取材・写真・文/大草芳江
2011年11月21日公開
「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします
「結晶成長」という視点から、地球や宇宙でのさまざまな現象を探究する塚本勝男教授(東北大学大学院理学研究科地球科学専攻)インタビューシリーズの第5弾。今回は、塚本研究室助教の木村勇気さんと三浦均さんに、研究へのモチベーションやその魅力などを聞いた。
【コンテンツ】
◎木村勇気さんインタビュー 「実験室で太陽系を再現したい」
◎三浦均さんインタビュー 「シンプルな理由で説明したい」
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・第3回:東北大学塚本研究室インタビュー 「結晶成長と宇宙実験の話」(準備中)
・第4回:東北大学塚本研究室インタビュー 「結晶成長からみる宇宙から環境問題まで」(準備中)
「ナノ粒子」を知ることなくして、正しいシナリオは描けない
―そもそも、木村さんの根底にある、研究へのモチベーションは何ですか?
僕は、実験室で太陽系をつくりたいです。自然で起こっている現象を実験室で再現できれば、それがどうやってできたかを知ることにつながると思うからです。本当は臓器もつくりたい、と昔は言っていたのですが、太陽系よりも臓器の方が難しいですね(笑)。
―それに対して、どのようなアプローチをしているのですか?
太陽系はどうやってできたのか?そのヒントは、隕石の分析や星の観測などを基に考えるのが世界では一般的で、実験はあまり行われていません。たとえ実験が行われていたとしても、地球上の鉱物や目に見えるサイズの鉱物など、従来の知識や分析結果を基に、隕石はどうやってできたのか?が考えられています。
それに対して、僕はもともと物質科学(material science)が専門だったので、「ナノ粒子」を切り口に実験を始めました。ナノ粒子とは、とても小さな粒子のことですが、目に見えるサイズの時(バルク)とは違った、思いもよらぬ振舞いをするのです。
―「ナノ粒子」とは何ですか?
定義から言うと、数えられる原子数からなる粒子のことを、約50年前から「超微粒子」と呼んでいました。「ナノ」(ナノメートル=10億分の1メートル)という言葉が流行ってからは、ナノ粒子と言われています。
国際的には、1~100ナノメートル程度のものをナノ粒子と呼ぶことになりましたが、人によってはマイクルメートル(100万分の1メートル)に近いサイズまで、ナノ粒子と呼んでいることもあります。
それくらいナノ粒子という言葉は幅広く使われており、その性質とはあまり関係がなくなっています。けれども僕の言う「ナノ粒子」は、大きなものとは性質が変わるくらいに小さなものを言うのが、一番良い定義だと思っています。
―小さくなると性質が変わるとは、例えばどんなことですか?
例えば、金のナノ粒子。金はどんなものかは、わかりますよね?けれども金も、小さくなると性質が変わるのです。例えば、金色じゃなくなって、黒色やこげ茶色のような色になるのですよ。
ですから皆は、大きなものの時の色を考えて、宇宙はどのようにできたかを議論しています。けれども色が違うのですから、星から受けるエネルギーも変わりますし、すると、動きも全く変わってくるでしょう?これらを考慮せず、金色だと思って、金の微粒子がどうやって動くかを議論しても、意味がないわけです。
実際に金で議論している人はいませんが、ほかにも例えば、溶ける温度が違ったり、ふるいでは分けられずにふるいに全部くっついてしまったり。そうやって性質が変わるわけですから、ナノ粒子の考慮なしに正しいシナリオは描けないのではないか、と僕は考えています。
―最初にお話していた太陽系とナノ粒子は、どんな関係があるのですか?
宇宙には、無数のナノ粒子が存在しています。太陽系も、もとをただせばナノ粒子なのです。ですからナノ粒子の性質を知らなければ、そのナノ粒子がどうやって集まって大きくなり、惑星をつくっていったかはわかりません。最初が少し違うだけで、結果が大きく違うことは、よくあることです。
ですから、最初のナノ粒子のところを抑えることで、そこから太陽系がどうやってできたのか?今まで言えなかったモデルをつくり、わからなかったことがわかるようになればなと考えています。
一般的な大きさの固体とは異なる振舞いをする「ナノ粒子」
―そんな木村さんが、塚本研究室を選んだ理由は何ですか?
塚本先生は「結晶成長」が専門で、結晶成長をキーワードにいろいろな研究をしています。僕も「ナノ粒子」が専門で、「ナノ粒子」をキーワードに、惑星科学や天文学に限らず、いろいろな研究をしていました。
もともとは結晶も、小さいですね。何かから結晶ができなければいけない。ということは、結晶ができる基になるところで結晶成長の塚本先生と一緒に仕事をしたら、何かおもしろいことができるのではないかと思って来ました。ナノメートルサイズの結晶が、最初にどうやって生まれるのだろう?そこに注目して研究しています。
―どのような実験をしているのですか?
実はナノ粒子は、太陽系の中でできたものだけではありません。太陽系の材料となった、太陽系のお父さん・お母さんの星のまわりでできたのです。そこで生まれた微粒子が集まり、太陽系ができています。
太陽系は46億年昔に誕生したので、そこまで集まるのに10億年はかかると見積もると、(微粒子は)60億年くらい前にできたのではないかと思います。ですから、宇宙が生まれてから(=約137億年前)半分くらいにできた微粒子が、まだ生き残っているのですよ。そういったものが隕石の中にいたり、ふわふわ降ってきたりするのです。
実際に、隕石の研究は百年以上も行われていて、集合体としての隕石は、どうやってできたのか、わかってきたような気になっています。けれども、隕石の中にある個々の粒子に着目すると、どうやってできたのか、実は、ほとんどわかっていないことばかりなのですよ。我々は、ナノ粒子のことを「ダスト(塵)」と呼ぶのですが、最初にどうやってダストができたかも、実はわかっていないのです。
―なぜわかっていないのですか?
それは皆、ナノ粒子のことを知らないからだと僕は考えています。ナノ粒子の知識を以ってすれば、「こうやってできたんだよ」とさらりと言えるのではないかと思うのです。そこで僕は、再現実験などを行っています。
―「ナノ粒子」研究の難しさは、どのあたりにあるのですか?
研究が難しい理由は、小さいからですね。小さいと、見るのも大変ですし、つくるのも大変です。僕の場合、つくることはあまり大変ではありませんが、見るのはなかなか大変ですね。
なぜかと言うと、原子が数千~数万個、場合によっては数百個くらいの数でできている粒子ですから、電子顕微鏡を使わなければ、まず見えません。さらに、できた粒子を見るだけなく、それができるまでの過程を知る必要があります。例えば、それが普通の大きさのものとは違うどんな性質があるか、ナノ粒子を使って実験しなければいけないのです。
具体的には、顕微鏡の中で加熱して見たりします。すると、普通の大きなものなら約1000℃でなければ溶けないのに、ナノ粒子なら約500~600℃で溶けちゃう、といったことが起るのです。
―ナノ粒子になると、大きなものとは、なぜ性質が変わってしまうのですか?
なぜかというと、ナノ粒子は体積に対して表面積がとても大きいためです。原子は中にいる方に比べて、表面にいる方が不安定です。すると、表面エネルギーの寄与がとても大きくなって、物性に大きな影響を与えるのです。これを「表面効果」と呼びます。
サイズによるので一概には言えないのですが、ナノ粒子になると、例えば、約1割やそれ以上の原子は、半分くらいの手が余っている状態になります。1割が不安定だと、例えば、隣に違う粒子を持って来ても、「仲間が来た」と思って手をつなぐのです。すると、二つの粒子をくっつけただけで一つになっちゃう、といったことが起こるのですよ。
このような現象が起こるサイズを「メゾスケール」と言いますが、ナノ粒子も全部の原子が表面に出ているのです。固体のイメージがあるので、原子は留まっているイメージがあるかもしれませんが、「トンネル効果」と言って、たとえ低温でも原子と原子はどんどん入れ替わっているのです。
電子顕微鏡で見てみても、実際に動いている様子を見ることができます。原子1個ずつが動いている様子は見えませんが、原子の並び方が変わっているのは見えますよ。それだけ原子は、動くためのバリアが小さいわけですね。
このように原子は絶えず動いているために、他の原子を持ってきたらすぐ中の方に拡散したり、二つ持ってきたらくっついちゃったりします。そのようなことがしょっちゅう起こるのが、ナノ粒子の世界では当たり前なのですね。
ですから僕は、最近の研究プロジェクトに「液体のようにふるまう固体」というタイトルをつけています。固体ですが液体のように、とても拡散が早いのですよ。
例えば、コーヒーにミルクを入れたらコーヒー牛乳ができますが、コーヒーと牛乳を凍らせてから合わせても、コーヒー牛乳の氷にはならないですね。けれどもナノ粒子だと、それがコーヒー牛乳の氷になるのです。固体でも液体のように混ざり合うのです。
何でも最初はナノ粒子
―具体的にはどのような再現実験をしているのですか?
◇宇宙ダスト生成を再現
【写真1】木村さん自ら開発した宇宙ダスト再現装置の前で
宇宙のダストのサイズは、100nm以下のナノ粒子ですが、これまでの実験では、目に見えるサイズの実験で得た情報をもとに、星のまわりでどうやってダストができるのかが研究されていました。けれども僕は、実際にナノ粒子をつくって、どんな条件でできるかを適用する必要があると考えて、研究をしています。
例えば、この「宇宙ダスト再現装置」(写真1)では今、蒸発源を星に見立てています。加熱して、蒸発し、ある程度冷えると、そこで凝縮して固まります。これは星から放出されたガスが冷えて、固体の微粒子が生成される様子を再現していると考えています。
そして、干渉縞の変化から、どれくらいの温度と濃度でナノ結晶ができるのか知ることができるわけです。すると、星のまわりで、ナノメートルサイズのダストが、どんな条件でできるかがわかると考えています(写真2)。
【写真2】星に見立てた蒸発源から昇華した蒸気が冷えて凝縮する様子を干渉計でその場観察した様子。煙の中に宇宙ダストの類似物ができている。生成には500K(ケルビン:絶対温度の単位。K = ℃ + 273.15)以上もの過冷却が必要で、10の6乗(100万)を超える超高過飽和度になってることがわかってきた。
さらに、宇宙ダストは無重力下でできるので、実際にそれを再現する必要があると考えています。そこで、このチャンバーを飛行機に載せて、微小無重力実験を行います。すると、まさに星からガスが出て微粒子ができる時と同じような条件を再現できるのではないかと考えています。
◇ナノ粒子を利用する
「ナノ粒子を利用する」ことも重要と考えています。先ほどもお話しましたが、ナノ粒子は体積に対して表面積が大きい特徴があります。分子や有機物ができるためには、表面が必要です。その表面を提供するのがナノ粒子であり、ナノ粒子が触媒にもなって、そこで複雑な有機物ができるのです。
宇宙では、複雑な分子や有機物、あるいは水素分子のように単純な分子も、ナノ粒子がなければほとんどができません。ですから、ナノ粒子のことを知らなければ、分子や有機物がどうやってできたかも、実はわからないのです。
僕がNASAで2年間研究していた時のボスは、ナノ粒子を使って、表面にどんな有機物ができるかを実験しました。ほかにも、北海道大学の低温科学研究所時代には、水素分子がどんな条件でできるかを研究しました。これらの研究は今も続いています。
◇天体のスペクトル観測と比べる
実験だけでなく、天体観測もしますよ。実験室の結果と観測結果を比べるためです。東京大学に観測メインで行っている先生がいるのですが、すばる望遠鏡を用いた観測に、僕も一緒に連れて行ってもらうこともあります。
具体的には、隕石の中にある微粒子を再現してつくり、スペクトルを測定し、天体のスペクトル観測結果と比較します。それが星のまわりのものと一致すれば、「まさに星のまわりでできたものが隕石の中にできている」ことを再現できると考えます。
やはり実験だけでなく、観測や理論の人たちとも協力して、研究を進めて行くことが大事だと考えています。
◇混ざり合う金ナノ粒子
【写真3】室温で混ざり合うナノ粒子
【写真3】は連続写真ですが、これはナノメートルスケールの固体の粒子です。はじめは二個あった粒子が(写真左上)、くっついて一個になってしまうのです(写真右下)。このような現象は、実際に電子顕微鏡の中で見ることができるのですよ。
このような現象は微粒子ができる時にも起こっていると僕は考えています。普通は、結晶の"種"ができて、その種が成長していくプロセスを考えます。けれども実はそれだけでなく、種ができた後、種同士がくっついたり、溶けたりしてできることも考えられるわけです。
普通は、理論計算などを行う時、種がいくつできるかを計算し、最終的に結晶がいくつできるかを計算します。けれども、そうやって種がくっついてしまったら、結晶の数が減ってしまいますね。ところが、そのようなことは今までの計算で考慮されていないのです。
ですから、例えば「種を制御して製品をつくりましょう」とつくっても、当初の目論見とは結果が変わってくることもあり得るわけですね。そのような点も、実験からわかるのではないかと僕は考えています。
◇応用面からもナノ粒子の理解は必要
―「ナノ粒子」は、いろいろなものに適用できる考え方なのですか?
何でも最初は、ナノ粒子ですからね。例えば今、いろいろなデバイスにしても、どんどん小さくしていこうと、微細加工できるようになっています。すると、そろそろ微細加工のレベルが、ナノ粒子のサイズになってくるのですよ。
例えばナノサイズのことを知らなければ、加工したつもりが「あれ?切ったはずなのに、またつながっているよ」とか。小さいものと小さいものをくっつけて「よし、サンドイッチができた」と思ったら「サンドイッチが混ざり合って全然違うものができちゃった」とか。そういうことが起こり得るのです。
要するに、「なぜナノ結晶ができるか?」は「なぜ宇宙ダストができるか?」だけではないのですね。例えば、プリンターのインクが最初にぱっとできる時も最初はナノメートルサイズですし、いろいろな薬品や粉製品にしても、最初から材料をつくるのであれば、それはナノ粒子をつくることになってくるわけです。そのような面からも、ナノ粒子のことを知っておかなければなりませんね。
―では最後に、これからの抱負をお願いします。
コンドリュール(多くの隕石に見られる球状の粒子)はもともと、ナノ粒子が集まって、ぱっと瞬間的な加熱が起こり、それが溶けてぎゅっと丸まってできた、と考えています。僕は、ナノ粒子を実験室でいろいろつくっているので、ナノ粒子からコンドリュールができるプロセスを、実験室で再現したいと思っています。三浦さんの理論と直接比べられ、一緒にできますからね。そして最終的には、最初にもお話した通り、実験室で太陽系をつくりたいですね。
―木村さん、本日はありがとうございました。
最初と最後だけでなく過程を見る
―そもそも、三浦さんの根底にある、研究へのモチベーションは何ですか?
例えば「なぜ結晶がこんな形になるのだろう?」「なぜ結晶がこんなに速く成長するのだろう?」といった現象を、如何にシンプルな理由で説明できるかに興味があります。
ニュートンがリンゴの落下を見て、「もの同士が引っ張り合っているから」とシンプルに説明したことで、惑星の運動も含め、全ての現象を説明できたように。
それは結晶成長に限らず、物理学のアプローチなら大抵の人がそう思うかもしれませんが、僕が現在扱っている結晶成長のテーマでも、それが見つけられたらハッピーだと思います。
―それに対して、どのようにアプローチをしているのですか?
僕は現在、隕石の中にある球状の粒子「コンドリュール」(写真4)が、(太陽系が誕生した)46億年前にどのようにしてできたか?をテーマに研究しています。
【写真4】石質隕石を数10ミクロンの厚さにスライスして顕微鏡観察するとmmサイズの丸い組織(コンドリュール)が見られる。
これまで塚本研究室以外の研究では、コンドリュールは、岩を加熱して溶かし、一定条件のもとで冷やして固めればできると考えられていました。実際に電気炉という加熱装置を使って加熱して溶かし、ゆっくり冷やしてやると、それらしきものが得られたためです。
しかし、それは実際に冷えて固まる過程を直接見たわけではなく、ブラックボックスの中でできたものを後から詳細に分析し、推測するアプローチでした。
それに対して塚本先生は、どのような速さでどのタイミングで凝固するかなど、凝固する過程を直接見ながら調べる研究を進めています。そこで僕は今、その現象をコンピュータ上で再現することに取組んでいます。
コンピュータシミュレーションは、自然界の法則すべてを盛り込めるわけではありません。そこでコンドリュールが凝固する時のある過程に注目し、それだけを抽出してモデル化し計算することを行っています。基本となる過程のどれが決め手になっているのか、一つずつコンピュータという助けを使ってトライしているのが、現在の方法です。
―そんな三浦さんが、塚本研究室を選んだ理由は何ですか?
僕がここに来た理由は、シンプルです。きっかけは、僕が大学院生の頃、塚本グループがある研究会で、コンドリュールを浮遊させながら加熱し、冷えて固まる過程を動画で発表したのを見て、大きなインパクトを受けたこと。僕はそのとき初めて、結晶化する過程のイメージを得ることができたのです。
それまでは、コンドリュールが凝固する過程は外から見えないので、幾ら論文を読んでも載っておらず、固まった後の断面を見て考えることが、それまでの僕の常識でした。まさに百聞は一見に如かずでしたね。
僕はそれまで、コンドリュールの中身に関する研究より、いわゆる宇宙物理学や惑星形成論に興味があったのですが、塚本グループの実験結果と理論を比較しながら、いろいろ研究を進めることができるのでは、と思ったことが一つの決め手でした。
やはり理論だけですべてを予言することは難しく、実験と比較して進める必要があるのですが、それができる研究室だと思いました。
前提が変わると、他も変わる
―では、研究内容について、詳しくご紹介ください。
まず「凝固」とは、溶けたものが固まる時、どこか1点が固まり、それが全体に広がっていく過程を指します。一つは、塚本先生も強調されていることですが、全体に広がっていく時、結晶成長速度がこれまでの研究結果とは全く異なるのではないか、と考えています。
過去の研究によると、「溶けたものが1時間程度かけてゆっくりと固まっていった」というシナリオになっています。それ以上速くはなくて、場合によっては数日程度かけてゆっくりと成長したのではないか、と考えられていました。
すると、その結果を受けて理論屋さんは、46億年前の太陽系でゆっくりとした冷却を実現しようと、例えば「どんな現象が46億年前に起こっただろう?」とモデルをつくり、「こんなことがあったのではないか」といろいろな想像を繰り広げるわけです。けれども、ゆっくり成長する前提がもし間違いなら、皆のイメージががらっと変わってしまうわけですね。
僕は、コンピュータシミュレーションという手法を用いて、「ひょっとしたら、ゆっくりとした成長という前提が実は違っていて、もっと急速に、1秒くらいで成長したのではないか」を、正しいかどうかは別にして、今のところ考えているのです。
【図】丸い液滴の中で結晶が成長する様子の数値シミュレーション結果。急速な結晶成長に伴う温度上昇が、複雑な形の結晶を生み出す。
―コンドリュールの結晶成長速度が、「ゆっくり」ではなく「速い」となると、何が一番問題になるのですか?
ものが固まる時、「潜熱」という熱が出ます。例えば、水が固まって氷になる時も、膨大な熱が出ています。具体的には、1gの水が瞬間的に固まったとすると、330J(ジュール)程度の熱が出ます。これを温度上昇で考えると、水の温度を80℃くらい上昇させるのに匹敵する熱が出ます。
すると、理屈上「0℃の水が固まると80℃の氷になる」となりますが、実際にはそれは起こらないわけですね。なぜならば、水をゆっくり冷蔵庫で固めていくと、発生する熱が少しずつ外に逃げて行くので、問題なく固まるわけです。
ところが、宇宙空間で隕石中の組織「コンドリュール」が、1秒くらいで固まることがもし起こるのなら、どうやって熱を逃がすかが問題です。熱の逃がし方をきちんと考えると、ゆっくり成長した場合と全く異なる成長の仕方をするはずなのです。それが隕石の中にある組織の特徴をいろいろ決めていることが考えられます。
ですからコンドリュールがゆっくり成長してできるものか、それとも、もっと速く成長しなければ理論的にできないものかによって、46億年前のイメージががらりと変わるかもしれないと考えています。
研究とは、人間がイメージをつくっていくことだと僕は思います。それが真実かどうかはわからなくて、あくまで人間の知識で矛盾なく説明できる太陽系とはどんなものなのか、ということ。
けれども、前提が間違っていると、他の分野にも影響をもたらし、どこかで矛盾が生じてどうしても説明できなくなってしまいます。すると結局、多くの人が納得できるイメージをつくれないことになるのではないか、と僕は思うのです。
僕の理解では、近年の科学技術の進歩によって、いろいろな研究者たちが一生懸命、隕石を見ているので膨大なデータがあります。けれども膨大過ぎて、全てをうまくまとめきれない印象を持っています。
ですから大きな目標としては、それを統一したい。統一するためには、理屈の上では、こういうことが起こるはずだ、という点を抑えたいと思うのです。「この理屈ならこうだから、ゆっくり冷却は変じゃないか」とか、逆に、「速い冷却はやっぱり駄目だから今まで皆が考えていたことが正しい」とか、そういうことが決められるかな。
スケールの異なる二つの分野を、
「結晶成長」をキーワードにつなげたい
―最後に、これからの抱負をお願いします。
【写真5】日頃の研究で使用しているコンピュータの前で
いくつか、やりたいことがあるんです。一つは、木村さんも結晶が成長する過程を"その場"で観察し、世界で誰もやっていない、おもしろいデータを出しているので、それをことごとく理屈で説明できるとおもしろいなと思っています。
もう一つは、僕はもともと塚本研究室に来る前は、46億年前の太陽系で、コンドリュールを加熱することができた天体現象はどんなだったのだろうという、比較的空間スケールの大きなモデルの話をしていました。一方で現在は、たった1mm程度の小さなコンドリュールの中身の話をしています。
分野的には、いわゆる宇宙物理学や惑星形成論という数千~数十億kmといった大きなスケールを扱っている分野と、木村さんたちが扱っているような、隕石の中の小さな物質はどうやってできてきたのかといった物質科学は、見ているスケールが全く異なるのです。
けれども、この二つの分野をつなげるような、大きなところから小さなところまで全てを矛盾なく説明できるような、そんなシナリオをつくりたいですね。それを「結晶成長」というキーワードでつなげることができればなと思います。
―三浦さん、本日はありがとうございました。
コラボレーション
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