東北から持続可能で心豊かな社会を創造/サイエンスアゴラin仙台2019&東北大学SDGsシンポジウム開催
2019年11月13日公開
「サイエンスアゴラin仙台2019&東北大学SDGsシンポジウム」のようす=11月5日、東北大学片平さくらホール
「東北から『持続可能で心豊かな社会』を創造する」をテーマに、「サイエンスアゴラin仙台2019&東北大学SDGsシンポジウム」が11月5日から6日までの2日間、仙台市内の会場で開催された。東北大学が国立研究開発法人科学技術振興機構(以下JST)と共催して開いたもので、JSTによる「科学と社会の対話」をコンセプトとした日本最大級のサイエンスコミュニケーションイベント「サイエンスアゴラ」との連携企画。国連が提唱するSDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)の達成にむけた新たなエネルギーの価値観やプラスチックスマートのあり方について、東北大学や地方自治体などによる取り組みが発表され、関係者や市民らが参加した。
東京大学客員教授の小林光さんによる基調講演「エネルギー関連技術への期待:環境行政の経験から」
「エネルギーの新たな価値観」をテーマとしたセッションでは、はじめに元環境省事務次官で自宅のエコハウス実践でも知られる東京大学客員教授の小林光さんが「エネルギー関連技術への期待:環境行政の経験から」と題して基調講演を行った。小林さんは環境政策立案の観点から、科学や技術との関係が成功した事例と失敗した事例を取り上げた上で、汚染行為をなくすためには膨大な時間がかかることや、環境問題解決の鍵は技術革新に加えて産業構造の変化が必要なこと、そのためには環境価値にお金を払うマインドの醸成が必要なことなどを解説した。
秋田県仙北市による、東北大学との連携による水素エネルギー活用に係る取り組みの紹介
次に、東北大学による取り組みが7件発表され、東北の森林資源から高機能な電池材料を開発するプロジェクトや、地殻機能の活用により水素エネルギー生成と二酸化炭素の地中固定の同時達成を目指す研究などの紹介があった。続けて、地域と連携した取り組みの重要性が語られ、地方自治体による取り組みとして、秋田県仙北市が東北大学との連携により、かつて「毒水」と呼ばれていた玉川温泉水から水素を生成し、水素エネルギーで地産地消を目指す取り組みの紹介があった。このほか、宮城県富谷市による低炭素水素プロジェクトや、海外の事例として、日本と似たエネルギー事情にある島国・台湾のエネルギー政策についての紹介があった。
「サイエンスアゴラin仙台2019&東北大学SDGsシンポジウム」のようす=11月6日、仙台国際センター。写真は、環境省による発表「地域ニーズに立脚した課題解決を目指す地域SDGsと気候変動対策の同時達成」のようす。
2日目は、NPO法人国際環境経済研究所の竹内純子さんによる基調講演「2050年のエネルギー産業:日本のエネルギーの大転換」が行われた後、国の取り組みとして文部科学省、経済産業省、環境省からの発表があった。このうち環境省は、地球温暖化対策が経済にとって「負担」から「競争力の源泉」へ変化している世界的な流れを概説した上で、再生可能エネルギーのポテンシャルがエネルギー需要を上回る地方からエネルギー需要が高い都市へ資金の流れが将来的にシフトする可能性を解説。東北地域の豊富な地域資源を活かしながら、自立・分散型の社会が実現されることへの期待を語った。続けて地方自治体によるSDGsの取り組みとして、宮城県や富谷市、東松島市、仙北市、志摩市から紹介があった後、産業界の取り組みとして、国立研究開発法人産業技術総合研究所による再生可能エネルギーに関する取り組みや、大成建設からは建築業界とSDGsの関係性などが紹介された。
「エネルギーの新たな価値観」の創造にむけた東北大学の取り組みについて説明する東北大学環境科学研究科長の土屋範芳さん
これら新たなエネルギーに関する取り組みについて、東北大学環境科学研究科長の土屋範芳さんは「これまで国が主導権を握ってエネルギー政策を進めてきた構造が徐々に崩れつつあり、地方発の新しい工夫と発信が、ゆくゆくは日本全体のエネルギーの価値観を変えていくと予感している。それら変革を支える新しい技術の蓄積により、社会の仕組みが変わっていくだろう」と総括した。
北大学環境科学研究科教授の松八重一代さんによる、「東北大学プラスチックスマート戦略のための超域学際研究拠点」の説明
この後、「プラスチックスマート:プラスチック問題から見るSDGs」をテーマにしたセッションが、「東北大学プラスチックスマート戦略のための超域学際研究拠点」のキックオフも兼ねて開催された。海洋プラスチック問題や、中国をはじめとしたアジア諸国での廃プラスチック受け入れ制限を契機として、プラスチック問題が世界中で深刻化する中、同拠点を立ち上げた経緯を東北大学環境科学研究科教授の松八重一代さんが説明。「使う」「代替」「適切回収・資源化」「知の還元」の4領域から、地域・島しょ・国際社会におけるプラスチック問題対策への貢献に取り組むことを宣言した。
パネルディスカッション「社会課題の解決に向けた自治体、大学、企業の役割を考える」のようす
続けて、東北大学環境科学研究科教授の吉岡敏明さんから研究の最前線が紹介され、従来「静脈産業」と位置づけられているリサイクル産業側だけでプラスチック資源循環を達成することは難しいため、プラスチックの原料や製品を市場に供給する、いわゆる「動脈産業」との連携が必要なことなどが解説された。このほか各登壇者から、産学官連携による体験型環境教育や、環境NGOによるプロスポーツにおけるプラスチックスマートの取り組み、海洋プラスチック問題の解決に取り組む大学生サークルによる取り組み、沖永良部島における海洋漂流物の対応について発表があった。また、地球温暖化で水没の危機にあるキリバス共和国からビデオメッセージも届けられた。さらに登壇者らによるパネルディスカッションが行われ、社会課題の解決にむけて大学や自治体、企業等が果たすべき役割や、市民の理解を得ることの難しさ、環境問題に対する当事者意識の醸成の必要性などが議論された。
議論のようすは図式や絵などを使ってリアルタイムで可視化された
最後に、JST「科学と社会」推進部部長の荒川敦史さんが「東北から、エネルギーの新たな価値観やプラスチックスマートのあり方を、研究者のみならず行政・事業者・市民・学生等、様々な立場の方々とともに考えた有意義な対話の場となった。ありたい未来社会をつくる具体的な取り組みへ、ぜひ育ててもらいたい」と挨拶した。
【主催者インタビュー】
東北大学 理事・副学長(社会連携・震災復興推進担当)
原 信義さんに聞く
- 中高生も含めた「宮城の新聞」読者むけに、改めて、本シンポジウム開催の背景や動機等について教えてください。
◆SDGsは国民一人ひとりの問題
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標です。MDGsは極度の貧困と飢餓の撲滅など、途上国の開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置付けであったのに対し、SDGsは持続可能な社会の実現のために、開発側面だけでなく経済・社会・環境など、先進国にも共通の課題として設定していることが特徴で、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。発展途上国における残された解決すべき課題に加えて、例えば、先進国における情報社会に取り残された情報弱者の問題等、SDGsは発展途上国のみならず、すべての人に関わることであり、日本政府だけでなく、様々な機関、そして国民一人ひとりが、自分のこととして捉えることが非常に重要です。
◆東北大学版SDGs活動の原点は震災復興
我々東北大学における、持続可能な社会の実現にむけた組織的な取り組みの原点は、2011年3月に発生した東日本大震災からの復興にあります。これらは安心・安全で持続可能な社会の構築を目指す取り組みでもありました。このことが「持続可能で心豊かな社会の創造」を目指す「社会にインパクトある研究」へ発展し、SDGsと共通する内容も多いことから、東北大学版SDGs活動と位置づけて取り組んでいます。SDGsは全国民に関わるものですから、SDGsに関わる取り組みを国民の方々に発信しようと、東北大学では今回のようなシンポジウムをあらゆる分野を網羅的に取り込みながら順次開催しています。
- 「宮城の新聞」読者の中高生にむけて、メッセージをお願いします。
◆ 関心を持ち、行動に移して
SDGsは最近、報道等でもよく取り上げられるようになりましたが、自分自身の問題だと気づいている人は意外と少ないと思います。SDGsに関する本なども色々なところで紹介されていますので、自分で勉強してみることで、「これなら自分にもできるな」といった気づきをたくさん得られると思います。多様な立場から色々な取り組みができるよう、見事につくれたものがSDGsなのです。
一方で最近は企業のCSRも全部SGDsになったりして、逆に「SGDsって何だろう?」とわかりづらくなっていますね。ですから、それをもう少しブレイクダウン(目標を作業レベルまで細分化)して、それぞれのステークホルダー(利害関係者)単位できちんと考える仕組みをつくる必要があると考えています。我々大学が国連から期待されている役割は、研究機関としてイノベーションを通じて貢献していく側面はあるにせよ、一番は、教育機関としてSGDsに関する教育です。まずは意識改革から始める必要があり、そのためにはただ一方的に話すだけでなく、アイテム等を用意し、これは何のためにあるのかを、行動で示す必要があると考えています。東北大学が全国の大学に先駆けて「プラスチック・スマート」の推進を宣言し、すぐに取り組めるものの一例として、東北大学オリジナルエコボトルを作成したのもその一環です。
2030年の目標達成にむけて、若い人たちが取り組むことが大変重要です。ぜひ中高生の皆さんにも関心を持って勉強いただき、その結果が何らかの行動につながっていくとよいと思います。もちろん私たち大学の人間が協力できることがあれば、いつでも協力します。
- 原先生、大変お忙しい中、ご協力ありがとうございました。
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