アメリカでは、いろいろな分野を各々深く勉強する
―先ほど山本さんは、イノベーションはアメリカから出てきており、日本からイノベーションを出すためには、日本の大学院の教育制度を変える必要があるとお話していました。それは、アメリカの教育制度から感じることがあったからですか?
アメリカの教育は、大学院に入った途端に、もっと広く勉強させる。日本みたいに教授の分野だけとか、そんな感じじゃないもの。アメリカだってこう(各々の専門分野を)深くもやるし、こう(横にも)やるんですよ。だからテストがしんどいんです。
それで僕はびっくりした。日本の大学院はテストないでしょう?レポートだけだから。日本は大学院入ったらこんな楽なことなかったのに、アメリカではもう試験だもの。
それも、学部の教科書に載っているようなレベルじゃない。それはものすごく勉強しないといけない。各々の分野はそういった深いテストだけど、別の分野も勉強しないといけない。そこでやっぱりね、広がりますよ。
だから例えば、自分がやっていることは「こういう風にしたら、もっと良いことができるのでは」と思って、それを取り込むかね。「自分がやっていることを、こっちの方に持って行って考えてみたらどうなるか」とか。そういう広いことが、やっぱり出てくるじゃないですか。それがやっぱり重要じゃないかと思うのですね。
研究はオリジナリティだけでなくインパクトが重要な時代に
日本の教育っていうのは、さっきの話だけどね、こうこう(一つの専門分野だけを深く)やるの。我々もあなた方もそうだけど、「研究とは、オリジナリティが重要なんですよ」って、そう教わっていますよね。けれども価値観というのは、絶対的な価値観と動く価値観とがあるわけです。
例えば親子関係、母と子の関係、これは絶対的な価値観。命というのも、絶対的な価値。何百年経っても動かない価値です。けれども、研究の価値なんていうのはね、動くんですよ。
今までは「オリジナルが大事」と教わったけど、今は違うんです。今の研究の価値はもちろんオリジナルは重要だけど、インパクトが重要な時代になっているのです。どれだけ社会を変えたか、影響を及ぼしたか、人々のためになったか。それがインパクト。そちらの方が重要になっているのです。
もちろんオリジナルは重要ですよ。けれども、いくらオリジナルで良いことだって、全く社会に影響がなかったら、言い方は悪いけれども、「あぁ、ありがとう、ごくろうさん」という感じじゃないですか。
ところが、やっぱり「私は癌で死にかけていたけど助けてもらった」となれば、それはもう変えがたいことじゃないですか。しかも、それが一人(に対する影響)だけじゃない。もうこの頃は、インパクトが重要になっているんです。
インパクトはオリジナリティだけでは出てこないことがある
インパクトはなぜ出てくるかというと、オリジナルだけでは出てこないことがある。そうでしょう?最近でも、そういった例はたくさんあります。
例えば、ノーベル賞を受賞した下村先生の研究(緑色蛍光タンパク質GFPの発見とその応用)。あれはオリジナルの仕事です。それをアメリカのロジャー・チェンという人が見ていて、イメージングに持ってきた。それで一躍このオリジナルな仕事がインパクトを持ったわけです。
ですから、今はこっち(横、インパクト)が重要なんですね。けれども、もちろんこれも(特定の専門の深さ、オリジナリティ)なきゃ駄目です。それが先ほど言った、幅広さということです。
もし下村先生がスーパーマンで、「クラゲが光る原因を見つけた」に加えて、さらに「これをどこに持って行ったら、今一番意味があるか」という逆の流れもあったら、両方を制したことになるんですね。
一方、アメリカで教育を受けたロジャー・チェンは、「自分はイメージングをやっている。何か良いもんないかな」とずーっと探して、これ(横にあるもの)をここ(自分のところ)へ持ってきて考えた。
やっぱり今の時代は、オリジナリティとインパクトなのですよ。社会に対する影響力、インパクトが重要なんです。だから、いくらcuriosity でやっていても、それで終わってしまったら、インパクトはないんです。
日本人のメンタリティー
だからこそ、横を見て、やっぱりここ(自分のオリジナルの領域)に持ってくる必要があるのだけど、そういうタイプの人が日本にはなかなかいないんです。
そのために(他の国の人に)とられてしまう。もうほとんどのパターンがそうなんです。日本の教育は、こっち(深く掘る)をやることをやってきたんです。
―日本では、横の分野をやる大学院教育がなされていないという問題指摘があった一方で、インパクトが求められる時代になった、というお話でした。ならば教育も、インパクトの方にシフトしていくのでしょうか?
もちろん大学の教育もそうだけど、日本人のメンタリティーとして、それを清としない文化が残っているんですよね。「人がやっているものを、自分の分野に持ち込むなんて。いやいや、俺はこの道を究めるんだ」という昔の武士道が残っているんですよ。
日本は島国が故にね、そこらへんに寝てたって、誰も殺しに来ない。勝負する時は武士と武士の間だけで、しかも「やあやあ今からやりますよ」と言いながらやっていた国だからね。突然「おまえのものを皆俺が取るぞ」という国じゃないから。
一方、あっち(西洋)では、いつ誰に襲われるかわからない。常にアンテナを出して、自分の身を守るメンタリティーで育っているわけですね。
とにかく、日本にはそのメンタリティーが残っているんですよ。だから結局、深く深くやって、というところなんじゃないかなぁ。
融合研究は新しいものを生み出す一つの手段
―今までのお話を踏まえると、WPIはインパクト重視ということですか?
もちろんオリジナルの仕事を否定しているわけではなく、それは非常に重要ですよ。けれども僕らが言っているのは、世界的な拠点を築くひとつのあれに、深くオリジナルなことをやると同時に、やっぱりインパクトのあることをやらないと、visible(目に見える)にはならんということ。
そのためには、他分野の知識やスキルを持ちこむ。あるいは、自分のものを他分野に持って行く。それを僕らは「融合研究」と呼んでいるのです。
それが何か新しいものを産むための一つの手段ではないかと。要するに、横の分野にも広がり得ることだと。そういうコンセプトなんですよ。
けれども、「言うは易く行うは難し」はね。融合融合と言ったって、なんでもかんでも隣のものを、では駄目なんです。やっぱり、自分である程度、確固たるものを持っていかないとね。
いつまでも、ぽんぽこぽんぽこ飛んでいれば良いというものではない。それでは、いつまでも根なし草になりますから。やっぱり、ちゃんとしたものを自分が持っていて、こっち(横)のものと合体する、知識を取り込む、ということが必要ですよ。
―まず自分のオリジナルな軸があってこそ、融合研究ができる、ということですか。
そうなんです。そこは研究者なのでね。誤解されると困るのは、何でもかんでも混ぜれば良いというものではないわけです。ある程度、自分の確固たる分野があって、そこから出て行く、あるいはそこに何かを持ちこむ。
そういう動きじゃないと、研究者として評価されないし、成り立たないの。それは非常に重要なことですよ。
transparent(透明化)に、globalにする理由
それと研究者はね、ここ(特定の分野)にいると、やっぱり安心なんですよね。気持ちがいいんです。学会だって日常だって、そこに行けば皆が知っている同士だからね。
そうしたら批判も、「いやいや、あいつは良く知っているから、これくらいは堪忍してやるか」となったり。そういう小さいところだから、気が楽だし安心なんです。だから皆ここ(特定の分野)に行きたがる。
そりゃ、知らない人のところへ行けば、「お前そんなことも知らないかのか」とばかにされて苦労します。けれども、そのバリアを乗り越えて、また取り込むと、良いことがあるんですね。
ところが、特に研究室や学部など組織が古くなると、どうしても縦割りになってしまうの。その上にいるボスはね、言葉は悪いけど、東京に行く日がなければ、ずっとこちらにいて「俺は偉いんだ」と言っていれば良かったわけです。
もしそういう風にボスがなってしまったら、若い人は可哀そうだよな。その親分の下で二進も三進も(にっちもさっちも)いかなくなる。組織が縦割りになると、そういう弊害が考えられます。
つまり今、「transparent(透明化)にしろ」「globalにしろ」というのは、そういうある限られたところでの評価ではなくて、広く皆にvisible(目に見える)にちゃんとしたら、変なことは起こらないということ。だから我々WPIには、そういう人は全然いなくて、素晴らしい人ばかり来ています。
すべてはtransparentになっているから、もう自由に動き回れと。組織が新しい時は、それができますよ。ところが、組織が古くなって縦割りがぎちっとなってしまうと、若い人がもう動けないな。そういうことを、改善しましょうということ。
もともとそれは文科省からの指導だったんです。要するに、既存のものをぶち壊して、新しい管理システムをつくっていこうということです。
「何かちょっとひっかかる」ところにはやっぱり何かある
―今までのお話を踏まえて、中高生の読者へメッセージをお願いします。
中高生レベルではね、私の反省も含めてね、そりゃとにかく自分の好きなことを早く見つけて、それに向かってあらゆるベクトルをそれに向けたら、必ず成功すると思うな。
僕の反省としては、もし若い時に「いや俺はこれだ」と決めてね。...ま、それが合ってなきゃいけないのですけど。だから、それが洞察力だと思うんだよ。それが自分に合っていて、若い時からあらゆるベクトルをそこに向けたら、僕は必ず成功すると思う。
だって、30年もそこらやっていたら、ちゃんとした人なら成功しますよ。ただ、「本当は自分はこっちに行くのは合っていないのだけど、たまたま成績が良くてまわりがこう言うから、こっちに行った」って、それは悲劇的だよな。
だから、そこは洞察力だと思うんですよ。難しいことなのだけど、自分にフランクになるというかね。ま、なかなか言うは易しだけど、高校生だったらわかるんじゃないかと思うんですよ。やっぱり自分にフランクになることが重要じゃないかな。
そりゃね、大人になってもそうだけどね。あまり肩肘張らない、これ重要だよ。子どもの時は、フランクにやるけど。大人になると、がっと肩肘張って対応することがあるじゃないですか。それで大体、失敗するんだよな(笑)。それと同じことだよ。
やっぱり、ちょっと無理がいくからな。だから良くそこを考えて、それで一端「よし、これで行くか」となったら、あらゆるベクトルをそこに向ける。そうすれば、必ず成功する。
それはそうなんだ。だって5年とかそこらの話じゃないもん。人生long run、30年、40年、同じことをやっていて、失敗することはない。必ず成功しますよ。
―山本さんは「フランクになること」を、先ほど「肌に合う」と表現されていました。肩の力を抜いて本当に自分がそう思うのかを良く考えた時、何か引っかかっていることがあれば、そこでちゃんとふんばれ、ということですね。
そうそう。よく考えた方がいい。人間の才能ってね、学問的なバックグラウンドとか関係なく、「何かこれ、ちょっとおかしいな」「ちょっと違うな」「ちょっと合わないな」とか、わかるものじゃないですかね。
例えば、あなたが恋人を見つける時、「この人いいかも」と思って付き合ってみたら、「何かちょっとひっかかるな」というところがあった。それはやっぱり、何かあるんだよ(笑)。そういうところがあると思うんですよ。進路や長期的な取組みでもね。
―「何かおかしい」とか「何か引っかかる」とかいった違和感は、実は自分がそう思う根底の、本質的なところにつながっているから、それをふんばって見なさい、いうことですね。
そう、それが「洞察力」だよ。それで良く考えて、自分の進路を決めなさいと。若い人にはそうだろうな。その後は、もう一心不乱に、それに集中する。
自分に合ったものを見つけ、あらゆるベクトルをそちらに向ければ、必ず成功する
僕は、こういうベクトルをよく書くの。要するに、大体、東洋人はね、こういう風になる。つまり、こっち(目的)に進むのに、(ベクトルは外向きになりながら)こう行ったり、こう行ったり、こう行ったりしながら、目的につくんだ。
山本さんに書いていただいたベクトルの図。上方が東洋人のタイプ。下方がアングロ・サクソンのタイプ。
けれどもアングロ・サクソンは違うの。こういう風に、すべてのベクトルをこっちに向ける。東洋人とは逆なの、わかる?矢印がこう行ったりこう行ったりしながら、中に入りつつ、こっち(目的)に向かっていく。あらゆるベクトルをそちらに向けろと言うのは、こういう意味。そうすれば必ず成功する。
―先ほどお話されていた、日本とアメリカの違いって、ベクトルで書くとこんな感じなのですね。
そうそう。でも普通(東洋人の傾向)は、こっちに行きたいなという時、左に横道それて、今度は右に行って、こういう余分な力がかかって、最後は何となくそっちに行くんだけど。そうじゃない?
だから、こう(アングロ・サクソンの傾向のように)行けって言ってるんだ。つまり矢印が発散型とあれ(集中型)だよ。すべてをこうやったら、成功しますよ。
―では、ベクトルを発散させず、集中させて中に入りながら目的に向けるために、必要なことは何だと考えますか?
それは、揺るぎない決意、というかな。「何となく俺はそっちの壁に行かないといかん。でもやっぱりこっち歩いて、あぁこっちに戻って辿り着く」というのはね、やっぱり嫌々行っている可能性もあるわけです。
逆に「俺はあそこに行かないといけない。いや、こう行った方がいいな。明日はこっちに行った方がいいな」。すべてこれは強い意志がいりますね。意志の強さと、それを為すには、やっぱりそれが合ってないとそうならないもの。
―自分に合っているところをつかむまで踏ん張ることが、やっぱり必要ということですか。
それが多分、必要なんだと思うよ。だから、例えば学校では良くできた。何とか入試ではトップだった。けれども、世の中に出て、必ずしも成功しないのは、やっぱりそれがあると思うんだよ。
反対に、そんなに成績が良くなくても偉くなった人と言うのはね。やっぱりね、こうやってやっているんじゃないかなって、僕は思っているんだよ。すべてのベクトルをそっちに向けてやっている。
だから若い人には、できるだけそれを良く考えて決めなさいと。そしてそれを決めたらね、そっちに注力してやれと。そんなところです。
社会の受け皿は広い、絶対に合ったところがある
いや、でもそれは研究者になろうとした場合の話ですよ。僕は、研究者として成功する時の話を言っているわけね、大学に残った場合の話。
会社に行って社会に出たら、また違うからね。目的はいろいろあると思う。会社で偉くなろうとする人もいるかもしれないし、会社の研究で成功しようとする人もいるだろう。
だから、僕が言ったような話に合わない人、何も気にすることはない。社会はもっと受け皿が広いからね、必ず、あなたにあった受け皿があります。
だから『宮城の新聞』を読んでね、「あぁ俺、別にこんなサイエンスなんて、おもしろくないな、行きたくないな」と思っても、そんなの気にすんな。なぜなら社会は広くって、30年、40年やったら、もう絶対に合ったところがあるから。人生、あらゆる受け皿があるから。
何も研究者がすべてじゃないもん。僕が言ったように研究者じゃなきゃダメだと思ったら、それは誤解だよ。社会の窓口は広い。あらゆる分野で活躍して成功してください。
―山本さん、本日はありがとうございました。
コラボレーション
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