『確かな学力育成プラン』の方向性
今回のプランは、こちらの図のように、まとめることができます。
【図2】仙台市の確かな学力育成施策の検討の方向性
※図をクリックすると、別ウインドウで図が大きく表示されます。
①当然、思考力や表現力に対する高い授業技術を充実させること(A)が必要ですし、
それを支えるためには、学力に課題がある子ども達に対してきめ細やかな指導を
したり、少人数指導を導入するなど、指導体制の充実(B)が不可欠です。
②これら(A)(B)の基盤となるのは、そもそも落ち着いた教室だったり、
先生達の多忙化に対して、時間的な余裕をつくるなど、
ベースとなる環境の整備(C)があります。
③これらのことを、効果的に行う上では、学校だけでなく、
家庭での生活・学習習慣も必要でしょうし、地域との関わりも必要(D)です。
そのあたりが、今回の柱ですね。
―そのような大きな柱に対する、主な施策を教えてください。
まずは、(A)教育指導手法の充実について。
授業力向上のために、研修等を充実させます。
先生方は平日忙しいため、土曜日に授業力向上のための研修会等を、
教育センターで実施する等しています。
また、仙台市教育委員会で、
表現力や思考力を育むカリキュラムを開発しています。
児童生徒が楽しみながら難問にチャレンジする
「思考大会」も実施する予定です。
―基礎的な技能や知識を問う問題のように答えはひとつではないため、
思考力や判断力を養うカリキュラムの開発は、容易でないのでは?
それは、「思考力とは何か」にかかってくるかと思います。
事象を分析し、その分析したデータの有意な関係を見出して、
そこから新たな結論を見出すという意味で、問題はつくりやすいのでは。
PISAの問題もありますし、他県での先進的な事例もあります。
例えば富山では、思考大会を実施しています。
―思考力に対して、既に定義付けがされているからこそ、カリキュラム開発も可能なのですね。
そうですね。
もちろん、他所からそっくりそのまま持ってくるわけではないですが、
そのような例も、参考にできると思います。
―次に、(B)指導体制の充実については。
中1の数学では、30人以下の少人数指導を導入しています。
また今回は、学力に課題のある子ども達に対応する補助員を、
60人から100人へと、大幅に増員しました。
これまでは教職1年経験者と10年経験者対象の研修を行っていましたが、
さらに、5年経験者を対象に加えて、「授業づくり」に特化した研修を実施します。
―次に、(C)学力向上を図る上で前提となる環境の整備については。
先生方の授業準備以外の時間を、なんとか減らすため、
学校事務の合理化をしようと考えています。
具体的には、事務を共同実施することで教員の負担を減らしたり、
事務補助員を配置することを考えています。
先生方は授業準備以外にも、大変な作業がたくさんあります。
給食費を集めたり、会計事務をしたり、保護者対応も増えています。
また、落ち着いた授業を成立させるために、
「小1のための生活・学習サポーター」を新しくつくりました。
保護者や地域の方が、小1のクラスに入り、先生をサポートします。
「ちゃんと座りなさいよ」とか、「給食をちゃんと食べるように」とか。
4月から、三十数校で、スタートしました。
―私の小学校時代と比べると、かなり変わってきた印象を受けます。
地域の人が外から入ってきたような記憶は、私にはほとんどありません。
家庭や地域の教育環境の充実(D)については。
学校教育に加えて、やっぱり家庭や地域、
その両方をやらないといけないと思うのです。
家庭や地域が、生活習慣や学習習慣に関係してくると思うからです。
ちゃんとごはんを食べてなければ、勉強ができないし、体力も落ちます。
そして、ちょっとでも良いから、家で勉強する学習習慣をつけましょう。
しかしそれらは、学校だけではなかなか難しいことです。
あとは、いろいろなものを体系的に学ぶような場面を、
地域につくっていこう、ということです。
机の上の勉強だけではなくて、例えば昔の遊びをしたり、太鼓の練習をしたり。
地域では、そのような技能を持っている方が、たくさんいます。
学校と、ひとつの柱として、家庭と地域。
その両方をやっていく必要があるのでしょう。
仙台市では、中学校2年生での3日以上の職場体験を中心とした、
キャリア教育的な「自分づくり教育」を実施しています。
今年からは、全校実施となります。
学校と地域が協力しましょう。
というのが今回、大きな柱のひとつなんですね。
そして、これらのサイクルがきちんとまわっているかどうかを、
学力という形で、学習状況を把握するということです。
―それが、学力・学習状況の的確な把握(E)の位置づけなのですね
仙台市では2007年から、独自に学力検査をしてきました。
ここ2年間は、基礎的なことを問う問題がほとんどでしたが、
今年から、思考力を問うような問題も、入れました。
それも、当然のことなのですけどね。
学校教育が今後ますます重要に
―「当たり前だ」と思う価値基準は家庭で形成されるため、家庭環境の影響力は大きいと思います。
例えば、家庭で「当たり前」のことを、学校で「駄目だ」と注意されても、
子どもは、その意味をなかなか理解できないのはないでしょうか。
ベースとなるのは、家庭での価値観、
そういう部分はあると思います。
社会や入学試験で求められる力が、
思考力や表現力へと、どんどん変化しています。
詰め込むことが前提の学力検査であれば、
言葉を選ばず強いて言えば、「がり勉」でも対応できたのですが、
思考力や表現力となると、より手間も時間もかかることでしょう。
そうなると実は、思考力や表現力は、
生育環境に影響されるものが大きいのでは、と思っているのです。
小さい頃から母親や父親と、思考力を育む会話をしているか、していないかで、
大きな差が出るところとなるでしょう。
学力検査や企業の採用基準などに、そのような傾向が強まってくると、
ある意味、その差が経済格差にも広がっていく恐れがあります。
格差の固定化を防ぐという意味でも、
学校教育がとても重要になってくるのでは、と考えています。
―思考力や判断力を問われる時代だからこそ、生育環境の影響が効いてくる。
だからこそ、学校でやるべきことがある、と。
やはりどうしても、家庭によって差が出てくるのが、
正直なところでしょう。
そこはやはり、学校で補完しなければなりません。
家庭環境・生育環境によって、子ども達のそのような能力の育成が
規定されるとなると、格差の固定化につながる恐れがあります。
―学校教育に加えて、家庭や地域も一緒になって教育を行う姿勢が、
今後、ますます重要になってくるのですね。
その通りですね。
―最後に、これからの意気込みを一言、お願いします。
これらの事業を、きちんと実施していくことが重要だと思っています。
学校現場の方に、今回のプランの趣旨について、理解と協力を得ながら、
きちんと実施していくことをまずは考えていきたい。
これから当然、社会情勢も変わりますし、学校体制も変わっていきます。
それに合わせ、どんどん変えていかなければならないと思っています。
今回のプランは、学校教育部の当時の教育指導課の先生たちが、
本当に大変頑張って、つくってくれました。
そして現場の学校の先生方も忙しい中、
教育指導課の先生たちと2~3時間近く真剣になって議論し、
そういったものの上で、今回のプランはできたのです。
―現場との真剣な議論から、学校現場を前提としたところで、
「確かな学力育成プラン」は生まれたのですね。
そうですね。
これからの実施状況の中でも、必要があれば、
現場の声を拾っていきたいと考えています。
―荒井さん、本日はどうもありがとうございました。
コラボレーション
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