取材・写真・文/大草芳江
2008年9月8日公開
子ども達に科学の魅力を伝えようと、「サイエンス・エンジェルの宇宙観光局」が、6、7日、仙台市青葉区の仙台市天文台で開かれた<ニュース記事はこちら>。7日には、作家の瀬名秀明特任教授と理学研究科の小谷元子教授、サイエンスエンジェルらによる座談会が開かれ、「宇宙へのあこがれ・宇宙への旅立ち」をテーマに語り合った。議論の一部とインタビューを全3回で掲載する。
我々の理解を超えるものがあるのか、この目で見たい
小谷氏(数学者):
最近、抽象的なこと、数字・文字の世界が、現実とどのように結びついているのかを考えるようになった。
今は自然豊かな青葉山へ毎日歩いて通っており、星が良く見える。星空を見上げたことは、これまであまりなかった。心に余裕ができたのかなと思う。
哲学者の野家先生から、パスカルの「パンセ」について教えてもらった。「人間はひとくきの葦にすぎない。 自然の中で最も弱いものである。だが、それは考える葦である」。この後に、どんな文章が続いているか。
「空間によって、宇宙は私を包み、一つの点として私を呑む。思考によって、私は宇宙を包む」
私は宇宙というものの要素なのだけども、私は宇宙を理解する。抽象的な概念で見れば、私は宇宙を包んでいるのだ。
もうひとつお気に入りの言葉がある。アインシュタインの「宇宙について最も理解できないことは、宇宙は理解できることだ」
点のような存在である我々が、宇宙を理解できるということは、とても不思議なこと。本当に理解できるのか?という保証もないが、そういったものは、理解できるものだと信じたい、ということだと思う。
宇宙は理解できるという立場に立ちたい。なぜ、私たちは宇宙を理解できるのだろうか?それを皆さんに聞きたい。
瀬名 秀明 氏(作家・東北大学機械系特任教授)
感覚だけではよくわからないが、小谷先生の話を聞いて、大きな宇宙を感じた後で、自分が考えている不思議さを感じることは、できたと思う。
宇宙は何も知らない。そこから出てきた私たちが、考えることによって、私たちは宇宙を包むのだ。
ただ自分自身にとって、宇宙は広大すぎて、考えるのが難しい。例えば、柿崎さんの領域になると、「生命とは何か」。知性によって生命が生まれたきっかけそのものも、ひょっとしたら解明できるのかもしれない、と思うのでは。
小谷先生は、宇宙を理解できるということは、不思議なことだと思うのか。宇宙を最も理解できないものだと考えるか。
小谷氏:
理解できる、理解したいと思っている。
瀬名氏:
宇宙の中にいる人間としては理解できる、ということなのでは。
小谷 元子 氏(東北大学大学院理学研究科教授 数学者)
大原理で全てのことは説明できるのだ、という考え方がある。大原理はどこにあるかと言えば、昔の人は、神様。今の人は、大原理。
宇宙をつくっているものが大原理だとしたら、我々自体がその原理につくられた存在なので、我々は理解できるのが自然なのだと言える。
皆さんは、大原理を信じているか?それをコントロールできると思うか?それとも、もっと多様だと思うのか?生命を扱うサイエンス・エンジェル(以下、S.A)の皆さんとしては、どう思う?
事崎氏(S.A):
複雑なもの。難しいものとして、今も考えてしまう。
小谷氏:
それは事実だが、理解が進んだとき、総和したものとして理解できるかと言うこと。コスモスは調和が取れた状態で、それでもそれを宇宙と考えるのか。
高校の頃、先生が話してくれた話が面白かった。カオスは混沌という意味だが、カオスを見た神様が、目と鼻もなくて、可愛そうだと思い、調和の取れた形をつくったら、カオスは死んでしまった、という話。
カオスが本来あるという立場だ。混沌として複雑で、わからない。けれどもコスモスみたいなものがあって、混沌としているのか。
柿崎 真沙子 氏(サイエンス・エンジェル)
生物見ると複雑だが、物理や数学は、数式で記述できる。だからこそ、数学は美しい。
けれども生物を扱っていると、理論通りには行かない。「この物質はこう効くはず」と細胞レベルではうまくいっても、個体レベルでは、間逆の結果が出ることもある。
分野として、考え方がもともと違うのかもしれない、と感じた。
瀬名氏:
カオスと数学って、離れているわけではないよね。生物は複雑とあるが、身近だから複雑と思うのかもしれない。けれども宇宙って遠いから、意外と複雑な感じがしないのかも。宇宙を手に取る感じ、つまり肌触りがあまりないから、そう感じるのかな。
けれども、大原則みたいなものはあるだろう。それは生物にもあるのだろう。そこは数学的に現せるのだろう。でももっと細かいところは、宇宙、生物なりにあるのだろう。
小谷氏:
複雑に見えるものにも、裏にシンプルなルールが隠れている。宇宙をシンプルに捉えているのは、我々の理解できる範囲の外のものは関知できないからかもしれない。
宇宙にはコスモスがあって、大原則があって、理解できると信じたい、というのがアインシュタイン。大原則に従わない現象を知らないから理解できている、と思うのかもしれない。
「宇宙に行ってみたい」と思うひとつの動機に、我々の理解を超えるものがあるのかどうか、この目で見たいという思いがある。
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