興味を持てなければ、どうしようもない
―少し話はもどりますが、石井さんは物理に「トラップされちゃった」のですか?
私の場合はね、話がちょっと複雑で。
母と姉から、「医者になれ」と言われていたのです。
昔、医学部には、教養部がなくて、医学部進学に必要な基礎教科を教養部で勉強して、
それからまた試験を受け直す仕組みでした。つまり2回、試験があったのです。
東北大学へ入って、教養部の学生の時に、
私の周りにいた人間は全員、医学部を志望していました。
私も、当然、医学部を受験するべきだろうと思っているうちに、
なぜか物理学に、トラップされちゃったのです。
その頃、一人の友達がいて、良く勉強が出来る男だだったのですが、
彼は天文学にトラップされちゃった。尤も、高校生の時からだと言ってたけど。
私は、本当は、数学科に進学しようかと思ったんです。
けれども、物理って言えば、親に許してもらえるかなと。
数学よりは通リが良いだろうと。でも、区別はつかなかったろうな。
それで、物理の勉強を一生懸命やっていたら、
あれがまた面白いものでしてね。
例えばね、人々を捉えてて離さないと言うか、
好きな人間を捉えて離さないのが、昔の哲学じみた話でして。
光子(フォトン)って、言いますよね。
そもそもフォトンって何だ?
これは、わかんない、わかんない、わかんない。
つい一週間前かな、私、それがわかった気になったのは。教科書の原稿書いていて。
どんな教科書にも、多分、載っていないですよ。
電磁波の位相の問題にまで踏み込まないといけません。
もちろんフォトンの概念をつくった先生は分っていたけど、
後年の大先生からして、その概念の大元を写したのだと思いますよ。
よくよく考えると、すぐ分んなくなっちゃうんです。
一発間違えるとね。ほら、フォトンが出てくるいろいろな法則の公式があるでしょう。
実際はね、ノーマライゼーション(規格化)しますから、実験データを取る時には、
係数は皆、落ちちゃうわけですね。割り算して。
係数は関係ないわけだから、実験屋は気にしない。
理論屋もそんなの見ないから、関係ないって言うんだね。
係数はどうなっているか、見ていません。
けれども、係数を間違えると、どれくらい差が出るかと言うと、例えば、cの3乗。
cって、光の速さですよ。すると、3の3乗も入れて、10の31乗の差です。
因子にして、cの3乗なんて差が出ちゃうと、
どっちが本当だ?ってことになります。
で、数値をつっこんで、計算します。
正しければ、使われた理屈は尤もらしいことになります。
間違っていれば、10の31乗のファクターがくっついちゃったりするんです。
これが年寄りの頭の体操には絶好で、
どこがどう間違っているんだ、と考えるわけ。
例えばね、細い光をぴゅーと通して、この光の波が原子にぶつかって、
そこの原子の中の電子と何か事を起こす。
例えば、自由空間で、光が原子に当たることを考える時には、
一見すると、問題にしている光が、ある定まった方向に、やってくるように見えます。
そして、その光は、その広がりを決める立体角の中に入っているように見えます。
つまり、一見すると、その光のモードだけ
考えればよいようなのですが、それは違うのですよね。
原子はね、勝手な方向を向くわけです。
空間のある一定の方向から出て来た光でも、原子から見ると、
あっちから、こっちから、あらゆる方向から来るわけです。
だから、やっぱり、光は空間を満遍なく埋め尽くしている、
という具合に考えないといけません。
アイシュタインや昔の偉い人達は、
始めから、そんなのわかっていたのです。
ところが教科書には、2、3行の結論しか書いてありません。
ちょっぴり。
それに気付くまでに、何日もかかったもんな。
二週間くらい、かかったんじゃないかな。
それは、問題を解く時の積分領域を変えるのですよ。
微分方程式を解く時には、境界条件を決めます。0から4πまで積分する、というようにね。
なぁんだ。δωに関する積分は出てこないで、、単に、4πをかけるだけなのか。
とかね、そんな話。
だから、そういう具合に、人をトラップするんです。
それが今の若者は、これですか。パソコンですか。
四六時中、若者がトラップされちゃうのが。
私は疲れると、コンピュータ相手に囲碁をやります。
すると、どういうことが起こるか、わかりますか?
―大体、パターンが読めてしまうってことですか?
その通り。
だから、人とやらないと駄目なのです。
―では最後に、中高生へメッセージをお願いします。
若い人に言うとしたら、無理して何かをやる必要はないけれども、
何か自然現象とか、そういったものに興味を持つことが大事ですね。
それから・・・それかなぁ・・・。
科学という切り口で言えば、そうですけど。
興味を持てなければ、どうしようもないですけどね。
数学は面白いから、必ずトラップされますけど。
受験勉強の頃覚えたやつって、なんだか忘れないですよ。
60年たった今でも、覚えているんですよね。
忘れると、紙の上で、その公式を作ったりするんです。
そうだ、リチャード・ファインマンっていう大先生がいて、
自分で作った独自の記号を使って、三角関数の公式を書いていたそうです。
でも、誰もそれが分らないので、
やっぱりみんなが使うsin, cos, tanに変えたのだそうです。
面白い本を書かれたのですが、その中にありました。
その先生が書いた『Surely You're Joking Mr. Feynman』。
和訳では、『ご冗談でしょうファインマンさん』となっています。
私にその本をくれた人は、英語の本をくれたんです。「面白いから読め」って。
それを東京の地下鉄の中で、毎日通勤の途中で、くすくす笑いながら、読みました。
本当に面白い。是非一読を勧めます。ただし、原語でね。
後でね、日本語ではどんな風に訳しているのかな、
と本屋で立ち読みしたら、駄目ですね。日本語訳は。
ちょうど面白いところが、駄目なんです。
訳しているのが、女の人なんですよね。
つまりその、この本には、下ネタがいっぱい出てくるんです。(笑)
そこを何て訳しているかな、って見てみると、
やっぱりそこが誤魔化されているんですねぇ。(笑)
―石井さん、本日はどうもありがとうございました。
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