取材・写真・文/大草芳江
2010年12月20日公開
研究とは、無機的なものと人間的なものとの絡み合い
塚本 勝男 TSUKAMOTO Katsuo
(東北大学大学院理学研究科・理学部 地学専攻 教授)
1948年、大阪府出身。専門は結晶成長学。1975年、東北大学大学院理学研究科修士課程修了 (理学博士)。1979年、ナイメーヘン大学(オランダ)研究員、1981年、IBMチューリヒ研究所客員研究員、Phillips研究所(オランダ、アインドーヘン)客員研究員、1983年、東北大学大学院理学研究科地球物質科学科助手、助教授などを経て、2006年から現職。
「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします
「結晶成長」をひとつの"ものさし(メジャー)"として、
地球や宇宙での現象を理解しようとするのが塚本勝男さん(東北大教授)である。
その研究のために開発したのが、高分解光学法による結晶成長"その場"観察法。
宇宙を原子・分子のレベルで観察できるこのユニークな装置は、欧米で評判となり、
国際宇宙ステーション(ISS)等での結晶成長"その場"観察装置の基本となった。
塚本さんは、研究を1枚の布に例えて、こう語る。
不思議なものを解き明かすための方法を工夫して開発していくことが「縦糸」だとすると、
たとえ「縦糸」が真っ直ぐ一本あったとしても、実はそれだけでは一枚の布にはならない。
人と人とのつながりという「横糸」との組み合わせがあって初めて一枚の布になる。
ただし、そもそもの興味を無くしてしまえば、「縦糸」も「横糸」も生まれない、と。
個人が「不思議だな」と思う興味からボトムアップ的に展開し、
人と人とのつながりでビックサイエンスをつくっていく
塚本さんという「人」から見える、科学とはそもそも何かを探った。
<目次>
ページ1:サイエンスは楽しみ
ページ1:子どもの頃に「不思議だな」と思ったことをやっている
ページ1:一人だけではできない
ページ1:人と人とのつながりでできるサイエンス
ページ1:直接見ることが大事
ページ1:見る方法を自分で開発する
ページ1:敵を知ることでいろいろなことがわかる
ページ1:宇宙の経験を地上の経験で調べてもよいのか
ページ1:装置をつくりたい、でもお金はどうするんだ?
ページ1:世界で評判になった"その場"観察装置
ページ1:日本人には知られてなかった
ページ1:お金をあげるからぜひやってください
ページ1:ユニークで他ではできないこと
ページ2:宇宙の話から、非常に遅い話へ
ページ2:非常に遅い話から、非常に速い話へ
ページ2:世の中で一番速い結晶成長の話
ページ2:理論では数万年、地上実験では1年、宇宙実験では1秒
ページ2:宇宙の常識と地上の常識は全然違う
ページ2:浮いていると結晶化しにくい
ページ2:宇宙科学は実験できないと思われていた
ページ2:応用分野は、太陽系の誕生から環境・エネルギー分野まで
ページ2:空気中の二酸化炭素を地下で固定する技術にも
ページ2:地下における"その場"観察のための小型干渉計を開発中
ページ2:メカニズムがわかると、いろいろなところで応用できる
ページ3:無重力の研究を始めたきっかけ
ページ3:理論と実験の対比を計算で出すために
ページ3:実際に測ってみたら、予想外の結果に
ページ3:わかったことは、いろいろな道につながる
ページ3:地上では重力によって何かの現象が隠されている
ページ3:宇宙は表面張力が支配する世界
ページ3:コンドリュールはたった1秒で結晶化する
ページ3:冷めた砂糖入りコーヒーは再び温まるか?
ページ3:宇宙でシャボン玉をつくるのは大変
ページ3:無重力でシャボン玉はどう割れるか
ページ3:やりたいことはいっぱいある
ページ3:結晶はどこでできたのか?
ページ3:宇宙には結晶化するきっかけがない
ページ4:ゴールを定めながら、その時点でできる研究を進めていった
ページ4:結晶成長をものさしにして、宇宙や地球の成り立ちを理解したい
ページ4:興味からボトムアップ的に展開する研究はあるようでない
ページ4:自分で実験装置をつくるから、新しいことができる
ページ4:装置を壊すくらいの冒険ができることが大切
ページ4:お金をかけずにつくれるチームワークの力
ページ4:持ちつ持たれつの関係
ページ4:基礎的な知識を活用することで、いろいろな分野に関わる
ページ4:理論と実験のギャップで研究は進歩する
ページ4:二番じゃダメ
ページ4:人と違うことをやりなさい
ページ4:身近なことを馬鹿にしない
ページ4:自分で制限しない
ページ4:新しい芽を出させることも仕事
ページ4:研究とは、縦糸と横糸の組み合わせ
東北大学大学院理学研究科・理学部 地学専攻教授の塚本勝男さんに聞く
サイエンスは楽しみ
―塚本さんがリアルに感じる科学とはそもそも何ですか?
難しい質問だけど、サイエンスは楽しみだよね。わからないこと、不思議だと思うことがいっぱいある。それを自分の持っている知識や技術、考え方などで解き明かすことが楽しみなんでしょうね。
そして、自分が考えたことが、ほかの分野でも通じたりすると、もっと楽しいですね。サイエンスという共通の言葉を使って、共通の楽しみを持つような仲間を増やしていく。それもサイエンスの楽しみです。
そもそもサイエンスとは何かという質問は難しいけれども、やっぱり楽しみを見つけるひとつの方策という風に僕はとらえています。ですから、仕事と言えば仕事ですが、ある意味楽しみながら給料をいただいています。
子どもの頃に「不思議だな」と思ったことをやっている
―「楽しみ」が塚本さんの原動力ということでしょうか?
そうですね。今日おもしろいことと、明日おもしろいことは、また違うしね。でも、やっぱり考えてみると、基本的にやっていることは、小中学校の頃に「不思議だな」と思ったことをやっているような気がするよ。
例えば、形とか色とか。木の形だってそう。「枝のここを切ると、どうなんだろう?」って思うよね、子どもの頃。基本は、身近なところからはじまるサイエンス、って感じがしますね。
―自分の目で見て不思議だなと思ったところからはじまるサイエンスということですか?
うん。量子力学とか四次元の世界とか、いろいろあるでしょう。そういうものもおもしろいかもしれないけど、僕は身近なところの現象に根差した興味が一番おもしろいと思うよね。
一人だけではできない
そして、サイエンスを進める上で、やっぱり一人だけではできません。「サイエンスは人間と関わりがない」と思う人もいるかもしれませんが、そうではないのです。
解き明かす過程で、必ず人との関わりが出てきます。ですから無機的なものと人間的なものとの絡み合いで、いろいろなサイエンスが進んで行く。そういうところもおもしろいよね。
要するに、まずひとつは、サイエンスそのものがおもしろい。もうひとつは、解き明かす過程そのものがおもしろい。それを通して、人と人のつながり、大きな輪ができて、それでもってまた別のサイエンスができる。そのようないくつかの段階があって、どれもそれぞれおもしろいですね。
人と人とのつながりでできるサイエンス
例えば、(今、取組んでいる)宇宙基地での結晶成長実験も、人と人とのつながりでできるサイエンスです。一人では実験できないよね。何十人もの人が動いているわけです。
それぞれ異なる持ち味を持つ人たちが集まって、ひとつのゴールに向かって進むわけ。そこにどうやって持って行くか。それもビックサイエンスのひとつだよね。そのおもしろみもあります。
一方で実験そのものは、例えば「結晶はどうやって育つのだろう?」「重力の有無で結晶成長はどう違うのだろう?」と非常に素朴な疑問からはじまります。これがお金になるかとか役に立つかとか、あまり関係ないことですね。
けれども、素朴な疑問を共通の疑問として皆さんに動いていただいている。これもおもしろいことだよね。一人ひとりバラバラに思っていても仕方がないけれども、皆不思議だなと思って集まると、原動力になるのです。
そして皆で集まり、計画を立てるとプロジェクトになる。そしてプロジェクトができると、企業やJAXAなどいろいろな人たちと一緒に仕事をするようになる。そのような絡み合いで、次のビックサイエンスが出てくるのだと思います。
逆に言えば、いくら非常に良い考えを持っていたとしても、人と人とのつながりや、組織や機関とのつながりがちゃんとできてこなければ、やっぱり最終的には仕事にまで辿りつかないと思います。
直接見ることが大事
―そもそも塚本さんの基本的な問いかけは何ですか?
いろいろなことをやっています。例えば、なぜ右か左かという対称問題や生命の発生、そして太陽系の誕生など。でも基本的な考えはやっぱり同じで、「ものが最初にどうしてできてくるか?」というところなのね。
それを考えるときに、理論的に考える人、数学的に考える人、化学的に考える人もいるでしょう。けれども僕は、見ることができるならば、その現象を可視化して調べたいと思っています。そのために、いろいろな装置を開発しているのです。見ることが大事な仕事だと僕は思っているのですよ。
―そもそも塚本さんはなぜ見ることが大事だと思うのですか?
例えば、あるものを混ぜて電気炉に入れ、二日間置いて、別のものができたとします。けれども、それでは原因と結果だけだよね。その途中がどうなっているか、わからないわけです。
そこでいろいろな想像をするよりも、その途中を見ることができれば、直接的でしょう?原因と結果だけなら、足がかゆいのに靴の上から掻いているようなものです。
例えば、結晶が顕微鏡の下で育っています。これを直接見ることができれば、「これくらいの色で、これくらいの厚みで、これくらいの速度で、大きくなっている」とすぐにわかるよね。
反対に「液を混ぜた溶液があります。その結果として結晶があります」という結果だけなら、その途中がどうなっているか想像がつかないでしょう。つまり、想像を少なくすることができると、もう少し論理的に考えることができることにつながっていくわけです。
それに、もっと大切なことは、直接見た方がやっぱり楽しいじゃない。「きれいだな」と思うことは、非常に大きなドライビングフォースだと僕は思いますね。
見る方法を自分で開発する
理解したいと思ったら、"敵"のことをよく知らなければなりません。だから、ものを観察するんです。ただ、それをどのレベルでやるのかという話なのです。
それは芸術家の見方もあるかもしれないし、マクロの見方もあるかもしれないし、色だけを分析する人もいるかもしれない。僕は、原子・分子レベルで見たいと思っています。
なぜなら、大きな宇宙の誕生だって、もとをたどせば、元素ができて、それが原子や分子の集まりとなって、微細な結晶や液体になって、できたわけでしょう?宇宙の現象も、きっかけは小さいので、そのきっかけを調べたいと思っているのです。
その敵を、我々の方法でちゃんと見ることがまず大事です。けれども僕は、普通のビデオを買って見るのでは、満足できないのです。そのためには、見る方法を自分で開発しなければいけません。
見る方法を開発するのは、けっこう大変なことです。けれども、いろいろなアイディアやメーカーさんの協力があって、我々が開発した装置はいろいろな分野で使ってもらっているんですね。
そうやって、「こういう方法を使えば、こういうものが見れるんだ」ということが、やっとわかってきました。すると、自分のためにつくった装置なのだけど、皆が使えるようになるわけです。すると、また輪が広がっていく。その繰り返しかな。
そして見たならば、今度は「どうしたら、こういうものができるのだろう?」と思う。そう思ったなら、次にその実験をすれば良い。そのような順番だと思いますよ。
抽象的な話ですが、僕がやってきた結晶成長の研究というのは、まさにそのようなことを実践してきたのかもしれません。
敵を知ることでいろいろなことがわかる
―では、具体的にはどのように研究を進めて行ったのでしょうか?
最初はシベリア産のダイアモンドが、どうしてできるかを調べたんだね。とてもきれいな結晶ができるんですよ。結晶ができるのは、表面で分子がつくから大きくなるのですね。
つまり、結晶がどうやって育ってきたかという歴史を、結晶の表面が持っているわけです。ですから、表面の成長したパターンを解き明かすことで、結晶の歴史を知ることができます。
するとメカニズム的には、食塩水など溶液の中で結晶ができるのと、それ程変わらないメカニズムで、ダイヤモンドはできていることがわかりました。
要するに、何かに溶けているものが集まって結晶になった。このようなメカニズムがわかってくると、どれくらいの時間で育ってきたかを推測することができます。つまり、敵を知ることによって、いろいろなことがわかってくるわけです。
宇宙の経験を地上の経験で調べてもよいのか
よくよく考えてみると、「ダイアモンドもつくれるのかな?」「月には水晶みたいなものがあるのかな?」という小さな頃の素朴な疑問と同じようなことをやっています。本当は、ダイヤモンドをつくってみたいんだよね。
そして科学が発展して、「ダイヤモンドは高圧下ならできますよ」などと、いろいろ学んできたわけね。けれども、やっぱりそれは、地球上に住む人間の経験としてやっているわけです。「本当に高圧が必要なんだろうか?」とか?
というのも、地球の半径は約6400kmあるのに、たった300km上空の世界に行くだけで、無重力の世界になる。そこでは、人も浮き上がるし、対流も起こらないし、結晶もできるかどうかわからないような、そんな世界になってしまうわけだね。
そのはるか先に、46億年も昔にできた隕石のもとになるものがあるわけです。その隕石は、これまで地上に落ちてきたものを拾って、地球上の経験をもとに調べてきました。
けれども、たった300km上空に行っただけでコントロールできない世界になるわけです。ならば宇宙の経験を地上の経験で調べたって、おかしいところがいっぱい出てくるんじゃないか。そう思って無重力の研究を始めたのが、1983年頃のことです。
装置をつくりたい、でもお金はどうするんだ?
けれども、無重力なんて簡単じゃないと思っていたんだね。そんな時、ある人から聞いたのです。アメリカのスペースシャトルの実験で「Get-Away-Special」という計画があるよ、と。
直径45cm高さ75cmのドラム缶に入る装置で、スイッチひとつで動くことを条件に、スペースシャトルで実験してもらえるという計画です。それは、スペースシャトルの中でバランスを取るための重しとして載せるものなのですね。
費用は1万ドルで非常に格安でした。そこで、その権利をふたつも買ったわけです。誰から買ったかと言うと、日本人で初めて、宇宙で雪の実験をした朝日新聞の人です。
その人から買ったのは、45番と非常に優先順位が高い権利でした。もうひとつは400番台です。スペースシャトルはもうなくなってしまいましたが、今でも持っていますよ。優先順位が45番と高かったので、やると手を挙げれば、すぐにやれる状態でした。
けれども、装置をつくるのは大変で、お金はどうするんだ?となったのです。そこで、日本企業を10社集めました。オリンパスやアドバンテストのほか、小さな企業などです。「このような計画で宇宙実験をしたいんだ」と言いました。
その時の口説き文句はこうです。「宇宙なんて、例えば顕微鏡をつくる人から見たら関係ないと思うかもしれないし、星を眺めることもしないでしょう。けれども、もしこのプロジェクトに携わって、自分のつくった観察装置が宇宙を飛んでいるとしたら、自分の息子と一緒に空を眺めるのでは?」
その結果、普通は研究費としてお金が出るのですが、その時はオリンパスに宣伝費としてお金を出してもらいました。大変大きな額ですよ。そうやってお金を集めて、装置をつくったんです。名前もつけようとなってロゴまでつくりました。その名も「キララ・プロジェクト」です。このようにして、非常に画期的な装置ができました。
ちなみに、この装置が顕微鏡オートフォーカス第1号機です。今ではオートフォーカスは、割といろいろなところでついているかもしれませんね。それ以来、オリンパスとは相当いろいろなつながりがあります。ほとんど僕の実験室にある装置は、特注か借りているかのどちらかですね。ほかのどこにもないような装置がたくさんあるのです。
世界で評判になった"その場"観察装置
―その装置のどのようなところが画期的だったのでしょうか?
従来、アメリカでもヨーロッパでも日本でも、宇宙でつくった結晶を地上に持ち帰って、地上で調べていました。けれども我々は、宇宙で結晶が育っているところを"その場"で直接見ることができる装置をつくったのです。
アメリカでは、スペースシャトルに巨額のお金を使いつつも、結晶ひとつをつくることがせいぜいでした。けれども僕らの「キララ」は、それより2桁も3桁も少ないお金で結晶をつくり、成長速度をコントロールして、"その場"で測り、結晶の表面がどうなっているか、そのメカニズムまで調べることができる装置だったのです。
それにはアメリカも驚いていましたし、けっこう評判になったんですよ。あんなに小さな装置であれだけやれるんだって。そして、その装置をもとにして当時のヨーロッパのESA(欧州宇宙機関)も、"その場"観察装置をつくるようになったのです。
ところが、"その場"観察装置をつくって準備している最中、スペースシャトルのチャレンジャー号爆発事故がありました。そして、その実験はできなくなってしまったのです。
とは言え、NASDA(日本の宇宙開発事業団。宇宙航空研究開発機構(JAXA)前身団体のひとつ)も何も知らない時代に、装置までつくったんです。今ではちょっと考えられないけど、個人とNASAとの直接交渉で実験装置をつくりました。
そして"その場"観察装置は、今、宇宙を飛んでいる宇宙基地の中にある実験装置の基本形になっています。また来年、僕らが宇宙で実験する実験装置の基本形もそれです。
つまり、今の日本の宇宙基地と、当時のヨーロッパ版宇宙ステーションにおける、結晶成長の"その場"観察装置。僕の考えは、この2つを産むことになったわけですね。
日本人には知られてなかった
話が横道にそれるかもしれませんが、NASDAの人は僕を知らなかったし、僕もNASDAのことを知らなかった。お互いに存在を知らなかったのです。
当時、NASDAのある人が、ヨーロッパのESAの国際会議で、プロジェクトの発表をしたそうです。ヨーロッパでは、結晶成長のメカニズムを直接調べようとするプロジェクトがちょうど始まっていたところでした。
ESAの研究者は、「ヨーロッパでは基礎研究を始めたばかりですが、日本ではどうですか?一緒にやりませんか?」と言ったそうです。けれどもそのNASDAの人は「日本では、そんな基礎的なことに興味を持っている人は誰一人いませんよ」と答えたらしいのです。
その時、スイスやアメリカの人が「東北大の塚本がこんなことをやっているよ」と反論してくれました。その時からNASDAの人たちは、いろいろなことを一緒にやりましょうと、僕に言ってくれるようになったのです。
そして、当時は一度も宇宙実験をやったことがない段階だったのですが、「すぐにロケットを打ち上げて実験をやれないですか?」となったのが、1990年ごろのこと。そして、実際にやりました。
宇宙実験は非常に高価な実験なので、最初は簡単な地上実験や飛行機実験をやってから、だんだん上に持ち上げていくのが普通です。けれども僕の場合は不思議なことに、最初からお金のかかる難しい宇宙実験をやることになってしまったのです。
お金をあげるからぜひやってください
―なぜ最初から宇宙実験をやることになったのでしょうか?
それはやはり"その場"観察という技術や方法を我々が持っていたからです。結晶表面をきちんと見れる人は、世界中で他になかなかいませんでした。
僕らが「宇宙環境で結晶表面を見ましょう」と言い出し、実際に装置までつくったことは、相当アピールになったわけです。(NASDAは)日本の研究の目玉になると思ったのでしょう。
僕は決して「やらせてください」と手を挙げたのではなく、「研究費を準備するからぜひやってください」と頼まれたのです。当時の日産自動車(現在はIHT傘下のIHIエアロスペース)が莫大な赤字を覚悟して装置を作ってくれました。
ヨーロッパからも「一緒にやりましょう」という要望がありました。ほかにも例えば、ロシアの衛星もヨーロッパ経由で「どうぞ使ってください、お金は要りませんよ」となりました。
普通だったら莫大なお金を出して借りるわけですが、僕らが成果を挙げれば彼らの成果になるわけでしょう。だから装置は僕らがつくり、その後の打ち上げなどは全部あちらでやります、という形になってくれるわけです。
ユニークで他ではできないこと
―世界中の皆さんが莫大なお金を払ってまで、宇宙環境で結晶成長を"その場"観察できる装置を欲しがる理由とは何ですか?
それは、ここでやっていることがユニークで、他ではできないことだからですね。
例えば、これまでは宇宙でつくったものを回収する方法だったので、回収中に結晶が壊れたり、熱が加わって変質したりすることがないか心配されていました。けれども"その場"観察装置で調べれば、その心配がありませんね。
あるいは、タンパク質などの結晶を宇宙でつくると、品質や完全性が良くなります。20年前は「宇宙の工場」が考えられ、宇宙でつくった品質の良い結晶を地球に持って来ようという計画がありました。ところが、それではコスト的に間に合うわけがないのです。
しかし、なぜそうなるかメカニズムがわかれば、人間が地上でつくれるわけでしょう。最終的には理学的な発想ではないのですが、実学的な発想で考えると、そのようなところにも直接つながるわけです。
ですから、日本だけでなくヨーロッパの宇宙基地で、"その場"観察に相当力を入れるようになったのは、僕らが一生懸命頑張ったからだと思いますよ。
コラボレーション
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