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2018年 08月 18日 ()

宮城・仙台発の夢を乗せた電気バス

2008年8月2日公開

 地域資源を活かしながら地域課題の解決に取り組む構想が、ここ宮城・仙台で本格化している。

 県内にある企業でつくる「みやぎ工業会」が、地元の製造業者と東北大などの研究者と連携し、小型低床の電気バス「E-タウンバス」を、仙台市内などに走らせる構想を2003年から進めている。

 仙台市などでマイカーに代わる交通手段として、電気自動車の実用化に向けた試作車を開発する方針。勉強会有志の集まりだった研究部会がNPO法人化を目指し、新たなスタートを切った。


「車に依存する社会のあり方は再検討されるべき」

 「住みたい都市ランキング」(2004年時事通信社調べ)では第3位にあげられるなど、住みやすい、暮らしやすい街として知られる仙台。

「車に依存する社会のあり方が再検討されるべき」と熱く語る工藤さん

 「しかしながら、この街が社会、経済、環境、教育など、さまざまな面で多くの問題を抱えているのも事実」と指摘するのは、工藤電機(仙台市)会長で工業会理事の工藤治夫さんだ。

 「日本は、モータリゼーション問題を抱えています。ここ仙台でもマイカー依存度は高く、交通渋滞や交通事故などの都市交通問題が発生しています。そして、CO2排出量増加や大気汚染など、地球環境問題も深刻化しています」

 ヒトやモノの移動手段として、わたしたちは化石資源、つまり石油を消費している。後世に残す環境について、以前から関心を抱いていたと言う工藤さん。「車に依存する社会のあり方が再検討されるべき」と熱く語る。

 「経済性や利便性を追求した結果、地球温暖化というキーワードから見た時、日本は大きな問題を抱えています。このモータリゼーション社会が、果たして良いのか。いずれ行き詰まるだろう、と私は考えているのです」

 欧米諸国では、それまでのモータリゼーション社会を見直して、路面電車を進化させたLRT(次世代型路面電車システム)の開通が相次いでいる。「しかし、今から仙台の街中にレールと架線を敷くのは非現実的。そこで、小型電気バスなのです」

 実用化を目指す小型電気バス「E-タウンバス」は、八輪でバリアフリーの低床型の構造。走行中排気ガスを出さないため低騒音・低公害な乗り物だ。JR駅・地下鉄駅・幹線バスルートや学校・病院・スーパー・商店街等と団地をつなぐ循環型を想定、運営は地域住民やNPOに依頼する考え。

 便利な電気バスが普及し、通勤・通学や外出時のマイカー利用者の乗り換えが進めば、交通渋滞緩和や二酸化炭素削減効果が期待できる。

みやぎ工業会、東北大、宮城県、仙台市などから約20名が集まり、毎月議論を交わす

 一方、肝心の電気小型バスそのものの開発はどうか。「それぞれの企業の得意な技術を合わせれば、県内企業で開発できる技術力はあります」と力強く話す工藤さん。研究部会には、車両開発の技術を持つ様々な企業が参加しており、開発に向けた活発な議論が繰り広げられている。

 しかしながら、開発から事業化には「死の谷」と呼ばれる深い溝が横たわっていると言う。

 「単に開発までなら、ある程度の『カネ』さえあればできます。しかしそこから先の事業化までには大きな『死の谷』があります。開発に要したヒト・モノ・カネの10倍~20倍のエネルギーを準備しておかないと、『死の谷』を乗り越えることはできません。まだモノはつくっていませんが、『死の谷』を乗り越えるために必要なものは何か、これまでも随分と議論を重ねてきました」

 これまでは調査・研究の段階。これからはビジネスモデル構築の段階。「産学官連携の下、現在、ひとつひとつ課題を解決する真っ只中にあります」と語る。


キーワードは「地産地消」

 これからの社会はどうあるべきか。工藤さんはキーワードに「地産地消」を掲げる。

 「お金では買えないものが、『地産地消』。食料に限らず、資源やエネルギーなどの必需品は、お金にあまり依存しなくても『地産地消』で生きていける環境が私たちには必要ではないでしょうか」

 宮城・仙台で創業し、約50年。工藤さんはある「くやしさ」をバネに、本構想を練り上げてきた。

 「地元資本が地元企業へ投資し、付加価値の高い企業を育てることが、この土地はあまりにも希薄ではなかったか。付加価値が地元に帰属するような産業構造にしていかなければなりません。これもやはり、大きく言えば地産地消になるのでしょう」と工藤さんは熱く語る。

 工藤さんの夢、それは「E-タウンバス」事業化による、宮城・仙台発の新たな産業創出だ。

宮城・仙台の新たな産業起しのきっかけをつくりたい、と意気込む。(写真は東京の無料巡回電気バス)

 「地元資本が地元企業に投資して、電気バスが生産され、県外・日本中・世界中へと売られていく。そうした場合に、この電気バスの付加価値が、ほぼ100%県内に帰属するわけです。産業付加価値の『地産地消』ができなければ、地域間の競争力や、生活のしやすさの経済環境は解決できません」。宮城・仙台の新たな産業起しのきっかけをつくりたい、と工藤さんは意気込む。

 「必需品が地域で取れ、地域で生きていける、余剰部分は地域以外へ輸出していく。そんな緩やかな経済活動が、わたしたちが自然の恵みの中で生きていける知恵ではないでしょうか」

 「E-タウンバス」が仙台市内を走るとき。それは、地域課題を解決しようとする知恵が、「死の谷」を乗り越え、結晶化した時なのかもしれない。

【大草芳江】

取材先: みやぎ工業会 工藤電機      (タグ: ,

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