育て「科学する心」 仙台市内の幼稚園で研究会 ソニー教育財団
2010年7月29日公開
仙台市泉区のめるへんの森幼稚園で23日に行われた実践提案研究会のようす
幼児の「科学する心」を育てる教育実践について検討する研究会が23日、仙台市泉区のめるへんの森幼稚園で行われ、近隣の幼稚園の教諭ら約50人が参加した。
ソニー教育財団(中鉢良治理事長)の幼児教育支援プログラムの一環で、全国約100の応募の中から「優良プロジェクト園」に選ばれた、めるへんの森幼稚園とみどりの森幼稚園(仙台市泉区)の教育実践を広く参考にしてもらうのがねらい。
研究会の冒頭で、めるへんの森幼稚園長の亀谷芳彦さんは「小中学校も含めた科学教育の復興を、仙台から発信するきっかけになれば」とあいさつ。その後、各入選園による研究発表が行われた。
ソニー教育財団の優良プロジェクト園に選ばれた、めるへんの森幼稚園とみどりの森幼稚園による研究発表の様子
研究発表では、2年連続で優良プロジェクト園に選ばれたみどりの森幼稚園が、「子どもの生活と保育の中の『食』」と題して発表。同園が重視する「食」体験を通じて、幼児らが協同の学びを深めていく過程を、様々なエピソードを交えながら紹介した。
同園では、幼児らの気づきや思いなどをエピソード記録として残し、そこから実践を読み取ることで検証を進めた。「子どもの発想の方が、大人よりもはるかに豊か。子どもの気づきを一緒に楽しみ、そこから生まれる疑問を大切にしたい」と話した。
続いて、めるへんの森幼稚園が「ワンダーの子育て」と題して発表。「チョウが飛び立つ感動を一過性のものにしたくない」という教諭の思いが、教諭自身の好奇心を高め、幼児らの「ワンダーの心」を育てる環境作りにつながった過程を紹介した。
同園は「あれ、不思議?もっと知りたい!という心を動かす体験を重ねられるような環境作りを目指している。子どもの好奇心と、教諭の好奇心の膨らみが、さらなる活動の発展を促すのでは」と話した。
研究発表後は議論な議論が交わされた
会場からは「子どもたちに芽生えた興味から自然に発展していくプロセスが素晴らしい」といった声や「遊びを中心とする保育実践は言語化できないが、その学びの意味を伝えることが必要だ」といった意見などがあり、活発な議論が交わされた。
二園の取組みについて、ソニー教育財団の高木恭子さんは「もの・ひと・自然・事柄と真剣に向き合う心を育てることが、科学の基礎になる。二園はまさにそれを実践している」と評価している。
ソニー教育財団では、科学教育の実践と計画に関する論文を募集中。優れた教育を行っている学校や園には助成金とソニー機器を贈呈する。
同財団は「ありふれた日常の中に、『科学する心を育てる』教育実践がある。当たり前に実践していることを紹介する気持ちで応募してほしい」と応募を呼びかけている。
詳細は、ソニー教育財団ホームページから。問い合わせは同財団(電話03・3442・1005)へ。
参加者の声
◆エピソード記録の使い方が重要
木村創さん(向山幼稚園教頭)
木村創さん(向山幼稚園教頭)
幼稚園研修の一環で、他園での実践事例を参考にし皆で議論するために参加した。「科学する心」を育てる環境作りについて、具体的な実践方法が参考になった。
エピソード記録により、学びのプロセスを保護者らと共有化する方法も興味深かった。ただし、我々がエピソード記録をきちんと使いこなすためには、入選園の実践のように、子どもならではの感覚や発想を大切にするような使い方が重要と感じた。
◆幼稚園と小学校で情報交換を
多賀野修久さん(南中山小学校教諭)
多賀野修久さん(南中山小学校教諭)
幼稚園ではどのような教育をしているのか知りたいと思い参加した。特に「科学する心」という点で求められているものに学校教育と幼児教育で共通点はあるか興味があった。
学びのプロセスという点においては、小学校では時間割などの制約があるものの、共通のものがあると感じた。小学校と幼稚園がどのような学びをしているのか、互いに情報交換していくことが重要だ。
主催者の声
◆実践してきた保育の意味を再確認
亀谷芳彦さん(めるへんの森幼稚園長)
亀谷芳彦さん(めるへんの森幼稚園長)
我々には言葉足らずなところがたくさんある。自分たちが実践してきた保育には、どのような意味があるのか。それを必ずしも確認しないまま、日常の保育をやっている場合が多い。
そういったことを、いかに引き出すか、常々考えている。今回のような機会を活かし、様々な視点からの意見もいただきながら、自分たちが実践してきたことを確認させていただいている。
◆普段なら消えてしまう日常を形に
小島芳さん(みどりの森幼稚園長)
小島芳さん(みどりの森幼稚園長)
日々の保育は流れて残らないもの。たとえ子どもにとって良い実践をつくりあげていたとしても、それが保育者の中にしかなければ、それで終わってしまう。その記録をどう評価するかも含めまとめていくことが、常々考えているテーマのひとつだ。
遊びを通して学ぶことが保育だが、外から「遊んでいるだけ」と言われてしまえば「そうではない」と言う術がない。「単に遊んでいるだけではなく、子どもたちの何が育っているか証明して見せなさい」と言われ、5年近く研究体制を進めてきた。その一環でソニー教育財団の論文を書いている。
発表や論文にまとめることで、普段なら消えてしまう日常が、きちんと形に残った。保育者にとっては宝物だ。それをソニー教育財団に評価されたことは大きな自信につながった。同時に、研究発表は自分たちの保育実践の振返りとまとめの一環でもある。このような場があることは、とてもありがたい。
◆「科学する心を育てる」とは
高木恭子さん(ソニー教育財団)
高木恭子さん(ソニー教育財団))
幼児教育の現場は、知識を教える場所ではなく、子どもを育てる場所。一般的には教えるものだと思われていることも、二園では、子どもの発想を活かし、子どもと一緒に学びの環境を作りあげている。まさに保育の醍醐味を味わっている。
もの・ひと・自然・事柄といった対象と真剣に向き合うことが、科学の基礎になる。幼児期で一番大事なことは、意欲や喜びなど情緒的な部分を育むこと。子どもが真剣に取組む活動を先生が一緒に支えることで「科学する心」は育まれる。二園は、まさにこれらを実践しており、最終的にはその部分を育てていると評価された。
優良プロジェクト園による研究発表の内容(要約)
◆みどりの森幼稚園:
子どもの生活と保育の中の「食」 ~食体験を通じて生まれる協同の学びの考察~
きっかけは、ある幼児が持ってきた一つの種。早速その種を植えると、その様子を見た他の幼児が興味を持ち、家で食べたみかんの種などを持ってきた。ちょうど畑を耕す時期とも重なったため、種から野菜を育てようとなった。
では、どんな種を植えたいか。幼児らに相談し種集めを始めると、20種以上もの種が集まった。種を植えたい理由は一人ひとり違った。そこで、一人ひとり違う種をポットに植えた。
芽が出る子も出ない子もいた。野菜の成長が気になり、図書館で本を借りて調べる子もいた。このような子どもたちの思いや気づきを記録しようとファイルをつくり、幼児も保護者も教諭も自由に書きこめるようにした。
各自が育てた野菜を、ポットから畑に植替える時期が訪れた。植替えのタイミングや場所を幼児が選べるよう、50センチ幅に畑を区切る工夫をした。
どこにいつ植え替えるか?タイミングや場所等の要素が重要であることを調べたり、その植物に応じての工夫を行った。また、同じ畑を共有することで、隣の野菜の世話を助ける幼児の姿なども見られた。
ある幼児は、せかっく育てた葉を虫に食べられたことから、虫の嫌いな色を考えたり、虫をだます偽物の葉をつくっていた。困ったときに解決する方法を見つけることも、科学する心の芽生えではないだろうか。
葉物は間引きが必要であることも伝えた。間引きした野菜はもったいないので食べた。1枚の小松菜を大事そうに茹でて食べる子や、クラスメイト全員に食べさせようと1本のインゲンを切って分ける子もいた。
お泊まり保育の日、それぞれの幼児が育てた野菜を収穫して集め、皆で調理し食べた。幼児ら自身がお泊り会の内容を話し合い、夕食メニューも考えてつくった。料理の見た目は良くはなかったが、皆「美味しい」と言ってすべて食べた。
以上のように、一人の子どもの興味がきっかけとなり、種への興味はクラス全体への興味へと広がった。「みんなの畑」という場の共有と、「皆で食べる」という思いが、協同の学びへのきっかけとなった。
子どもたちの発想の方が、大人よりもはるかに豊か。そのような子どもの気づきを一緒に楽しみ、そこから生まれる疑問をこれからも大切にしていきたい。
◆めるへんの森幼稚園:
ワンダーの子育て ~ワンダーの心を育てる環境作り~
地域住民から譲り受けたアゲハチョウのさなぎが羽化し飛び立った瞬間の感動がきっかけで、アゲハチョウの飼育を始めた。しかし、アゲハチョウの餌となる柑橘類の確保は難しく、餌不足で幼虫が死んでしまう課題にぶつかった。
そこで、食べ終わった柑橘類の種を植え、餌作りを試みた。すると、幼児らは種や様々な果実に興味を持つようになった。そこで、一人ひとりに鉢を用意すると、幼児らはそれぞれの家庭から様々な種を持ってきて植えた。見比べが始まり、発芽後の成長の違いにも気づくようになった。
中には、土によって成長の違いがあるのではと予測する幼児も出てきた。そこで、畑の土、隣接する自然公園の土、砂場の土など、子どもたちの身近にある土のうち、どれが最も良く成長するのか比較実験を行った。
さらに、ある幼児から「土は何からできているの?」という疑問が出たため、子どもたちと話し合いを行った。すると、植物、腐った木、死んだ生き物、鳥のウンチ、石など様々な予想が出てきた。
多数派だった「石」を検証するために、拾い集めた石をかなづちで砕き、土になるかどうか確かめた。また、家庭で生ゴミをリサイクルしてつくった土を持参する幼児もいて、幼稚園の裏にあったコンポストの存在が改めて知られた。
そこで、コンポストを見えやすい場所に移動すると、子どもたちの関心も高くなり、生ゴミを集めたり、観察するようになった。春になり生ごみがさらさらの土になることに気付いた幼児らは、驚いたりしていた。
ほかにも、以前から行っていた腐葉土作りの箱を透明にすることで、集めた落ち葉が腐葉土に変化していく様子を外側から観察できるようにした。
以上のように、幼児の気づきや疑問を受け止め、すぐに答えを出してしまわず、幼児らで試行錯誤しながら想像したり試したりできる環境作りに努めてきたことが、幼児の意欲を喚起し、ワンダーの心を膨らませ、気づきの芽や観察力を育てた。
これらが、さらなる好奇心の広がりや、新たなものへの気づきにつながると考える。それと同時に、教諭自身も好奇心を持ち、幼児の好奇心の広がりを、これまで以上に敏感に受け止めることができる必要性を感じている。
これからも、子どもたちのワンダーの心を育てていきたい。
コラボレーション
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