

2009年4月21日

宇宙からナノまで究める「プラズマ」

畠山 力三 Rikizo HATAKEYAMA (東北大学大学院工学研究科教授)

東北大学大学院工学研究科(電子工学専攻)教授、工学博士。秋田県出身。1976年東北大学大学院工学研究科( 電子工学専攻)博士課程修了。同年東北大学大学院工学研究科助手,1984年同助教授,1997年より現職。主な研究分野はプラズマ科学の基礎と応用。著書に"Nano and MolecularElectronics Handbook"(CRC Press ),"New Aspects of Plasma Physics"(WorldScientific)がある。

 「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー 
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします 

ナノテクノロジー・材料、環境・エネルギー、
ライフサイエンス、宇宙天体環境、情報通信。

これら21世紀の重点的研究と目される分野の学問的基盤として
根幹的に関わっているのが「プラズマ」である。

電子工学者の畠山力三さんは、時間・空間での普遍性を求め、
微細なナノ(※)スケールから、広大な宇宙スケールまで、
未知の領域・未来科学技術開拓の担い手である「プラズマ」を究める。

※ナノ=10億分の1メートル


電子工学者の畠山力三さん(東北大教授)に聞く

―畠山さんは、学部時代からずっと東北大学工学部の電気系ですね。
 東北大学工学部の電気系を選ばれたのに、何か理由はあるのですか?

私は、秋田県の中でも田舎の出身なのですが、
中学生の頃、PTA会長でお医者さんだった知り合いの方から、
「東北大学は素晴らしい大学だ」と言われて、それがずっと耳に残っていました。

だんだん東北大学を意識してきた高校生くらいになりますと、
東北大学の電気系が、当時、非常に有名だということがわかってきました。

日本で一番素晴らしい成果をあげた実績や伝統がある、世界に誇れる電気系だ、
と受験雑誌にも書いてありましたし、特に、電子工学に興味があったんです。

今でこそエレクトロニクス(電子工学)の日本になりましたが、
当時、まだ世の中にはそれほど普及はしていなくて、今からの学問でした。

当時、電子工学は非常にキラキラした名前で、
夢いっぱいの憧れ的な雰囲気があったのですよ。
だから自分もやってみたいな、と思ったのです。

わたしが感じたその当時、医学部と電子工学を比べてみると、
例えば医学は、いつの時代でも重要だから、
人々が興味や夢をもつ職業だと思うけれども、
電子工学はまさに新しい未来と時代をつくるという意味で、またそれとは違った、
非常に新鮮な夢をかきたてる学問領域だったのですよ。
そのことは今でも変わらないと思っていますね。

それで、東北大の電子工学に入ったわけです。

―畠山さんの研究テーマは「プラズマ」と聞いておりますが、
 当時からプラズマを研究されていたのですか?プラズマを選んだ理由は?

その当時の電子工学では、プラズマは主流ではありませんでした。

電子工学といえば、半導体工学、あるいは計算機の基になる研究などが、
どちらかといえば主流でしたね。

少し時代はもどりますが、昭和20年代のはじめ、私が生まれる前の話ですが、
渡辺寧教授という有名な先生が、放電工学と真空管工学をまとめた部分と、
これからは半導体工学、トランジスタが大事になるだろうという部分に目を付けて、
日本で最初にそういうことをやろうとしていました。

その当時の電子工学では、真空管が中心の時代でした。
真空管工学と放電工学はやや近いのですよ。
ふたつ足してひとつ、みたいなところがありましてね。

それで、私の先生となる八田吉典先生は、
たまたま西澤潤一先生の兄弟子だったのですね。

渡辺先生は、弟弟子である西澤先生には半導体工学、トランジスタの研究をさせて、
兄弟子である八田先生には放電工学を研究させました。
その放電工学が、いずれプラズマ物理工学の基となるのです。

その後、西澤先生は独立していき、
八田先生は、渡辺先生の跡の研究室を継いで、
今のプラズマのはじまりをやったわけです。

そこで私は、その当時の主流で、非常に期待されている半導体よりも、
プラズマは世の中に知られていないし、また良く分からないが、
何か神秘的で将来に広がりがありそうなので、
プラズマの方が自分に合っている、いろいろ楽しそうなことがありそうだ、と思ったのです。

―未知の領域が広いからこそ、畠山さんは惹かれたわけですね。

そうですね。
私が大学に来た頃は、半導体を誰もがやりたがりました。
先ほどの話は、私が生まれる前の話だからね。

それで私は、まだたくさんの人がやっていない
プラズマの方が良いのではと思ったわけです。

はじめ研究をした当時、半導体工学もプラズマ物理工学も、
意外と似たようなところがあったのですよ。

ある部分、メカニズムの一部が、重なっている。ちょっと関係があるの。
だからこそ、渡辺先生はその2つをやっていこうとしたのではないですかね。

それから何十年たった今から見ると、それが全くその通りで、
プラズマというのは、半導体工学を支えるための重要な道具だったのですね。

例えば、トランジスタを狭いところにいっぱい詰め込む微細加工技術は、
プラズマを使ってやるんです。

―では、そもそもプラズマとは、どのようなものなのですか?

固体を加熱すると、原子や分子をつないでいる鎖の一部が切れて、液体になりますね。
さらに加熱すると、原子や分子のみで動く気体になります。
さらに加熱すると、原子が正イオンと電子に分かれます。この状態を「プラズマ」と呼びます。

つまり、プラスの電気の粒とマイナスの電気の粒が、同じ数ずつ存在している状態でして、
プラズマは、固体・液体・気体に続く、物質の第4状態とも言われています。


<図1>プラズマは、固体・液体・気体に続く、物質の第4状態とも言われている。


プラズマは非常に範囲が広くて、いろいろなことに使えます。
それを大きく以下の4つに分けて、我々は研究しています。

①宇宙天体環境に関わるもの
②新しいエネルギーに関わるもの
③生命医療に関わるもの
④ナノスケールの新しい物質材料に関わるもの

①宇宙天体環境に関わるもの

宇宙で知られている物質の99.9999%くらいは、プラズマ状態です。
逆に言えば、地球の方が例外で、プラズマ状態になっていないのです。

もしも地球環境がプラズマ状態だったら、電気が多くて大変なのですが、
ここでは幸いなことに、ほとんどプラズマ状態になっているものはありません。
だからこそ、こうやって生命が暮らしていけるわけですね。

ですから宇宙に行けばいくほど、プラズマが関わってきます。

例えば「太陽風」が、地球に向かって吹いてきますね。
その太陽の風は、ただの風じゃなくて、プラズマなのです。

普通の風は、電気を持たない中性の空気みたいな分子が流れてくるだけですが、
太陽風は、プラスの電気を持ったものとマイナスの電気を持ったものが
一緒になって吹いてくる風なのですね。
それがオーロラをつくったりするのです。


<図2>地球には常時、太陽からのプラズマ流(太陽風)が降り注いでいる。太陽風と地球磁場の相互作用でオーロラができる。

②新しいエネルギーに関わるもの

太陽そのものも、プラズマです。
太陽のエネルギーは、「核融合」という反応によって発生しています。

あと100年もすれば、いずれ石炭石油はなくなってしまうと言われています。
地球にある石油の量は、だいたい300兆リットルと言われていますが、これは
富士山を逆さまにしてコップにすると、たった4分の1杯にしかならない量です。

そこで、地球上で太陽と同じような核融合を起こす「人工太陽」をつくって、
新しいエネルギーをつくろうという核融合研究を、世界で何十年もかけてやろうとしています。
この核融合反応を起こすときも、プラズマにする必要があるんですよ。

太陽電池なんかもね、プラズマを使ってつくるんです。
ですからプラズマは、エネルギーにも関わるし、宇宙環境にも関わるのです。


<図3>核融合発電炉のイメージ図

③生命医療に関わるもの

①②のプラズマは非常に高温です。
何億度もあるので、エネルギーを出すところに手で触れると、とけちゃいます。

けれども逆に、手で触れるプラズマもあるんですよ。

生命現象に作用させる場合には、熱いと人間がとけちゃうから、
手で触れるプラズマをつくっているのですね。

そのようなプラズマは、体の傷や病気の治療などに生かそうとしています。
プラズマは、バイオと呼ばれる領域にも関係するのです。


<図4>手で触れられるプラズマは、生命医療関係への応用が期待されている。

④ナノスケールの新しい物質材料に関わるもの

そして最近は、「ナノテクノロジー」(ナノ=10億分の1メートル)といって、
非常にスケールの小さい世界で、新しい技術を開発したり、
今までにない新しい物質をつくろうとする研究が、大事になってきました。

例えば、トランジスタをいっぱい詰めこんで微細化していくと、限界があるんですね。
そこからさらに超高密度に微細化する場合には、ナノテクノロジーといって、
非常に小さいもので新しい技術を開発するときに、プラズマが関わってくるのです。


<図5>ナノスケール(ナノ=10億分の1メートル)炭素物質

―サイズでいうと、広大な宇宙から、ものすごく微細なナノまで、
 プラズマというのは、非常に不思議な状態ですね。

この4つのキーワードに全部プラズマが関わるということで、
プラズマは、21世紀の科学技術には大変欠かせない研究領域なのです。

「宇宙からナノまで極める"プラズマ"」、これがキーワードです。

―宇宙を構成する物質の99%以上がプラズマであり、むしろ地球の方が例外なのだ、
 とおっしゃっていましたが、では、この特殊な地球環境下においてプラズマをつくる、
 つまり物質にエネルギーを加えて電離させプラズマ状態をつくるには、
 具体的に、どのような操作をするのですか?

宇宙だったら、そのあたり(宇宙)で、そのまま実験すればいいわけだ。

けれどもここ(地球)には、空気があるから、
物質はプラス・マイナスの電気を持たないまま、存在できるわけです。

ですから、我々が地球上にプラズマ状態をつくるには、
ガラス容器を用意して密封し、真空ポンプで空気を抜いて、
そこを真空状態にしておいて、何も残っていない状態にしておくんです。

そこに、必要な原子や分子の気体を詰め込みます。
例えば、水素でもいいし、酸素でもいい。
ネオンだとピンク色になるから、見ていて楽しいですね(笑)。

必要なガスは、ある程度まで入れます。
うんと入れたら、地球上と一緒になっちゃうから、ちょこっとだけ入れる。

そこに外からエネルギー、例えば電磁波の電力なり、直流の電力なりを加えると、
その中にわずかに存在する電子が、電力を吸収して加速されて、
まわりにいる気体の原子や分子を電離させることで、プラズマになります。

大気圧ではない、真空状態にしたところに、
プラズマが導入されやすい、あるいはつくりやすい。

ですから地球上でやる場合には必ず、それは人工太陽をつくる場合も、
真空状態にしたものを用意して、そこに綺麗なプラズマをつくるんですね
(もっとも、最近では大気圧のもとでプラズマをつくって新しい応用をやろうとする研究も始まっています)。

人工太陽の場合は、それを1億度と高温にして、いわゆる核融合反応を起こすんです。

―どんな物質でもプラズマになるのですか?物質によってつくり方が異なるのですか?

周期律表にあるものは、大体はプラズマにできるんです。
少なくとも原子については原理的に、周期律表にあるものは全部プラズマにできます。

物質によって、いろいろなエネルギーの加え方があります。
電気には、直流と交流がありますよね。
交流には、いろいろな周波数をもつものがあります。
kHz(キロヘルツ)だったり、MHz(メガヘルツ)だったり、GHz(ギガヘルツ)だったり。

実は、電子レンジでも、プラズマをつくることができますよ。
電子レンジには、GHzの電磁波が発生しますね。

電子レンジのマイクロ波で、わずかに存在する電子が加速されて、
それがだんだんとエネルギーをもらって、まわりの原子・分子にぶつかって、
ぶつかると原子の場合、一番外側の電子が飛び出しちゃうわけです。
それで真ん中がプラスになって、正イオンと電子が、同数ずつ存在するようになります。
そういう状態を、プラズマと言います。

そして、つくり方によって、プラズマの温度も変わります。
つくり方によっては、手でも触れるようにもできるし、金属をとかすこともできます。

それからもともと、自然界にはいろいろなプラズマがあってね、
宇宙のオーロラとか、星のまわりとか、あと雷もそうですね。
雷の中は、プラズマ状態なんです。

もっと言うと、蛍光灯なんかもね、この中も本当はプラズマなんです。
プラズマから出る紫外線が、管内に塗られた蛍光体で可視光に変わる。

ですからいろいなところに、プラズマがあるんですね。

―自然界のプラズマから人間が生み出すプラズマまで、
 プラズマは幅広く、そして意外と身近なのですね。

最近のナノテクノロジーでも、研究の代表例は、炭素からなる物質なんですよ。

だいたい炭素と言うと、古臭いような気もしますけど、
「常に古くて新しい材料」が炭素だ、と言われているんです。

例えば、昔からあるものとして、鉛筆の芯も炭素ですね。
鉛筆の芯は、「グラファイト」と呼ばれる炭素が層状に重なったものです。

もうひとつ昔からあるものとして、綺麗なダイアモンドがあります。
これも、炭素のみからなる物質で、炭素のひとつですね。

あとは、比較的近年に、炭素がサッカーボール状に60個、
きれいに丸く並んでいる「フラーレン(C60)」が発見されました。

今度はその次に、1ナノメートルくらいの直径で炭素がチューブ状になった
「カーボンナノチューブ」というものが発見されました。


<図6>フラーレンやカーボンナノチューブの発見

我々は特にフラーレンとカーボンナノチューブのふたつに、
加えてごく最近では1枚の炭素シートのグラフェンに興味を持っています。

これら新しい材料を使っただけでも、今までなかった面白い応用なり、
あるいはおもしろい基礎特性を示すので、皆、興味を持っているものです。

内部のナノ空間は真空状態ですので、この中に周期律表にある原子を注入すれば、
また新しい機能や働きをしてくれるでしょう。

ということで、これらをプラズマの方法を使って、
内部のナノ空間を、いろいろコントロールしようとするのが、
わたしたちのプラズマを使ったナノテクノロジー「プラズマナノテクノロジー」の研究です。

―カーボンナノチューブやフラーレン自体は、もともと自然界にあったものなのですか?

カーボンナノチューブやフラーレンは、人間がつくったものです。
もっとも、自然界で探せば、どこかに含まれていた、と後でわかる場合もあります。

フラーレンなんかがそうですね。地層のどこかにあったとか。
けれども最初に発見されたのは、人間がつくったものでした。

だいたいそれらのつくり方が、プラズマを介してつくられるのです。

例えば鉛筆の芯を並べて、雷みたいな大きな電流を流すと、プラズマ状態になります。
するとグラファイトのカーボンがバラバラになって、
それが一度冷えるとき、ぎゅっと集まって、
カーボンナノチューブ、あるいはフラーレン、という格好になるのです。

これはひとつの例ですが、あるいは鉛筆の芯に、レーザのエネルギーをぱんと加えると、
「レーザプラズマ」と言って、いきなりその辺りがプラズマになり、同様にバラバラになります。
そしてカーボンがまた冷えて凝集した時に、この構造ができます。

我々はプラズマを使って、もっとスマートにカーボンナノチューブをつくりまして、
その中に入れたいものを、プラズマ、つまりプラス・マイナスにして用意しておきます。

プラスとマイナスになっていれば、電気を加えることで、自由にスピードをコントロールできますね。
コントロールして、そこにプラスとマイナスを、うまい具合に入れていくということなんです。

―プラズマを使うことによって、ナノスケールの世界でも、
 思うようにコントロールできるようになるということですか?

例えば、これは実際の写真なんですけど、
(a)の写真は、カーボンナノチューブの中に、
フラーレン(C60)をプラス・マイナスのプラズマにして、入れたもの。



カーボンナノチューブの直径は、約1ナノメートル(nm)、つまり10億分の1メートル。
その中に、丸いものが見えるでしょう、これがフラーレンね。
電子顕微鏡なので、ナノスケールを直接観察することができます。

(b)の写真は、カーボンナノチューブの中に、
代表的なアルカリ金属であるセシウムを入れたもの。



この場合は、小さいからつながっているように見えますね。
世の中にある電子顕微鏡の分解能が悪いから、らせん状に見えちゃうんだね。

それで(c)の写真みたいに、片一方にフラーレン(C60)で、
片一方にセシウム(Cs)を入れることができるの。



そうするとこの1本だけで、トランジスタの一番重要な基本素子である
「ダイオード」というものができます。

これに光を当てると、これ一本で、太陽電池にもなるんですよ。

つまり、こういう風にして、いわゆるPN接合というトランジスタの一番基礎なんだけど、
それが、このナノチューブ1本の中で実現できた、っていう話です。

―同じチューブの中に、プラス(Cs)とマイナス(C60)を思い通りに入れることが、
 プラズマを使うことによってはじめて実現できたということですか?

そうそう。
つまり、ある時間にはプラスだけを引っ張り出していって、
ある時間はマイナスだけをやると、こうなるわけなの。

普通、プラス・マイナスにしなきゃ、何も電気持っていないからね、
ごちゃ混ぜになっちゃうじゃん。

だから、プラスとマイナスの電気を持たせるということは
選択的にスピードを変えることができるということです。

プラスの電気をかけたら、マイナスの電気は走ってくるけどプラスのやつは来れない。
逆にマイナスの電気をかけたら、プラスの電気は寄ってくるけどマイナスのやつは来れない。

こっちに来て欲しくない相手を排除して、好きなやつだけを引っ張り出す。
それを、電気のスイッチを変えることによってやれるのが、これなんです。


<図7>プラズマ駆使による進化カーボンナノチューブの創製

―プラスとマイナス、引き合うか・離すか、とてもシンプルなのですね。
 けれどもそれさえコントロールできれば、逆にいろいろなことができるのですね。

しかも、ナノ(10億分の1メートル)スケールのやつだから。
これは私達しか、世界でできないんです。

DNAもこういう風にね(dの写真)、
ちゃんとカーボンナノチューブの中に入れて。



DNAでさえも、マイナスの電気をもっています。
その反対イオンとして、ナトリウムとカリウムのプラスのイオンがありますね。

プラス・マイナスで、全体としてゼロなんだけど、
ひとつひとつは、DNAがマイナス、反対イオンがプラスです。

ですから我々は、DNAもプラズマであると考えているんですね。
「DNAプラズマ」と呼んでいます。

そうやってDNAもうまくコントロールしていくと、
カーボンナノチューブの中に入っていくのですね。
それも、実現しました。

DNAはもろいので、そのまま使おうとすると、
すぐぼろぼろになってしまうのですが、カーボンナノチューブは比較的強い物質です。

そうすると例えば、人間の中に入って、細胞の中に行ったら、
カーボンナノチューブの中にDNAを入れて出てくるようにすれば、
バイオ関連の事業にも応用できるのではないかと。将来の話ですけど。

これは、バイオとナノの融合した研究に、
プラズマを使ったナノテクノロジーの話です。

―そういえば生物の体の中も、プラスとマイナスに分かれていますね。

そうですね。必ずそれは、液体状態でね。

わたし達が昔、研究を始めたときは、全部、気体状のプラズマでした。
それは先程、お話したようなものです。

最近は、「液体プラズマ」というのをまた新しく掲げています。
液体状態の中でもプラス・マイナスがあるから、それを積極的に利用して、
新しい研究をしよう、というのがひとつの流れなのです。

我々は、中に様々な種類の原子や分子を詰め込んだカーボンナノチューブを
「原子・分子内包カーボンナノチューブ」と呼んでいるのですけど、
これ一本で、いろいろな新しいものがつくれるんです。

―フラーレンについては?

<図8>原子内包フラーレン

フラーレンの場合ですと、フラーレンの中に、周期律表にある原子を入れて、
「原子内包フラーレン」というのをつくります。

このとき、入れるべき相手を、プラズマ、
つまりプラス・マイナスにしておくんですね。

すると電気を帯びているので、選択的に加速することができます。
これがいろいろ応用上、カーボンナノチューブとはまた別の応用があるんですね。

量子コンピュータとか、医療のエイズ治療に使えるとか。
この(フラーレンの)サイズが、ちょうどエイズの菌のサイズと近いらしいですよ。
物理的にはめ込んでいくと、これがエイズの菌の増殖を阻止するそうです。

あとは、MRI診断装置があるよね。
あれは造影剤のガドリニウムを使うんですよね。
中を写すために、外からX線を当てて、写真撮るから。

このガドリニウムを内包したフラーレンだとね、
これが、造影剤として、非常に感度が良いらしいです。
そのような医療への応用が、フラーレンはけっこうあります。

あとはなんか、化粧品にも使われているらしいんだけど。
空っぽのフラーレンが使われるらしい。

あとはこれ、丸いから、ころころ転がるでしょう。
ボールベアリングみたいに、くるくるまわると、
ナノサイズの潤滑剤になったりするわけ。

将来、究極のナノマシーンとなってくると、
こういうのが大事になってくるわけです。

原子何個でマシーンになる世界があるんですよ、
うんと小さいマイクロマシーンという、将来の話ね。

医療、エレクトロニクス、エネルギー、太陽電池のもとになったり、
さらに、これまであるものに混じって、特性を強めたり、良くしたりもします。

具体的には、太陽電池の場合、光を電気に変える変換効率を高くするとか。
フラーレンも、いろいろ応用することができるわけです。

―プラズマを駆使することによって、ナノ物質の可能性も広がりますね。

我々の願いは、超小型・高集積・高速・低消費電力の次世代ナノ・バイオ
エレクトロニクスデバイス創生への挑戦なんです。

要は、ものすごく超小型でうんと詰まった、
電気は使わない、次の世代のナノとバイオについて
電子工学(エレクトロニクス)でそういうものをつくる、挑戦するということ。

これらを原理的には実証したけれども、実際のものとして世の中に出すには、
100発100中そうならないといけないという信頼性の問題や、
いろいろな難しい技術的な問題があるのでね。

これから何十年もかけて、実際の世の中に役に立つようにするには、
まだまだ難しい周辺技術が、たくさん開発されないといけません。

ですから我々大学の使命としては、学術を先導して、
世の中に「新しいことがありますよ」ということを言うこと。

まずはそれが本当に学術的に正しいのかということを
積み重ねていくと、学術基盤が確立されていくのです。

中学生に「研究って、何が楽しいの?」と聞かれるとき、こう答えます。

「まず、自分の創意工夫で、世界中で今まで誰もわからなかったことや
世になかったものを、初めて見つけたりつくったりする喜び」。

「また、それが将来いつか世の中のために役立つことを期待する喜び」。

すぐに世の中に役立つ研究というものもあるのですよね。
それは、大きく分けると、企業の研究。

企業が生きるには、儲からないとつぶれちゃいますよね。
企業は世の中にすぐに役に立つことをやる。

大学は、次の将来にどういうことが必要かということを考えてやるのが大学ですよね。

もちろん大学にも、すぐに役立つ研究をする方が適切な配分でいなければなりませんし、
そういう人達との熱心な意見交換が非常に大事だと思いますが、
大方は、今のような分け方で良いと思います。

―これまで理学部の研究者にお話を伺っていました。
 工学部の研究者の方にお話を伺うのは、はじめてです。

実は私、プラズマ物理学からはじまっているし、現在でもその研究をしているので、
理学の方の興味が沢山あるのです。

次世代の学際的な科学技術開拓をするのが目標でして、
プラズマ物理学を核として、化学や生物学を融合することで、
工学・医学・農学への応用を目指しています。

実は、このエネルギーに関する研究は、
プラズマの「乱れ」の原因を探求することが、はじまりなんです。
ここは実は物理学で、理学部と同じです。

もともと何もしないでプラズマをつくると、
必ず不安定になったり、乱れたりすることがあります。

例えばオーロラ現象や太陽風といった、自然が織り成す神秘性の中に、
乱れの原因を、学者として皆知りたがっているというのがあります。

オーロラだって、なぜ起こるのかというメカニズムは、
なかなか、わかっていないんですよ。

簡単に言うと、乱れの原因を探求していくのは、
非常に大事で、物理学的に普遍的なんです。

その乱れの原因を探求するために、例えば宇宙のオーロラみたいなものはできないし、
そのものを測るのは、人工衛星で測っているけど、大変だからね。

ですから地上に、オーロラと似たようなプラズマ状態を、実験室で模擬してつくるんです。
それによってプラズマの乱れの原因を調べるのが、宇宙プラズマ現象解明の一例ですね。

それから、熱核融合が起きているプラズマ、ここでも乱れがやっぱり生じて、
せっかく高温高密で閉じ込めたプラズマも、逃げていっちゃうんです。

ですから核融合の方は乱れが原因で、
うまくエネルギーが閉じ込められない・発生できないという問題があります。

その原因にはいろいろとあるのですが、
こういう大きな温度の場合、触れない、あるいは測るが大変だから、
温度が低くて測りやすいプラズマを実験室に用意して、乱れの原因を研究するんです。

つまり、プラズマの乱れの原因を探求し、宇宙プラズマ現象の解明と熱核融合の実現、
このふたつの観点からアプローチしています。

学問として何を今一番知りたがっているのか、そして何を必要とされているのかで、
テーマを策定するわけですね。

―自然現象を見て、そもそもなぜだろう?と探究する部分と、
 そこで解明した基礎を、実際に応用して発展させる部分とが、
 一直線上で結びついているのですね。

そうやって学術基盤をつくっていくんですね。
それが、体系化していくこと、教科書をつくっていくということ。

それがわかれば、次に、もっと効率よくエネルギーを発生させるしくみを
つくれるのではないか、という風につながっていくわけです。

オーロラの方は、むしろ、自然の摂理を知りたいということですよね。
それは理学部と同じです。

―研究を進めていく上で、畠山さんが中軸にしているスタンスは?

自分の狭い学問で解明したことが、他の学問分野に何か波及効果があるだろうか。
つまり、学術分野における応用。

それから、世の中での実用、社会産業、そういうところでの実際の応用できるか。
つまり応用にも、そのふたつがありますね。

自分がやった狭い分野のことが、どれだけ普遍性があるか、という意味ですよね。
学術分野として、そして社会・世の中、あるいは歴史として。

時間でも空間でも、広がり、普遍性、一般性、
そういうのを常に求めていくのではないでしょうか、人間というものは。

それがやはり体系化されていって、簡単に言えば、教科書がいっぱいできていって、
その教科書が、どんどん何世紀にも渡って、変わっていくわけでしょう。

人類というのは、教科書をつくっているわけです。

それを後世の人が評価したり、または未来に向かってそれを基礎にして、
古い教科書をもとに書きかえて、新しい教科書をつくって、未来を予測して、
予測したものがうまくいったら、その段階で、教科書が塗り替えられて。

たまたま小学生は、ある部分の教科書を見るわけですが、
人間は教科書をつくって、そういう意味で、歴史をつくっているのでしょうね。

そういうイメージは、時間・空間での広がり、発展性、一般性、有用性、有効性でしょう。

もちろん我々凡人にはできないことだけども、心の中にはやっぱり、
歴史の中において、自分がどういう位置づけで生きているのかというのを、
みんな考えるんじゃないかね、それぞれの立場・立場で。

だからまぁ、人から見たら大したことなくても、
自分としては大きな、みんな仕事なのですよね。

それは、自分としては、でしょう。
ただ生きているわけには、いかないのだから。

何を歴史に残して、自分が世を去っていくのかということを、
やっぱりうんと意識するよね、知らないうちにね。

若い頃から意識している人は天才だと思われるでしょうが、
多分、それをちゃんと意識するのは、普通の人は歳を取ってからではないしょうか。
例えば60歳過ぎた、とかさ。

大分仕事をしてきて、よく考えてみたら自分はどこまでできたかということを、
ひそかに寝るときに考えているのが、実際だと思うのですけど。

どんな人でも、心のどこかに、意識しないでも、
そういうことがあるのではないでしょうか。

我々は学問しているので、さっき言った「時間・空間の普遍性を求めていく」なんだろうね。
気持ちを整理すると。

―学問の専門分化・細分化の進展がもたらす閉塞状況が指摘され久しいですが、
 畠山さんは、その枠をどんどん超えていらっしゃるのですね。

むしろ、どんどん自分の普遍性を求めています。

無理かなと思っても、挑戦する気持ちで、やる。
ですから、「挑戦します」と書いてあるんですね。

それには、いろいろな分野を、常に興味を持って、
見ていなければならないですね、目はね。

でもそれは、ばらついて、何だかまとまりのない
研究とか人間性になってはいけないわけです。

そこはバランスです。
要するに、狭く追求することと、目は常に広く持つように努力する。

普遍性を求める場合はどうしたって、
他所の分野では何が起こっているのかを知っていなければならないですね。

わたしから見た場合、どのように関わりがあるかとか。
そこから応用できるかしらとか、なっていくわけです。

―ユニークな研究は、そのようなスタンスから生まれるのですね。
 畠山さん、お忙しい中、どうもありがとうございました。

取材先: 東北大学      (タグ: , , ,

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