取材・写真・文/大草芳江
2010年08月24日公開
人それぞれの能力や特徴の多様性が評価される社会に
川端 達夫 Tatsuo Kawabata
文部科学大臣・内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)
昭和20年滋賀県生まれ。昭和43年京都大学工学部卒。昭和45年京都大学大学院工学研究科修士課程修了。昭和45年東レ株式会社に入社、研究開発業務に従事。昭和61年衆議院議員初当選以来8期連続当選。衆議院災害対策特別委員会委員長、安全保障委員会委員長、議院運営委員会理事、裁判官弾劾裁判所裁判員、民主党国会対策委員長、幹事長、常任幹事会議長、副代表等を歴任。現在、文部科学大臣(平成21年9月~)、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)(平成22年1月~)。
「教育って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【教育】に関する様々な人々をインタビュー
【教育】に関する人のリアリティを伝えることで、「教育とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします
研究開発に携わったサラリーマン時代を経て、
政治家になった文部科学大臣の川端達夫さんは、
「なぜだろう?」「すごいな」と思う人間の好奇心や感情・感動が、
「人間のすごいところ」であり、原動力であると話す。
そして、「やはりその個々人の人間というのは、
いろいろな意味での能力があるわけだから、
その多様性をどんどん伸ばすということを、
どうしたらできるんだろう?というのは、
この立場においても、非常に大きなテーマです」と語る。
そんな川端さんのリアリティから見える、
教育とはそもそも何かを探った。
<目次>
・生きていくために学ぶ
・人間ならではの「学びたい」原動力
・多様性が評価される社会に
・多様性をどんどん伸ばすことを、どうしたらできるんだろう?
・自分の人生の中でこれをしたいんだ、というものを持ってほしい
・政治家になろうなんて、夢にも思っていなかった
文部科学大臣・内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の川端達夫さんに聞く
生きていくために学ぶ
―川端さんがリアルに感じる「教育って、そもそもなんですか?」
人が生まれて、死んでいくまでの間に、
基本的には、この地球の上でね、
その人の一生を充実して生きていくために、
必要なものが教育だと思うんです。
例えば、動物には、学校はないですよね。
ライオンの赤ちゃんは、生まれて、
ジャングルで育って、死んでいくまでに、
自分の身は守らないといけないし、
食べ物はとらなければいけないし、
パートナーを見つけて子孫を残さなければいけないし、
子どもを育てていかなければならない。
そういうことは、親から、
いろいろなことで学んでいくわけでしょう。
要するに、生きていくために学ぶ。
僕は人間も、基本的には一緒だと思っています。
その人であれ何であれ、生まれてから死んでいくまでに、
しっかりと充実して生きていくために、
必要なものを学んで生きていく。
また、受ける側の教育と教える側の教育、
両方の概念があると思うけど、
それを教えていくのも教育。
ま、そういうもんだと思いますけどね。
人間ならではの「学びたい」原動力
―自分が小中高の頃を振返ると、「教育」と言えば、
そこにあって当前、受けるのも当前、といった感覚がありました。
ですから、川端さんが仰るような形で、そもそも「教育」というものを
とらえていなかったように思います。
それは、人間が動物とは違う部分で言えば、
人間は、「なぜだろう?」とか「不思議だな」とか
「すごいな」ということを、ものすごく思いますよね。
犬が何かに感動してとか、聞きませんね。
もちろん好き嫌いはありますよ。
けれどもそういうものとは、だいぶ違うと思います。
それが、僕は人間のすごいところだと思うし。
極端に言えば、「なぜだろう?」というのは好奇心だし、
「すごいな」というのは、感情・感動ですね。
そういうことが、本当は「学びたい」という
原動力に、結局はなっているはずなんです。
ですから、なんだか受動的に学校に行っているように思うけれども、
それは、その人その人それぞれに突き動かしているものがあって、
やはり成り立っているのですよ。
気がついていないかもしれないけども。
学校に行ったら、あいうえおから漢字まで教えてくれると言うけれども、
やっぱり子どもにとっても、知りたいじゃないですか。
「もっと言葉を読めるようになりたい」とやっぱり思うと思うのね。
もっともっと、いろいろなことを知りたいな、と。
ただね、今の教育で、少し言われることで感じるのは、
少しね、モチベーションの部分と言うか。
「こういうことを知りたい・身につけたいから学校に行っているんだ」
というのは、かなり能動的な参加なのだけれども、
(それに対して)なんだか、ちょっと受動的になっている。
例えば、歴史なら「昔こういうことがあったんだ」と思って、
「どうしてこういうことになったのだろう?」ということを
学んでいくと、本当はおもしろくて。
その延長線上として、少しフィクションではあるけれども、
『竜馬がゆく』などの小説を読むと「そうなんだ」と思う。
けれども、学校の授業の歴史では年号ばかり教えられて、
あまりおもしろくない。そういうギャップはありますね。
多様性が評価される社会に
―「なぜだろう?」「すごいな」「知りたいな」と思う人間の原動力と、
教科書で学ぶ世界がだんだん乖離していくことを、特に高校生の頃、強く感じました。
川端さんは、このギャップについて、どのようにお考えですか?
ひとつは、受験でしょうね。
例えば、僕は自然科学の世界で仕事もしてきたのだけど、
子どもの頃って、科学の実験や生物の観察って、好きじゃないですか。
それをずっとやっているときに、知識は身につくと言うけれども、
受験の試験問題ということとは、一番ずれる話だよね。
例えば、数学であれば、式があって、こう解いていくことが、
それもおもしろいのだけれども、試験問題と直結しているじゃない。
けれども、実験や観察などは、試験問題に直結はしないよね。
受験や試験は、ある種の学力を評価するひとつの方法なのだけども、
そのウェイトが非常に高くなって進学などがあるから、
実際に学ぶおもしろさなどとのギャップが生まれる背景にはある。
例えば、音楽や美術を勉強していこうという人で、
そういう専門の大学へ進学する人がいますよね。
その時に実技を評価しないことは、有り得ないじゃないですか。
大学においても。あるいは留学するときにおいても。
けれども、科学者になりたいという時に、
実験の実技を評価するって、ないでしょう?
そういう意味では、実験とか、ものをつくるときの手先の器用さとか、
そういうことも非常に大事な能力だけども、それは受験ではないですよね。
それだけ見ても、やはり、基本的にペーパーだけで
試験するのは難しい、という問題を持っているのだろうな。
―評価方法の問題ということですか?
ですから、いろいろな人それぞれに、
能力なり特徴なり、得手・不得手があるという部分、
要するに、多様性が評価されるという社会。
その中のひとつに、受験というものも当然あるわけです。
ただ今は、受験や試験というものに、
ややウエイトがかかりすぎているのかな。
やはり本来、運動会でヒーローになる子もいれば、
学芸会でスターになる子もいるはずですから。
それはそれですごいことであるということを、
それぞれ皆が認め合って、伸ばしていける社会が
良い社会なんだろう、という風に思いますけどね。
―評価軸がどうあるかで、それぞれの人が持つ潜在的な力が
本当に発揮できるかどうかって、本当に変わりますね。
「すごい」ということが、やっぱり、
その子にとって、ものすごいやりがいだし。
それがいつもお勉強だけで聞かれたら、
やっぱり、つらすぎるじゃない。
多様性をどんどん伸ばすことを、どうしたらできるんだろう?
―それを例えば、文部科学大臣の立場として、実際に何かやれたりするのですか?
例えば、もっと多様性を反映する評価軸をつくって、多様性が評価される社会とつくるとか。
それはまぁ、いろいろな議論があって。
例えば、ゆとり教育でも、国際的に学力が落ちてどうするんだ、
という意見もあるから、やはり簡単な話ではありません。
けれども、やはりその個々人の人間というのは、
いろいろな意味での能力があるわけだから、
その多様性をどんどん伸ばすということを、
どうしたらできるんだろう?というのは、
この立場においても、非常に大きなテーマです。
だから、一番わかりやすい例で言うと、
今あまりにも、学校で言えば、先生が大きな役割を
担っているときに、先生が忙しすぎる。
そして特に、いろいろな意味で社会が複雑化し、
子どもを取り巻く環境も変化している時に、
教育をしっかりするためには、やっぱり、
先生の質と量が、まず大前提だよね。
何をどうするかの前に、
いろいろな多様性を伸ばすことへの、
先生としての能力。
それと同時に、その一人の先生の力には、
やはり限界があるし、先生にも得手・不得手があるから。
すると、やはり今、中教審の答申でもあったように、
今までの40人学級から、40人以下にしようではないか。
要するに、教育のインフラである教員の質と量は、
ベースとして改善していくことは今、一生懸命やっています。
自分の人生の中でこれをしたいんだ、というものを持ってほしい
―では、これまでのお話を踏まえて、中高生へメッセージをお願いします。
せっかく生まれてきたのだから、やっぱり、
できれば得意なこと、好きなことを磨いて。
そして、やはり人は一人では生きていけない、
皆の中で、皆で力をあわせて生きているのだから、
社会の中で自分が、こういう場所で、皆のためにも
頑張れる、というものを、持ってほしい。
「大きくなって、何をしたいの?」と聞かれたら、
「こういうことをやりたい」「こういう人になりたい」
と目を輝かせて答えて、そういうことをいつも考えて、
自分はそれを目指していこう、ということを、
しっかりと思っている人になってほしい。
「大きくなって、何になりたい?」と聞かれて
「別に・・」と答える人だけにはなってほしくない。
それだけは、、せっかく生まれたのに、
もう、もったいなすぎると思う。
―川端さんは冒頭で「人が生まれて死んでいくまでの間で、
その人の一生を充実して生きていくために、必要なものが教育」と仰っていました。
だから、「もう、あと一分で死ぬ」と思った時に、
いろいろなことをやれて、いい人生だったな、
と思えるような人生。
それは決してお金持ちになったとか、
地位が偉くなったとか、
そういうこととは関係ないと思う。
可能であれば、好きなことをやりたいようにやれたら。
でもそれが一番、なかなかそうはいかないけどね。
だけど、やっぱり自分はこういうことをしたいな、
だからこそ頑張れるんだ、と。
やりたいこと・好きなことだから頑張れる。
今、甲子園に行くのも、大変だよね。
練習で辛いこともいっぱいあったと思う。
けれども、やっぱり甲子園に行くんだ、と思うから、
好きな野球ではあるけれども、苦しい・つらい
練習もしてきたんだと思うのね。
反対に、甲子園に行きたくないし、野球が好きでもないし、
無理やりやれと言われても、やらないよ、きっと。
だから、それは自分の人生の中で、
何か根性込めて、歯を食いしばってでも頑張るぞ、
これをしたいんだ、というものを持ってほしいな。
政治家になろうなんて、夢にも思っていなかった
―川端さんも今、「自分の人生の中で、自分はこれをしたいんだ」と思うことやっているのですか?
自分は何をしたいんだろうね、
と思うこともいっぱいあったけどね。
それは当然のことながらね。
まあ、もうひとつは、もちろん、
思う通りにはならないけどね。
だけど、やっぱり一生懸命やってきたら、
何だか前へは進めていくもんだな、と思いますね、今でも。
―実際にそのような感じで進んできたのですか?
子どもの頃には、政治家になろうなんて、
夢にも思っていなかったですね。
政治家という立場になりたい、
ということではなかったと思うし。
今でも多分ね。
―まず「自分がこうしたい」と思うことがあって、
その手段が政治家だった、ということですか?
そういうことをやるのに、
こういう立場を与えてもらった、という感じですね。
だって、選挙でもね、辛くて厳しいのよ(笑)
でも、それぞれ皆、頑張っているのは、
政治家のバッチをつけるためではなく、
そういう立場になりたいからではないの。
やっぱり、自分がやりたいことを実現するための、
ひとつの仕事の立場だから。
だから、選挙運動自体はね、皆、リスクあるし辛くとも、
皆それぞれ、そういうことをやっているのだと思う。
世の中では「政治家は~」なんて言われるけれども、
そういうことは努力しながらやっているという部分は、
まぁ、若い人にも多少はわかってほしいな。
政治家になるのも、なかなか大変よ。
誰でも簡単になれるもんじゃない。
政治家って、なりたい職業に、なかなか選ばれないと言うか。
たしか、なりたくない職業で、泥棒の次が政治家、
という調査が昔、あったような気がするけど(笑)
―川端さんは、何をしたくて、政治家になったんですか?
僕はね、やっぱりね、
自分がこの研究をして、ものをつくって、
それが世の中に出て、皆が喜ぶというものを
つくりたいと思っていたわけ。ずっと。
そういうことをしゃんとしていく世の中にするのにも、
もうちょっと違うところで動かさないと、
変わらないところがあるというのが、政治の世界。
―研究者として、ものをつくるだけの世界じゃなくて。
それを支える人もいればね、一生懸命やっている人もいる時に、
それこそ「そういうことが好きで、頑張ってやるぞ」と言う人の
元気がないと言うか、ちょっと報われなさ過ぎるのではないかとか。
そういうのは、ある種、社会のしくみにあるのだから。
―先述の「多様性をどんどん伸ばすことを、どうしたらできるんだろう?」というテーマにも通じますね。
ちなみに、僕も関わったものが、
今、世の中で役に立っているんですよ。
ひとつは炭素繊維(※1)。
僕が発明したわけじゃないですよ(笑)
僕も関わった。
それと、海水の淡水化(※2)。
アラブとか世界中で多分、
世界で一番大きなシェアを持っている仕事。
だから、その分では多少役に立っているかな(笑)
※1:【参考】炭素繊維とは (東レ株式会社ホームページ)
※2:【参考】海水の淡水化とは (東レ株式会社ホームページ)
―川端さん、本日はお忙しい中、ありがとうございました。
コラボレーション
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