中学生が仙台市教委などの職場を体験 自立する力養う
2009年10月30日公開
仙台市立西山中2年生165人と同市立柳生中2年生253人の職場体験が19日、はじまった。23日まで、市内のスーパーマーケットやラジオ局、ホテルや幼稚園など約130ヶ所に分かれて、それぞれの仕事を体験した。
中学生の職場体験は、仙台市が学校教育の重要な柱として推し進める「仙台自分づくり教育」の一環で、子ども達の勤労観や職業観、自立する力を養うことが目的。06年に市内6校で始まり、今年度は市内63校すべての中学2年生約9,000人が、3日から5日間の職場体験を行っている。
◆教育委員会も「職場」
このうち西山中と柳生中の生徒7人は、教育委員会の職場を体験。生徒らは、教育委員会が何を目指しているか話を聞き、職員から指示を受けながら、会議や学校訪問指導、事務作業など教育委員会の仕事を体験した。
20日に行われた会議のようす。学力向上策について、生徒らと職員が話し合った。指導主事の長田徹さんが「仙台市の教育がどうすれば良くなるかを、仕事とし
て提案して欲しい」と投げかると、「単に先生の説明を聞くだけの授業ではなく、生徒も参加できるような面白い授業にしてほしい」「先生が授業に遅れると生徒のモチベーションが下がるので、先生にもチャイム着席を厳守してもらいたい」などの意見が生徒からあった。
20日に行われた学校指導訪問のようす。学校現場で学力向上のヒントを得ようと、生徒らは仙台市立通町小学校を訪問。「授業中の児童の集中力に驚いた」「掃除が行き届いており心地良い空間だった」「地域とのつながりを大切にしていることが伝わった」など、生徒らは感心したようすで感想を述べていた。一方で「良い面だけでなく、問題がある面も見せてもらわなければ、それを含めた解決策が見えてこない」という生徒の意見もあった。
緊張した面持ちで一日の報告を行う生徒ら。確かな学力育成室長の庄子修さんが「学校にきちんと指導をしてきたか」「学校は子ども達のことをきちんと考えていると思ったか」などと質問するたびに、生徒らは緊張した面持ちで答えていた。最後に庄司さんは「良いところをきちんと褒めることも、教育委員会の役割。その役割をきちんと果たしてくれた」と、生徒らをねぎらった。
◆「考える方法」身につけさせる模擬授業を視察
菅原さんの模擬授業を視察する生徒ら
最終日の23日、生徒らは模擬授業を視察した。授業を行った指導主事の菅原弘一さんは「知識の注入だけでなく、ものの見方や考え方を身につけさせる授業にしたい」としたうえで、「応用力を身につけさせる授業方法は手探り状態。皆さんの意見が反映される」と生徒らに意見を求めた。
元寇をテーマにした小6社会の模擬授業のようす(1)。菅原さんは「日本の武士は元の兵士とどのように戦ったのか、教科書から読み取れる部分に線を引いて」と生徒らに指示。生徒は「大切なところを自分で考えてから、線を引く授業は初めて。先生がすぐに答えを言うのではなく、少し時間をかけて考えさせる授業の方が良い」と話していた。
元寇をテーマにした小6社会の模擬授業のようす(2)。菅原さんは「文章だけでなく絵の読み方も大切」としたうえで、「竹崎季長が自身の戦功を描かせたこの
絵から、"苦しみながら戦い抜いた"ことがわかる部分はどこか」と生徒らに質問。さらに「いつもとは見方を変えて、拡大して点検してみよう」「一部ではなく全体を見てみよう」「色に着目してみよう」など、いくつかの「考える手法」を紹介した。生徒らは「文章だけでなく絵にも着目し、自分で確かめられるのが良い」と話していた。また「画像データを活用した授業は良かったが、復習できるようプリントを配るなどの工夫が必要では」などの提案が生徒からあった。
模擬授業後に行われた意見交換会のようす
模擬授業後に行われた意見交換会では、菅原さんが生徒に「自分の考えと先生の評価が一致しないと感じたことは」などと質問。それに対して生徒らは、「記述問題は自分が素直に思ったことを書くと点数が下がる」など、具体例を挙げながら率直な意見を述べていた。
「大人の感覚で良かれと思うことが、子どもの感覚でどう感じるかを聞きたい」としていた菅原さんは、「子供たちは考えることを面倒だと思っておらず、むしろ大切にしたいと思っていることがよく伝わってきた。我々が進もうとしている方向は正しいと確信が持てた」と話していた。
◆職場体験の意義は:中学生に聞く
5日間の職場体験で、生徒の変化はあったのだろうか。教育委員会で職場体験を実施した、西山中と柳生中の生徒7人に聞いた。
まず、ほぼ全員に共通していた意見は、「教育委員会に対するイメージが変わった」ことだった。「テレビで見る教育委員会は、頭が固くて怖い人ばかりだと思っていたが、生徒のことを考えてくれていると感じた」と生徒らは口を揃えて話していた。
また当初「もっと面白い授業をしてほしい」と主張していた生徒は、「先生の問題という前に、自分達の問題だなというのが今の気持ち」と心境の変化を語る。
「点数が取れない理由は、先生にも生徒にもあることがわかった。これからはもっと真剣に授業を聞いたり、家庭学習を頑張るなどして、少しでも自分の問題として自分でやるしかない」と決意を新たにしていた。
「わたし達の意見を聞いてくれるし、それを理解して意見を主張してくれた。わたし達の気持ちを大事にしてくれると感じた」と話す生徒は、職場体験を「自分にとってプラスになったと実感している」と評価する。
「ここでは知らない人に対して、自分の考えを話すことが求められる。自分の言葉で自分の考えを話すことは大変だったが、具体的に何がどうだったのかと深く追求されるうちに、浅かった考えが深くなった」とし、「自分でも良い意見だなと思う」と微笑んだ。
さらに「学校では『できました』『勉強になりました』だけで済んだり、『はい』『いいえ』で答えられるようなことしか話さないけれども、それじゃあ応用力って身につかないと思う」と、学校に対する意見も。
これから学校に対する見方は変わりそうか。「学校に対する見方は変わった。先生も頑張っていることがわかり、先生の良いところを見つけようと思えるようになった。また以前は批判ばかりだったが、これからは『もっとこうしたら』と提案していこうと思う」
「たとえば、先生の評価を生徒がする仕組みをつくったらどうか。生徒が先生に通信簿をつけるとか。先生も生徒も、自分からよくしていかないとね」と生徒らは意気込みを見せた。
昨年度と一昨年度、職場体験後に行った生徒へのアンケート結果で、今後身につけたい能力として最も多くあげられたのは、「コミュニケーション能力」や「基本マナー」ではなく、「教科の学力」だった。確かな学力育成室長の庄子修さんは「確かな学力向上を目指す上での課題は学習意欲だが、この職場体験が思わぬ突破口になってくれるのではと期待している」と話していた。
コラボレーション
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